270 「 」に至る病
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[蒼佑以外と食事をするのはいつぶりだろう。>>2:468]
美味しいなら、よかった。
蒼佑はいつも色々料理を作るんだけど 僕はたくさん食べる方じゃないから 大体余らせてしまうんだ。
[泥のようでも食べなければならない味を知っているから、栄養にならない食事の味は口にできれば構わない程度で。 何より甘い蜜の味を知っているから、未だにあまり美味しいと口にすることはないけれど。
それでも昔より、味の好き嫌いが顕著になってきたし。 パンに挟んだチキンを齧ればやわらかく。ほんのりとした肉の甘味に、悪くないな、と思う。]
(97) 2019/10/12(Sat) 18時頃
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[時折何か考え込む様子の彼女が、何を考えているかわからないけれど。 すっかり濡れていた目元も乾き。 ここに来た時より顔色がよさそうなことに、ほっとしながら。]
勿論いいよ、少し待ってて。 包むもの持ってくるから。
……ああ、もうこんな時間か。
[腕時計を気にする声に、僕は立ち上がり。>>2:470 空いていたタッパーに残りのサンドウィッチを詰めて、紙袋に入れて渡そうか。
そうしてソラの散歩のついでに見送ろうと。 スマホをポケットに入れて、青い首輪にリードをつけて外に出たなら、バス停まで。]
(98) 2019/10/12(Sat) 18時頃
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[向けられた笑顔に、僕も眼鏡の奥の目を細めて。>>2:471]
返さなくても構わないけど、そうだな。 もしまた来る時は、ぜひ教授も一緒にどうぞって 伝えてくれるかい。
[帰っていく彼女の背中を、見送った。*]
(99) 2019/10/12(Sat) 18時頃
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[時間を潰すように遠回りして、再び家に帰る頃。 ポケットに入れたスマホが鳴った。>>0]
……帰ってくる。
[短いメッセージに、零れたのは安堵のつぶやき。 じっと画面を見つめて、あまり触り慣れない画面をタップする。
『わかった』
珍しく数分おいて送られた短い返信が、受け取られないなんて、気づかないまま。 僕はいつものように玄関でソラ足を拭いてリードを外してやり。水色のガラス器へドッグフードを用意して。 彼女とした食事の片付けを終えてから、読みかけだった本を手に取ったけど。
文字が頭に入ってこなくて、栞の場所を変えないまま閉じた。]
(101) 2019/10/12(Sat) 18時頃
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[鳴らないスマホを一瞥して。]
…………。 なるほど、便利というのは厄介だな。
[欠伸をするソラを眺めながら、ぼんやりとリビングで過ごすこと数十分。]
(102) 2019/10/12(Sat) 18時頃
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───…おかえり。
[蒼佑が、帰ってきた。 荷解きもそこそこに、キッチンに向かう背中に首を傾げ。>>1 数歩空けて、僕もその後をついていく。
心なしか苛立って聞こえる豆の音を聞きながら。 早速女の子について問う声には、呆れた顔で。]
……かわいらしかったよ。 ウォルフォード教授の娘さん。 部屋のガラス細工を、きれいだって褒めてくれたし。 タンドリーチキンもおいしいって食べてくれた。
そっちは? 好きな作家と会えて、楽しかったか。
[さっきから目の合わない横顔を見上げる。 きっちりと締められたシャツの襟に、薄く開きかけた口を引き結ぶように閉じて。]
(103) 2019/10/12(Sat) 18時頃
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……蒼佑
[僕は手を伸ばし。 邪魔しないようシャツの裾を掴んで引っ張った。*]
(104) 2019/10/12(Sat) 18時頃
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[素気ない相槌の割に、何故か緩んだ口元が見えて首を傾げる。>>112 一緒に映画を見ていても、たまに変なところで笑いだしたりする蒼佑のツボというやつは、未だ僕にはわからない。
「おつかい」先のことを聞き返せば。 人当たりのいい蒼佑らしく、随分と話が弾んだようで。]
……運動神経は人間と同じで、個人差がある。
[一応訂正を入れながらも。 こちらを見て話してほしくて、シャツを引けば。 饒舌に語っていた蒼佑の声が、ぴたりと止まった。>>114]
(151) 2019/10/12(Sat) 22時頃
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───……話を、聞いてほしい。
[歪む蒼佑の目元を見上げて。]
だから、部屋に行こう。
[掴んだままの裾をもう一度、引っ張った。*]
(152) 2019/10/12(Sat) 22時頃
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[蒼佑の部屋に入り、今度は僕から手を伸ばす。 骨が目立つようになった頬を、確認するように触れて。 ゆっくりと深呼吸をした。]
この間、蒼佑が走って帰ってきた時、 思い出したんだ。
……僕の眷属だった、母さんのことを。
[蒼佑と「彼女」は見た目も声も、何もかも似てないのに。 思い出すなんて、おかしな話だけど。]
(180) 2019/10/12(Sat) 23時頃
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[それは、つまり。]
わかってる。 蒼佑が母さんとは違うってことは。
でも、僕が思ってる以上に…… ”依存症”進んでるんだろう? あんた自身、症状に心当たりがあるはずだ。
[「駄目」か問う言葉が出てくるのだ。 自覚してないはずがない。]
(181) 2019/10/12(Sat) 23時頃
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……これまで100年、大丈夫だったんだ。
僕が我慢して咬まなければ、 もしかすると、これ以上進行しないかもしれない。
[それが咬むのを拒んだ理由だと。 もう、蒼佑は気づいてるかもしれないけど。*]
(182) 2019/10/12(Sat) 23時頃
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[怒鳴られて、ビクッと大きく肩が跳ねた。>>195
調子がよくて社交的で、大事なものがたくさんあって、生きるために貪欲で。 そんな男のよく笑っていたその頬は、やつれた分だけ凄味を増して。怒りを含んだ剣幕と聞こえてきた歯軋りに、怯みそうになるのをぐっと堪えるように口を引き結び。]
(297) 2019/10/13(Sun) 19時頃
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……………、 じゃあ、僕はどうしたらいいんだよ。
[ようやく絞り出した声が、震える。]
そこまで知った僕が蒼佑を咬んで、 「美味い」って顔ができると思うか? あんたが狂ってくのを平気な顔していられると 思ってるのか?
