279 宇宙(そら)を往くサルバシオン
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[青石洗剤の「死体」は、
片づけられるべきもの、
遠ざけられるべきものとしては
扱われなかった。
それは、やはり、「人」と姿があまりにも
大きく異なるが故であっただろう。]
[その結果として、集められた動かぬものは、
浮遊種や少女と、共にあることになった。]
[もはや、その選択をした理由は
「心」は、青色洗剤に届くことはないけれど。]
[いくら、そこに身体(いれもの)が存在しようとも、
変色した小石に、何かが届くことはない。
元々、翻訳を通さなければ、
小石にとっては、
理解不能の存在だった。
そして、翻訳機能は失われている。]
[誰にとっても、正しく意思なき「物」が、
そこには転がるだけだった。]
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[男は、これまでほとんど語らなかったワクラバの話を黙って聞いていた。案外喋るな、と思いながら。 言葉の通り、証明する術はない。>>92 しかし、彼自身の言葉で理由の説明があるのとないのでは、印象は変わってくるだろう。
時折甘いコーヒーを舐めながら耳を傾けていたが、]
(109) 2020/09/02(Wed) 21時頃
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[ある意味でそれらは、人扱いされないことで
この船の中で役目を果たす機会を
与えられた、ともいえるだろう。
"寄り添う"機会を。
その身体は「遺品」になった。]
[それは、もはや意思を持った存在としての
対等な扱いとは言えないだろうけれど、
洗剤になることで、健康を守れるように
香りを出すことで、精神を安らげられるように。
話さなくなったことで、
以前との差異を比較できるものになった。
比較することで、「失われた」ことを
認識することができるものになった。]
[結局意思を伝える術のないモノを
どう使用するのかは、
結局のところどこまで行っても、
断絶を隔てない、生存者たちにしか
できないことだった。]
[もはや説明もできない青石洗剤の死亡理由を推測し、
それを、推理のてことして誘導に使うことも。]
[その行いを否定することも肯定することも、
もはや、転がるだけの石には不可能なことだった。
伝達の方法は、もはや失われている。]
[そこには、ただ、
断絶だけが確かなものとしてある*。]
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[気の毒に。>>97 そう聞いた瞬間、触角がぴりぴりと震えた。 それでも、こちらへの問いかけ>>99を聞くまでは黙っていた。]
わたしならば言わない。 自分を害する相手は、すなわち敵だ。 習性や本能は理解する。我々にもあるものだからな。 だからと言ってこちらを害する敵に対して、同情も共感もしない。例えしたとしても、表明などしない。
それは、
[――わたしの星では、反逆と呼ばれる。
最後の言葉は呟くように吐き捨てて、言葉を切る。下がり気味になった触角が揺れた。 クラゲ騒ぎが起きるまで、船の中に敵はいなかった。故に、トルドヴィンが外敵に対する烈しい気性を見せることも、なかった。]
……すまない、取り乱した。 しかし、その考え方をわたしは理解しない。
[そう言って、しばらくは無言で話を聞く姿勢に戻った。]
(110) 2020/09/02(Wed) 21時頃
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…………なるほど。 嘘を真実で補強する、か。 それで、ヘリンが襲われたから、名の挙がったもう片方のわたしか。 まあ、筋は通っているな。
[自分を疑うワクラバの言葉>>101>>102には、先程よりも冷静に返す。疑われたもう一人、シルクにちらりと目を向けて。またワクラバに視線を戻した。]
わたしは先程も言った通り、ワクラバ、 君を疑っている。 アーサーが違うだろう、というのは同意する。 残りの一匹は、シルクかモナリザのどちらかだろうと思う。
……そうだな、クラゲと対話しようとしたことは、正直あまり理解ができないが。 それを理由にシルクを疑わしいとは、特に思っていない。
(111) 2020/09/02(Wed) 21時頃
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[ミタシュの変化の可能性について問われる>>104と、少し考えるように黙り込んだ。]
…………。
これは、わたしの贔屓目なのかもしれない。 幼体、子供は大事に扱わなければならない、というのが故郷の方針でな。いや、それこそ習性と言った方が正しいか。
