191 The wonderful world -7 days of MORI-
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少
霊
全
4日目。
ゲームの参加者も少しずつ、だが確実に姿を消していく。
それでもまだ折り返し地点だと嘲笑うように、ミッションメールの音。
そしてそれを確認する頃、手のひらにはまたもや赤いタイマーが浮かび上がるだろう。
――――――――――
From:Game master
subject:緊急指令<4>
東西南北に鎮座する食欲の権化
卑しき食い逃げ犯の身柄を確保せよ
リミットは180分
しくじったら殉職
死神より
――――――――――
(#0) 2016/06/11(Sat) 07時頃
「材料を食い荒らしたのは、どこのどいつじゃあああああああ!!!」
——ラーメン失楽園の親父は激怒した。
必ずや、かの邪知暴虐な食い逃げ犯を捕まえてとっちめねばならぬと決意した。
親父にはUGが分からぬ。
親父は、RGでラーメン一筋である。
麺のコシに朝から晩までこだわり、豚骨をコトコト煮込んで暮らして来た。
けれども店の防犯に関しては、人一倍鈍感だった。
……ラーメン失楽園の前で店主が顔を真っ赤にして叫んでいる様子が、大いに目立っており。
姿の見えない食い逃げ犯——その噂が、ストリートに広まっていることだろう。
(#1) 2016/06/11(Sat) 07時頃
東西南北のエリアに散り散りに逃げ込み、
一安心してふてぶてしく居眠りをしている食い逃げ犯——その正体はノイズ<ピグ>。
北エリアのクロネコ像の頭の上で眠る青色のブタは、酸っぱいものが大好き。
南エリアの考えざる人の像の足元で眠る赤色のブタは、辛いものが大好き。
東エリアのBarメメント前で眠る黄色いブタは、甘いものが大好き。
西エリアの彼ノ岸公園の真ん中で眠る緑色のブタは、しょっぱいものが大好き。
好物の気配を感じたら、たちまち目を覚まして食らいつくだろう。
(#2) 2016/06/11(Sat) 07時頃
/*
Tips:ノイズ<ピグ>
丸っこいブタ型ノイズ。個体ごとに特殊な個性を持つ。
眠っている間はいかなる攻撃も接触も防ぐ。
好きな食べ物の香りを嗅ぎ付ければ目を覚ます。
(#3) 2016/06/11(Sat) 07時頃
/*
Tips:ノイズ<ペンギ>
ペンギン型のノイズ。
よたよたと覚束無い様子で歩いて、よく転ぶ。
しかし転んだ姿勢から腹でアスファルトを滑走する速度は速く、体当たりが強力。
(#4) 2016/06/11(Sat) 07時頃
― 消え行く魂たちへ ―
[消えるのを待つだけの魂は、もはやUGからも切り離される存在。
ゆえに、ようやく僕の姿が見えるでしょうか。
といっても、人の姿の輪郭だけをした、ぼやけた怪物のような、今の僕ですが。]
……おはようございます。
残念ですが、あなたがたはゲームから脱落してしまいました。
[魂の残滓たちに、その事実を告げて回る。
消滅までは多少のタイムラグがある。
そう、ゲームが終了する7日目くらいまでは。
だからこそ、可能性は、潰えない。
ゲームの盤外でも、まだ終わったわけではない。]
……未だに諦め切れない方は。
どんな目に合ってもいい覚悟さえおありなら。
僕のところに来てください。
[――どれだけ泥臭くても、薄汚れても、生きようと藻掻くことでのみ救われる。
白上さんもそう言っていました。
だから、僕もその決意を汲もうではありませんか。
それはもう、存分に。
スクランブル交差点の上空で、ぼやけた姿の僕はじっと待ちます。
決意がある者がやって来るのを、ただじっと。
