212 冷たい校舎村(突)
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[そうしていつからか、女の子らしいものが好きだということは、隠すようになった。 周りに合わせるために、父さんに嫌な顔をさせないために、そうするしかなかった。
でも、隠していても、好きでいることは止められなくて。 父さんに隠れてお小遣いで買った、可愛らしいキーホルダーとか、綺麗な飾りとか、きらきらしたお姫様が出てくる絵本とか。 そういうものは、まとめて自分の部屋の押し入れの奥に隠した。 そういうものを集めて眺めている時が、一番楽しくて、自分らしくいられる時だった。
そんな俺の隠しごとが、2回だけ、バレてしまったことがある。]
(46) 2017/03/14(Tue) 01時半頃
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[一度目は、小学5年生の時。 その時一番仲が良かった男友達が家に遊びにきて、ジュースを取ってこようと、1度自分の部屋から離れて、戻ったら。 友達は、押し入れを開けて、そこから取り出した可愛らしい猫のキーホルダーをぶらぶらと揺らしながら、
「なあ、なんでこういうの、隠すみたいにしておいてあんの?」
と、聞いてきた。 俺は正直、期待した。 今まで隠してきたが、こいつなら受け入れてくれるんじゃないかと。 好きでいることを、認めてくれるんじゃないかと。 だから、正直に話した。「実は、こういうのが、好きなんだ」と。
そうしたらそいつは「ふぅん」って言って、それから、]
(47) 2017/03/14(Tue) 01時半頃
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「男のくせに、気色悪ぃ」
(48) 2017/03/14(Tue) 01時半頃
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[ああ、ほら、やっぱり。 隠さないと、だめなんだ。
多分こういうのも、捨ててしまった方がいいのだろう。 好きでいることを、止めてしまった方がいいのだろう。
でも、俺にとって、それはとても、難しいことで。 結局ずるずると、その隠しごとを続けてしまった。
ぬいぐるみを買うなんて出来ないから、それなら作ってしまおうと、初心者用の本を買って下手くそながら作ってみたり。 ケーキ屋さんに入りにくいから、それなら作ってしまおうと、お菓子作りの本を買ってまずはクッキーを焼いてみたり。 手芸だけじゃなく編み物にまで興味が湧いて、気づいたらピンク色のマフラーが出来上がっていたり。
そうして、どんどん押し入れの中身が増えていった。]
(49) 2017/03/14(Tue) 01時半頃
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[中学生の時、こういう、女の子らしいものが好きなことを“少女趣味”と呼ぶことを知った。 ――あまりの似合わなさに、笑ってしまった。
父さんには……親父には、多分バレていないと思う。何も言ってこなかったから。 親父に勧められた柔道部も、ちゃんと入って、真面目にやっていたし。 まあ、結局、柔道が好きでやっている人の中に、柔道が対して好きでもない自分が混ざっていることが、どうにも居心地が悪くて。高校では続けたくなく、家事をやるからと説得して、高校は部活に入らないことにしたのだけど。
その説得をする時は、少し、緊張した。家事なんて女の仕事だ、お前は部活をやれと言われるんじゃないかと。 まあそれまでも父と分担してやっていたこともあり、杞憂に終わったのだけど。]
(50) 2017/03/14(Tue) 02時頃
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[そうして、隠れて趣味を続けて。 “2回目”が訪れたのは、高校3年の、文化祭が終わってからだった。
親友と言い合うくらいに仲が良かったけど、高校入学と同時に地方に引っ越していった奴が、「今から健士郎の家に行くから」と半ば強引に押しかけてきて。 部屋の物勝手にいじったりするなと警告して、お茶を取りに部屋を出た。
やるな、と言ったら逆にやるような奴だって、どうしてあの時の俺は忘れていたんだろう。
部屋に戻ったら押し入れが開いていて、そこから色々なものが見えた。 うさぎのぬいぐるみ。猫のキーホルダー。表紙にお姫様が描かれた絵本。手編みのマフラー。裁縫セット。お菓子作りや手芸、編み物、花言葉の本。 他にも色々、とにかく“女の子”って感じのものたちが、顔を覗かせる。]
(51) 2017/03/14(Tue) 02時頃
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[どうしよう。どうしよう。 無言で、無表情で佇んでいる親友が何を言うのか、怖くて仕方ない。 でも、とにかく、何か言わないと、って、焦りながら口を開いた。]
