266 冷たい校舎村7
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―― 七月の病室にて ――
[白一色……に近しい病室にて、>>876 七月はベッドの上に横たわっていた。 そこにマネキンのありさまをだぶらせて想起することはなかった。 彼女のそんな姿を見ていないせいだった。
だけど七月にとってはやっぱり、 あのマネキンがさいごだったんだ…… と、ほんのり思わずにはいられなかった。 とりあえず、ホンモノだってことを示すように、 ケーキの箱を持っていない方の手をひらひら振っておいた。 にっこり笑いながら]
(901) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 20時頃
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あ、……うん、わかった。
[病室の片隅にはこれまた白一色の冷蔵庫がある。>>877 そこからペットボトルを取り出している間に、 ふたりぶんの紙コップが七月にと手は手近な場所に並ぶ。 その時の彼女は起き上がってコップを並べていたわけだから、 心底、ほっとした。 だってずーーーっと、白一色の天井をみているなんて、 つまんなそうじゃあないか。星だってない。
……だから、余計、プラネタリウムの星空を思い浮かべたんだろう。 ささやかな光景もまた、イロハにとっての唯一だった。 願わくば七月にとってもそうであればいいのだけれど]
(902) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 20時頃
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えー。
[忘れちゃったのならたいしたことなかったのかなぁ、って。 煮え切らない思いも苦笑にかえて、 ペットボトルを持ってベッドのそばに戻ってきた]
(903) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 20時頃
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…………。
[変なことかなあ、って。>>879>>880 内心思って小さく首を傾げながら紙コップにペットボトルの中身を注いだ。
いくらか中身の減ったペットボトルを抱えながら七月の語る声を聞いた。>>881 ああ、そうか、と思ってたとはいえ、 聞いてるこっちもちょっとくらいは恥ずかしかった。 だから、チョコレートケーキを口にする傍らで、 イロハはまず紙コップを手に取って、中身でもって喉を潤した。 渇いたまんまだと言えないこともあったからね]
(904) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 20時頃
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…………「こんな私」とか言わないでよ。
(905) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 20時頃
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中学の頃とか、高校入ったばかりの頃は、 ……ヨーコちゃんの方にこそ、「彩華なんか」って思われてないか気にしてた。 だってさ、勉強の方じゃとりえなんてないし、 難なく、あたしの憧れの高校にいけるくらい頭よかったヨーコちゃんのこと、 うらやましかったよ。やっぱり。
でも、ヨーコちゃん、陰口叩くのがシュミみたいなやつらとは、 なんだろ、ずーっと、ちがってたから……、 あたしなんかの面倒見てていいのかな、って思ってたけど、 でも、結局、あたしなんかとでもいっしょにいてほしいって思ったから、 勉強も頑張ったし……、 コイバナもできた時は何だか嬉しかったし……それに……、
(906) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 20時頃
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[―――あたしは何を言ってるんだろう? 簡単なことだ。「なんで私と居てくれるの?」っていう、 問いに答えたいだけのことだ。
そんなの、特別な友達だからに決まってるじゃん、って。
彼女がひみつでやってたことについていろんな噂が飛び交っていたけれど、 真偽がどうあれ色々思ったことは大事じゃなくて、 どうやら色々手遅れだったことを理解した、 その時味わった何もできなさの方がずっと、イロハに大きなショックを与えていた。 ヒーローみたいな性質してないはずなのにね! だから]
(907) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 20時頃
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さっき、養くんのお見舞いに行ってきたよ。 お大事に、って言ってたし、 ちゃんと、前向いて生きてくって言ってた。
…………だから、 えぇと、 次はヨーコちゃんの番、 かもしれないし、
あたしからもお願いするよ。
これからも、 ともだちでいてほしいし、 道は別れちゃうけど、 ………お互い前を向いて歩こう。
[ずいぶんと消え入りそうな声で告げて――――……]
(908) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 20時頃
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あ、そのチョコのプレートみたいなのと一番ふわっふわなクリームのとこ、 どっちか好きなのもらっていいよ。
[こっぱずかしいのがダメになった、というか、 返事をもらうのがこわくなった、といいますか。 とにかく慌てて話題を切り替えてから、 ケーキの箱の中に入ってたフォークを包むビニール袋を開ける。 あらかじめフォークが二つ入っていたから、 こうやって分け合うこともできるのだ*]