……そういった庇護欲を掻き立てる対象にクラゲが寄生する、というのはありそうな話だが。 仮にそうだとしたら、どちらかと言えばより弱い存在であることを強調するように思う。その方が庇護を受けやすいだろうからな。
[内緒話>>2:187は内緒話のまま。 その内容を男の口から語ることはない。]
(112) 2020/09/02(Wed) 21時頃
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[もうひとつ、とつけ足された言葉。>>106 その頃には、先程の苛立った様子>>110は消えていたのだが。]
…………。
[無言のまま、眉間に思いきり深い皺が刻まれた。]
……馬鹿馬鹿しい。 クラゲを生かす選択肢など、あるはずがないだろう。
[それだけ言って黙り込んだ。**]
(113) 2020/09/02(Wed) 21時頃
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――ヘリンの部屋で――
左様ですか。 ダブルチェックは素晴らしい心がけです。 一人の感情にのみ寄り添って判断された事柄を正とすることは危険を孕みますが、他の方の視点も合わされば、別のものも見えましょう。
[アーサー氏がトルドヴィン氏に制止を頼んだということを讃する>>84。 冷静な相手を選んだというのも、好印象だ。]
そうですね。 可能な限り、迅速に動かねばなりません。
[ひとりひとりを当たっている時間はない。 何をしていても、時間だけは等しく過ぎていく。]
(114) 2020/09/02(Wed) 21時半頃
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私のこと、ですか。 何なりとお聞きください。お答えします。 何をお答えするのが適切でしょうか。
[知りたい、とアーサー氏は言う>>85。 機能的観点や製造年度といった、プロファイル的な情報が欲しいのではないだろう。 問えば、いくつかの質問があった。]
そうですね。 最も好ましい行動は、アーサー氏を保護することです。 過去宇宙クラゲに寄生された方と触れ合ったことがあり、宇宙クラゲを"みる"ことができると伺いました。 稀有なことです。いま確かな情報は、アーサー氏の確認されたものしかないのです。
ですが、それでは根本的な解決になりませんので、宇宙クラゲの行動を知りたいと考えています。 情報が少ないのであれば、想定や推論でも構いません。
(115) 2020/09/02(Wed) 21時半頃
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我々が判断しようとしている残りの乗員の皆様は、多種多様な方々が集まっておりますので、習慣、能力、行動の原理が異なります。 反対に、宇宙クラゲは単一の種族です。 それぞれの皆様の違和感などを確認し、宇宙クラゲが寄生している可能性を考えるよりも、宇宙クラゲの特性を考慮し、どなたを寄生先に選ぶだろうか、ということを考えるのが合理的と考えます。
[多種族のことを同時に考え、考察するよりも効率的と判断した結果だ。 誰しものことを近しく感じないヒューマノイドにとっては、それぞれの分析よりも一点特化の分析のほうがわかりやすい。]
ご納得いただけない方に関しては、その方なりの考察方法をお持ちだろうと判断します。 例えばスプスプイ様がたのような能力をお持ちでしたら、宇宙クラゲの特性などを考えずとも探すことが可能です。
(116) 2020/09/02(Wed) 21時半頃
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私にとって好ましい行動が宇宙クラゲにとってどういった印象になるかは不明ですが、私の視点でもトルドヴィン氏は好ましく思えました。 冷静で、宇宙クラゲの生態から寄生者を探そうとされていましたので。
[ヒューマノイドと近い思考をしていることが寄生の有無を分けるかどうかは、不明瞭だ。 その点は、現時点判断材料に加えていない。]
(117) 2020/09/02(Wed) 21時半頃
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― 談話室 ―
[ トルドウィンは口より触角>>80が、ワクラバは口より目>>94が饒舌だ。 今回、前者は口数が少ないようだった。薄すぎるコーヒーは、ラックの上とトルドウィンの手元>>81にある。 淵に当たるような息の音。その表情は見えない。]
ひてい す、る すべも、 ない 、よ。
[ 後者は今日も雄弁だ。トルドウィンに対してワクラバの名を呼んだ時、視線>>92がこちらへ向くのが分かった。だから身体を開いて、ふたりが同時に視界へ入るようにする。]
…… っ 、!
