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[やがて攻芸とチアキが去ってゆけば、ケヴィンの隣に立ち、手を振った。
もう片手は、おそらく、ケヴィンの腕を掴んでいたろう。]
……いつでも、歓迎するよ。
あ。
お土産も待ってるから。
[お土産があったところで、触れることすらできないのだが、何となく、楽しげな声色でそんなことを付け加えた。]
そう。 … よかった。
ボクたちは、どこまで一緒に行こう。
ドリー。
[どれだけ繰り返し確認しても、
ドリベルに赦されても。
愛しい人を自らの不運に引き込み
死出の旅路にまで伴ってしまった自分を
心の底から赦せる日は来ないだろう。
悔いる気持ちは無い。それでも。
ドリベルの手の強さに、胸が熱くなる。
泣きたいくらいに。**]
メモを貼った。
[応えには、頷きを。]
……ずっといます。一緒に。
[取った手の甲に誓うように口付けを落として。
チアキ達が出てこれば、
元気でね、と言い添えて。
彼らが立ち去るまで見送っただろう。**]
メモを貼った。
………。
[掴まれた腕を解いて、握り直す。
手を繋いだ形になって。
自宅は再び、二人だけの空間へと戻った。]
……兄さん。
[力を込めて、兄の手を握る。]
あ。
[腕を解かれると、一瞬だけ眉が下がったが、すぐ手を握り直され、今度は笑みの形となる。]
……なに?
[静かな、他に誰もいない空間に響く弟の声に、問いかける。]
………俺、さ。
[言い難そうに、少し俯いて。]
………ラーマになろうと、思ってるよ。
[それが何を意味するのか…
わかっていながらも、呟いた。
握る手の力は、強く、強く**]
メモを貼った。
…………。
[弟の告白を、静かに聞く。]
……そう。
それが、おまえの選んだ道なら……。
[握られた手、こちらからも強く、握り返す。
それが弟の選択ならば……止める権利など、あるはずがない。
彼ならきっと、素晴らしいラーマとなることができる。]
……………。
[暫しの沈黙の後、無言のまま、微かに頷く。
ただ、弟の顔を見ることは、まだ少しできなかった**]
メモを貼った。
[どこまでも一緒に。
この曖昧模糊とした永遠の世界では
それが言葉の通り、
途方も無い時間の共有を刺すことは明白。
誓いのキスに、肯いて。
同じように、ドリベルの手の甲へキスを。
屋内から出てくる隣家の二人へと視線を向け、
にわかに湧いた忌まわしい予感から目を背け、
ただただ彼らの健やかなる日々を願う。
うん。どうか元気で。
ドリベルの声に重ねるよう、言葉添えて。]
[ホレーショーとケヴィンが外へ出てきたようなら、
そろそろ一度戻るということを告げるつもりだが。
長く出てこないようなら取り込み中だろうと、
中をわざわざ覗きはしなかったろう。
まだ死んで間もないし、
あまり長居をするのも申し訳ない。
それに、また会えるのだから。]
……トレイルさん?
[ホレーショーの家から戻る途中。
一人で歩く姿を見つけ。
その手に持たれたシーツに、向かう先を知った。]
― 自宅へと戻って。 ―
[ふらり、と再開した逍遥。
自然と足が向くのは、住み慣れた我が家。
トレイルが戸口を潜るのを見つけて(
その後を静かに追って歩いた。
門前を通りがかった斜向かいの男が
この家の住人たちの死を
トレイルに伝える様子も見た。]
寝てるだけだって書いたのに。
バレたか。
[隠しおおせるとは微塵も思っていなかったが。
気恥ずかしそうに、肩を竦ませて。]
[静まり返った部屋に響く、
トレイルの相変わらずな明るく柔らかな声。
同じ頃に村を訪れ、修行に励み、
年の近さもあって何かと接点は多かった。
なんとなく、負けたくない相手でもあった。
それでも、男の人生において、
躊躇いなく友と呼べるのは、トレイル一人。
もし。もしも誰かに背を預ける日が来るなら、
その相手はトレイルしか居なかっただろうと
今なら、思える。
嘘つきだと罵り涙する友の背を見つめ、
試しに、彼と背中合わせにして立ってみる。
背後の他人の気配は煩わしくて嫌いだったが
こうしてみると、心強さを感じる。
生きているうちにこうしてみれば良かった、と。
思えば少し、悲しくなった。]
