219 The wonderful world -7days of SAIGAWARA
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[ 覚えている限り、一度だけ 私の泣いた日。
真っ白で、軽くて 細くなったお母さんの手を
私はただただ 取るのが恐ろしかった。
小さな町から出たことのなかったお母さん。
そこに都会からふらりと来てしまった父に、
一時の気の迷いと逃げで誑かされて
やがて子供が"できちゃった"、って
言葉を選ばないなら、少し馬鹿だったけれど
祖父母にバレて 男なら許すって 言われて、
もう名前すら勝手に決められた中で、
( ── 女でも、ほんとは"りょう"だったんだって。
本当にどうでもよかったのね、あのひとたち。 )
はるか、とつけてくれたのは、あの人だった。 ]
……こどもが 一番に、
親に愛されたいと願って何が悪いの?
[ いよいよ怒気を隠しもしない。 ]
…父さんのほかに、
愛してくれる人がいたとして、
それは確かに素敵なことかもしれない。
ただ、その人の願いを尊重しても、
その人は私のすべてを解決してくれるの?
お母さんを蘇らせてくれるの?
あの家に認められる場所を作ってくれるの?
私の意思を見てはくれないの?
[ 勝手なこと言っているのは、
"普通"に考えたら私の方だったのかもしれない。
だけど、今の私に 蔑ろ、と 言われたって。
── それを×く思う心はもう無い。 ]
…… 私はまだ死なない。
シーシャには生きる権利を渡す。
エントリー料、きっと大事なものだろうし
知り合いもいた。きっと死んで嘆く人だっている。
だから、
"私"が"パートナー"にできるのは、それ。
[ ── そういう、気持ちの汲み方。
これを無情だと、やっぱり普通は言うのでしょうね。
だけど 生憎 性根が曲がり切ってしまったようで。
シーシャから離れれば 落ちていた鞄を拾い上げ、
中から二枚目のタオルをひっつかみ
とうとう名前を聞くこともなかった死神へ放る。 ]
………胸糞な家だから、聞こえてたらごめん
[ そのまま、死神とは反対方向。
何処へ行くわけでもない足取りで、
"こういうときは謝るんだろうな"って、
とうとう境目も分からなくなったこころで、
シーシャに呟いた* ]
[ 死神が語る言葉を、ただ黙って聞いていた。
“愛されたい”と願った人に
愛されなかった死神と少女。
その苦痛がどれ程のものか、
失いはしたが、愛を受けていた自分には、
到底理解は及ばないのだろう。
そうして、“愛”を諦められなければ、
世界に失望するのではないか、と ]
[ 死神もリョウも、同じものを抱えてて、
けれど、死神は諦念を覚えたのかもしれない。
受け入れ難いものを、
受け入れたのかもしれない。
もしくは、別の何かを手に入れたのかもしれない。
そうでなければ、
パートナーの気持ちを考えろなんて、
言えないと思ったから ]
[ リョウが死神に言い募る。
怒気を孕ませて投げつける言葉は、
本心の裏返しなのだろう。
言い切って、放られたタオルは別れの合図のよう。
それを見て、
死神でいて、人の心を持つそのヒトに、問う ]
―――― アナタ、名前は?
[ その場を去る痛々しい背に、一言だけ投げかけて、
返事があっても無くても、
覚束ない足取りのリョウの方を向く。
「気にしてないわ」と首を振って、
それから、息を吐いた ]
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[ 二人と別れたあと、 禁断ノイズを数匹排除しながら暫く道を歩いて、 十王ストリートから離れた路地裏へと身を滑り込ませる。 その途中、妙な連中を遠目に見たりもしたが。>>#3]
…っ。
[ ここまで派手にやられたのは久しぶりだな、と 吐く息に混じってついつい笑みが浮かぶ。
痛みより、なにより。 戦いの中で真っ先に感じるのは、この高揚感。 どうにも耐え難い、抑えきれない衝動。
だからこそ、もう、俺は戻れないのだろうとも、思う ]
(@115) 2017/06/23(Fri) 03時半頃
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[ あのお嬢さんは。 ―― まだ、“戻れる”んじゃないか、って。
そう考える俺は、甘いんだろうかね…? 去り際、彼女に投げられた言葉に、 結局答えることはできなかったけれど。
ひとつだけ確信を持って言えるのは、 勝手に殺したり、勝手に諭そうとしたり。 勝手に期待したり。 “普通”に考えても、自分勝手なのは俺のほうだということ>>+80 ]
(@116) 2017/06/23(Fri) 04時頃
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[ ――愛されてみたかった。 誰かに必要とされたかった。 ただ一度でいい、「ここにいていいんだ」と、 誰かにそう、言われてみたかった。
それが、かつての俺が願っていたこと。 ずっと忘れてしまいたかった、 でも忘れることの叶わなかった俺の過去の“記憶”。 ただ、俺の場合はそれこそ「誰でもよかった」のだけど。
