190 【身内村】宇宙奇病村
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>>22
関係、あるのでしょうか。
あるのだと思います。
皆様がもしも、自分の意志ではなく、何らかの機能でワタシと接してくださっているのなら、やはりそこに違いはあるのでしょうか、そう思ったのです。 皆様とともにいることで作られたいくつもの機能も、皆様とは違うものなのでしょうか? あの時、そう思ったのです。
ワクラバ様に名付けていただいた、あの照れという機能も、プラグラムにすぎないのでしょうか? そう思ったのです。
このような疑問を抱くこと自体が、ワタシの機能不全の原因なのかもしれません
(24) 2016/05/21(Sat) 00時半頃
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>>23
……はい。
(25) 2016/05/21(Sat) 00時半頃
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『ね。経つ前に結婚しない?』
[枕に横向きに頭を預けた女性が、隣で仰向けになっているワレンチナにそう零した。
ワレンチナは横目で彼女を見る。緩慢に視線を中に漂わせたのち、起き上がり、前髪を掻き上げた。二人とも、衣服は身につけていない。]
『急だね』
『だって。最低でも数ヶ月、下手したら2年くらい会えなくなるでしょ』
『慣れてるでしょ?僕が長く戻らないのは』
『そうだけど……んー』
[女性がシーツの中で身じろぎする。]
『子どもほしいの。ティナの精細胞作って人工授精させる』
[瞬間、ワレンチナの動きがぴたりと止まった。
額に当てていた手がシーツの上に降りる。]
[今や同性婚は珍しいものではなく、地域階級種族を問わず自由に行うことができる。しかし遺伝子操作によって同性同士の子どもを作る場合、婚姻届はもとより、他にもそれなりの認証や準備が必要だった。]
『だから……急だね』
『うーん。そろそろかな?みたいな。ずっと考えてたけど』
『……』
『やなの?帰ってきた時、子どもが産まれてたら』
[寝転がったままの女性が、いたずらっぽくくすくす笑う。
ワレンチナは彼女を肩越しに見ようとして、しかし視線をどこか遠くに置いたまま。振り返ることなく、ベッドの上で長く細く息を吐いた。]
『嫌だな。寒気がする』
[普段のワレンチナからはあまり想像のつかない、恐ろしく冷たい声音だった。]
[女性は一瞬ぽかんとしたのち、目にいっぱいの涙を溜めたかと思うと、子どものようにわあわあと泣いてワレンチナをなじった。しかし何を言われても、ワレンチナの態度は変わらなかった。自分の子を女性が孕む。それを想像した瞬間、今まで経験したことのないような、途轍もない不快感がワレンチナを支配したために。
そうしてそのまま、ワレンチナは母星を発った。
未開のPavr=opety星へ、学者としての経歴に華々しい色を添える為に。]
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>>27
[ワクラバ様のおっしゃっている利権のことは、よくわかりませんでした。ですが、ひとつだけ、ワクラバ様も、ワタシと同じように嘘をついていたということがわかりました。罪悪感という機能を抱いていることがわかりました。 これは、共感という機能でしょうか?
既視感を得ました。もうずっと昔のことです。 寄生体に寄生され眠ってしまう人や、それとは関係なく、病気や老いで死んでいく人たちは、皆、今のワクラバ様と同じように、ワタシに何かを残そうとするのです。 懺悔というのだそうです。
ひとつ、疑問がありました。 裏切者とは、害をなすものだと聞いたことがあったからです]
ヤンファ様の事故も、ワクラバ様が仕組んだのですか?