……い、っ、今まで、言わなくて、悪かったな、その、実は、そういうのが……すき、で、 でも、その、言ったら……もしかしたら、気持ち悪がられるかも、とか、嫌われたら、って、思って、それ、で……
[そいつは、まるであいつみたいに、「ふぅん」って言って。 それから、口を開いた。]
「俺、別に健士郎がこういうの好きでも、気持ち悪いだなんて思わないよ」
(52) 2017/03/14(Tue) 02時頃
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[それを聞いて俺は、心底安心した。 ああ、なんだ、怖がることなかったんだ、と。心配して損した、と。 でも、そいつの言葉はそれだけで終わらなかった。]
(53) 2017/03/14(Tue) 02時頃
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「でも、隠されたことには失望した」
「だってお前、ソレってさ、俺がそういうのを気持ち悪がるような奴、って思ってたってことだろ? お前がそういう趣味持ってるって知ったら嫌うような、そんな奴だって、お前はずっと思ってたわけだ。 何でも話せる親友、って……そう思ってたのは、俺だけだったんだ」
「ちゃんと信頼されてる、って思ってたのに」
(54) 2017/03/14(Tue) 02時頃
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[思いもしない部分を押されて、崖の下に突き落とされたような、そんな感覚がした**]
(55) 2017/03/14(Tue) 02時頃
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― 現実世界のわたしの部屋 ―
[目を開ければ見慣れた天井。
ぼんやりと眺めているうちに四肢に力が戻ってくる、感じがする]
―――― さむい……。
[わたしの口から声が出る。
“さっき”、あお姉の持ってたカッターが喉に刺さったはずだったのに。ぐさっと]
………、!?
[飛び起きる。
申し訳程度にかけていた部屋用のストールがずり落ちるのにも構わず]
[やはり、どこからどう見てもわたしの部屋。
わたし達が閉じ込められた、いつもと違う校舎ではない]
帰ってきた、ってことなのかな……。
[それとも実は全部ただの夢?
ぴっ、と暖房の電源を入れながら考える。
やっぱり夢にしてはやけにリアルだった、と。
耳をさす色んな声も、メロンパンの味も、
ちよちゃんと手を繋いでいた感覚も、
カッターで刺された時の刃が肉を破る変な感じも、
マネキンが流していた血の臭いも―――]
[だから。
あの校舎(せかい)に置いてきてしまった者のことが気がかりでしかたなくなる。
どこにも行ったりなんてしない、って言ったのに。
わたしは嘘つきになってしまった。
ごめんね。そして、どうか。お願い。
誰かがわたしの代わりに、
ちよちゃんに傘を差し出してくれますように**]
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─ 回想:待合室 ─
そうだな。本当のこといって悪かった。
[指を突きつけた抗議>>526に しれっと謝罪にならない謝罪を返して]
はいはい。気をつけるよ。
[泣かせるといわれてちらつくのは幼馴染の姿。 だから、この状況は教えられない]
昴には、俺がここにいたこと内緒な。
[早く直るといいということには頷かずに 曖昧な笑みを浮かべて。 入間が会計に立つ寸前に、そう声をかけた*]
(56) 2017/03/14(Tue) 10時頃
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― 前日・渡り廊下 ―
[入間の推測>>2:536を頷きながら聞く。 暗いところが苦手そうだというのは 自分も考えたこと。
そして、那由多の言葉>>11に]
そうだな。 この場所は入間らしくない。 お前なら、俺らと一緒にいたいなら、 もっとまっすぐひねくれるだろ。 なんとなく、そう思う。
[頷いて、そういって。 話が一段落すれば入間の言うとおり>>537教室へと戻る]
(57) 2017/03/14(Tue) 10時頃
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─ 前日夜:3年3組 ─
[教室に戻れば寝る準備がされていて、 消えない明かりを暗幕で薄暗くしていて よく考えたなと感心する]
ただいま。
[ほっとしているような幼馴染に声をかけて。 教卓の食べ物からおにぎりひとつ。 飲み込むように口に詰め込んで。 あいてる寝袋にさっさともぐりこんで、 ベルトのとげころころと手のひらに転がしながら 疲れていたのかすぐに眠りに引き込まれた**]
(58) 2017/03/14(Tue) 10時頃
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―眠る前/3-3―
おかえりー
[>>58 無事帰ってきた様子に表情はほどける。 ざくざくと食事まで済ませてしまう様に、いつもの堆だと、そう思う]
おつかれさま、 …上、へいきだった?
