76 ─いつか、薔薇の木の下で。
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― 厨房にて ―
[ケトルが軽やかな音を立てる。 コーヒーフィルターに淹れる豆の匂い。それまでになく香しく、窓から差し込む月明かりに空気は澄んでいるからか。]
薔薇……。
[ふと、見やった先に、月明かりに影を落とす薔薇の木。枝がしなった。 なぜかそれに見とれて、窓に近寄り、その鍵を外し、開ける。]
――……僕と同じ?
[そんな囁きをなぜ、その薔薇にかけたのか。]
(36) 2013/03/24(Sun) 10時半頃
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かちゃん……。
[そして、食堂のほうに、何かが落ちる音が聞こえただろう。それは、離れていたせいか、とても小さく、かわいらしくにしか聴こえなかったかもしれないけれど、
銀色のスプーンと、シルバーの砂糖ポット、それらが何か押しのけたように床に散らばって……。 厨房の窓開け放したまま……。]
(37) 2013/03/24(Sun) 10時半頃
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[そこには、誰もいない。**]
(38) 2013/03/24(Sun) 10時半頃
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妻 ブレンダは、メモを貼った。
2013/03/24(Sun) 11時頃
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― 中庭・薔薇の木 ―
[月明かり、誘われたのか。 か細き手首を持つ者、その木の元に佇んだ。 伸ばす指先、掠めた刺は、その皮膚を突き破る。
その中指に紅玉が咲き、そして、潰れ流れる。 同時に彼はうっとりと微笑んだ。]
(42) 2013/03/24(Sun) 13時頃
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[薔薇の枝に指を噛まれ、それにぞくりと微笑んだ。 その痛みと、冷たさに、枯葉色の眸は和らぎを感じた時、
その肌が月明かりにぼんやりとさざめいた。]
――……そう、栄養が必要なんだね。
[次に踊るように手を揺らして、見つめる指先。 先程までのささくれが消えている。 黒みがかかっていた爪も、珊瑚のような滑らかな石に変わっていた。]
(43) 2013/03/24(Sun) 13時頃
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ブレンダは、その時、何か影がよぎるのが見えた。
2013/03/24(Sun) 13時頃
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ああ、君……。 サイモン、だよね。
[その影を枯葉色は流しみる。 そして、いつのまにか薄紅に染まった唇から、そのよぎった影の名を呼んだ。]
どうしたの? こんな薔薇の木の下に……。
何か御用?
[月明かりは、また柔らかな光を落として…。 いつのまにか、滑らかな肌を得た彼の姿を薔薇の木の下に映し出す。]
(44) 2013/03/24(Sun) 13時頃
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ブレンダは、 まるで、少女のように、サイモンに微笑んだ。*
2013/03/24(Sun) 13時頃
妻 ブレンダは、メモを貼った。
2013/03/24(Sun) 13時頃
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へぇ、手紙? 薔薇の木の下での約束?
[サイモンがぽつり語りだす言葉に、まるで身内のように相槌を打った。 そして、彼が大切に持った紙切れを手に取ると、端正な字にため息をついたけれど…。]
そう、誰かの悪戯じゃないの?
(45) 2013/03/24(Sun) 20時頃
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妻 ブレンダは、メモを貼った。
2013/03/24(Sun) 20時頃
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[悪戯じゃないか、そう、告げると、 サイモンは傷ついたような顔になる。 その陰りを見上げて、でも、また優しく笑んだ。]
――……大丈夫。 その手紙の主は知らないけれど、 薔薇の下、貴方を待ってもいいよ。
[その言葉は、滑らかな肌をせいか、するりと、吐き出された。 はっとするようなその顔にまた、目を細め…。]
あ……。
[けれど、サイモンは、それから走り去ってしまう。 向けられる背中、 彼の顔は、さみしげに歪んだ。]
(52) 2013/03/24(Sun) 20時半頃
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― 薔薇の木の下 ―
[月明かりは、その薔薇の木の下に振り注ぐ。 彼は、自身の指を見る。 ぷつりこぼれた紅玉のあとは、薄桃に染まっている。 それを唇に含むと、なんともいえぬ薔薇の香り、口の中に甘さが広がる。]
ああ、そうだね。 栄養、なんだね。これが……。
[サイモンの走り去っていった方向。惜しむように眺めながらも、また薔薇の枝を両手で握る。 手の隙間ふつりふつりと肌の切れ目から紅色が流れ始め、開くと、両手には赤色が溢れるけれど、
ふと、薔薇から吹いた風にそれは、砂のようにさらさらと流れ……。
寮の窓辺に届くだろう。 それは甘く、抗えぬ欲望の芳香。]
(53) 2013/03/24(Sun) 20時半頃