(909) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 20時頃
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[よく晴れた、春の日のことだった。 イロハは荷造りに没頭していて、 ついでに部屋のなかも片付けていて、 そんな最中、小学校の頃に書いた作文を見つけた。
タイトルは「しょうらいのゆめ」 母みたいな強くてかっこいい女のひとになりたいと言った内容が、 こどもらしい文字で記されていた。
それを読んでいればいつの間に母が後ろにいたものだから、 びっくりして原稿用紙を投げつけてしまった。
申し訳なさそうに頭を下げて、それから]
(981) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 23時頃
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あのね、……やっぱりあたし、そこに書いてあることは叶えたいよ。
[お母さんをやめてしまったお母さんのようには、なりたくない。 それでも]
お母さんみたいなすごい流行の前線に立ってる人に、いつかなって、 でもお母さんとはちょっと違うってところを見せて、 それで、いつか素敵な人と出会って、結婚して、 お母さんにはできなかったことをやってやったざまあみろって言ってやって、 盛大に結婚式して、お世話になった人できるだけみんな呼んで、 で、貴女といっしょにバージンロードを歩く。
[途中からは作文の内容からまったく外れてるけれど。 まあ、これが今のイロハの夢だ]
(982) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 23時頃
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……って、いつまで部屋の中にいるの? こっちはだいじょうぶだから。
[七月のお見舞いに行った時もそうだったけど、 イロハは照れ隠しを躊躇わない傾向があるので、 薄く笑みを浮かべる母をそうやって追い出した]
(983) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 23時頃
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―― そしてまた季節は巡る ――
[いろいろと芸術系の学科学部を抱えるその大学にも文化祭がある。 文化祭という名のある種の発表会、といった方が近いか。 もっとも各サークルは屋台とかあれこれ好き勝手やっているが。
イロハの学科では当然のように服を作り、マネキンに着せる。 1年2年の時はある程度無難なものを作っていたが、 それも3回目、となった時、とうとう弾けてしまった。
「Weather Forecast」(天気予報)と題されたのは、 前面に晴天とひとすじの虹。背面に雨の落ちる曇り空の描かれたTシャツと。 前面に大雪の様子、背面に雷鳴すら轟く大雨の様子が描かれた長袖のブラウスのセットだった]
(984) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 23時頃
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[……せんせいウケは結構真っ二つだったらしい。 ままならないね、ホント。 ただ、撮影自由ってことになったそれが、 SNSでちょっとした話題をさらっているのを見た時は、 なんとなく、作ってよかったなぁ、って思ったものだ]
(985) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 23時頃
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[そんな、イロハなりのやり方で、見かけた世界を閉じ込めたシロモノを、 旅行鞄の片隅に畳んでおいて、 イロハは列車に揺られていた。 きっかけは、高校時代のクラスメイトから久しぶりに届いたメールだった。>>931 わあ、って感嘆じみた声をあげたものだ。 約束ですらない「またね」を連日交わすことはなくなっても、 どうにか、生きている。それはわかった。
君はあの時と変わらない笑顔を見せてくれるだろうか? くれる、よね?]
(986) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 23時頃
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[イロハの、ふたつだけの目がカメラのレンズを捉えている。 胸に、卒業生であることをあらわす紅白のバッジをつけて、 片手に卒業証書の入った筒を持って。 イロハは笑っている。
卒業式の後、>>926 そんな構図の写真を撮ってくれたのはやっぱり養だった。 文化祭の時みたいに、 掛け声は「はーい、チーズ!」だったかな。>>2:428 七月のこと引っ張り込んで、ツーショットをせがんだ一幕もあったかな。
ただ、文化祭の時と違うのは、 養のことも引っつかまえて一枚写真を撮ったことだ。 「はい、チーズ!」の掛け声とともに、いい笑顔をねだって]
(987) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 23時頃
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[いろいろと懐かしむような笑みを浮かべながら、思う。
とりあえず、久しぶりの顔出しも兼ねて、 実家に立ち寄ってから会場に向かうつもりだけど。 どうかお母さんとの話が長引きすぎて、 遅れることのありませんように!
イロハの思いがどうなったかは、 久しぶりに会った、*君たちならば知っている*]
(988) Akatsuki-sm 2019/06/23(Sun) 23時頃
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