[堆と、保田と、入間と――何処かから返事は在ったろうか。]
(59) 2017/03/14(Tue) 10時半頃
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―眠る前―
…ちょっと、行ってくるね
[自然、幼馴染の近くあたりに 寝袋を一つ、確保して。
寝る前に能久は購買やら家庭科室で必要なものを探しに行った。小麦粉や、卵や、ホットケーキ用のミックス、ホットプレート。 不思議なことに、泡だて器まで欠けずにひと揃い。 ここが文化祭だからかな、 と能久は思う。]
……ふふ
[ふと、パンケーキ作りを手伝うと謂ってくれた堆にメレンゲづくりを任せたら、腕がだるいと>>2:492ぼやかれたことを思い出す。 お菓子作りは体力勝負だよ、と笑って見せたのだったっけ――と。]
(60) 2017/03/14(Tue) 10時半頃
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[見て見て!■■■■、上手にできたよ!]
(61) 2017/03/14(Tue) 10時半頃
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――――、
[目を伏せて、閉じた。 すすり泣きが聞こえて首を横に振る。
道具と材料一式を 抱えて教室に戻っていった。 眠る皆を起こさないようにそっと机の上に置いた夜*]
(62) 2017/03/14(Tue) 11時頃
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―― 回想:医師の宣告 ――
[「検査結果をお知らせします」
目の前に座る医者が 張られているグラフみたいなものを指差した。
「非常に稀な症例ですが」
グラフの波線、それをたどる指を目で追う。
「――の――による――感覚受容器官不全です」
難しい言葉はよく聞き取れなかった]
(63) 2017/03/14(Tue) 11時頃
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[「つまり、皮膚表面の感覚が脳に届いていない、 認識できていない状態です」
医者の説明をよく聞くと 暑さ、寒さ、熱さ、冷たさなどの温感。 物に触れた触感それらが非常に鈍くなっているとのこと。
適切な服がわからなくて 体調を崩すようになったのはそのせい。
物を取り落としたり、 よく足を踏み外すのもそのせい]
(64) 2017/03/14(Tue) 11時頃
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[「このままではすべての皮膚感覚を失います」
選べる道はふたつ。 このまま、感覚がなくなることと いつか容態が急変することを覚悟して 感覚を増幅するための電気治療やリハビリだけをうけること。 もうひとつは。 血腫を取り除く手術を受けること。 だが、失われた分の感覚は戻らないらしい。 やはり電気治療やリハビリは続ける必要がある。 そして、この手術の成功率はかなり低い、ということ。
父も母もも自分で選べといった。 どちらでも、その選択を支持すると]
(65) 2017/03/14(Tue) 11時頃
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[どちらを選んでも、 すでに失われた分の 『触れる感覚』が元に戻ることはない。
周りにばれないように 歩くときは慎重に。 物を持つときは加減がわからないし 取り落としたことにも気づけないから なるべくしっかり力を入れて。 外に行くときは迎えに着た昴の服を見て 自分の格好判断するようにして。 そうして、"普通"の毎日を取り繕って 選択を先延ばしにしていた]
(66) 2017/03/14(Tue) 11時頃