[100年一緒にいて、ずっと一番近くで見てきて。 そんなこともわからないのかと、詰りたくなるまま言葉が溢れる。
眷属である蒼佑を否定したいわけじゃない。 それで”しあわせ”なら僕もそれを認めてもいい。 でも。]
(298) 2019/10/13(Sun) 19時頃
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僕はもう、何も知らなかった子どもじゃない。 これ以上症状が進めばどうなるか、想像だってつく。 なのに、黙って知らない振りしてろって言うのかよ。
僕だって、冗談じゃないっ!
[言いきって、はぁ、と肩で大きく息をした。 吐く息に混ざる甘いにおいに、くらくらしてくるしい。]
(299) 2019/10/13(Sun) 19時頃
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……っ、嫌なんだよ。 蒼佑がいなくなるのは、嫌だ。
[握りこんだ拳で、どんっ、と蒼佑の胸を叩く。 僕が力を込めたところで、たかがしれてるけど。 どんどんと叩きながら、歪んでいく顔を隠すように。 甘く香るにおいから目を逸らすように、俯いた。]
(300) 2019/10/13(Sun) 19時頃
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僕に我慢させたくないなら、長生きしろよ。
今更ソラを咬む気にもなれないし、 他の眷属なんかいらないから
[誰のためでもなく、僕のために。]
(301) 2019/10/13(Sun) 19時頃
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蒼佑だけ、いればいいから。*
(302) 2019/10/13(Sun) 19時半頃
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……っ それは、
[何も言い返せないのが、答えだってこと。>>306>>307 僕だって、わかってる。
わかってるけど、聞きたくない。
この先を、淡々と告げる声に痺れたように手が震え。 纏わりつくような甘い匂いから逃げたがるように首を振る。 それでも、離れることだけはしたくなくて。 叩いていたシャツを、強く握りながら。]
(336) 2019/10/14(Mon) 01時半頃
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……つまりもう、 僕が咬んでも咬まなくても変わらないって そういいたいのか。
[覗きこんできた蒼佑と、目が合った。
その目の色は、さっきまで泣くほど怒ってたくせに。 今は憎らしいくらい落ち着いていて。 蒼佑はとっくにどうするつもりか決まっているのだと、気づかされる。]
(337) 2019/10/14(Mon) 01時半頃
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[だからそういうのは個人差があると。>>308 言いかけて、被害者、の言葉に嫌悪で顔が歪んだ。]
出てかない。 蒼佑を置いて出ていったりしない。
[視界の端に映る、赤い染みに喉が疼いても。>>311 意地でも離れてやらないとしがみつき。
観念したように、目を伏せる。]
……わかった。 もうどうしようと変わらないなら、 僕が我慢する意味はないんだろ。
ただし、
(338) 2019/10/14(Mon) 01時半頃
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[駄目だろうと、なんだろうと。]
……被害者で遺されるのは、もういやだ。
[どうしたいか決めれば、次第に手の震えはおさまって。 シャツを離し、腕をかきむしる指先に触れる。 まるで、繋ぐように握りながら。]
僕は置いて出ていったりしないから、 蒼佑も置いていくな。
(339) 2019/10/14(Mon) 01時半頃
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僕も、一緒に連れていけ。
[そうして手を持ち上げたなら。 喉が渇いた、と呟いて。 袖から滴る赤い蜜へ、口を寄せた。**]
(340) 2019/10/14(Mon) 01時半頃
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