>>2:61 [もしもそうなら、イースター様はお許しにならないのではないか、……ワタシは、心配したのです]
(44) 2016/05/21(Sat) 01時半頃
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(思えば理由は単純だった)
[ぼんやりと意識の海に漂いながら、ワレンチナは薄く目を開く。]
(それは、僕が、僕自身が……)
[涙が溢れる。粘性の高いPavr=opetyの海において、涙はすぐさまそこに溶けるということはない。水中に油の球が浮かぶように、少しの間、ワレンチナの涙は桃色の水の中をゆるやかに泳いだ。]
(『産みたい』と。
『女で在りたい』と、感じていたからだ)
[自身の身体。環境。周囲からの視線。反応。
それらはそれぞれに、薄い薄い膜だった。しかしそれが幾重も幾重も重なって、やがて強固な層となり、ワレンチナの本質を封じていた。
しかし否応にも反応する――それが本能であるがゆえに。]
『こう在りたい、と望み続ければ』
『生物はそのように――進化する?』
(さあ、判らない)
(けれども――Remdaが助けてくれるかもしれない)
(だから、僕は……)
[ふと。水の揺れる、重い感触。
視線を巡らせる――不思議なことに、天地左右、どこにも水面が見受けられた――その中に、]
(シルク)
[『彼』がいた。]
[水にたゆたいながら、ワレンチナはただぼんやりとシルクの姿を見つめていた。薄桃色の水の中にあって、その姿は柔らかくほの白く光って見えた。
水のゆらめくたびに光を弾く絹のような髪、えも言われぬ透明感、男とも女ともつかぬ、一糸纏わぬその姿……]
(きれいだ)
[ワレンチナは何かひどく懐かしいような、寂しいような、嬉しいような気持ちになって、ぼんやりとした表情のまま、涙をこぼした。ふと気がついてみると、ワレンチナもまた何も身には纏っていない。しかし気恥ずかしさはどこにもなかった。]
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>>46
良かった。
[ワクラバ様の告白の返事としては変かもしれませんが、ワタシはその時にそう思ったのです。そしてこうも思います。]
ワタシに話すことで、エラーは修正されますか?
[そうであればいいと思います。]
イースター様が仰っていました。 嘘のひとつやふたつくらいついてくれなきゃがっかりだ。です。
(48) 2016/05/21(Sat) 02時半頃
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[共感、という機能は不完全です。ワタシにはワクラバ様の苦しみのすべてを理解することはできませんでした。しかし、何度自問しても、こう思うのです]
ワクラバ様が、皆様が、嘘をついていたとしたら、ワタシの何かは変わるでしょうか?
[この船に乗って得た機能はやはり偽物になってしまうのでしょうか? それは嫌です。 だから。 エスペラント様が仰っていました。答えはワタシの中にあります。 でしたら、ワタシは、その答えを自由に決めていいのです。自分で決断していいのです]
変わりません。
皆様がどんな嘘を抱えていようと、ワタシは変わらないのです。
[そうして、わかりました。 ワタシが変わらなければ、それでいいのです。ワタシの出自を知って、ワタシを忌避しようと、それで一人になってしまおうと、ワタシが、皆様を仲間だと思っていれば、それでいいのです]
たとえすべてが仮初の関係だったとしても、ワタシがそう決めたのなら、そこに違いはありません。
(49) 2016/05/21(Sat) 02時半頃
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>>46
[ですから、ワタシは皆様にここにいてほしいと思うのです。]
帰らないでどこかへ飛んでいこう、などといわないでください
(50) 2016/05/21(Sat) 03時頃
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>>53
[ワクラバ様に請われ、ワタシは小さく頷きました]
ワタシは、誰も彼もを独りにしないために作られました。 ワタシが作られた星では、寄生体とワタシを作った人達が呼んでいた何かが原因で、滅びを迎えようとしていました。 数少なくなった、ワタシを作った人達が恐れたのは、滅んでしまうことだけではありませんでした。 一人で、誰にも知られずに眠るように死んでしまう。そのことを恐れたのです。 ワタシは、ワタシを作った人達に添い続けました。 ワタシはその中でたくさんの嘘を聞きました。 ワクラバ様のように、懺悔という機能を使われる方もいました。ずっと一緒にいようと仰った方もいました。しかしその方も、眠る間際にあれは嘘だったと仰いました。 最後の一人を看取った時、ワタシは一人になりました。ワタシを使う者がいなくなったので、ワタシはひとつのモノとしてあの星で朽ちていくのだと知りました。
(54) 2016/05/21(Sat) 16時半頃
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どのくらいの時間が経ったのかわかりません。 使われなくなった機能は徐々に失われていきました。ワタシはそれでいいと思っていました。
あの日のことを考えると、もう遠い昔のような気がします。 ワタシが一人になってからの時間より、皆様と出会ってからの時間のほうが、ずっと長いような気がしてきます。 その日、真っ暗な空を引き裂いて、皆様が落ちてきました。 この船が、ワタシのいた星に降りてきたのです。 中から、ワタシを作った人達と同じようににぎやかな人たちが出てきました。 その時、すべての機能がまた動き出したような気がしました。ワタシを作った人達が、ワタシに唯一備えた機能。 感情、と呼ばれるものです。 どうしようもありませんでした。 居てもたってもいられず、ワタシは皆様の船に向かいました。 それでどうしたいのかなど、考えていませんでした。
