15 ラメトリー〜人間という機械が止まる時
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[ヴァイオリン弾きの奏でる調べは、歓喜の歌か、鎮魂歌か。
暗灰色の夜空から、ふわりはらりと舞い降りるのは、
あの思い出の花畑の、満開の白い花びらか。
それとも天使の散らしていった、儚く消える白い羽か。
ゆっくりと静かに、世界は優しく包み込まれて…─
それはあまりに身勝手で、
それはあまりに優しくて、
それはあまりに残酷で、
それはあまりに、美しい。]
この子には…、誰かの魂が宿っているのかしら
[見つめる大樹の声は、死者にも届かない。
届くのは恐らく、彼が思う人だけに。]
―――…シィラは…、
[どうかしら、全ては言葉にはならず。
上呂の水の行く先を問われると、
淡く笑って「お花に、」とだけ答えた。
彼女の動かす白の翼を見つめる。]
[ ざわめきはノイズ混ざりの幻聴のようだろうか、]
[ ゆれる 枝葉は 葉の一片を 水面に落とす ]
( 水を―― 汲んでいってあげて )
[ 水面に 砕ける姿は かすか ]
もしかしたら、そう、かもね。
[魂が宿っているかも知れない、という言葉に、ひとつ、頷く。
紡がれた、シィラの名に、ふと、空を見て、それから]
お花にお水は、大事。
……あげないと、しょんぼりしちゃうから。
[水の行方への答えに、笑った。
同時に、思うのは。
花の名を贈った少女のこと]
[優しいヴァイオリンの音が聞こえる。
その音に、その音を奏でる人に微笑んで。
それは死を招く音なのだろうか。
死する――…とは、なんだろう。
届かない、けれども今ここに在る魂は、
本当に死んでいるといえるのだろうか。]
そうでなくても、いいの
私を生かしてくれたのは…ニムスだから
[中庭から去るフィリップを見送る。]
――…彼が何者であろうと、いいの きっと
[ 弦の音色が響いている、
それは生と死をも、祝福するような色鮮やかさで。
木陰で語らう“2人”の会話、
水を汲んだフィルが駆けて行く ]
[ 人の手で花に水が与えられ、
その花は、人の心を慰める ]
[ 与えあうことの尊さに、
もっと早く気づけていたら ――そう思うけれど ]
[ でも訪れつつある終焉は 優しい気がした ]
[聞こえる音色に、バルコニーへと目を向ける。
音楽をゆっくりと聴くのは、だいぶ久しぶりのような気がしていた]
[水を汲んで駆けて行くフィリップを見送って。
泉の傍にいるひとたちを見る。
生けるもの。死せるもの。
どこにむかっているのだろう。
ふと、そんなことを考えていた]
[ 見張りの塔にもヴァイオリンの調べはかすかに響く、
生者には聴こえぬはずの音を――寄り添う亡霊は聴いている。
シィラの耳には、
ヨナの耳には……その音は、
聴こえているの だろう か ]
―泉・大樹―
[ その声は 友達に似た 翼の娘に振り落ちる ]
―――…花に、
あの子にも、水をあげて欲しいな。
笑い声を聴いたんだ。
姿は、見ていない。
でも、笑っているのに、寂しそうだった。
いつも、笑っているのに痛々しくて。
[ 唐突なその声音は、ほとんど面識がなかったから、
聞き覚えは無いだろう、けれど自分は彼女の名前を知っている。
あの子が“名前をくれる人”だと言っていた]
……え?
[不意に聞こえた声に、ひとつ、ふたつと瞬いて。
ぐるり、と周囲を見回した]
……あの子……って。
[声の主が誰かはわからない、けれど。
誰の事をさしているのかは、何となく、わかった]
……ポーチュラカ?
[ああ、そう言えば、と思い出す。
呼びかけても目覚めなかった少女。
あの時は、記憶があふれるのが怖くて、逃げてしまったけれど──]
……うん。
お水、あげないと、ね。
[今は、何かを恐れる必要もないから。
探しに行こう、と思った。
同じ状態になっているなら、きっと、見つけられるから、と。
ふわ、ふわり。
足を地に付けぬまま、動き出す]
|
―小倉庫―
[はたして扉の向こうの気配は、この部屋への来訪者か否か。 チャールズは自ら外へでることはなく 手帳をめくり綴られた言の葉を追っている。]
ヴァイオリンの、音色でしょうか?
[それは空耳か、死に近いから聴こえたのか それとも……――肩に乗る存在が近く教えてくれただけか。]
ヴァイオリンというと、セシルさんですが……――― 弦を張ることが出来たのでしょうか。
[男はセシルが儚くなったことも知らない。 また、手帳に紺青の眸を向け、頁を捲った。]
(129) 2010/07/24(Sat) 01時頃
|
うん、ポーチュラカを
あの子の小さな扉を、開けてあげて……
[ 囁きは 水面に 波紋を作り
翼の娘が歩き出せば――その意識は、]
――……ヨナ、
[ そして亡霊は 壁にもたれるヨナを 見つめる。
一度でも、これが救いになるかもしれない、と思ったこと。
そう、思ったことを悔やみながら]
[大樹と翼の少女のやり取りはわからない。
ただ、お水をと呟く姿に緩く首を傾げて。]
―――…お水、
[ふわりと動き出す姿に、上呂を差し出して]
…あげてきて、
[ポーチュラカ、その名前の少女に。
彼女の挿していた朱い花に。]
――…私の代わりに、
[そう言って、送り出した。]
[泉の傍で腰を下ろすと
コリーンを、
ガストンを、
泉の傍に居る者達を
弦の音を聞きながら眺めている。]
……あ……。
[小さな扉、という言葉。
それは声の主の名前へと繋がり、足を止めて大樹を振り返った]
うん。
わかった。
[頷きながらの言葉は、呼びかけるふたり双方へと向けられる。
差し出された上呂を受け取り、ふわ、ふわり。
向かうのは、眠る少女を見つけたその場所]
[そして、世界を命を繋ぎとめていた、最後の泉も…─]
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