191 The wonderful world -7 days of MORI-
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― 彼ノ岸公園にて ―
結局最後まで"感じ悪かった"わね。
[方針が決まったあと、さっさと片方は行ってしまった。もう片方は、というと、ワタルさんが少し駆けていき>>489何かを渡したようだった。
あたしは、といえば。 その最後まで、の視線を敢えて追っていた。>>426
勿論、ああいう返しをされるのなら。 彼はあたしの質問の本質をなにもわかっていなかったのだと、おもう。 あたしは、ワタルさんよりもコドモだけど。――人を"ありきたり"に馬鹿にするような目なら、いくらでも知ってて、それはもう昔、越えた"つらいこと"の一つだったから。]
(592) 2016/06/13(Mon) 00時頃
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[イヤホンをするのはあえて世界から目を背けることだということもしっている。
「トレイル」の声しか聞かないで、周りの不都合な言葉を全部否定して、すきなものだけで生きるのはなんて楽なんだろうって。
思ってたわ。3日前。"死ぬまで"は。>>449 それから、昨日「トレイル」を失ってから、 だからそれを後悔して。
―――きっと、昨日なら。 あいつの言葉にくじけていた、と思う。 「どうしてここにいるのか」という答えにあたしはなにも答えを持ってなかったんだとおもう。
でも、そんな答えはとっくにまえからあって、 人に出せるほど、価値のないものだと知っているから。
でも、関係ないんだ。人から見える価値なんて。]
(593) 2016/06/13(Mon) 00時頃
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[ふと、ワタルさんが落したメモの一枚の拾い上げた。>>481]
……、…。 [初日にあたしなら言っていた。 何恥ずかしい事かいてるのよ、そーいうのは恋人にあてて書きなさい!って。
でも、今はどんなこと言う気にはなれなかった。 彼はただどんなひとにも優しくて、それが、時々酷い位で。恐ろしく冷たいやつにも、"捨てて破る"ことはされない>>578くらいには、貴方の"言葉"は誰かに響いてるって知ったから。]
…きっと、良い歌を歌うんだろうなぁ。
[なんて。 歌を歌う事を業としていると教えてもらった時から、久しぶりに、トレイル以外の曲への興味がわいていたりもして。]
(594) 2016/06/13(Mon) 00時頃
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[彼は言った。あたしにだけ。
「生きて帰ったらあたしの名前を知りたい」と。
その約束を守ろう。絶対に。]
(595) 2016/06/13(Mon) 00時頃
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[戻った彼にはこう言うでしょう。>>489]
わーたーるーさんっ こう「言った」んだから。 ぜったい、ぜーったい生き残るわよ!
[言いながら、落したメモをぐいっと彼の目元に近づける。
有言実行にしてもらわければ、かっこがつかないわよって。冗談めいて笑いながら。
泣き晴らした全てを、乗り越えて。]
(596) 2016/06/13(Mon) 00時頃
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[――その手には、もう。 タイマーが残されてはおらず、誰かがクリアした形跡であることを知る。
もし。しにがみさまがいて。 かみさまがほんとうにいるなら。
――どんなに道徳をゆがませた子が相手でも、自分をもって優しく接する。 ワタルさんの事を見棄てるわけがないって。
それをあたしが信じてあげなくちゃいけないんだから。]**
(597) 2016/06/13(Mon) 00時頃
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―回想・とある春の日―
[――春。
それは別れと、出逢いの季節だ。
困り顔の鳥飼寿に引き取られたのも、
たしか、うららかな春の日だった。
朝に夕に、高らかに声を張り上げる。
大型インコに特有の雄叫び――
それが存外五月蠅かったからと、
気紛れな大家が飼育放棄したコンゴウインコ。
……それが、俺である。]
[前の主人は、好きになれなかった。
呼び掛けても構われなかったどころか、
飼い始めてすぐ匙を投げられてしまった身。
だから、新しい環境への期待は大きかった。
トリカイ、ヒトシ。
――どんな人なんだろう?
――たくさん、遊んでくれる?
――いっぱいお話し、してくれる?
――美味しいごはん、食べたいな。
――見て見て、僕って綺麗でしょう?
――君のためなら、綺麗に鳴いてみせるよ!]
[――ねぇ、ヒトシ。
ねぇ、ねぇ、
こっち向いて。
…僕を見て。
ねぇ、 ……ねぇ、ってば 、]
[ヒトシはいつだって、話半分だった。
ろくに耳も傾けず、視線はPCの画面に向けて。
うんうん、と形だけ頷いたりも。
最初のうちは、それで良かった。
反応を返してくれるだけで、嬉しかった。
けれど段々と、ものが解るようになって、
…その態度が、無関心の表れであると知って。
それが気に入らなくて、
さらに躍起になって気を惹こうとした。
結果的に、逆効果だったけれど。]
[春の終わりに、
俺は、寂しいという感情を知った。]
―回想・とある夏の日―
[それから数か月が経ち、
ヒトシとの関わりは相変わらず希薄なままだったが、
代わりに、絶え間なく流れる映像と音を得た。
話しかけても決して返事はくれなかったが、
それらは色々な言葉や、その意味を教えてくれた。
時間ばかりはたくさんあったから、
じっくりと、ニンゲンという生き物を観察した。
どういう時に、どんな単語を投げかければいいのか、
どうすれば、相手の――ヒトシの気を惹くことができるのか。]
[文字を読み、覚えた言葉を真似してみせると、
珍しくヒトシが笑顔を向けてくれた。
それが嬉しくて、また一つ言葉を覚えて、]
オハヨ!