(55) 2016/05/21(Sat) 16時半頃
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皆様に接触してみると、不思議なことが起こっておりました。 皆様が、ワタシのことを既知の、仲間だと誤認しているのです。その時はそれが何かわかりませんでした。 ワタシを作った人達が、最後にワタシを一人にしないように、そのような何かを用意したのかと思いました。
ナユタ様が倒れられた時に、それは違うのだとわかりました。 寄生体が、ワタシとともにこの船に乗り込んでいたのです。いいえ、おそらく、寄生体はワタシがワタシを作った最後の一人を看取った時から、ずっとワタシとともにあったのです。 寄生体は皆様に寄生するための時間を稼ぐために、ワタシを仲間だと誤認させたのです。 寄生体は精神に巣食います。そのようなことも可能だったのでしょう。 ワタシは、皆様の好意に甘えながら、皆様を陥れていました。 しかしどうしても、それを伝えることができませんでした。
今わかりました。 ワタシの行動を阻害していたのは、幸福という機能でした。ワタシはその機能をどうしても手放せなくて、ずっと、皆様に嘘をついていました。
(56) 2016/05/21(Sat) 17時頃
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>>60
[イースター様の声が、ワクラバ様の通信回線から聞こえてきました]
おそらく、皆様が寄生されているとは、まだ言えません。
[誰に言うでもなく、ワタシは続けます]
寄生体は、人の精神に寄生するとその人から何かを奪います。そうして満足すると、宿主を乗り換えます。置いて行かれたものは、その奪われた何かによって、昏睡するのです。 ワタシを作った人達は、そうして一人ずつ、長い年月をかけて、いなくなりました。
(65) 2016/05/21(Sat) 20時半頃
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>>62
[ワクラバ様に抱きしめられ、ワタシは思わずあの機能を使っていました。 嬉しい、という機能に付随して、冷却の必要などないのに、ワタシの体の各部は、蒸気を噴き出していたのです。 照れ、と呼ぶものです。あるいは、恥ずかしい、という機能でしょうか]
(67) 2016/05/21(Sat) 20時半頃
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>>64
[ワクラバ様の言葉に、急激に体が冷えるのを感じました]
……わかりません。 ワタシを作った人達も、それがわからずにいなくなってしまったのです。
(68) 2016/05/21(Sat) 20時半頃
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[頬に温かい物が当たる。
それは緩やかな水流に乗って、届けられた。
薄桃色の流れの先へ、目線を向ける。
探していた姿が、そこにあった。
ゆっくと流れに逆らって、近づいていく]
[近づくにつれ、彼女の顔がはっきりと見えてくる。
寂しさの混じった、その表情が。
先ほど頬に当たった暖かさを思い出す。
寂しさを抱いて泣いている女の子が、目の前にいる。
だから――]
[両手を伸ばし柔らかに、抱きとめた。
まるで、彼女を包み込むかのように]
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>>76
[ワクラバ様の言葉に、ワタシはうなずきました。 ワクラバ様は、倉庫に戻ってきた時とは別人のようでした。ワタシはそれを、嬉しく思いました。 停滞していた時間が、動き始めるのを感じます。 よどんでいた空気が、動き始めるのを感じます。 この先に何があるのかわかりません。それでも嬉しく思うのです]
(79) 2016/05/21(Sat) 21時半頃
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―医務室―
[ベッドに寝かせたイースター様を見て、不意にワタシはまたあの既視感を覚えました。ワタシはずっとシルク様にもワレンチナ様にも会いに来ていませんでした。罪悪感という機能のせいでした。 どうしてその記憶を参照できなかったのでしょうか? あるいは、ワタシの記録も、寄生体に改ざんされていたのかもしれません]
もうずっと前にも、こうして誰かに付き添っていたことがありました。病室には誰もいませんでした。話をすると、寄生体に感染してしまう恐れがあると、お医者様はその方を避けていました。その方が寄生体に取り付かれているとは限らないのに、です。 その方は、ワタシに「お前にだったら言っても大丈夫だね」と笑いました。 「お前にうつすために、ワタシはお前と二人きりでいるのだから」と。 そのまま、その方はだれにも相手にされず、お亡くなりになりました。 最後の言葉は、 「そんなことじゃ、寄生体に選んでもらえないよ」 でした。
(95) 2016/05/21(Sat) 23時頃
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今のワタシは、どうでしょうか? 皆様より、 照れ、という感情を教えていただきました。。 不安は、いつもワタシの隣にいました。 幸福を、ワタシは捨てることができませんでした。 決断ということを行うことができました。
今なら、寄生体はワタシを選んでくれるでしょうか? 人間と一緒になれているでしょうか?