メモを貼った。
メモを貼った。
……シーツ、届けにきてくれたんですね。
[結局取りに行けなかった。
わざわざ持ってきてくれたトレイルに、
お礼を言わないといけない。]
……わざわざ来て下さって…
…ありがとうございます。
[中へと入るトレイルへかけるのは、
聞こえないとわかっていても、
出迎えと感謝の言葉。]
[兄の表情を伺う。
横顔が、寂しそうに見えた。
当然だ、俺だって寂しい。だけど。]
……病に皆、苦しんで、悲しんで。
ライマーもラーマも減っただろう。
なのに、黒玉病のせいで、ラーマになれない者もいる。
[そしてこれからも減るのだろうという予感がある。ラーマが足りなくなるであろう未来が見えた。]
……兄さんと離れたくは、ないよ。
でも、皆が辛い思いをしてるのに…
まだ、俺に出来ることがあるのに。
それを放棄して、安穏と眠るのは。
例えアメノマが許しても、俺が俺を、許せない。
[そこまで言って、ふっと表情が弱くなる。]
……死んでみて、どうやら永遠の別れじゃないと思えたから、決められたこと。だから……俺のわがままだけど。兄さんには、見守りながら、待っててほしいんだ。
手のかかる弟で申し訳ないが。
[離すのが、惜しい手。
否と返事があれば、きっと、離せなくなる。]
多分、長くは待たせない。
美術館にでも飾られない限りはな。
[そして兄の返事を待って、その表情を伺った**]
メモを貼った。
……なかなか様になってますね…。
[背中合わせに立つ二人を見て呟く。
これで互いのラーマを手にして…と、
そんな光景が実現することはないけれど。
あったかもしれない未来の光景を、
目に焼き付けるように。
それから、俯き涙を零すトレイルに
近づいて髪をそっと撫でる。
実際は透けてしまうので、気持ちだけ。
撫でられたことは幾度もあったけれど、
こうして撫でるのは初めてだったなと。
どんな反応を返してくれただろうか。
一度やっておけばよかったかもしれない。]
メモを貼った。
[トレイルを見送って、
しばらくは静かな時を過ごす。
窓をすり抜けて窺う陽気は穏やかで。]
……そういえば、とっておきの場所。
…連れていってくれるん……ですよね?
[一度は果たせなかった約束は、
まだ枕元に残っている。]
メモを貼った。
[顔は上げられぬまま、弟の話を、ただ黙って聞いていた。
繋いだ手の指先には、白むほどに力が篭もる。
漸く、口を開けるまで、どれくらいの時間を要したろう。]
……恥ずかしい話だけど。
私は、おまえが死んだ時。
ともに逝けることを嬉しく思ってしまった。
けれどおまえは、黒玉病で逝ったわけではなかったから……もしかしたら、ラーマとなってしまうのではと思って……。
それが、すごく……いやだった。
何故、共鳴で死んでくれなかったのかと……考えた。
[自嘲を浮かべながら、ぽつぽつと語る。
指先は、微かに震えていたかもしれない。]
……ひどい、身勝手な兄だと思うかな……。
……けれどね。
おまえの口から、さっき、その言葉を聞いた時、何故か不思議なくらい、すんなりと受け止めることができた。
勿論、辛い、寂しい……。
離れたくなんか、ない、けれど……。
けれど、おまえの話を聞いて、よく分かった。
そうだな、おまえが、この状況を放っておけるわけがない。
おまは昔から、やさしくて……。
いつの間にか、私より大きくなってしまっても……それでもずっと、真っ直ぐなままで……。
[声が震え、涙が零れそうになる。
脳裏に思い描くのは、幼い頃の、内気だった弟の姿。
いつも自分の後をついて回っていた、泣き虫な少年。
今ではすっかり、逞しい男となったその顔を、愛おしげに見つめ。
頬にそっと、手を伸ばす。]
だから私は、おまえを好きになったんだ。
[真っ直ぐに見つめ、笑う。
笑った拍子に、溜まっていた涙がぼろりと零れてしまったけれど。]
おまえはいつまでも、私の自慢の弟で……。
誰より愛しい……恋人だ。
[ほんの少しだけ高い、弟の肩。
そこに、ゆっくりと凭れかかり]
………行っておいで。
私は、ここで待っている。
次に会える時まで、ここで、ずっとおまえを見守っている。
それにおまえなら、私の姿が見えなくても……きっと、感じ取ってはくれるだろう?
