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─ 回想
[男がその騒ぎに気付いたのは、
宿の裏手から妻の驚いたような声が聞こえたからだ。
食堂で仕込みをしていた男は手を止めて、裏手へと顔を覗かせた。
甥が、この家にやって来て、もう5年になる。
やって来たばかりの頃、心細げにしていた少年は、
すっかり兄貴分やら友達も出来、ここの暮らしにも馴染んで見える。
とはいえ、まだ多感な年頃の少年だ。
甥が寂しがらないようにと、妻は気に掛けているようだった]
キャシー、どうしたんだい?
[近づくと、幼い娘のきゃっきゃと楽しげな笑い声が聞こえた。
娘のメアリーは3つになる。
この年になって漸く授かった、キャサリンとの宝物だ。
その無邪気な声に自然と笑みを浮かべながら裏に向かうと、
井戸端では、甥と娘が水遊びをしていたようだった。
娘が嬉しげに笑って、桶の水をそこらじゅうに撒いている。
妻は、その娘のお遊びを止めるのに大わらわだ。
男の足元にも、小さな手からびしゃんと水が跳ねてきた。
再び上がる高い笑い声]
こぁら、メアリー、いたずら娘。
そら、捕まえたぞー?
[傍に来た娘を捉えてやれば、
またきゃっきゃと楽しげな笑い声が上がる。
その顔を覗き込んだとき、ふと娘の目が少し赤いことに気付いた。
見れば、腕や足に小さな擦り傷がある。
転んで泣きでもしたのだろうか。
幼い娘を妻に預けて、男はすぐ傍らの甥へと視線を転じた。
どうも元気がないようだ。
水遊びを叱られたにしても元気がないなと目を向けた。
グレッグの目が赤い。
ごめんなさいと呟く小さな声に、瞬いた。
さては水遊びより前、外で何かあったのだろうか。
ともあれこのままでは二人とも風邪を引いてしまうと、
一旦、中に入って二人の子どもたちを乾かすことにした]
…ほら、グレッグ。
[二人を乾いた柔らかな布で拭いて乾かして。
キャサリンがメアリーを着替えさせに行く間、
ルパートはミルクを温めて、グレッグへと差し出した。
暖かなミルクは蜂蜜入り、ふわりと甘い優しい味だ]
落ち着いたかい?
[少年がミルクに手を伸ばし、落ち着くまで。
見守ってから、男は微笑んで頷いた]
昔はなあ……
僕も兄さんと…お前の父さんと、良く川に遊びに行ってね。
そりゃあ、濡れるわ汚れるわで怒られたりもしたもんさ。
[懐かしげに口にするのは、彼の父との昔の思い出]
一時、釣りに夢中になったこともあってね。
確か物置に、まだ釣竿が残っていたはずだが…
どれだけ釣れるか、どれだけ大きな魚が釣れたか。
日が暮れるまで夢中になったっけ。
[小さく笑って昔日から視線を引き戻し、
くしゃりと甥に笑みかける]
───…なあ、グレッグ。今度二人で釣りに行こうか。
[それから幾日か後のこと、
約束通りに甥と連れ立って川に釣りに出かけた。
メアリーはキャサリンに任せての、男二人水入らずだ。
きらきら光る水面を眺め、少し真剣な顔で釣り糸を水に垂らし。
妻のお手製弁当を食べては、二人揃って空を眺めた。
釣り糸を垂らしながら、色々な話もした。
他愛もない話だ。でも楽しかった。
結局大した魚は釣れなかったけど、
そうして日が傾くまで二人で過ごした美しい水辺の光を、男は今も覚えてる]
(ああ…、だからだ。)
[あの時
もう彼もすっかり成人しているのだと分かっていたのに。
あの時の少年は、甘いミルクにほっとした顔を見せてくれたから。
もう一度それが見たくて、酒ではなくミルクを勧めてしまった。
蜂蜜入りのミルクは、あたたかくて甘い思い出の匂い。
今はもう遠い、───遠い、記憶の中の*話だ*]
![]() | 【人】 本屋 ベネット[女性であるクラリッサやメアリーに (64) 2015/05/22(Fri) 00時頃 |
[獣からもう動かない兎を受け取って自宅へと戻る。
いつものナイフで血を抜き、内臓を出して、皮を剥ぎ、
肉の塊に切り分けてゆく。
足以外の部位は鍋に放り込んで野菜と共に煮こむ。
足は二本とも塩と胡椒でこんがりと焼く。
美味そうな匂いが漂いだした頃、
焼けた肉を二本皿に取って床に下ろす。
そのまま床に座って、獣と肉を共に食む。うまい。
獣は器用に前脚を使って骨と肉を分けて食い]
内臓も食べる?
『いいや、こっちのがいい』
[見上げるのはくつくつと音を立てる鍋の方。
獣のくせに生意気だと思う。]
せっかく死んだし、族長でも探してみようか。
[気まぐれに思い出してそう声をかけると
獣はあからさまに耳をぴんと立てて尾を揺らす。]
どんだけ好きなんだ。
『いや、その……』
[鍋はまだ完成していないから、散歩でも。
そんな気楽さで黒の代わりに赤い布へ手を伸ばして
いつものように羽織ると獣を伴って家を出た。]
![]() | 【人】 薬屋 サイラス[自分じゃなかったのか。それは口の中の、小さな呟きだっただろうか。 (66) 2015/05/22(Fri) 00時頃 |
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![]() | 【人】 薬屋 サイラス[ベネットとクラリッサの姿を見比べて、男はふと、ある日のことを思い出す。近いようで、それは少し遠い日のことだったかもしれない。 (69) 2015/05/22(Fri) 00時半頃 |
![]() | 【人】 薬屋 サイラス[サイラス自身も、目の前で愛する人間の少女を喪ったから。 (71) 2015/05/22(Fri) 00時半頃 |
![]() | 【人】 小悪党 ドナルド 俺が誰のおかげで生きてるって? (72) 2015/05/22(Fri) 00時半頃 |
匂いとかしないの?
『今は兎の匂いしか』
兄さんの役立たず。
『…………面目ない』
[獣のくせに使えない。
仕方なしに現れそうな場所を探してみる。
墓地、集会所、自宅?思いついた順に歩くとして。]
墓、増えてるかな。
[知っているのはスティーブンの場所までで、
それ以降増えた山に誰が居るのか、なんて知らないまま。]
結局さ、裏切り者はどうして行動に出たのか。
そういう話が無いからイライラするんだよ。
『というと?』
言葉があるのに獣みたいに実力行使しかしないから、
裏切り者だって言われるんだってこと。
『犯行声明文を残せと?』
はあ?どういうこと?
[会話は噛み合わないまま、何度目になるのか
薄暗い墓地へとたどり着いた。]
![]() | 【人】 小悪党 ドナルド[クラリッサとベネットの方へ向かうメアリー (74) 2015/05/22(Fri) 00時半頃 |
![]() | 【人】 手伝い クラリッサ[ドナルドの言葉に、メアリーはどう答えただろう。 (77) 2015/05/22(Fri) 01時頃 |
─墓地─
小生は死肉色と謳われた紐を首に揺らす。
緩やかに風に乗る足音は、死した者にも聞こえるであろう。
そこに居たのは、よく小生を女の元まで運んだ男
足元に座ると、女と似た色の毛をした尻尾を地面に叩いた。
気付こうか、気付くまいか知れたことではないが。
兄と呼ばれた獣の横に、小生が座る。
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