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( 「あい つ」 は 、 )
[階段の上に居たはずだ。早く逃げないと。
「あいつ」の狙いは、妹じゃなかった。
狙われていたのは、きっと僕だった。
あのネットに書かれた噂の通りに、
「自分につながる連絡先」を消すために。]
[階段の上に、誰かいる。
だけど視線は動かせない。
何かを怖がっているようなこえがする。
視界はどんどんくらくなる。
誰かがをひかりを
あててくれたはずなのに。]
[にげなきゃ。
でも、からだがうごかない。
いたい。
なにもみえない。
みみももう、きこえない。]
[―――何時手放したか分からぬ程、
抱えていた思考はとけるように消えた **]
メモを貼った。
メモを貼った。
― 『きさらぎ駅』ホーム ―
……降りちゃって良かったんですか?
[ゆっくり近付いてきたフランク
彼の背後、電車は出発してしまった。]
ええ。貴方の巻き添えですよ……
[はぁ、と暗く溜息を吐いた。]
[間を空けた隣にフランクが座るのにも、気にする様子は無い。]
……、……
[痣が無い事への指摘については、特に言葉を返さなかったが、]
本当のこと……実のところ、「覚えてない」のですが。
[あいりを、の問いには淡々と言葉を紡ぐ。
その言葉に、フランクが納得するかはわからないが。]
でも、私はあの子が消えれば良いと思っていた。
新宿の交差点であの子が死んでいるのも知っていた。
あの子を手にかけた感触もこの手に有る。
……心配していない、と貴方が言ったのも当たりですよ。
あの子が死んだ事は知っていましたし。
そもそも私はあの子の事が嫌いでしたから。
――…だから。
私が殺したと言う事で良いんじゃないですかね。
[自白とすら言えない、投げ遣りな言葉。
Barで見せたような狂気は見られないが、憑き物が落ちたと言うよりは、目的を失って自棄になっていた。]
殴りたければ、どうぞ。ご自由に。
また取り乱す事が無いとは言えませんが。
メモを貼った。
降りちゃダメだったよ。
[女――なぎさを見ず、答えた。表情は髪で見えず、代わりに彫刻のように美しい鼻と唇のラインが覗いている。]
……お前が先に襲ってきたんだろーが。
[どうしてか、口調は落ち着いている。落胆したような、諦めたような。観念したような。
それとも、これが彼の『素』なのか。]
[辺りは真っ暗だが、ホームの外灯がスポットライトのように二人を照らしている。
季節は夏に近いのに、虫の一匹も灯りには寄ってこない。
『世界にふたりきりみたいだね』なんて、恋愛映画みたいなセリフが浮かんで、口の端が少し上がった。]
[答えるなぎさの言葉を遮ることなく、向いた片耳だけで終わるまで聞く。
彼女の言葉が終わってからも、またすこし間をあけて。]
……タバコ吸っていい?
[聞いたくせに、答えを待たずにポケットから煙草を取り出す。ライムグリーンのパッケージに、煙草を吸うインディアン。
残りは4本、といったところか。]
この駅に降りても、紙を燃やせば出れるって聞いたけど……
たぶん、無理だろうなあ。
[独り言のようにそう言って、軽く咥えた煙草に火を付ける。ちりちり、と先端が輝いて後退していく。
しばらくして、紫煙がゆったりと吐き出された。勿論、何も起こらない。]
…………殴んないよ。
おれ、女の子殴ったことないし。
[ようやく、会話の形になる。昨日は掴んじゃったけど、と小さく付け足した。]
アイリスは、俺にとって特別じゃなかったから、
あんたを殴る資格も、責める資格も俺には無い。
その証拠に、あんたからDMが来るまで失踪してたなんて気づきもしなかった。
[煙草をもう一口吸う。先端の瞬きはわずかだ。]
ってーか……
あんたが本当にアイリスの姉なんなら、
本当は俺があんたに殴られてるはずなんだ。
うちの妹に何したの!ってね………
だから……あんたが本当に殺したっていう………ん………、殺した原因だとしてもさ。
それはあんたらの話だから。俺は知らねー。
アイリス、たまにめっちゃウザいの判るし。
ダメです。
[と、言ってみた時にはもう、フランクは煙草を吸っていた。
とはいえ、言ってみただけで別にダメでも何でもない。]
素敵ですね。
是非そのままの貴方で居て下さい。
私の夫なんかは、結婚後いきなり暴力を振るうようになりましたから。
[女の子を殴ったことが無いと言う言葉にはそう返した。]
……貴方とあいりがそこまで深い仲ではないのは、まあ、承知していましたよ。
何したの、っていうかオフパコですよね?
あの子17歳でしたけど、都条例怖くなかったんですか。
……まあ。
何したの、って訊いたらキレられた訳ですけどね?