…………。
少しだけ、時間が有限になってしまったな……。
[弟がラーマとして転生するのは、半年後か、一年後か……もっと早いか、遅いのか。
そこは、弟の意志と、アメノマの恩恵に依るのだろうけれど。
猶予は、まだ残されている。
だからせめて、それまでは……**]
メモを貼った。
[丁寧に整えられた寝台。
目立たない縫い跡の残るシーツ。
きっと寝心地は最高だろう。
部屋を去るトレイルに笑顔で応える。]
ありがとう。トレイル。
… ありがとう。
[彼が撫でた箇所をなぞるように
皺ひとつなく敷かれたシーツを撫でる。
そこは少し、温かい気がした。]
[それぞれにトレイルとの別れの時間を過ごし、
静寂の中を並んで佇んでいただろう。
穏やかな陽射しの中に在る我が家は
昨日までと何一つ変わらないのに、
そこはもう自分たちの空間ではないのだと
どこか余所余所しく感じた。
実際、黒石と成り果て砕けた二人分の肉体は
既にこの家には無い。
寂寥を振り払い、向き直す。外へと向かって。]
うん。他にも、ドリーの行きたい場所があれば。
どこへでも行ける。
[ドリベルの手を握り、行こう。
途中、村の中で生者の面々と擦れ違いながら。]
…エルもちゃんと考えてください……ね。
[自分も考えるように、と釘をさし。
村の中を歩けば、
獣との争いで壊れた場所を修繕する姿も見られ。
生者達の逞しさを知る。
…住む者がいなくなったあの家も、
いつか壊されるか、別の者が住むのかもしれない。]
……エルはその場所…いつ見つけたんですか?
[ふらりと出かける水浴びも、そこで行っていたのなら。
自分がサミュエルのラーマになった時には
すでに見つけていた計算。]
[兄の言葉に、ゆっくりと首を横に振る。
生きられないなら、せめて共に逝けるのは幸福だと、
自分も思ってしまったから。
さすがに、死因が違うことに対する不満までは思い至っていなかったけれど、その話を聞いても、兄を責める気にはなれない。逆の立場なら、もしかしたら考えていたかもしれないのだから。]
…………。
[兄の言葉を、黙って聞く。
いつの間にか、背も年齢も追い抜いてしまった自分。
年齢が少し下がっているのは、元の年齢差に戻りたいと、兄に甘えられる弟でありたいと、無意識に思っていたから。]
ごめんな……ありがとう。
[手を伸ばし返し、零れ落ちた涙を指の腹で拭う。
辛い思いを押し殺して、それでも笑ってくれる兄。
我儘を言っても、最後には許してくれる兄。
そんな優しい兄が、昔からずっと、好きだった。]
……必ず会える。
永遠は、ここにしかないのだから。
姿が見えなくても、声が聞こえなくても。
心は、常に、傍にある。
……腕一本と、腹だからな。
時間はかかるだろう。
[損傷箇所は少なくない。
長く過ごすのは、手が離せなくなって困りそうな。
かといって、短く過ごすのは、寂しい。
だから猶予は天にまかせる事にして。]
戻るまでは、ずっと、一緒に。
[顔を寄せて囁き、誓いの約束をするように、
口づけを落とす**]
ボクは、ドリーと一緒なら
どこでどうしたって幸せだからね。
[すれ違う人達の顔を何気なく眺め、
彼らの表情に悼みが見えると目を逸らした。
ほんの数日で、ずいぶん変わった。
仕事や戦闘で命を落とす者が出た時は、
その勇敢さを讃えて見送れるだけの
戦う者たちの覚悟と強さがあったと思う。
不意打ちに訪れた厄災に蹂躙されて
無力に奪い去られる時は、
どんなに強い者も打ち拉がれるのか。
これも死してはじめて知ったこと。]
この村に来てすぐ後。
森が好きで。 … ひとりでよく散歩した。
[村人たちとの穏やかな日々の営みに慣れず、
修行の合間に森に入っていた頃。
そんな話を、ぽつぽつと。]
メモを貼った。
……それ…僕も同じように返したら…どうするんです。
[その時はその時で、
目的もなしに歩いて行くのも楽しいのだろうが。
少しずつ村の中心から離れながら、
耳にするのはまだ出会う前の話。
サミュエルがどこから来たかも知らない。
すべてをもらったと言ったけれど、
過去まで踏み込んでいいものかと逡巡し。
返す相槌は曖昧なものとなったろう。]
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