278 冷たい校舎村8
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[ 一人も、静かも、すき。
ただ、今は誰かが、いいえ、
あの世界を共有したみんなが、恋しかった。
早く二人のところにいこう。 ]
[ 千夏が自動販売機の近くに戻る。
二人、が三人になっていて、わ。と思う。
紫織の世界にはまだ誰が留まっているのか。
すこし考えて、頭を振った。 ]
……さむいね。
[ 挨拶、はさっき手を振ってしたから、
なんて言ったらわからずに、
すこし考えて、三人の顔を見上げてそう言った。
おかえり。みんな生きてるね。
生きててえらいよ。* ]
──現在・病院前──
は、ふう、……
おはよう、喜多仲くん、まなちゃん
[ どうにか、声を絞り出せる。
ちいさく手を振りながら、彼らの元へ。
まだまだちょっと、呼吸は荒い。
すぐに落ち着けるほど肺は発達していないし、
苦しい、けど、それで倒れるようなことは早々ない。
ただの運動音痴なだけ、うん。
案外、愛宮心乃の持っていないものは多かった。 ]
[ ─── おはよう、
朝、出逢った人にいう挨拶。
目覚めて一番初めにあった時に言う挨拶。
夜中だったとしても、今日という日に会ったのが
一番最初だったら、使われることもあるもの。
だけど、まだ高校生の私たちにとっては、
朝いちばん、学校で会った時に使う言葉だ。
何かからの目覚めを共有している、のだろうか。
愛宮心乃が眠っていたことを、知っている?
……もしかして、顔でわかる? ]
……おにぎり、いる?
[ そうして、ビニール袋の中身を指摘され
ちらりと三角の頂点をみおろした。、
いらないかどうかとかは、知らないので、
取り出して喜多仲に差し出している。
足りないのなら、また買いにいけばいい。
そして増えたもうひとり。
ちーちゃんを出迎えるように手を振った。 ]
……さむいねえ。
コンポタ、あったまってよさそうだね
でもいいよっ まなちゃん
自分でお金出すから!
うーん、私はおしるこ、にしよっかなあ…
[ 寒いね、って同意する。
だからこそ、あったかい飲み物はちょうどよい。
でも、お財布持ってきてるよって示す。 ]
あっ、ちーちゃん、無糖のコーヒーあるよ
これにする?
[ そして、自販機を見上げて商品をどれにしようかな。
その中でみつけたひとつを示したのなら、
いいんじゃないかな、ってちーちゃんへ伝えた。 ]
[ 無事、おしるこを購入すれば
両手で握り締めながら、病院の入口を見る。 ]
風邪引くといけないから、
そろそろ私たちもいく?
[ 三人に告げたら、私は病院の中へ行こう。
一緒に来てくれる人は、いたかなあ。
中に入れば、なっちゃんがいた。
状況を看護師さんに聞いていてくれたみたいで、
まだ、予断を許さない状況なんだって教えてくれる。
救急外来の椅子にちょこんと座る。
……1.5人分の座席量を使うことになるけど、
走ってきて疲れているので、ゆるしてほしい。* ]
── 現在:病院前 ──
[ エントランスと自動販売機の光が混ざって
集まったクラスメイトの顔を照らす。 ]
いーよ、心乃ちゃんが食べる分
無くなっちゃうじゃん?
[ 差し出された三角形が複数個あったのなら
素直に受け取っていたかもしれないけれど。
心乃が下げている袋の中身は空っぽになって
じゃあ申し訳ないな。って思ってしまう。
それはもう、素直に。 ]
[ 自転車置き場の方から千夏がやってきて
約束していた訳でも無いクラスメイトが
こんな真夜中に、しかも病院に集まるなんて
すこし可笑しい。笑えないけれど。 ]
おはよ、はやみん。
さむいねー、凍えんねぇ。
[ 冬だし。外だ。寒いに決まってた。
寒い。って話題は2回目だったけれど、
その話題に頼らなきゃろくでもない話をしそうで
何度だって郁斗は声に出した。 ]
[ みんなが生きてるから、おれはまだ笑えるよ。 ]
ええ〜いーよいーよ!
てかさァ、おれ奢る場面じゃ……
フツーに先越されるし!
不甲斐ねぇ感じになっちゃったじゃん!
[ 飲み物奢る?とまなに言われて
むしろおれが奢る?と郁斗は提案。
……しようと思ったんだけど。
心乃の手のひらに収まるおしるこに
思わず肩を落とした。 ]
[ 賑やかな会話……といっても、
騒いでいるのは郁斗だけかもしれないけれど
とにかく、クラスメイトと話していれば
すこし気が紛れて、安心した。 ]
待って待って、おれも行く!
