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[死者に足音はないが、
こつ、こつ、こつりと音を刻んでいる錯覚がする。
森の中、いつしか紫苑が咲き乱れる小道に来ていた。
ひらり、視界の端に揺れた黒衣
……?
[まさか。
いや、あれはそこまで背が低くはなかった筈だ。
背反する思い、疑念を抱え、男は見えた人影の方へ。
少年とでもいうべきものがいる場所へと、歩いていった。]
ア……
”ヨハネス”?
[よびごえは、届いたのかどうか。**]
メモを貼った。
メモを貼った。
尻尾は雄弁に語る。
獣の頬を撫でるようにはたいてから、小生は男に抱き上げられた。
この男は、小生が死んだとでも思っているのか。
それとも物怪のなにかだと思っているのか。
くるり、喉の奥を鳴らして哂ってやった。
探す価値もない女を捜しに行くと謂うのなら
小生は止めこそしないだろう。
しかし聞こえた兎の言葉に
「にぁん」
猫なで声一つ上げて見せれば
今宵の食事にはありつけそうだ。
あれから、唄も聞こえない。
風に乗る禍々しい気さえ、ない。
何処に隠れているのやら。
ゆうらり、ふわり。
小生の髭が揺れる**
[
不満そうな獣の背も撫でつつ、
胸の隙間に猫を落とさないように抱いていると
機嫌良さそうに喉を鳴らす。]
ああ、食うのな。
[その向こう、墓場の奥まで覗いても
一見しては誰の姿も見えないから居ないと判断した。
そろそろ鍋も良い頃合いだろう。]
兄さんは兎もう一匹ぐらい仕留めるように。
『何だと?』
食い扶持が増えた。
[不満気な獣を追いやって、
猫を抱いたまま墓場を後にした。**]
メモを貼った。
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[ ――― すん。
死者に、匂いも気配もありはしない。
けれど、 けれど。
擦り抜けていく空気が、
とおりぬけてゆく気配が。
犬に 蒼穹を、
それから紫苑の路の向こうを。
仰がせて、 弧を描くように
うしろを、(ねえさんに)
振り向いた。 ]
[ その姿に一瞬振り返って、
にこっとわらう姿に、
にっとわらいかえす。 ]
[ ―――そのまま 一本。
ほそい指が、
(魔女も食べないような、白い指。)
前を ぴん、と少女は差した。 ]
[ そこにあるのは、
まっくろな靄。 ]
[ 形のない『悪魔』とで言えるよな、
でもその耳と尻尾は、狼男みたいな。
けれど、酷く、覚えのあるようで、 ]
…… ――― 、 スティ?
[ 『ヨハネス』 と。
棄てた名前を、わざわざ呼ぶものだから、
てっきり人違いかとさえ思った、
… ―― けれど、
呼ぶ名は反射的に飛び出してた。
…… まぎれもなく その声は、 ]
[ 元々幼い、東洋混じりの顔つきに、
更にあどけなさが混じりこんだ
瞳が、 まあるくなる。 ]
[ こどものきおく。
猫の 狗の、記憶。
いろんなものが混濁しながらも、
濡れ羽を伏せて、黒衣を翻し――。
(会いたかったはずなのに、
探そうとしたのに、
いざとなれば、 )
姉のもとへ逃げ帰るよう
一直線に、駆け出そうとする。 ]
[それを見守る少女は、
驚いたようで 困ったように
―― ふんわり。
白色が滲む、黒影に わらいかけた。* ]
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「―― 、 スティ?」
[ 噫、やはりあの彼だ。
幾分か――否、かなり声も姿も幼くはなっているものの
それはやはり「アル」であり「ヨハネス」だった。
後ろには白いワンピース姿の可憐な少女が立っている。
彼女が、或いは「姉」だろうか。
エンジェル・ブルーは此方の姿を捉えると丸く見開かれ、
それから黒い睫を伏せると、踵を返し
一目散に背後の少女の元へ走っていく。]
、
[その様子に面食らったものの、
己の真っ黒になった掌を見ればそれも、当然かと思えた。
ふんわりと少女が困ったように笑う。]
[顔があれば――(生憎、今は元には戻れないようで)
眉尻を下げていたのだろうが、
相も変わらず顔面を黒く塗り潰されたままの影は
苛立つように頭を軽く搔いて溜息をついた。]
……。
[何を言えばいいのかわからない。]
……別にとってくったりはしないさ。
[一発、殴りたくはあるけれど。]
ヨハネス……
[ああ、どちらで呼べばいいものやら、と迷う。]
……アル……で、いいんだな?