僕や、脱落者の行動は、死神の皆さんになら、気配だけは感じ取れるかもしれませんね。**]
[>>396>>397緑色のピグノイズが捕獲され、その身柄が抱え上げられる。
体が痺れて動くことのままならないブタは、観念したのか、
腕の中でがっくりと力を落とす。
その瞬間、ブタの体は掻き消えて、
参加者の手のひらのタイマーが若干薄くなる。]
(#5) 2016/06/12(Sun) 19時頃
[>>463檻に捕まって、これからの自分の豚生を確信した黄色いピグノイズ。
観念したようにへたり込めば、その姿は掻き消える。
それと同時に、参加者の手のひらのタイマーが更に少しだけ、薄くなるだろう。]
(#6) 2016/06/12(Sun) 22時頃
[>>497リュックサックに囚われ、もがき、脱出できない赤い豚。
電流が全身に走る痛みに意識が奪われていき、激辛チップスの残り香を嗅ぎながらがくりと崩れ落ちた。
そのまま赤い豚はリュックの中で掻き消えて、参加者のタイマーもより薄くなるだろう。]
(#7) 2016/06/12(Sun) 22時半頃
[>>519夢中で酸っぱいレモンの飴をカリカリ齧っていた青い豚は、
それを食べ終わってからようやく自らが捕われていたことに気付く。
暗闇の中でじたばたしても、どうにもならない。
そして青い豚は——考えるのをやめた。
4匹目のピグノイズも掻き消えて、ミッションのクリア条件を満たした。
それを示すように、参加者のタイマーは綺麗さっぱり、消えたことだろう。]
(#8) 2016/06/12(Sun) 23時頃
―回想・とある春の日―
[――春。
それは別れと、出逢いの季節だ。
困り顔の鳥飼寿に引き取られたのも、
たしか、うららかな春の日だった。
朝に夕に、高らかに声を張り上げる。
大型インコに特有の雄叫び――
それが存外五月蠅かったからと、
気紛れな大家が飼育放棄したコンゴウインコ。
……それが、俺である。]
[前の主人は、好きになれなかった。
呼び掛けても構われなかったどころか、
飼い始めてすぐ匙を投げられてしまった身。
だから、新しい環境への期待は大きかった。
トリカイ、ヒトシ。
――どんな人なんだろう?
――たくさん、遊んでくれる?
――いっぱいお話し、してくれる?
――美味しいごはん、食べたいな。
――見て見て、僕って綺麗でしょう?
――君のためなら、綺麗に鳴いてみせるよ!]
[――ねぇ、ヒトシ。
ねぇ、ねぇ、
こっち向いて。
…僕を見て。
ねぇ、 ……ねぇ、ってば 、]
[ヒトシはいつだって、話半分だった。
ろくに耳も傾けず、視線はPCの画面に向けて。
うんうん、と形だけ頷いたりも。
最初のうちは、それで良かった。
反応を返してくれるだけで、嬉しかった。
けれど段々と、ものが解るようになって、
…その態度が、無関心の表れであると知って。
それが気に入らなくて、
さらに躍起になって気を惹こうとした。
結果的に、逆効果だったけれど。]
[春の終わりに、
俺は、寂しいという感情を知った。]
―回想・とある夏の日―
[それから数か月が経ち、
ヒトシとの関わりは相変わらず希薄なままだったが、
代わりに、絶え間なく流れる映像と音を得た。
話しかけても決して返事はくれなかったが、
それらは色々な言葉や、その意味を教えてくれた。
時間ばかりはたくさんあったから、
じっくりと、ニンゲンという生き物を観察した。
どういう時に、どんな単語を投げかければいいのか、
どうすれば、相手の――ヒトシの気を惹くことができるのか。]
[文字を読み、覚えた言葉を真似してみせると、
珍しくヒトシが笑顔を向けてくれた。
それが嬉しくて、また一つ言葉を覚えて、]
オハヨ!
コンチワ!
マタ アシタ!