[ 誰かと一緒に入る機会を逃してしまえば
一生入ることが出来ない気がする。
自動販売機横のゴミ箱に
飲み終わってしまった缶を投げ捨てて。
心乃の後に続いて扉を潜った。 ]*
-- 現在/病院 --
[ ほんとにさむいよ。
合流した三人はちょうど自販機でなにを買うか、
の話中だったらしい。
ちょっぴり眩しい自販機に目を向けた。
喉が渇いたな、って今気が付く。 ]
おはよう。
喜多仲くん、まなちゃん、ここちゃん。
[ 挨拶には挨拶を返す。
人間社会に溶け込むために必要なので。
天気や気温の話は鉄板。二回目とは知らずに。 ]
[ 現代人必須の持ち物。スマホにお財布。
千夏もお金は持ってきていたので、
順番を待って心乃が勧めてくれたコーヒーを買う。 ]
うん。ここちゃんありがと。
そのコーヒーにする。
[ 奢る場面だと主張する郁斗には、
くすくす千夏は笑った。
いつもうるさいなあ、元気だなあと思っていた郁斗が、
今はこんなにもありがたかった。 ]
[ 買ったコーヒーは熱くて、
かじかんだ指先が溶けていってしまいそう。
中に行こうと提案する心乃に首を横に振って。 ]
コーヒーがちょっと熱くて。
冷めるまでもうすこしだけ、ここにいるね。
[ ううん。本音。
心乃が買ったあまぁいおしるこ、
いいなあっていう目で見てしまいそうだから。
病院内に向かう背中を見守った。* ]
[ ここのちゃんが持っていたおにぎりの、
その、ほんとうの大元を、あたしは知っていなくて。
ここのちゃんと喜多仲君のやりとりを見ているばかり。
寒い。寒いね。
にんげんせいかつの話題の鉄板は、
天気と気温の話です。 ]
[ みんな、おはよう、こんばんは。また会ったね。
さっきぶりだった筈なのに、
懐かしいような気持ちにもなる。
同窓会ってこういう気分なのかな?
卒業してないのにそんなことを思ってしまうし、
そもそもここは病院だ。
しかもメンバーのひとりは死んでしまいそう。
やばい状況。ほんとうにやばい。笑えないね。 ]
[ みんなが生きて、みんなでいてくれるだけで、
あたしの白紙は色づくと思うのです。 ]
[ 奢りを提案したあたしでしたが、なんと。
みんなそれぞれ買っていくようで。
……というか、ここのちゃんがおしること、
ちかちゃんのための
無糖コーヒー(にがそう)を買ったので、
お財布の中身はそんなに変わらないまま。
あたしもおしるこひとつ買って、
ふたりに続いて病院へ、
いこうとして。 ]
ちかちゃん、
多分、あっち、あったかいから。
……あ、
[ 外にいるちかちゃんへ、ちょっと近づいて。
……鞄の中に入っていました。未使用カイロ。
ストックは持っておきなさいって、
そんなお母さんの意見を、
受け取っていて良かった。ほんとに。 ]
もしよかったらつかってね。
[ 暖を取ってるちかちゃんに、あとでね、って。
いなくなっちゃう前の複線でもなんでもなく、
あたしは手を振って、中へと入っていく。 ]
[ 椅子、には、座れなかった。
緊急外来の椅子が並ぶスペースで、
あたしは、あたしが行けるぎりぎりのところに、
静かに立っている。 ]*
-- 現在/病院→駐輪場 --
[ 送る背中はみっつ。
くるりとこちらを向いた顔に首を傾ぐ。 ]
……うん。
わ、ありがとう。
[ カイロを差し出してくれるまなの姿に、
3年8組になったばかりの春を思い出す。
あのときは飲み物で今はカイロだな、と。
春もこっちのほうが涼しいよ、
と教えてくれたんだっけ。違うっけ。
たった八か月前のことがすごく遠くに思えた。 ]
[ 生きて積み重ねた十八年と数か月。
特に事故などなければ、
おそらく何十年かは続いていく。
他人の人生、あまり口出しするもんじゃないけど。
千夏は思う。
生きてたら、いいことあるよ、って。
紫織ちゃんの人生、
ここで終わらせないほうがいいよ、って。 ]
[ あつい缶コーヒーを指先でつまみながら、
教えられた方へと歩く。
たしかにすこしあったかいかもしれない。
そう思いながら、苦いコーヒーを啜る。
すこし寒さが和らいだころに、
自転車の鍵がポケットにないことに気が付いた。 ]
……鍵、さしっぱなしかも。
[ こんな真夜中。
自転車泥棒が出没するとは思わないけど、
手許に鍵がないのも不安で。
千夏は再び駐輪場へと戻る。** ]
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