随分とあっさり死にやがって ――……。
[ぽつりと落とした言葉は、
先ほどの惨劇を見ていた事を吐露するもの。
複雑な思いを抱きながら、
姉の背にでも隠れそうな少年を視ている*]
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【人】 本屋 ベネット[クラリッサの眸を見詰めた後くちびるが微か動く。 (82) 2015/05/22(Fri) 03時頃 |
【人】 本屋 ベネット[ドナルドやサイラスの手を借りて埋葬の準備をする。 (83) 2015/05/22(Fri) 03時半頃 |
[たた、 と駆けながら、
紡がれる
ちょっぴり息苦しい。
それすら、足音で掻き消して。
こころまで、
すこし退行していた黒犬 ……
と言ったって ねえさんの背には
…… 隠れは、しないけど。 ]
―― ……。
[ 溜息
ぬるり と 足許に纏わりついて
邪魔するみたいで、
たた た、
…… 次第に、足は遅くなり 止まる。]
……、
… なんでもいいよ。
[ふたつの名で惑うよな、
そんな声に 背を向けたまま、
… 少し、不機嫌そうに
傍らの、少女の服の裾を掴んで、
ぎゅう と握り込むのも一瞬。
力が抜け落ちるように、
触れた指が下がってゆき
――― そのまま、腕が垂れる。 ]
[
さっきのことを、見てたかのようなことばだ。
死んでまで 『解放されてまで』、
…… こころは苦しめるんだと
締め付けられるんだと。
気付きたくないことも気付きながら、
『乖離』しようとしてた、現実が
一気に 雪崩れ込んできた。 ]
[ 背に奔る、拙い一閃も。 ]
[ ―― あの、ひとりぼっちの感覚も。 ]
[ 全部まとめて、
突きつけられて、
黒髪をくしゃり、と掴んだ。 ]
…… ――― それは、 …
[ その表情は、
後ろを向いたままの矮躯と、
感情を押し殺したような声からじゃあ
きっと、わからなかっただろうけれど。 ]
(『随分とあっさり死にやがって ――……。』)
[ リフレインして、
焼き付くよなことばに、
黒い外套の、心臓のあたりを軽く、握り。
ふる。 鴉羽の色を、振るう。 ]
( その台詞は。 )
…… スティが言うことばじゃあ、ないだろ。
――― それは。
ぼくの、台詞だ ……!!
[振り向きたくない。
見たくない。
現実に背けようとして、
『怖いから』逃げたんじゃあない。
ただ、何て話せばいいかわからなくなったから。
何て怒ればいいかわからなくなったから。]
[ それを全部薙ぎ払うようにして、
キッ と、 睨み付けながら
ぐるり。無理矢理 振り返る。 ]
[ 瓜二つの少女は 背後で、
黒い艶めきを靡かせたまま。
相も変わらず 、けれども。
困惑を ほんのすこし寂寥に変えた
ほほえみを湛えて、
黙したまま、
黒い子犬の背を見ていた。 **]
……あんたに白目向かせてやろうと思う前に、
(恩も、なにも返せてないのに)
勝手に居なくなるなんてさあっ …。
[ そんなの。
―― 許されるわけないだろうよ。 ]
[ 自分勝手な我儘を、
見た目通りの子供のように
わあわあ 喚いて。
ぶん殴ってやりたいっていうのは、
こっちだって一緒だったけど。
あんな影じゃあ、殴れるかだってわからない。
蒼いひとみは、 す、 と地面におちた。 **]
メモを貼った。
―河原―
[せせらぎの音を聞きながら、
男は河原の向こう岸を眺めていた。]
……不思議だな。
[ぽつりと、呟く。
今の体でこの川を渡ることは容易だろうに、
足が、この先から先へ進もうと、
村の外へと出ようとはしない。
何か不思議な力によるものなのか、
それが男の中の裡の真意なのか。
それでも、或いはあの男なら――…
兄貴分の幼馴染であった赤毛の男ならば、
容易に超えてしまえるのではないか、
そうとも思う。
男にとってドナルドは―――…
自分にはできないことをこなしてしまう、
ずっと、そういう存在だったから。]
[絶対的な"憧れ"が、
"劣等感"を孕むものになったのは何時だったか。]
[コンプレックスを裡に抱えつつも、
それでも自分にできないことをやってのける
ドナルドの姿は男の目にはいつだって眩しかった。
何も言わずに村を去ってしまった時でさえ、
淋しかったけれどもこの村しか居場所がなかった
自分とは違って簡単に外の世界へと出ていける、
そんなドナルドの姿にただ、すごいと思いを馳せて。
ああ、だからか。とも思う。
彼が村に帰った時、あのようなことを言ったのは。
嬉しくない筈がなかった、けれどもきっと彼は
広い世界に出たままこの村には戻らないのだと。
そんな勝手な理想、憧れを押し付けていたから。
だから喜びよりも先に哀しみと失望が前に出た。
村を捨てた男として、許せないと吐き捨てる事で、…]
……子供だね、俺。
[わかっていたことだけれど、と。
自嘲交じりに小さく呟く。
このような状況でも、頭の何処かで思っているのだ。
あの男は―――…こんな状況の中でも、
きっと、死ぬことはないのではないかと。
緩く、首を横に振る。
そうであって欲しいと思う気持ちと、
そうでなければいいという気持ち。
正義感の強い彼が生き延びること、それは…
従妹の危険を、意味することでもあるのだから。*]
【人】 本屋 ベネット[友の笑みを見れば目許が柔らかな弧を描く。 (97) 2015/05/22(Fri) 12時頃 |
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