[ いつもより大きく開かれた目>>94に肌が波打つような感覚を覚えたのは、それからすぐのことだ。跳ねた身体に、球体の中を髪が踊る。 逸る指先を掌へと押しつけた。 声と、文字と。ふたつの言葉を同じ早さで重ねる。]
(118) 2020/09/02(Wed) 21時半頃
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『だって ぼく は ずっと、 わくらば の たりない ことば の さき を もとめてた。
すぷすぷい に たのんだんだ。 でも だめ だった。』
[ ミタシュの胸元で眠る一部のスプスプイを思う。あの掠れた青は少女のくれた水色のキャンディより鮮やかだったのかもしれない。 それを知る術はもうないけれど。 頭を振ることで思考を一旦振り払って、はじまり>>2:201の話をした。一方的に交わした誓い>>2:156の話をした。]
『それなら じぶん で しらなきゃ。 ぼく は しらなきゃ えらべない。 しらないから を りゆう に えらびたくない。
わからない は もういわない って きめたんだ。』
[ どちらが指す対象>>95>>105を知った。自然と進みを遮ったあの時>>2:135のことが思い出される。 あの時唯一確かなことだった。悪くなかったと口にしたことを、今でも確かに覚えている。 だから、理解を得たと頷いて示す。]
(119) 2020/09/02(Wed) 21時半頃
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[ 沈黙の隙間に語られる"さいなん"は、己の抱いた感覚>>3:195>>3:196にやはり似ていた。 故に答え合わせをするように、耳を傾ける。 トルドウィン>>110が気性荒くそれを否定しようとも、敵への嫌悪を露わにしようとも、口を挟むことなく。饒舌な触角が怒りに震えるのを、見ていた。]
…… かた、 ち。
[ 形を得た己の手を見下ろす。透かして見ることはできないが、この厚い生地の下には五本の指があり、五つの爪がある。そのすべてに満ちるガスが、内側には充満している。 指を何度か開閉した。顔を上げる。 ワクラバ>>102が己の名を呼んだからだ。]
(120) 2020/09/02(Wed) 21時半頃
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みた しゅ 、は、 みずい ろ を、 くれた んだ。
[ 唐突に、そんな話をした。 ワクラバだけでなく、トルドウィン>>82へも語りかけるように口を開く。指もまた、再び掌を滑る。]
『のこった すぷすぷい を たくした とき、 みたしゅ いったんだ。
わたしで いいの って。』
[ 先程皆の前で起きた出来事>>39を改めて語る。]
『もう ひとばん すごした あと だよ。 いまさら じゃ ない ?
くらげが こうかつ だと するなら、 それにして は あまりにも じっちょく だ。 あと おっちょこ ちょい。』
(121) 2020/09/02(Wed) 21時半頃
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[ そこで一度手を止める。 決めていたこととはいえ、実際形にしようとすると指先が震えた。]
『こわい けど。 こわい よ。 もう ぜんぶ ぜったい は ない。 しんじる ことも うたがう ことも もう おなじ。 かくしょう なんて どこにもない。
でも たぶん みたしゅ は ちがう。 しんじて いいんじゃ ないか って おもう。
しんじたい と おもう。』
[ トルドウィンの言うミタシュの強さを知らない。 ワクラバ>>103の判断がどう転ぶかも知らない。 しかし、少女の愚直とも言える優しさを知っている。水色のキャンディはただ甘かったのだ。man-juと同じくらいに。 故にトルドウィン>>112の揺れを引き戻さんとでもするかのように、己の考えを示した。]
(122) 2020/09/02(Wed) 21時半頃
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[ 己が名に応えたのはその後だ。 トルドウィン>>111の視線を受けても、燻んだ瞳は変わらぬ色を宿している。]
『こころ は ちせい で あるか。』
[ 指と口が語ったのは、いつの日か受けた問い>>2:7だ。]
『きかれて ぼく は わからない と こたえた。 ちせい は ひつよう だと おもう けど なくても きもちは あるきが する から と。』
(123) 2020/09/02(Wed) 22時頃
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『うちゅうくらげ は こーたの こと しってた。 うちがわ から きおく や ちしき も うばう。 こーた の まま こーた じゃ なかった。
