278 冷たい校舎村8
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[ 謝るくらいなら死ぬのをやめてほしい。
何で死ぬかって、原因の一言も書かずに
謝って、死のうとして、世界を作って。
そして追い出すのだから、我儘。
あと「許してくれなくてもいい」なんて
まるで許すのが当然みたいな言い方
ぜんぜん気に食わないな。って思う。 ]
[ でも、郁斗は怒っていなかった。
怒る気にもなれなかった。
怒ったら死にたくなりそうだ。
あの時みたいに泣き叫ぶ気にもなれなかった。
いっくんは大人になりました。
まだ未成年だけどね。
騒いで正気を失う気にもなれない。
というか、寝起きなんで。だるいな。
全部夢だったらな。夢かも知れないな。 ]
[ そんな訳ないだろうな。
夢だったらもっと楽しいはずです。
あーちゃんも居ないし、
みんなも、まだ、死んでないし。 ]
── 現在:病院 ──
[ 兄の運転する車のドアを開ければ、
冷たい空気が流れ込んでくる。
一歩踏み出して、その中へ体を晒す。 ]
……帰るときまた電話する。
まー、寝てたら、タクシーで帰る。
[ わざわざ窓を開けて話を聞く兄は
いっつも無視したり無下に扱ったりするのに
郁斗に対して結構過保護。かもしれない。
負い目だね。負い目だよ。
そーゆーとこ、ほんと親子だよね。
前言ってしばかれたので、言わないけど。 ]
[ 寒い。外は寒い。
というか、病院に着いてしまって怖かった。
開いたシャツの首元を手繰り寄せる。
ダルそうなふりして心配そうな運転手が
お前それ大丈夫か。って平坦に聞くから
素直に兄の視線を追ってしまった。
手首に痣がある。あーあ。 ]
はは……なんだろ…、
なんだろーね……。
[ 無数の手。小さな手に触れられる感覚。
臭い。音。……を、思い出す。笑う。 ]
あれはあーちゃんなんでしょうか。
あーちゃんじゃなければ、なんなのでしょうか。
[ 顔色を悪くした郁斗を見て、それに対して、
兄はマフラーを投げつけてた。
寒いなら使えば。って、ぶっきら棒に言う。
かわいくねーツンデレ(笑)って、思う。
嘘。カッコワライつける元気は、無い。 ]
ありがとー。
……じゃあ、行ってくる。
[ そう宣言したくせに動かないでいる弟の背を
兄はぞんざいに、勇気づけるように叩いた。 ]
[ 正気になったら。
色んなことを考えてしまうので、嫌だ。 ]
[ あーちゃんのこと。ワタリさんのこと。
あと、あーちゃんのこと。
そういう、どうしようもないことを考えても、
苦しくなるだけだ。過去は変えられない。
事実は嘘にならない。 ]
[ 喜多仲家は矯正された。そこそこ幸せな家族に。
兄も母も父も、郁斗を大事にしてくれる。
喧嘩もするけど、ちゃんと気にかけてくれる。
なりました。普通の家族に。
なんで。って、あーちゃんのおかげだよ。
あーちゃんが死んだおかげ。だよ。
あーちゃんが死んで郁斗が病んで、
三人が何とか繋ぎとめようとしたからだ。
あーちゃんが死ななければ。
こんなに幸せになることはなかった。きっと。 ]
[ あーちゃんはクソみたいな親に殺された癖に
それをダシに幸せになっていいのか。って、
そういうことを考えると、
目の前が真っ暗になる。眩暈がする。
そのくせ、今だって
兄ちゃん優しーやったじゃん(笑)なんて
この結果を喜ぶ自分が居るので、笑える。
あーちゃんが死んだことによって、
いっくんも全部全部不幸せになれればよかった。
でも違った。幸せになってしまった。 ]
[ 授業中眠くなったときとか、
つまんねー講演を聞いているときとか、
ふとした瞬間に正気に戻って考えて、
その度に死にたくなってしまう。
どうせその数十分後にはそんなこと忘れて
皆とバカやって笑ってるっていうのに。
バカやって笑ってる自分を冷静に見て
自己嫌悪して、忘れて笑って、
みたいなエンドレスはしたくないです。
どーせなら笑ってたい。笑っていたい。 ]
[ 持てるもの全部持って抱えて、
正気になりたくない。って思う。
可笑しいですか。
可笑しくても良い。……って、思ってた。 ]
あれはあーちゃんなんでしょうか。
あーちゃんじゃなければ、なんなのでしょうか。
夢の中のあーちゃんは
いっくんがあーちゃんだって言うから、
あーちゃんです。そういうことになりました。
チビだったり、同い年たっだり、
たまーに全然人間じゃなかったりしても、
夢の主があーちゃんって言い張るのですから、
あーちゃんはあーちゃんでした。
いっくんにはあーちゃんだって分かっていました。
でも、本当は。
あーちゃんなんて居ないのかもしれません。
居たけど、たしかに現実に居たけど、
もう、いっくんの傍には居ないのかもしれません。
じゃあ。本物のあーちゃんは
一体全体、どこに行ったんだろう。
ハア?叩かなくてもよくねえ?