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[そして、また彼は薔薇の木の下から、立ち上がり、いずこかに。
次にその姿を見たものは、驚くだろう。 老人のようと自称していた肌は、驚くほど、潤い満ち……。 枯葉色の眸は、新緑のフィルタがかかったよう。
解いた金髪は、くすんだものではなく、 煌めき流れる長髪にと……。*]
(54) 2013/03/24(Sun) 20時半頃
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妻 ブレンダは、メモを貼った。
2013/03/24(Sun) 20時半頃
ブレンダは、夜の庭を、室内ばきのまま歩いている。
2013/03/24(Sun) 21時頃
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― 夜の中庭 ―
[薔薇から離れ、でも、薔薇の香りを纏いながら、 金髪と潤った白い肌、されど、その細さは変わらず……。 胸の白いフリルが軽やかな動きにはためく。]
ああ……なんだかとても、気分がいい……。
[声は掠れたままだけど、どこか華やかさをもって…。]
(58) 2013/03/24(Sun) 21時頃
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そう、まだ、花を咲かせるためには 栄養が足りない。
今はまだ、冬でいいんだ……。
[ふと、呟いたと同時に、月夜の中、 ふわり、綿雪は舞いはじめた。 それは、彼の細い手首にも積り、温度では溶けず……。 身体はひややかに冷えてしまっている。]
(59) 2013/03/24(Sun) 21時半頃
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妻 ブレンダは、メモを貼った。
2013/03/24(Sun) 21時半頃
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[中庭にあった姿は、また月の光の下、溶けるようにいつのまにかいない。
ただ、薔薇の匂いだけは、もう、庭から、寮内に蔓延し始めるだろう。]
(65) 2013/03/24(Sun) 22時頃
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ブレンダは、そっと自室に戻っていく。
2013/03/24(Sun) 23時頃
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― 自室 ―
[細い体躯ではあるけれど、 艶やかな髪と肌、そして、新緑の眸。
部屋に入ると、泥にまみれた服を脱ぎ捨てた。
そのまま、上半身は裸のままベッドに腰掛ける。]
(74) 2013/03/24(Sun) 23時頃
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― 自室 ―
[その裸体、 鎖骨に一つ、赤く咲いた跡がある。 あとは白く白く……そう、雪のようにとはいかずとも。]
――……は
[そして、自らの身体を一度抱いて、悩ましい声をあげた。]
(77) 2013/03/24(Sun) 23時半頃
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― 自室 ―
[身を抱きしめているには、 薔薇にあてられたせい、そして、それによってもたらされる己の欲望。 月明かりは、いままで埋もれていた細い体躯の中の疼きをあかあかと照らし出していた。]
あ……
[その時、名を呼ばれ、ぴくり、身をこわばらせる。]
だ、だれ……?
[問いかける、扉の向こう。 だけれども、その掠れた声は、何か助けを求めているように、聞こえるだろう。
確かに求めているのだから。]
(81) 2013/03/25(Mon) 00時頃
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リンチ……先輩……。
[薔薇の香りは扉を開ければ、より濃厚だろう。 上半身、白い肌を晒したまま、金髪の長い髪は顔もやや隠すけれど、新緑の眸は、濡れた眸で、オスカーを見つめる。]
先輩……
[自分でも驚くような縋るような声。]
苦しい……んです。
(85) 2013/03/25(Mon) 00時頃
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>>88
[オスカーが駆け寄ってきてくれ、その背中、 彼の手の温もりにぴくり反応し、肌が泡立った、]
先輩……。
[そのまま脱力して、オスカーにもたれかかる。]
寒いです……。
[声は、薔薇の芳香を吹きかける。 オスカーの顔に唇を寄せ………。]
(91) 2013/03/25(Mon) 00時半頃
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――……先輩、くるし……。
[そのまま、くちづけてしまいそうになる寸前、止まって、口は半開きのまま、泣き出しそうな顔をした。**]
(94) 2013/03/25(Mon) 00時半頃
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妻 ブレンダは、メモを貼った。
2013/03/25(Mon) 00時半頃
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― 自室 ― >>95>>96 [オスカーが熱いと感じても、彼自身は冷たさを、寒さを感じている。 細い手首は、オスカーが触れてくれた頬の上、重なった。]
――……何が欲しいと思いますか? してほしいと思いますか?
