239 ―星間の手紙―
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― 宇宙ステーション『スモール1』 ―
[乗客と貨物を無事に目的地に届け、港近くの宿に入る。 チェックインもそこそこに、副操縦士の意識は華やかな街に向いているようだ]
いや、俺はいい。その辺で食事してから休むよ。 ……俺がカタいんじゃない、おまえが浮かれすぎなんだ。 復路は朝早いからな。あまり飲み過ぎるなよ。
[調子のいい返事をする背中を見送って、苦笑を漏らす。 何だかんだと、最低限のラインは守る奴だ。酷い無茶はしないだろう]
(26) 2018/04/26(Thu) 22時頃
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……堅物、か。
[客室へと向かいながら呟いた。 自分がそう噂されるのは知っている。 鍛えた長身に、柔らかみの無い顔立ち。威圧感を与える赤い髪。 酒は嗜むが女遊びはしない。 軍人あがりの経歴と相まって、一部ではかなり厳格な人物だと思われているらしい。
どこから尾鰭がついたのか、エデン宙域ではエースパイロットだった、などという噂も]
エースが撃墜されてちゃだめだろ……。
[侵略者に不覚をとった記憶が蘇り、肩を落とす。 それなりに優秀だったとは自負しているが、エースを称したことは無い。
船の乗客にしてみれば、船長が真面目で凄腕の元軍人、というのは安心のイメージに繋がるようで、雇い主もその噂を利用しているふしがある]
(27) 2018/04/26(Thu) 22時頃
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まあ、いいけどな。 経歴詐称だ、って殴りにきそうなやつも、光年の彼方だ。
[部屋に入ると、気を取り直して携帯端末を取り出す。 『ルシフェル』の受信メッセージを確かめた]
……ふうん?
[内容に首を傾げる。言われてみれば、どこで会ったのだったか。 何にしても、その不思議な話をもう少し聞きたくて、音声メッセージを送ることにする]
(28) 2018/04/26(Thu) 22時頃
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[送信。 人間の中でも大柄な自分だが、彼から見れば皆同じように巨大なのかも知れないな、と思う。
次に開いたのは、小柄な彼女からのボイスメッセージ]
さすがだな。
[自分がそのまんましか表現できなかった空と雲の色、彼女にかかればたちまち詩的で可愛らしい光景になる。
飛び立ってきた空の色を思い出す。黄金色の空は、灰色の雲に覆われはじめていた。 ステラが見れば、それも美味しいデザートになるだろうか]
(29) 2018/04/26(Thu) 22時頃
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[ホテルの窓から外を見る。派手な夜景、彼女の目には、さぞチカチカして映るだろう。 歓楽街云々は伏せておく。 可愛い、なんて言えてしまうのは、彼女に向ける感情が友愛だからだ。 むしろ、娘がいたらあんな感じだろうかと考えることもある。 確か、そこまで年は離れていなかったと……思う、のだが。
ふわりと抱き上げたときの軽さを覚えている。 あれから背は伸びただろうか。 あの不思議な翼も伸びるのだろうか]
(30) 2018/04/26(Thu) 22時頃
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[送信コマンドを実行して、視線を上げる。 部屋の大きな鏡には、やけに和んだ自分の顔が映っていた]
……単身赴任のお父さん、みたいだな。
[そうなることは、もう、ありえないのだけど]
[あり得たかも知れない、いくつかの未来。 今も戦っていたかも知れない、とうに命を落としていたかも知れない。 誰かと共にいたかも知れないし、所帯を持っていたかも知れない。
あのとき――]
(31) 2018/04/26(Thu) 22時頃
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……リザ。
[新たに届いたメッセージの差出人に、目を瞠る。 あんなことを言ってしまって、どう思われたか。 彼女は優しい気配りのできる大人だから、あからさまに拒みはしないだろう。 さらりと受け流してくれれば、綺麗な思い出の一頁におさめられる。
自分に言い訳をしながら、本文に目を通す]
……何だ、これ。
[ほんの数文字で途切れた言葉。端末か回線の不具合だろうか。 まさか彼女の身に何か、とまで考えたところで、新たな受信が通知される]
(32) 2018/04/26(Thu) 22時頃
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…………。
[数分の後。 ホテルの一室、ベッドの上でごつい体を右へ左へ転がす男がひとり。
幾度か転がっては、手にした端末の画面、視線を幾度も往復させる。 声にならない呻きを漏らしては、また全身を転がす]
いや、いやちょっと、これは、待ってくれ、想定外だ。
[相手を間違っているのかとすら疑った。 でもそこに書かれている内容は、どう考えても自分のことだ]
(33) 2018/04/26(Thu) 22時頃
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あー……。 何て言えばいい、これ、何て言えばいいんだ。
『……リザ』 あ、だめだ。
[返事をしなければ。 音声メッセージを試みたが、声がどうしようもなくひっくり返るので諦めた。 携帯キーボードを展開して、無骨な指で叩き始める。 先に来たあれは、彼女の要望通り、見なかったことにしよう]
(34) 2018/04/26(Thu) 22時頃
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[また数分の後、ベッドの上で頭を抱える男がひとり]
……何だこのポエムは……。
[伝えたいことを正直に書くとこうなる。 もう一生伝える機会なんて無いと思っていたから、心の準備などしていない。 その結果がこれだ。このポエムだ]
…………。
[こうなったらもう、全部言ってしまおう。全部]
(35) 2018/04/26(Thu) 22時頃
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[大切なメール、本来ならば慎重に推敲すべきだった。 でもこれを読み返せば、きっと転がるくらいでは済まない。 意味も無く息を止めて、送信コマンド実行]
(36) 2018/04/26(Thu) 22時半頃
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[本当はすぐにでもリザの料理を作りたかったが、客室にキッチンはついていない。 街へ出て、直感で選んだレストランに入る。 最も、この辺りは賑わっているだけあって、競争が激しい。味やサービスで不満を抱かせる店は、すぐに淘汰されてしまう]
ん、旨い。
[前菜も、肉も。スタッフに見繕ってもらったワインも]
あいつら連れてくるには、ちょっと上品すぎるか。
[エデンで通っていた店は……リザたちと行ったカフェなんかは別にして、 兵士仲間と飲み明かした店は、もっと安くてごちゃついていて、でもやたらと旨かった。 それでもリザの料理には負けるなんて言い合っていたんだから、今にして思えば贅沢な環境だ]
でも、何でキャンディだったんだ?
[リザのメールを思い返して、首をひねる]
(51) 2018/04/26(Thu) 23時半頃
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[デザートはアップルパイ。アップルと称してはいるが、食べてみた限り何か別のものだ。 人間はどこに行っても、何とかして故郷と似たものを求めるようだ。 これはこれで美味ではあるものの]
……リザに、作り方教わっておけば良かったな。
[パイ生地はハードルが高そうだったし、ひとりで菓子を作って食べることもあるまいと、女性陣が教わっていた席には混じらなかった。 今は、あの味が恋しい]
でも、そうか。そうだな。 羨ましかったんだ、俺も。
(52) 2018/04/26(Thu) 23時半頃
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[宿に戻ると、『ルシフェル』を起動する。 短いメールを、一通送った*]
(53) 2018/04/26(Thu) 23時半頃
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