160 東京村
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[歩けば、一時間弱はかかる道。
どれだけの速さで走っているのか、時計を見る目が見えないから、わからない。
ただ、一種の帰巣本能のようなものに任せて走って、走って、家の目の前についたとき。]
『おかえり』
[頭の上から、やさしい声がした。]
『何をやってるんだ、駄目だろう、こんな遅くに出歩いたりしたら』
『パパ驚いて、今から探しに行こうとしていたんだぞ』
[知っている。この声を知っている。
最近は怒った声ばかり聞いていたから気持ち悪いけれど、知っている。
どうして。なんで。外を電車が行く音がした。終電には早すぎる。
僅かに残った人間の部分が混乱して、ただ呆然と立ち尽くす。
唯一わかること。声は、怒っていなかった。]
『ほら、入るぞ』
[ドアの開く音に誘われるように、ふらり、足が動く。
水が欲しい。そうだ水が欲しかった。家に入るのは当たり前だ。]
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