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[もし、"自分"と"ほかのなにか"の境目が いつかわからなくなってしまうなら。
まだ、感覚が残っているうちに 終わらせてしまったほうがいいのではないだろうか。*]
(67) 2017/03/14(Tue) 11時頃
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―朝/3-3の教室― [8:50の鐘が鳴るすこしまえ。
能久昴は、早起きな方だ。 だが、床で慣れない寝袋では、疲れが取れにくい。 起きたはいいが、そのまましばらくぼんやり暗幕を見上げていた。]
……教室………
[ああ、そうか――と。 慣れた家の天井ではないことに、安堵と落胆と戸惑い交じり。 自分の胸に手を当てて考えてみても、この現象を生み出しているのが誰なのか―自分なのかどうかも―答えが、見つからない。 身体を起こして欠伸をひとつ。 外は相変わらずの、猛吹雪。]
……――、
[もう、起きているひとは居たろうか。 幼馴染は、いつもみたいにお休み中か。 寝袋から抜け出して、パンケーキを焼こうかな、という心づもり。]
(68) 2017/03/14(Tue) 11時半頃
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── 朝:3年3組 ──
[ 暗幕とか、カラフルな光とか、 穏やかとはいえない、白色の外の世界 とか。
非日常が多すぎて、朝日なんて見えない中、 目覚ましのアラームとは似ても似つかぬ、 チャイムの音で目を覚ました。
寝返りを打ちながら、音を止めようとして、 床の硬さとか、ストレッチのきかない服とか、 すすり泣くかわりに、どこかで 囁く声。 これは いつもどおり じゃないと気付く。
それから。 隣には、空になった寝袋>>41ひとつ。
……古辺?]
(69) 2017/03/14(Tue) 12時頃
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[ 見渡せば、足りないのは、古辺だけじゃなくて。>>68
ぽつん と、ひと雫落ちるように、 心の中がざわめいたのは、どうしてだろう。
いなくなったまんま、見つからない水野
それが、過ぎって、俺は、そうっと寝袋を抜け出す。
靴下のまま、教室の床を踏んで、 ひょいと、並ぶ寝袋のうちのひとつ、 その傍らに、しゃがんで。小さな声で。]
元賀、なあ 起きろ な ……古辺とか昴、いねーんだけど
[ ゆさゆさと揺さぶる── ことはしないけど、 起きろ と、不安を不機嫌そうな声に隠して、呼ぶ。*]
(70) 2017/03/14(Tue) 12時頃
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── 回想:元賀と、買い出し ──
[ 雑用のプロたる庶務と、暇人ゆえの使い走り。 元賀や俺が、おつかいを言いつけられることは、 そう、珍しいことでもなかった。
「 あれ足りない 」「 やっぱりこれもほしい 」
その日も、そんな言葉が湧き出て、 あちこちから買い物メモを受け取って、
その量がそこそこになりそうだったから、 俺は、元賀に声をかけた。 買い出しーって、何枚か重なったメモをひらひら。]
(71) 2017/03/14(Tue) 12時頃
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[ 買い出し つっても、 学校の近くにある、ホームセンターとかSCで、 メモどおり、買い物して、領収書もらって、 それを会計に提出。簡単なお仕事。
ただ、ひとつ、面倒なのは、
几帳面だったり、親切だったり、 よくわかってるやつは、 メーカーとか、色番とか、メモで指定してくれんのに、 たまに、そうしてくれないバカがいること。]
(72) 2017/03/14(Tue) 12時頃
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