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[中で、驚愕する「クズ」の姿が見えた。ハンドルに齧りつき、男を振り払おうと遮二無二になって左右に回す。
見たか。男は優越感に浸り、運転席の「クズ」を見やる。
しかし心の中に過るは焦り。まずい。現場から離れていく。
あそこにはまだ幾人かが、仕損じたまま生き延びている。
彼女の身に危険が及ぶ。車はどこまで走る気なのか。
早めにケリをつけなければ。焦燥に駆られ、開いている窓から運転席へと乗り込もうとした瞬間――――身体が、振り落とされていた。
四足の着地。地面はアスファルトだ。そうか、ここは道路の上だ。
男を振り落とした乗用車が、一目散に男から遠ざかっていく]
逃げてんじゃ……っ!!
[乗用車の背に向けて叫びかけた最中、男はようやく気がついた。
……違う。奴らは男から逃げようとしている訳ではない。
単純に……ルールに従って、動いているだけ。
しくじった。奴らに気を取られすぎたせいで、反応が一瞬遅れてしまった。
背後から照らされる眩いライトと、耳をつんざくけたたましい急ブレーキの音。
これが男の――――『不注意』
かかって、こ……
[振り向き呟かれた声は、迫りくるダンプの圧倒的な存在感に気押された、蚊の鳴くような弱々しい声。
まるで、脅えた子供のような。
身体を打ち抜く突撃は、これまで培ってきた自信の全てを根こそぎ掻っ攫い引き裂く。
己の矮小さを突き付けられ、ふと、脳裏に「死」の文字が浮かんだ。
いや、そんなはずがない。吹き飛ばされたまま、男は思う。
これまで、勝ち抜いてきたではないか。時に敗北を期すことがあっても、乗り越え強者であり続けたではないか。
そうだ。強者だ。力を手にした者だ。
そんな己がこんなところで――――。
続く思考は、ガードレールに叩きつけられ、内側の破壊にあわせて終わった。
い……や、だ……。
こうして、男は絶対強者の自信とともに、身体機能の一部を、喪失してしまったのだった。
それからずっと。その命が、途絶えるまで**]
―回想・15年前・深夜の公園で―
己の夜も、やがては明けることだろう……**
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![]() | 【人】 店番 ソフィア ……あ (181) 2011/12/08(Thu) 00時半頃 |
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― どこか ―
――…あ、れ。
[ふと気がつくと、辺りは暗く。]
俺、どーなったんだっけ……
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/*
中発言失礼します。
あくまで俺視点ですが……共鳴者の2人は死にに行っているように感じています。
おそらく、2人が一緒にいる、離れられない、という前提を作ってしまったため、動きづらくなってしまい、物語に絡めなくなってしまった、という感じでしょうか。
そのせいで、共鳴者としての利点(遠くにいても話せる)も、意味を失ってしまいましたしね。
特にローズマリーさんの
俺は襲撃については何も言わないと言ったとおりですが、ここら辺を考えて、地上にいたらどちらかに投票していると思いますよ?
一応、ご参考までに。
/*
ですね……そんな気配がします。
共鳴者に投票するにしても、俺も、投票するとしたらローズマリーさんでしょうし。
設定も全部出されていますし、生命力的にも、残されたら、フォローがない限り、ロールに困るようにも感じますから(最悪自殺されてしまうようにも)。
そこを踏まえても、ヴェスさんには票は行きづらいかもしれません。
と言いますか、俺の勘が外れていて、本当は生きようとしているのかもしれませんし。
すみません。引っかき回してしまったみたいで。
お力になれませんが、墓下からは熱く見守っていますからね!
バーレーさんも、フォローさんも、暁さんも、見事な動きをされていますよ。
きっとこのシーンはインパクトのあるものになるはず……ご自身を信じて、頑張られてくださいね!
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![]() | 【人】 店番 ソフィア あんたに殺されるより (237) 2011/12/08(Thu) 20時半頃 |
![]() | 【人】 店番 ソフィア[セシルの血液が淡く床に赤を散らす。 (248) 2011/12/08(Thu) 21時頃 |
![]() | 【人】 店番 ソフィア 救いなんて要らない。 (249) 2011/12/08(Thu) 21時頃 |
― 来なかった放課後 ―
お前、絵、描くわけ?
芸術科か?――なんだやっぱり1年じゃねえかよ。
俺?俺音楽。うるせえ、こう見えても未来のソリストだぜ?