だから、エントリー料として「自分自身」を奪われた。>>2:@47 なにひとつ好きになれない、 だけどそんな自分の願いを叶えるために必要だったもの。
誰かに肯定してもらいたがっていた自分を失って、 正直、息をするのが楽になったことは、否定できない。 実際、一度死んでから過ごした時間は、 (あいつと過ごしていた時間を含めて) 今まで生きてきたどんな時間よりも、 穏やかで、何よりとても“楽しい”ものだった。]
(@117) 2017/06/23(Fri) 04時頃
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[ それと同時に、 自分やあいつが支払ったものを知ったことで わかってしまったものもある。 仮に、エントリー料を返還されたとしても、 俺はもう、かつての“戸隠 流生”には戻れない。 あいつが切実に取り戻したがっていた“俺”は>>3:@9 もう元には戻らないんだ、と。
だって、知ってしまった。
人を傷つけて笑っていられる俺は、 他者を踏みつけて平然としていられる俺は、 誰かの命を奪って生き残ろうとしてきた俺は、 …他の誰でもない、俺自身でしかないんだってことを。
エントリー料を奪われたからおかしくなったんじゃない。 あいつが好きでいてくれたものに抑えられていた 俺の本性が表に出ただけに過ぎないんだ、と。 それを突きつけられた、……だから。 あのときの俺は、あいつの手を振り払った。 ]
(@118) 2017/06/23(Fri) 04時頃
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[ 「Q、失った大切なものを取り戻すことができたとして、 その存在は、「失う前」に戻ることができるか?」>>5:22
――かつての俺の選択は、No、だった。* ]
(@119) 2017/06/23(Fri) 04時頃
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『prrrrrrrr...』
よぉ、生きてるか田舎娘? 俺はまだ死んでねーぞ。
[ 相手の声が聞けたのなら、 ふ、と声を漏らすのと同時、口許に笑みが浮かぶ。 ]
ヘマはやらかしたがまぁ、明日までにはどうにかなってんだろ。 アンタが無事ならそれでいいさ。 ゲーム続行のためには、“ゲームマスター”が必要不可欠だもんな。
(@120) 2017/06/23(Fri) 04時頃
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ああ、いろいろトラブルはあったが、 俺としては楽しかったぜ? 禁断ノイズも、特例の『強き魂』どもも。
今回のゲームは最初“平和”だと思ってたからな。 お人好し共が妙に多くて、 けどまァ…今思うと、それも楽しかったな…。
[ 最初の三日間を思い出す。 どいつもこいつも、出会う連中は皆、危なっかしくて 他人を出し抜こうとするような奴よりも、 協力し合おうなんて考えるような奴らが多くて。
最初に会った、集人とヒナはまだ生きているだろうか? それとも、死んでしまっただろうか? いちおう、こちらが先に死んでしまっては 特別ミッションの続行ができないので なんとか生き延びる方向を選んだが。 ]
(@121) 2017/06/23(Fri) 04時頃
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[ ロイやニキたちはどうしただろう? 最初の三日間はよく顔を合わせていたのだが ここのところ見かけていない。 簡単にくたばるとは思いがたいところがあるので どこかで生きていればいいと、 ついついそんなことを考えてしまう。
…今思うと、こっちも随分、 奴らに影響を受けてしまったのかもしれない。 ずいぶん、甘くなったものだと思う。 今回のゲームは、なんというか、 妙なことが多いものだ。 ]
(@122) 2017/06/23(Fri) 04時頃
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――…なぁ。
[ 電話口の彼女に問いかける。]
俺に、何かしてほしいことはあるか? 俺が、アンタにしてやれることは、あるか? [ ――ふ、と。 口の端から笑いが漏れる。 もし、相手から怪訝そうな反応があれば ]
なんだろうなぁ、今聞いておかねぇと アンタ、どっか手の届かないところにいっちまいそうでな。 …柄じゃねぇことは、わかってるんだが。
なんにせよ、後悔なんつーのはしたくねぇんでな。 何かあるんなら、聞いとくぞ?
(@123) 2017/06/23(Fri) 04時頃
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[ 電話先の彼女の答えは、どうだったろう?
それを聞くのが先だったか、 それとも日付を超えるのが先だったか。
いずれにせよ、次に迎える夜明けは、最終日――** ]
(@124) 2017/06/23(Fri) 04時頃
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