チョー酷いんですけど。
寝ててもマジ叩き起こすから。
[ 寝起きにしたってテンションの低い郁斗は
それでもなんとか、病院へ進んでいく。
もう嫌いじゃなくって、
もう嫌われてもいない兄を背にして。 ]*
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──現在/踊り場──
[ 氷室が清々しいまでに笑むのを、>>775 礼一郎は、いつも通り呆れたふうに、 一匙の安堵を混ぜた目で見ていた。
ハイハイそーですね。って、 学校でも、ファミレスでも、どこでだって、 二人顔を合わせればしていたみたいに。
そいつが笑えてんならいいかな。って。]
(829) 2020/06/19(Fri) 23時半頃
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[ だって、友達だし。]
(830) 2020/06/19(Fri) 23時半頃
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[ ……友達なんだから、 たまには頼ってほしいけど。]
(831) 2020/06/19(Fri) 23時半頃
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[ なんて、言う必要もないくらい、 君の今後が晴れやかでありますように。]
(832) 2020/06/19(Fri) 23時半頃
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[ ……でも、こんな状況だから、 ずっと笑ってるわけにもいかない。
名前を挙げれば翳った顔に、>>778 礼一郎は小さくうなずいた。 喜多仲郁斗の死体、じゃなくて。人形。
なんでだろう。 考えても答えの出ない問い。
礼一郎が求めてたのは、 悪気なんてないんだよ、とか、 自分と似たような意見。……だったのかな。]
(833) 2020/06/19(Fri) 23時半頃
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[ あるいは、そうじゃなくって……、]
(834) 2020/06/19(Fri) 23時半頃
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[ 氷室は今日も、 礼一郎の思ったのと違うことを言う。
みんな死にたかった。
まっすぐに見つめられながら、 礼一郎はその言葉を頭の中で反芻する。]
(835) 2020/06/19(Fri) 23時半頃
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……イクトは、 帰りたいって、言ってたよ。
[ 反論になってねえな。礼一郎も思う。 その説を肯定したくなかっただけだ。
みんな死にたいなんて、 そんなのって、救いがなさすぎない?
それなのに、氷室はあっさりと、 軽やかなくらいに、自分にはあると言う。>>784]
(836) 2020/06/19(Fri) 23時半頃
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[ ……躊躇いがちに、口を開く。]
……あるかも、な。
[ そんなさらっと言ってんじゃねえよ。 ──って、礼一郎は思った。口が乾く。 口をついて出たのはあいまいな肯定だった。
でも、認めたくないなあ。なんて、 礼一郎はまだ思ってる。思って、 友人の顔の上で、視線をさまよわせて、]
(837) 2020/06/19(Fri) 23時半頃
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……もし、そうだったら、 すげえショック、なんだけど。
死にたがってるやつなんて、 この世界つくった一人きりで、 もう、十分、キツイじゃん。
[ なんでおまえ平気そうなの? って、 口に出せなかった部分を舌の上転がして、 こくん、と一度、唾液を飲んだ。*]
(838) 2020/06/19(Fri) 23時半頃
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[ え。てか、夜中の病院って怖くねえ?(笑)
フツーに怖いんですけどぉ!! ]
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