(96) 2016/05/21(Sat) 23時頃
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[ゆっくりとシルクが近付いてくる。ワレンチナの目からはふわふわと涙が溢れ続けていて、それらは近付いてくるシルクの頬や、髪や、指先を音も無く柔らかくすり抜けて、やがて海へと溶けていった。
彼の両手が自身に触れるその瞬間まで、ワレンチナの視線はシルクに真っすぐ注がれたまま――そうしてゆるやかに抱きとめられ、一瞬目を見開く。それはあまりに優しい抱擁だった。今までの何もかもを、許してくれるような――]
ふ……、う、
うわああああん。ああーーん。わあーーーん……
[ワレンチナは彼を抱き返して、大声を上げて泣いた。時にしゃくり上げ、いやいやをするように彼の肩に、胸に縋り、泣き続けた。
ワレンチナの泣き声はゆるやかな波となって広がってゆいった。その残響。反響。それらは鐘の鳴るようにどこまでも幽玄に響きあって、その場のすべてを幻のように包んだ。]
『もし、ボクが男の子になったら』
[記憶の中の声がする。ワレンチナはもう、泣き声をあげてはいなかった。それでも未だ遠く響き渡り続ける――もはや掠れに掠れ、ただ不思議なノイズのようになった――声の中で、ワレンチナはゆっくりと顔を上げる。目の前には、どこまでも無垢で透明なシルクの顔があった。ワレンチナは目を見張る。]
(ああ)
『ワレンチナさんは』
『交際相手もしくはそれに類するものに』
(シルク、僕は)
『してみたいと思いますか?』
[泣きながら下唇を噛んで微笑む。シルクを見つめたまま、ワレンチナはゆっくりと首を横に振った。そうして今一度、シルクを両腕で抱きしめる。瞳を閉じ、唇を開く――]
僕は。君のような――
無垢な子どもに、産まれたかった……
[抱きしめる腕に力がこもった。
海が揺れた。星空のように辺りに漂っていたRemdaのすべてが一瞬、一同に震えわななく。
世界が、白くざわめいた。]
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>>101
[この船のお医者様として、アシモフ様には考えがあるようでした。なにより、ワタシはそのために作られたのです。ですが、そんなことは関係ありませんでした]
ワタシは皆様の役に立ちたいと、決断しています。
(102) 2016/05/21(Sat) 23時半頃
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>>106
酷、だとは思いません。 ワタシを作った人達も、似たようなことを考えていたはずです。ワタシは、それを今度こそ受け継ぐだけです。 アシモフ様、お気になさりませんよう。
(110) 2016/05/21(Sat) 23時半頃
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>>109
[通信から聞こえるワクラバ様の声は、どこか楽しそうですらありました。遊ぼうぜ、というその言葉にワタシはとても惹かれました。ですが]
ワクラバ様はお眠りになりません。 たとえ、どこかへ飛んでいきたいと願っていても、この船を導くのはワクラバ様なのです。 申し訳ありません。 一緒に遊ぶことはできません。
(112) 2016/05/21(Sat) 23時半頃
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皆様、おやすみなさい。 また、あした。
(121) 2016/05/22(Sun) 00時頃
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