[けれど、いつしかその言葉が向かう先は、
無機質なカメラのレンズとなっていた。
ヒトシ曰く、クスクス動画に投稿するとのこと。]
[それが何かは知らなかったが、何か下心がある気がして。
やがてカメラを向けられると喋らなくなり、
ヒトシは撮影をやめ、俺も新しい単語を口にしなくなった。
…つまりは、そういうことなのだ。
それが解ると、何だか無性に腹が立って仕方がなかった。]
[夏の終わりには、
俺は、反抗することを覚えていた。]
―回想・とある秋の日―
[それでもやっぱり、諦めきれずに。
あまり家に帰らぬヒトシが顔を見せれば、
今日こそはと、何かしら行動したものだ。
態度はだいぶ、可愛げがなくなって。
ストレスによる過剰な羽繕いも相俟って、
姿はなかなか、凶悪に見えていたかもしれないが。]
[リピート再生される幼児向けの教育番組はとうに飽きて、
この頃にはこっそり、テレビのリモコンを弄ったりもしていた。
…ヒトシが出掛けると足を伸ばし、帰る前には消しておく。
そうして観はじめた主婦向けの番組には、
これまでとは異なる種類のニンゲンが出ていて、
夫に邪険にされ、寂しく思う妻などにはかなり共感した。
ヒステリックに叫ぶ彼女達を見て、ふと思う。
――これを、ヒトシに問いかけてみたら?]
[半年も共に過ごせば、色々と理解できる。
ヒトシが日中、シゴトをしていること。
そのシゴトが大切で、そのために寝食を削る程であること。
テレビの中の夫達も大抵が彼と同じ状況にあり、
それで家に残された妻が、悲しい悲しいと泣くのだ。
件の問いかけには、二種類の答えが用意されている。
――“シゴト”か、“アタシ”。]
[おまえだよ、とすぐ謝るパターンは決して多くはないが、
それでも時折目にしたし、最後は幸せに締めくくられる。
大半の男はまず、シゴトだと答えてしまう。
けれどその場合でも、紆余曲折を経て最後には、
やっぱりおまえが大事だよ、という結論に辿り着く。
…つまり、この問いかけは。
ハッピーエンドに繋がるキーワードなのではないのか?]
[そう考え、ワクワクしながら帰宅を待って、
ドキドキ胸を高鳴らせながら、あの台詞を叫んだのだ。]
[驚いてこちらを振り向いたヒトシに、
キラキラと期待の眼差しを向けた。
ある程度辛辣な言葉が投げられるのは、
もちろん、覚悟の上だった。
働く男達の大半が、そうだったので。
一人でノリツッコミをこなして一見、上機嫌。
けれど続き、早口で述べられる答えはやはり、“シゴト”。]
[焼き鳥にして喰ってやる、という、
酷く恐ろしい、胸の潰れる、最大級の罵倒を受けて。
それ程までかと泣きたくもなったが、
どうにか涙は堪えて、じっと黙って見つめていた。
大量の餌だけを置いて、ヒトシが家を出る。
ここでヒステリーを起こしてはいけない。
黙って耐え忍び、風向きが変わるのを待て。
そうすればきっと、彼は振り向いてくれるから。
…物語の彼らはいつだって、そうだっただろう?]
[けれどそのまま秋も終わり、
俺は、諦めることを覚えてしまった。]
―回想・とある冬の日―
[朝晩が冷えるようになった頃。
寒いと抗議して鳴いたら、暖房が付くようになった。
光熱費が嵩むとボヤかれたものの、
南国の鳥であるから、そこは仕方がない。
いっそ人の身であれば良かったのに。
そしたらアンタは、もっと――
…そんなこと、考えたところで無駄だったけれど。]
[やがて冬も終わってしまい、
想い出も何もないまま、また、春が来た。]*
―ロスタイム:とある結末、その後―
[つぅ、と頬に温かなものが流れる。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、
ぼんやり滲んだ視界が飛び込んできた。]
あ、っれ、……
[――最後の記憶。
鳥飼に礼を述べようとして、鮫に喰われた。
はず、だったのだけれども。]
[辺りを見渡せば、そこはスクランブル交差点。
翌日に移行したのかと疑問符を浮かべていたところ、
上空から、ぼやけた影のような人物に語り掛けられた。
…涙をごしごし拭っても、やはり上手く像が結べない。
“未だに諦めきれない方は、――”
嗚、そんなものは。
答えなど、わかりきっているというのに。]
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