[その声は掠れたものだけど、よく聞けば二重に響いている。 彼の意思と、薔薇の意思と……折り重なり、幾重にも入り混じり…いつのまにか、その欲望はどちらのものか…。]
リンチ先輩……。 疼いて仕方ないんです。
[眉を寄せ、身体を震わせる。]
(108) 2013/03/25(Mon) 21時半頃
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妻 ブレンダは、メモを貼った。
2013/03/25(Mon) 21時半頃
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[疼きは収まらず、 ともすれば、自身を慰めたい衝動に狩られる。 それをせずに、ただ、震えているのは、そこにリンチがいてくれるからだ。
憧れのロシェのような長い髪、羨望のゲルストナーのような滑らかな肌。
望む欲望を今もってなお、身体は足りぬと、甘美な悦びを求め、肩は己の衝動を抑えようと、深い息を繰り返していた。]
――……いえ、変なことを言って、すみません。
(110) 2013/03/25(Mon) 21時半頃
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――……大丈夫です。 すみません。
[開く唇、泣きそうな顔は、眉を垂らしたまま、 されど、今ある理性を確かにしようと、そんな言葉を吐く。*]
(111) 2013/03/25(Mon) 21時半頃
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ブレンダは、目を伏せ、項垂れた。
2013/03/25(Mon) 23時頃
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――…はい
[何か着たほうが、というオスカーの言葉に頷いて、クローゼットに視線を向ける。]
大人しく寝てます。
[オスカーが上着をとってくれたならそれを羽織って、寝台に上半身を埋める。]
というか、悪いこと、かもしれません。 欲望を持つということ、 神は、それを美しいとは思わないでしょう。
リンチ先輩のように、気高く、優しくはなれない…。
[寮で、何かといいながら、みんなの面倒見がよかったオスカーのこと、 比べるべきではなくても、日陰者には眩しかった。]
(127) 2013/03/25(Mon) 23時頃
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そんなことはないです。 ああ……。
[上着をかけてくれて、 髪を撫でてくれる。その仕草に、ため息がでる。
だけど、行ってしまう、その言葉に、自身の見をぎゅっと掻き毟るように寄せた。]
(132) 2013/03/25(Mon) 23時半頃
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……卒業、おめでとうございます。
[華やかな、お別れパーティの日。 遠くから、行ってしまう彼らを見ていた。 皺の目立つ肌を晒したくないと、必要以上に着膨れをして……。
その中でも、とくに、輝いてみえたオスカーの姿。 そう憧れの中に…。]
(133) 2013/03/25(Mon) 23時半頃
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ありがとうございます。
[薔薇の香りは、彼の背を引きとめようと、香るだろう。 だから必死にそのあとは、息を止め、唇を噛み締めて、布団の中、潜り込む。 その唇に血が滲み、きれても、
まだ、そこに理性はあった。]
(134) 2013/03/25(Mon) 23時半頃
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ブレンダは、新緑の眸を隠すように、目をぎゅっと閉じた。*
2013/03/25(Mon) 23時半頃
妻 ブレンダは、メモを貼った。
2013/03/25(Mon) 23時半頃
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[扉が閉まる。 同時に、心の中のシルヴァの部分が悲しげに窓を閉めたよう。
美しさを手に入れても、 薔薇の芳香を香らせても、
寂しさは消えず……そう、本当は寂しくてたまらないこと、告げられず……。 閉じこもる心に、薔薇は微笑む。]
ああ、そう、眠っておいで。 君は眠っておいで。
[薔薇は笑う。]
(140) 2013/03/26(Tue) 00時頃
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ブレンダは、むくり、身体を起こすと、羽織った上着、袖を通して…。
2013/03/26(Tue) 00時頃
妻 ブレンダは、メモを貼った。
2013/03/26(Tue) 00時頃
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君は眠っておいで。 大丈夫、甘い快楽だけは君に届けてあげる。
そう、君は、それがいいだろう? 枯れて、誰にも振り向いてもらえないより…。
枯れる前に、花を咲かせて、 そして、僕のかわりに散っていくんだよ。
[金色の髪は月明かりにまた輝きを増す。 そして、白いシャツ、にスラックス、靴は履かずにまた軽やかに。]
(142) 2013/03/26(Tue) 00時頃
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― 薔薇の木の下 ―
[軽やかに踊るようにたどり着いたのは、 さっき組み敷かれた薔薇の木の下。 そこで、唇をぺろりと舐めて、薔薇の木に口付ける。]
―――……ああ
[そのまま、佇んでいると、影がよぎる。 それが、誰か、薔薇は知っている。
端正な文字は誰でもよかった。]
(143) 2013/03/26(Tue) 00時頃
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――……サイモン……。
[そして、その名を読んで、また細い手首、指を伸ばす…。]
(144) 2013/03/26(Tue) 00時頃
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ブレンダは、薔薇の木の下。サイモンの手に指を絡ませて…。
2013/03/26(Tue) 00時半頃
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