160 東京村
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―新宿駅近くの喫煙所―
[胸ポケットからセブンスターの箱を取り出し、一本咥えて火をつける。 煙を肺に送り込みながら深く息を吸う。吐く。ほんの少し、眩暈のような感覚があった。]
[子供ができたと聞かされたとき、俺は本当に、本当に嬉しかった。 自分が世界一の幸せものになったような気さえしたものだ。だから、
だから、医者に胎児に障害があると聞かされたときは、目の前が真っ暗になった。]
[……妻はそれでも子供を生みたがった。それは俺も同じ気持ちだった。 だが、考えれば考えるほど、自分の中で【この子を生むことはできない】という考えが大きくなっていった。]
[考えた。相談した。妻に、両親に、義両親に。 相談して、考えて。考えても、考えても答えはでなかった。答えなんて最初からなかったのだ。]
[俺は子供を、障害を持って生まれたわが子を幸せにする自信を最後まで持てなかった。]
(70) 2015/06/03(Wed) 22時半頃
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[中絶させると決めたとき、妻は最後まで泣いていた。 最後まで、ごめんなさい、ごめんなさいと泣きながら自分のお腹を撫で続けていた。 ……それからは、物事はとんとん拍子に進んだ。 妻は以前とは別人になった。俺は以前にも増して仕事にのめり込んだ。 家に帰っても、夫婦の会話はなかった。俺は家に帰らなくなった。
見かねた義両親が間に入ってきて、気付いたら離婚が決まっていたのは、ある意味幸せだったのかもしれない。]
…………。
[暗くなってきた新宿の空に向かって、肺の底から煙を吐き出す。 正直なところ、まだ気持ちが動転していた。 無言電話の主は、掠れるような小さな声で生まれてくる我が子につけるはずだった名前を名乗ったのだ。]
(71) 2015/06/03(Wed) 22時半頃
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[メリーさん。都市伝説。あるいは単なる子供向けのホラー話。 ネットで検索すればその話の内容は簡単に、いくつも発見できた。 あまりに有名すぎて様々なバリエーションがあるらしいが、基本的な話の本筋はひとつ。 ある少女が引越しの際、古くなった人形『メリーさん』を捨てる。 その後、少女に対してメリーさんを名乗る電話が何度もかかってくる。 メリーさんは自分の居場所を少女に伝える。最初は遠くにいるが、その居場所はだんだんと少女の居場所に近づいていく。]
俺は人形のように子供を捨てた、って言いたいのか? ……悪戯にしては、悪質すぎるだろ。
[いつのまにか殆ど灰になってしまった吸いかけの煙草を灰皿の端でもみ消して、捨てる。 口の中に残った煙草の味が、やけに苦く感じた。]
(72) 2015/06/03(Wed) 23時頃
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トヨタは、WEBで都市伝説について検索している。
2015/06/03(Wed) 23時頃
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>>73 ん、ああ、どうぞ。
[考え事の最中に突然声を掛けられて驚いた。 が、すぐに男の言っていることを理解してライターを差し出す。 喫煙所ではよくあることだ。]
[……ふとどこかで見た顔のような気がして記憶を探る。 知り合い……取引先の関係……と記憶を辿るが、思い出せない。まぁ、いいか。」
(75) 2015/06/03(Wed) 23時頃
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>>76
……確かに少し前、中華料理屋にはいましたけど。
[……あぁ、あの料理屋にいた客の一人か。 対して意識していなかったものの、言われて見れば店の中で流暢な西訛りの声を聞いた気がする。 店の中でいきなり他の席の女性客に声を掛けたのだから、店内の客に俺の顔を覚えられていたとしても不思議はない。]
あぁ、いや、少し調べ物を。 都市伝説に乗じた悪戯電話っていうんですかね、そういうのには疎いもので。
[唐突だったものだからつい口を滑らせてしまった。 言ってから、いきなりこんなことを言い出しても変人にしか見えないな、と目を逸らす]
(86) 2015/06/03(Wed) 23時半頃
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へ?
[予想外にも食いついてきた。 ……変な目で見られるだけだと思っていたので、またも驚く。]
いや……
[暫し逡巡。話の中身があまりに個人的すぎる。 だがすぐに思い直す。どうせ喫煙所で出会っただけの相手だ。この広い東京でもう一度会うこともないだろう。 内容が内容だけに、相談する相手としては身内より遥かに気が楽なのかもしれない。]
メリーさんって知ってます? 私が子供の頃からある有名な都市伝説、というか、怪談というか。 その話を模して、堕胎したはずの子供から非通知で電話がかかってきたんですよ。 元妻も、義両親も、そういう悪戯をするはずはないとは思うんですが……。まぁ、なんでしょうね。正直私もよくわかりません。
(101) 2015/06/04(Thu) 00時頃
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……都市伝説を悪用して金をせびるような、犯罪集団でもあるのかなと思いまして。
(103) 2015/06/04(Thu) 00時頃
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[男の言葉には妙に説得力があった。 まるでそういう現象、厄介事に慣れているような、そんな]
話したい、ですか。 相手が誰だとしても……なるほど。
[元妻が犯人の可能性、それは自分も一度は疑った。 そもそも生まれなかった子供の名前を知っている時点で範囲が狭まるのだ。 元妻か、元妻の親類か、友人か……あるいは本物の怪奇現象か。 最後のひとつはありえないにしても、相手が話したがっている、という考えは間違ってはいない気がした。]
……アイリス?
[不意にでた聞き覚えのある名前に思わず聞き返す。 男が携帯を確認しているのを見て、自分も携帯を操作する]
うぉ、なんだこれ。
[気味の悪い写真。悪趣味な悪戯でも流行っているのだろうか。 ……あるいは。]
(129) 2015/06/04(Thu) 01時頃
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[石動からの誘いに眉を顰める。この男、思いのほか悪趣味なのかもしれない。 とはいえ自分も興味がないといえば嘘になる。男の提案に適当に相槌をうち、アルタ前の方向へ足を踏み出す。]
[途中、そういえば名乗っていなかったなと思い出して、偽名を使うか一瞬考えはしたものの、考え直して素直に豊田と名乗った。]
(141) 2015/06/04(Thu) 01時頃
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トヨタは、なんとなく背中に薄ら寒いものを感じている**
2015/06/04(Thu) 01時半頃
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