[プレイとか体位とか。]
「……ビール飲みたいな」と呟いた。
たまらん麺食べたいけど逃げられそう、と思った。
メモを貼った。
ごめん。
[喫煙を止められた言葉にはそれだけ返した。]
そっか。やっぱアイリス、死んだんだ……
[まだ、頭のどこかで死んでないと思っていた。作り物の写真かもしれないし、とは思ったけど、
実際に犯人と独白する女に”襲われて”しまったのだから、疑うほうがおかしい。
今の自分たちは、どうなんだろうか。
生きているように思えるが、電車が来るホームに落ちたのは覚えているから、たぶんアイリスの仲間入りなんだろう。]
[素敵ですね、という言葉には反応しなかったが、彼女の夫の話になると、ようやく顔を向けた。
まじまじと、顔を見る。やっぱり痣はない。白い肌が美しいと思った。よくこんな顔を殴る気になるものだ。]
あの痣って旦那にやられたんだ。つか若いのに結婚してんだね。
痣、なんで消えてんだろね?やっぱ死んじゃったのかな俺ら。
違ーよ。妹のこと心配してないからキレたんだよ。あとTPO。
ジョーレー怖いよ。だからあんたのせいで職場にバレるとこだったんだっつーの。
……体位の話とか聞く?
[少し、おどけながら言った。]
「ビール、いいねー。」と続けた。
まあ、バラバラになってますからね。
もう両親が捜索願を出した頃だとは思いますが……
表向きには「失踪事件」止まりでしょう。きっと。
[アイリスの死そのものにははっきりと肯定する。]
ふふ、こう見えて人妻ですよ。
得意な家事は、夫のストレス発散です。
痣は……私の願望か、「こっち」に来たからか。
わかりませんけど、今更消えても、って感じですね。
心配は…さっきも言った通り、全くしていませんでしたけど。
TPOは、ええ、まあ。謝っても良いです。
なんで私も千恵子さんとか居る中であんな事できたのか、不思議なんですよね……
あんなテンションになるような「性格」じゃ、ないんですけど。本当は。
[実家そばの整形外科に行ってからだろうか…
した事の記憶は残っているのだが、どうも自分ではない者の思考で動いていたような感じがする。]
……お酒無しで猥談はちょっと。
[ビール飲みたいなー。と、もう一度。]
……あれフェイクじゃないんだ。まぁ、いいけど。
両親は捜索願、2件出さなきゃいけないわけか……
[自分のことが過ぎった。母さんは捜索願を出したとき、心配してくれていたんだろうか。
その心配が、ずっと持続すればいいのだが。]
全然見えないよ人妻。エロさが足りないよね。
自虐ネタわらえねー。つれえ。
ってか、それ、たぶん発散できてないし。だから何回も殴られてんじゃん。
ホントのやつ教えて。得意な家事。
ふーん……ドライだね結構。俺は痣無い方が全然いいよ。
痛々しくないから。普通の人と話してる感じがする。
[煙草が終わりを告げようとしている。地面にこすりつけて灯りを消し、その辺に投げ捨てた。
いつもならしないことだけど、こんな状況でもポイ捨て条例や山火事のことなんか気にしていたくない。
次を吸おうと煙草を取り出そうとしたが、さっきの『ダメです』を思い出して、やめた。]
やめてくれ。あんたに謝られたら、今度は俺があんたの首根っこつかんだの謝らなきゃいけなくなる。
あぁ……
確かに、あんときのテンション、おかしかったよ。引いたもん。
完全にアブナイ奴だったし……あんたの見かけとか、格好からしても異常な感じがした。
「マジでこいつがやったのかも」って思ったし。
『性格』…………今みたいな大人しめのが、いつもの性格?
[軽く冗談で聞いてみた『体位とかの話』だったが、昨日との反応の差に驚く。]
マジで別人みたいなんだけど。
なんかツキモノ?が落ちたみたいになってるし……
何かヤバい薬でもキマってたわけ………
[虚空にビールを求めるなぎさを、呆れたような目線で見る。]
……あんたとアイリスって趣味全然ちがうんだな。
あいつ、ビール全く飲めなかったよ。なお、俺はビール、ダイスキ。
……絶対無いと思うけど。
駅出て、飲み屋でも探しに行く?
[冗談とも本気とも取れる言い方で聞いた。**]
私の分の捜索願は出るのかな……
夫のところに戻ったと思われて終わりかも……
[人妻の自虐ネタは受けなかったようだ。]
エロさ足りないですか……
本当に得意なのは掃除ですかね。
毎度毎度、家の中をとっ散らかされましたから。
[自虐を重ねる事になってしまった。]
そうですね。
首根っこの方より、山手線で巻き添えにした方を謝って下さい。
あの時は……必死で、しかも本気だったのは間違いないです。
「マジでやった」のはまあ多分、そうなので、ある意味TPO合ってたのでは?