ぼくは それを ちゃんと しりたかった。 もじ じゃなくて、 じっさいに みて はなして りかいしたかった。
ぼく は どうしても ぼく の せんたく を じょうきょう の せい だと わりきれ ない。』
[ ヘリンの覆いとして口を挟まなかった>>3:100が、記憶にずっと残り続けている言葉を掬った。 殺す相手を選ぶなら、自分の意思で。迷いに迷った初めての日のようなことは嫌だと、必要なら、当時と同じように対話の理由>>194を語る。]
(124) 2020/09/02(Wed) 22時頃
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理由がない、というのは、あまりに極端な言い方かもしれませんが、あり得るという話です。
[アーサー氏の瞳に一瞬宿った激情>>87に、言葉を重ねる。 失言をした自覚が生まれたようだ。 この激情の火がなければ、『あるいは食すに適していた可能性』などと、より状況にそぐわない理由が並んでいたところだった。
そして、くずおれて座り込むミタシュ嬢と、同じく感傷を抱えるアーサー氏の隣、悲嘆の波が行き過ぎるまで、そばに佇んでいた。]
(125) 2020/09/02(Wed) 22時頃
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モナリザは、アーサー氏が戻ろう、と提案すれば、了承の意で頷いた。ゆっくりと談話室に戻る*
2020/09/02(Wed) 22時頃
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『だから ぼく は こころ を さがしている。 うちゅう くらげ が もほう しえない ちせい とは べつ の こころ を。』
[ それをミタシュに見た気がしたのだと、先程の言葉>>122を補足するように告げる。]
(126) 2020/09/02(Wed) 22時頃
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『それから あーさー も。
あーさー は かしこい。 かしこい かれ が あいまい な のうりょく を せつめい しきれない で いる。
それに あーさー は ほんらい へんか が あまり すき では ないんだ。
だったら その のうりょく は ほんもの だ。 うそ を つく なら もっと ちゃんと する。
あれ は ほんとう の ゆらぎ だ。 あんな やさしい こえ が うそ は いや だ。』
[ 宙に向かって呟かれた声>>3:51に触れた理由の最後は、願望混じりの曖昧なものだった。それでも、信じると。語る指先と口元は震えで朧になる。 消え入りそうな文字と声を止め、両者を捉えていた視界をワクラバだけに向けた。]
(127) 2020/09/02(Wed) 22時頃
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『だれも かくしん も かくしょう も ないよ。 ぼく にも ぼく は ぼく だと しょうめい する すべ が ない。
だから みてて。 こんど は わくらば が ぼく を みてて。
そうして えらんで。 ぼく も えらぶ から。』
[ 残された5人の内、椅子は3つと2つに分けられる。3つの内の2つは既に埋まっている。埋めた。もう振り返らない。 残りは1つ、あるいは2つだ。]
『ぼく は 、 わくらば を
えらばない こと を えらびたい と おもって いる。』
[ 残りひとつへ、手をかけた。]*
(128) 2020/09/02(Wed) 22時頃
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[ 指先を待つ話は、沈黙を挟んだワクラバと同じく時間をかけたものだっただろう。それらにどういう反応が返ったか。 捉える瞳は不安と願いが混じる。]
もう、 ひと つ。
[ ワクラバ>>106が再び話し出した内容に、軽く瞠目した。]
それ 、は そう、 だ。 さいしょ から、 そう だった 。
この おり は、 くら げ、たち のもの、で、 ぼくら は、 おまけ の いぶ、つ に すぎ、ない。
やっぱり 、よく みてる、 よ。 わくら 、ば は。
つめ、 たい ね。 どこま でも、 そとがわ、 だ。
[ 彼の言葉>>107へ理解と納得を示した上で、向けられた視線>>108へといつもの燻んだ瞳を向けた。 指先を掌に這わせる。]
(129) 2020/09/02(Wed) 22時半頃
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『ぼく は ぼく だ。』
[ それだけ記すと、無言で眉尻を下げた。]*
(130) 2020/09/02(Wed) 22時半頃
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