コンチワ!
マタ アシタ!
[けれど、いつしかその言葉が向かう先は、
無機質なカメラのレンズとなっていた。
ヒトシ曰く、クスクス動画に投稿するとのこと。]
[それが何かは知らなかったが、何か下心がある気がして。
やがてカメラを向けられると喋らなくなり、
ヒトシは撮影をやめ、俺も新しい単語を口にしなくなった。
…つまりは、そういうことなのだ。
それが解ると、何だか無性に腹が立って仕方がなかった。]
[夏の終わりには、
俺は、反抗することを覚えていた。]
―回想・とある秋の日―
[それでもやっぱり、諦めきれずに。
あまり家に帰らぬヒトシが顔を見せれば、
今日こそはと、何かしら行動したものだ。
態度はだいぶ、可愛げがなくなって。
ストレスによる過剰な羽繕いも相俟って、
姿はなかなか、凶悪に見えていたかもしれないが。]
[リピート再生される幼児向けの教育番組はとうに飽きて、
この頃にはこっそり、テレビのリモコンを弄ったりもしていた。
…ヒトシが出掛けると足を伸ばし、帰る前には消しておく。
そうして観はじめた主婦向けの番組には、
これまでとは異なる種類のニンゲンが出ていて、
夫に邪険にされ、寂しく思う妻などにはかなり共感した。
ヒステリックに叫ぶ彼女達を見て、ふと思う。
――これを、ヒトシに問いかけてみたら?]
[半年も共に過ごせば、色々と理解できる。
ヒトシが日中、シゴトをしていること。
そのシゴトが大切で、そのために寝食を削る程であること。
テレビの中の夫達も大抵が彼と同じ状況にあり、
それで家に残された妻が、悲しい悲しいと泣くのだ。
件の問いかけには、二種類の答えが用意されている。
――“シゴト”か、“アタシ”。]
[おまえだよ、とすぐ謝るパターンは決して多くはないが、
それでも時折目にしたし、最後は幸せに締めくくられる。
大半の男はまず、シゴトだと答えてしまう。
けれどその場合でも、紆余曲折を経て最後には、
やっぱりおまえが大事だよ、という結論に辿り着く。
…つまり、この問いかけは。
ハッピーエンドに繋がるキーワードなのではないのか?]
[そう考え、ワクワクしながら帰宅を待って、
ドキドキ胸を高鳴らせながら、あの台詞を叫んだのだ。]
[驚いてこちらを振り向いたヒトシに、
キラキラと期待の眼差しを向けた。
ある程度辛辣な言葉が投げられるのは、
もちろん、覚悟の上だった。
働く男達の大半が、そうだったので。
一人でノリツッコミをこなして一見、上機嫌。
けれど続き、早口で述べられる答えはやはり、“シゴト”。]
[焼き鳥にして喰ってやる、という、
酷く恐ろしい、胸の潰れる、最大級の罵倒を受けて。
それ程までかと泣きたくもなったが、
どうにか涙は堪えて、じっと黙って見つめていた。
大量の餌だけを置いて、ヒトシが家を出る。
ここでヒステリーを起こしてはいけない。
黙って耐え忍び、風向きが変わるのを待て。
そうすればきっと、彼は振り向いてくれるから。
…物語の彼らはいつだって、そうだっただろう?]
[けれどそのまま秋も終わり、
俺は、諦めることを覚えてしまった。]
―回想・とある冬の日―
[朝晩が冷えるようになった頃。
寒いと抗議して鳴いたら、暖房が付くようになった。
光熱費が嵩むとボヤかれたものの、
南国の鳥であるから、そこは仕方がない。
いっそ人の身であれば良かったのに。
そしたらアンタは、もっと――
…そんなこと、考えたところで無駄だったけれど。]
[やがて冬も終わってしまい、
想い出も何もないまま、また、春が来た。]*
―ロスタイム:とある結末、その後―
[つぅ、と頬に温かなものが流れる。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、
ぼんやり滲んだ視界が飛び込んできた。]
あ、っれ、……
[――最後の記憶。
鳥飼に礼を述べようとして、鮫に喰われた。
はず、だったのだけれども。]
[辺りを見渡せば、そこはスクランブル交差点。
翌日に移行したのかと疑問符を浮かべていたところ、
上空から、ぼやけた影のような人物に語り掛けられた。
…涙をごしごし拭っても、やはり上手く像が結べない。
“未だに諦めきれない方は、――”
嗚、そんなものは。
答えなど、わかりきっているというのに。]
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