……いつもの性格は、もっと、弱腰…でしたね。
今もう割とどうでも良くなっちゃってますけど。
あの子のビール飲めない、はわかりやすいですよね。
でも、両親も私もビール好きなので、「ビール飲めない女の子」を気取ってただけかもしれませんけど。
……どちらにせよ、貴方とはあの子とよりは美味しいお酒が飲める気がします。
あの子そもそも未成年でしたけど。
[話していると、ますますお酒が恋しい。]
行きましょうか。
いくら待とうが、次の電車なんて来ないでしょうし。
[ベンチから立ち上がり、ん〜、と伸びをした。**]
(
そしたらダンナが捜索願出すでしょ。
掃除、してほしくってさ。
まぁ……どっちにしろ多分帰れないけど。
弱腰がいつもの、ねぇ。よくわかんねーけど……
本当はその弱腰もホントの性格じゃなくて、
今の開き直ったサバサバしたのがホントなんじゃない?
[自虐ネタを受け流しつつ。『巻き添え』の話に戻ると眉を潜ませた。]
あのさぁ、その話やめね?
さっきも言ったけどさぁ、そもそもお前が俺を突き落とそうとするからだろ。
殺されたも同然なのに、恨まずにこんな神対応な俺を褒めて欲しいぐらいだ。
お前が俺を襲ったりしなきゃこんなことに――……
[そこまで言って、少し考える。]
……やっぱり謝る。
悪かった。
ただ「死ぬ」んじゃなく……「ここ」に引きずり込まれたのは、俺のせいだ。
それは、……謝る。ごめん。
[ぺこり、と小さく頭を下げた。]
[それから、なぎさが伸びをする様子を見上げる。]
ねえ、なぎささん。
[自分も億劫そうに立ち上がる。一足先を行くように、改札へゆったりと歩いて行く。]
俺ね、むかし、ここに来たことがある。一人でね。
そのせいでまたここに来たんだと思う。
そんときは、どうやったのかわかんねーけど、3年後にようやく出れた……
でも、俺、遅かれ早かれ、ここに連れ戻されるんだったんだと思うわ。
たとえなぎささんに突き落とされなくてもね。
それが怖くて、電車にもバスにもタクシーにも乗れなかった。
どっかにまた、一人きりで連れて行かれると思ったから。
だから、変な話だけど―……
なぎささんが今いることが、
会話してくれる存在が、だいぶ嬉しいんだよ。
[それが、だらだらと会話を続け、自分を殺そうとした者を責めない理由だった。]
……なんだっけ。あー。ビールの話。
気取ってただけってマジかよ。
まぁ、んな若い頃からビールうめぇなんて言うなんて女子力低いもんな。
そうしたら、あいつ、姉ちゃんとキャラ被りたくなかったのかな?
家族の誰とも。
変なの。俺、ガチの天涯孤独だから、全然わかんねー、そういうの。
うん。それは俺も同感。
んじゃ、行きますかね……
[きさらぎ駅改札を、*通った。*]
(
……その発想は無かったですね。
[今の性格が本当の自分。
どうなのだろう。実感は無い。
昔からずっと、妹の影に怯えてきたから。
しかし、改めて考えると今の自分が自然体な気もして、腑に落ちる気もした。]
死んでようやく素に戻れるというのも、中々に間抜けですけど。
えっ、 と、
……冗談だったのに。
調子狂うなあ。もう。
[謝られた
「お前」でなく「なぎささん」などと名前で呼ばれれば
そう言えば、2回目って書いてましたね。
[彼の「きさらぎ駅実況」は、リアルタイムで追っていた。
まさにその、きさらぎ駅ホームのベンチで。]
……えっと。
前に戻れたなら、また戻れる目もあるんじゃないですかね、貴方の場合。
[今いることが嬉しい、と言われても、そんな扱いには慣れていなくて。
つい、そっけなく返してしまう。]
[フランクの後について、きさらぎ駅の改札を抜ける。
私はあいりに馬鹿にされてたと思いますから、まあ、キャラ被りは厭だったでしょうね。
ああ…それでかな。
私、昔からしょっちゅうあの子の視線を感じてたんですよ。
追い立てられてるみたいで、私はいつもあの子から逃げてました。
今思えば、私と被らないように観察されてたんですかね、あれ。
[姉として情けない限りだが、いつだって妹の事が怖かった。]
そういえば、実家から嫁ぎ先に持って出た荷物の中に、あの子の手鏡が混ざり込んでたんですよ。
気付いたのは最近になってからだったんですけど。
あれも、あの子が追って来てるみたいで怖かったなあ。
[その鏡は、いつの間にか無くなっていた。
無意識の内に捨ててしまったのかもしれない。]
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