278 冷たい校舎村8
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[ 福住は打って変わって、
ばつの悪そうな顔をする。
おにーちゃん。という言葉が流れてきて、
今度は礼一郎がなんともいえない気分だ。]
……そっか。
辛いこと思い出させてごめんな。
仲良かったきょうだいに似てるってのは、
なんかちょっと褒め言葉な気もするけど。
……良いお兄さんだったんだな。
[ そっか。って礼一郎はつぶやいたけど、
似てた。なんて、気のせいじゃないかなあ。
あるいは、もしかすると、]
ま、勘違いかもしれねえし、
……似てなくなったのかもな?
[ はは。礼一郎は笑った。いろいろあってね。
なんのことかなんてわからなくていいです。]
わはは、よくわかってらっしゃる。
ついでに友達思いで後先考えない。
[ 流れるようなけなし文句である。
リズミカルにいくつか付け足して、
礼一郎はひらりと手を振ってその場を去った。*]
―― 現在:病院前 ――
[ ペットボトルのふたを開けて、
ジャスミンティーを飲んだ。
ほうっと白い息を吐きだす ]
……しおちゃん。
[ 届くわけないってわかってるけど、
それでも誠香は呟いた。
見上げた空に雪はなく、冬の星座が瞬いている ]
僕さ、あの校舎であんな死に方してさ、
正直、恥ずかしくて恥ずかしくて、
思い出すだけで死んじゃいたくなるくらいなんだけど、
なんでかな。一回死んだからかな。
前、向かなきゃって、思えたんだよ。
[ 未来のことを考えるたびに、
そこに自分がいてはいけない気がした。
兄のいない未来で、
笑っているかもしれない自分が許せなかった。
けれど今は、
いつまでも過去にしがみついていては
いけないような気がする。
兄のいない現実に、真正面から向き合わなくては
いけないような、そんな気がしている ]
……しおちゃんが抱えてるものがなんなのか、
僕は知らないし、安請け合いなんてできないけど。
でも、一回死んだ気になったら、
案外生きてけるんじゃないかな。
どうかな?
[ 帰っておいでよ、って。
テレパシー、飛ばしてみた。ぴぴぴ* ]
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[——わたしが死んで、みんながわたしという友達を失くすという矛盾。 >>180そんなの考えたくなかった。考える機会がなかった。 わたしは失くす側ばかりで、逆の立場を想定できてはいない。 >>181だから、氷室くんの声に心臓が張り裂けるほどの痛みを感じた。]
……じゃあ、どうすればよかったの……。 これからどうやって生きてきゃいいの……。
[>>185辰美くんの挑発が聞こえる。 殺してみろと彼は言う。 ああ、怖いなぁ。彼と最初に出会った時のことを思い出す。 殺そうとしてもまた壁ドンされて追い詰められるのがオチだ。 無理だ、殺せない。]
(199) 2020/06/23(Tue) 01時頃
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……わたしがずっと仲良くしてた親友も、いなくなったもん。 どれだけ仲良くても、いなくならないなんて言えない。
みんなのせいじゃないよ、わたしのせいだ。 だからわたしは、 もう、……死ななきゃ!
(200) 2020/06/23(Tue) 01時頃
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[扉から離れて、窓のところに走る。 夕陽が差し込んで眩しい。 ここからの景色は、雪景色なんて感じさせないあの日のまま。
窓を開ける。 そして近くの机を踏み台に持ってきて、 少しもたついたけど、準備はできた。
男3人がかりなら扉もこじ開けられてしまう。 だから、それよりも早くここから飛び降りて、 自分という存在を完全に消してやる。]
(201) 2020/06/23(Tue) 01時頃
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[——踏み台に足をかけた、その瞬間だった。
>>190>>191颯真くんの声をした、誰かの言葉が聞こえた。]
(202) 2020/06/23(Tue) 01時頃
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……え、 覚えてる、って、そのこと……。
あの時の、
[記憶を辿れど、思い当たるのは1人だけ。 中学の時、颯真くんのことをよく知らなかった時、 わたしが落ちていた文房具を届けた——ああ、よく覚えてる。 すっかり忘れられたのだと思っていて。]
(203) 2020/06/23(Tue) 01時頃
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[踏み台に足をかけたまま、戸惑って、硬直して、
……きっと、強引に突入されたなら、>>198 飛び降りる寸前で引き止められてしまう。*]
(204) 2020/06/23(Tue) 01時頃
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[鍵をかけて閉じこもるほど見られたくなったわたしの顔は、 涙を拭う暇も無く、ぐちゃぐちゃに汚れている。**]
(205) 2020/06/23(Tue) 01時頃
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──現在・病院内──
もう一回、チャンスほしいよね
私も、わかってたなら、しおりちゃんと
のんびりお話なんてしてなかったよ
ごはん、作るとか、それよりも先に…
……ううん。それよりももっと早く
しおりちゃんが思い詰める前に、
この手を伸ばしたかったなって思うよ
[ ねえ、神様。私たちにもう一度、
彼女を助ける機会を与えてはくれませんか?