『うーす。俺もフケてきたー…って、ん?なんだそのでかい小動物は』
おー。来たかアリカワ。
あ、こいつ俺の腐れ縁のアリカワ。で、こいつは…ん、お前、名前なんだっけ。
『おおっ!あそこに見えるのは噂のローズさんじゃねえか!』
……お前人の話聞けよ。
[ゆるやかに、ゆるやかに、陽は傾いていく。]
![]() | 【人】 店番 ソフィア――2F・客室―― (260) 2011/12/08(Thu) 21時半頃 |
![]() | 【人】 店番 ソフィア また (262) 2011/12/08(Thu) 21時半頃 |
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―食堂の扉を出て―
[テラスを抜け
そこで、熊を引き連れた男は、確かに何かを目撃したのかもしれない。
女生徒の魂――――逝人はその場にはいただろうか。
何が行われていたのかは、今はまだ、語らない]
……………………
[どれだけの時間を過ごしたのだろう。やがて男は、食堂の扉を目指す。
中で行われている出来事を、最後まで己の目に焼きとどめるため。
はたして、熊以外の同行者はいただろうか。
男は、閉ざされた扉
この場にいる生きた人間は、誰がいたのかは分からない。
けれど、男は生者のかわりに、座り込んだ小さな逝き物をその双眸に捉えたのだった]
猫さん…………
[そこには、心細そうに顔を撫でる猫の姿が。
死体は、周囲には見当たらない。きっと、どこか別の場所
長身の男は屈みこみ、そっと猫を抱きあげた]
苦しくは、ありませんでしたか。
サンテックスさんとは、最後まで仲良くされていましたか。
もし、そうでしたら……せめてもの、救いですよね。
[猫に、そっと頬ずりをする。これまで望んで叶わなかった行為
その感触が、再び男の記憶を呼び覚ます――――。
そうだ。少し前に、男の喪失の話をした。
これだけでは救いようのない、悲しいお話だっただろう
ならばこの間に……もう少しだけ、語りつないでおこうと思う。
再び過去に立ち返る男を、扉から鼻先だけを突き出した熊が、きょとんとしたまま見つめていた]
―回想・15年前・病院の大部屋、ベッドの上で―
[死んだのだ、と男は思っていた。
ベッド回りのカーテンを閉ざし、虚ろな瞳で揺らぎを見つめる。
遠くに感じる白布を網膜に写し込みながら、死んだのだ、再び思う。
ダンプに撥ねられた代償は、多大な後遺症を男にもたらした。
T7胸髄損傷。それは、戻ることのない下肢機能の喪失。
豪快なリフティングも、打突における踏み込みも、ただごく自然と歩くことすら、もう叶わない。
力に過大な信頼を、過信を抱いていた男
けれど、自死など決してできない。そんなことを行えば、耐えきれずに『死んだ』と嘲笑う奴らが、きっといる。
絶望に打ちひしがれながらも、なお灯るつまらぬ自尊心。
同時に、そんな内心を、まだ、彼らの故郷へと隠居してはいなかった両親
『死んだように』の言葉に相応しく、ただ食事を摂取し排泄し、整えられた環境の中、浅い惰眠を貪る日々を過ごしていた。
壊れた心と、体のままで]
[そんな日々をどれほど過ごしたことだろう。
ある日、男のもとに妙な闖入者が訪れた。
無気力に見つめるカーテンが小さく揺れたかと思った瞬間――――。
ベッドの上に、男の胸に、その来訪者は飛び乗っていたのだった]
ね……こ……?
[白い毛並み
なぜ、こんなところに猫がいる?
ここは、入院患者の集う大部屋であったはず……。
その疑問に答えるように、詫びを入れながらカーテンを開けた老人を見て、今度は目を見開いた]
ティモシ…………先、生
[見つめる先にいた人物は、高校時代の恩師、ティモシー。
そうだ。彼はあの頃から老人だった。
印象こそ薄かったが、気弱ながらも優しくて、だから、男が心の中では見下していた教員だった。
ティモシーは男のことを、すぐに思い出してくれた。
ヤチグサさん、と笑いながら語りかける彼のくりくりの瞳が、嬉しそうに細まっている。
どうやら、彼が顧問している生物学部の学生が、体調をこじらせ入院してしまったらしい。
猫がとても好きな子だから、連れてきたら逃げられちゃった。
そう言って微笑むティモシーの顔は、男の容体も、そばに置かれた車いすにもまったく頓着した様子はない。
それで、ヤチグサさんは、どこか悪くされてしまったんですか?