何かを与えられなくとも、
そう、この指先が少しでも掠められたなら、
未来は少しでも変わっていた? ]
[ ただ、なにもできなかったと言う彼と
愛宮心乃は同じことを思っていた。
自分のことでいっぱいで、
他人のことを考えられないなんて
敬愛するマザーが聞いたら、呆れてしまう。
でも、たぶん、きっと、
これは私の単なる妄想に過ぎないお話だけど、 ]
[ 言葉が悪いかもしれないけれど、
しおりちゃんが先にやっていなければ、
私自身が、あの立場にいたかもしれない。
……と、心乃は思っていた。
しおりちゃんが、行動を持って示してくれたのだ。
きっと、そうなんだ、って思いたい。
命≠フ大切さを見失っていたのだ、私は。
ただ、マザーのように悪意ある自分と
熱い抱擁を交わす日はまだ遠いかもしれないけれど。
生かされているという事実を鑑みて、
私は、私らしく℃v考してみていた。 ]
私にできて、喜多仲くんにできないこと
喜多仲くんにできて、私にできないこと
……きっと、なにもできてないことないよ
[ おしるこ缶を、ぎゅと握る。
すこしぬるくなり始めていた。 ]
まだ帰って来てない人たちもいる
私たちにできて、彼らにできることと
彼らにできて、私たちにできないこと
きっと、あるよ。まだ間に合うよ
[ 信じていたい、と思う。
私たちができることは、待つこと。
彼女が戻って来れた時に、
生≠共に喜び合う準備だろう。
喜多仲くんに言い聞かせるというよりかは、
自らに言い聞かせるようなものだった。 ]
ねえ、喜多仲くんだったらどう?
死の淵から帰ってきたら、
ともだちに、どうやって迎えてもらいたい?
[ なんて、愛宮心乃は微笑みを浮かべた。** ]
──現在/病院──
[ 見上げられて、目が合う。
礼一郎はおつかれさまも考えたよ。
結局どれもこの空気に馴染む気がせず、
単純に名前を呼んだりしたけどさ。
手持無沙汰みたいにいじられてる、
手の中の缶に気が付いて、
ロビーは飲食大丈夫なのかなとか、
何か買ってきたらよかったとか、
礼一郎はそういうことを考えたので、
呑気でも生きられていいですね、現実世界。]
……落ち着かねえよなあ、そりゃ。
[ ごくふつうの同意を返した。
ちらりと時計を見る。
もう夜はとっくに更けていて、
良い子の出歩く時間じゃないのにな。]
俺もいいかなあ。
落ち着かねえし、
なんか気兼ねしちゃって。
[ 同じように問い返されて、
礼一郎の返す答えも、
そんなにおもしろくはないでしょうが。]
[ あちら側ではいろいろありまして、
なんかもうほんとにいろいろあってさ、
あんなの苦労とか全然思ってないから、
気にしなくっていいんですよ。とは、
スマホの電波が回復したって、
礼一郎にアンテナが備え付けられてないから、
こちら側でも一向に伝わらないですね。
ま、重要な話ってわけでもないから大丈夫です。]
[ 非難の意図のない言葉を、
礼一郎は黙って、最後までお利口に聞いている。]
……ま、俺。
自分のことで手一杯だしなあ。
[ いいんちょはそんな大した人間じゃないですよ。
というか、人間じゃない説も浮上してたっけ。
なんでもないことのように礼一郎は言う。
責められてるって、
もっとちゃんとやんなきゃって、
ちょっと前なら思ったかもしれないけどさ、
今、こうして現実に立っていること。
が、答えなんだよね、たぶん。]
自分のことと──、
あと、ほんのちょっとくらい?
そんくらいしか抱えきれないの、
向こうもわかってたんじゃねえかな。
……ふつうに余裕のない人間なもんで。
[ 向こうって誰だか知らないけどさ。
冗談めかして、礼一郎は言う。
残らせてはもらえませんでしたね。
でも、礼一郎は正しい選択だと思う。
連れ戻すとかできない、と言う綿津見に、
礼一郎は「 俺だって無理だよ 」と笑った。]
……つーか、
そんなのできる人なんて、
実際いないんじゃねえかな。
葉野が帰ってこない、とかじゃなくて。
[ 伝わる? って礼一郎は首を傾げたけど、
たぶん、これじゃ無理ですね。さて。
うーん、と唸りながら礼一郎は言葉を捻りだす。]
無理やり連れ戻したってさ、
ハッピーエンドにはならねえし、
かといって、人の考え方とか行動とか、
他人が変えようと思って、
どうこうできるようなもんでもないしさ。
結局、こっちの勝手な思いをぶつけて、
あとは本人を信じるしかないじゃん。
[ 全部、礼一郎の憶測であり持論だけどね。
綿津見の隣に並んで、じっと前を向いている。
それこそ、信じて待つしかできないからさ。]
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