かつての教師は、制服を着ていたそのままの頃と同じように、下肢不随の男に問いかけたのだった]
[なぜ、彼に全てを語ってしまったのだろう。
なぜ、辛い心情も吐露したのだろう。
べったりとお節介を焼かす相手を、鬱陶しく感じる
けれど彼は、こちらへの関心もそれほど強くなく、微かなつながりを持った『他人』。
そんな絶妙な距離感が、心地よかったからかもしれない。
全てを吐きだしきった時、空虚な男の胸には確かに、淀んだ何かを排泄しきった、わずかな充実感に満たされていたのだった]
俺はもう、終わりだ。
こんな体になってまで、生きている価値なんざ、ない……です。
[久方ぶりの慣れない敬語を交えたのは、いったいどんな心境の変化か。
ティモシーは、違う、とも、そうだ、とも言わなかった。
ただ、うんうん、と頷いていた挙句に、うーん、と一人悩みこんでしまっただけだった。
胸の上にいる猫は、つまらなそうに欠伸をしている。
そんな1人と1匹の様子に、思わず頬が緩みかけた瞬間、思わぬ言葉が、男に告げられたのだった]
…………は?
え、えぇ。確かに、やりはした、が。
きょ、教師、だ、で、ですか? あの教育実習なんて、ただの気まぐれ……
……本気で、この、俺が?
[ティモシーはにっこり笑いながら、迷いなく男に告げてくる。
確かに、教育実習は行った。ただ、それは公務員試験の面談において、プラスになるかと思っただけのこと。
本気で教員になるつもりなど、微塵もあったわけではない。
けれど、語りだしたティモシーの熱は、収まらない。
学園が最近、バリアフリー回収を行ったんです。
せっかくやったのに、効率的に使ってくれる人がいないと、もったいないじゃないですか。
来てくれたら、嬉しいな。
だってね、あなたがその障害を乗り越えて、たくましく教壇に向かう姿は、生徒たちにも希望与えてくれるんじゃないかと思うんだもの。
いいじゃないですか。やってくださいよ。
動物、好きだったでしょう? 学園だったら、猫、いるよ]
は、ははは……。
[ティモシーへの答えを保留にしたまま、男は小さく笑いだす。
目元に、うっすらと涙をためて。
新鮮だった。下肢不随だなんだの事情には、変な気後れは一切持たず。
ただ、まるで思いつきのままに、無邪気に誘い込む存在が。
リハビリもまるでやらない己が、当然そうなるかのように、彼の言葉には迷いがない]
気が向いたら、考えてみ……ま、しょうか。
俺みたいなムサイ男が教師になったら、生徒が可哀そうかもしれませんけどね。
[本当に、『希望』なんて与える力があるかどうかは分からない。
けれど、強者としての力を失った己が、かわりそれを手にすることができたなら。
『死んだ』ままの今よりかは、少しはマシな生き方ができるのかもしれない。
単なる気まぐれだったのかもしれないけれど、男は新たな生きがいを持つとともに、誘ってくれたティモシーに対し、大きな恩義
『車いすの教師』が学園に舞い降りたのは、それから1年後のことだった]
―回想・15年前・病院の大部屋、ベッドの上で・了―
―食堂の扉を出て―
あなたは、あれから何代目になるんでしょうか。
あなたのご先祖様は、俺がこうして教師となる、ちょっとしたきっかけを作ってくれたんですよ。
感謝、しています。
[猫を抱きしめながら、記憶の蓋をそっと閉ざした。
男にとって、誰かに語るに値する話など、これ以上はきっと出ない。
ただ、死してなおこう思えるのは、幸せなことではあると思う]
……この学園に、これてよかった。
[遠くから聞こえる銃声
そうだ。志半ばで倒れようとも、これてよかった、この気持ちに嘘はない。
ならば、己は行かなくては。この場には、男にそんな思いを与えてくれた、学園のみんなが待っている。
あの世の猫を抱き、あの世の熊を引き連れ。
男は音源の方へと向かって、歩みをすすめていったのだった**]
― いつか ―
[辺りは暗く、体は鉛のように重い。白い影がそこら中にちらちらとうごめいているように見える。まだはっきりしない頭で、ぼんやりと考える。あれは、いつ、どこだったっけ。誰と一緒に、いたんだっけ。しばらくの間、記憶の片隅を探って]
……あーあ。
[長い沈黙の後、ぼそりと呟いた。]
そんな思い出があったら、よかったのに、なあ…
[そう、本当は気づいていた。それは訪れなかった、ほんの少しの未来の記憶。
涙は、もう流れない。淀んだ沼のように、ただそこにとどまっていた。**]
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