191 The wonderful world -7 days of MORI-
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>>538 ……紀陸、君。 君達も無事だったんだな。
[声が聞こえた。向坂の相方。 昨日、名前を教えてもらった彼だ。]
こっちは少し、へまやっちまった。
でも、ミッション終わったから。 あと少しで……
[言いながら振り返る。 その時、彼はどんな表情をしていただろうか。]
(541) 2016/06/12(Sun) 23時半頃
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>>539
―――――………。
・
(542) 2016/06/12(Sun) 23時半頃
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[返そうとした言葉が、それ以上続けられる事はなかった。 動きの止まった身体。
>>543>>544 目の前で刃物の銀がきらめいても。 こちらに笑顔を向けられたとしても。 反応を、返すことはない。できない。
茶色の瞳は、虚ろな空洞のように紀陸の方を向いたまま
そして、彼の手が振り下ろされて――]
(553) 2016/06/12(Sun) 23時半頃
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[圭一の動きが止まる。 皆方を支えていた手が、急速にその力を失う。
皆方の身体に、彼自身のものではない赤い色が降り注ぐ。
少年の体は、ゆっくりと…地面に向かって崩れ落ちた。*]
(556) 2016/06/12(Sun) 23時半頃
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―失われた記憶―
この仕事をしている理由…ですか?
[そんな事を問いかけられたのは… 一体いつの事だっただろうか。 そんなに昔の話ではない。 目大成功に終わったイベントの企画が終了した直後。]
……そうですね。 世界を創り上げるお手伝いができるから…。
…って、少し気障な言い方でしたね。あはは。
[あまりされた事のない質問に面食らい。 つい、そのままストレートに伝えてしまった事に気づいて 照れくさそうに笑顔を向けた。]
(585) 2016/06/13(Mon) 00時頃
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[人から見る世界と、自分が思っている世界が違う。 それを実感したのは、高校三年の時。
それなら、意図的に望む姿を見せることもできるのではないか。 そんな考えを基にして、現在の好感度の高いイケメン。 北見圭一像が創り上げられた。
そして、更に転換があったのは 大学時代…アルバイトを通じて イベント企画の仕事に触れた時。]
(586) 2016/06/13(Mon) 00時頃
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最初に私が手がけたのは、なんてことのない…小さな遊園地の、小規模なヒーローショウの手伝いだったのですけど。
大人から見れば玩具のような着ぐるみで。 ヒーローの中身も臨時で集められた大学生ばかりで。
それでも、舞台を整えて…効果音を動きに合わせて。 そうしたら、信じられないくらい迫力のある場面が出来上がったのですよね。 もちろん、子供達も大喜びで。
こんな風に、楽しい時間を。 夢のような世界を創る手伝いができるのっていいなって…思ったんです。
[でも、ちょっと恥ずかしいので、他言無用にお願いしますね。 そんな風に相手には釘をさした。 失われた記憶の一つ。 日常の思い出。
北見圭一が対価として支払い…彼の消滅と共に失われる運命にある記憶の―――欠片。**]
(589) 2016/06/13(Mon) 00時頃
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―回想・とある春の日―
[――春。
それは別れと、出逢いの季節だ。
困り顔の鳥飼寿に引き取られたのも、
たしか、うららかな春の日だった。
朝に夕に、高らかに声を張り上げる。
大型インコに特有の雄叫び――
それが存外五月蠅かったからと、
気紛れな大家が飼育放棄したコンゴウインコ。
……それが、俺である。]
[前の主人は、好きになれなかった。
呼び掛けても構われなかったどころか、
飼い始めてすぐ匙を投げられてしまった身。
だから、新しい環境への期待は大きかった。
トリカイ、ヒトシ。
――どんな人なんだろう?
――たくさん、遊んでくれる?
――いっぱいお話し、してくれる?
――美味しいごはん、食べたいな。
――見て見て、僕って綺麗でしょう?
――君のためなら、綺麗に鳴いてみせるよ!]
[――ねぇ、ヒトシ。
ねぇ、ねぇ、
こっち向いて。
…僕を見て。
ねぇ、 ……ねぇ、ってば 、]
[ヒトシはいつだって、話半分だった。
ろくに耳も傾けず、視線はPCの画面に向けて。
うんうん、と形だけ頷いたりも。
最初のうちは、それで良かった。
反応を返してくれるだけで、嬉しかった。
けれど段々と、ものが解るようになって、
…その態度が、無関心の表れであると知って。
それが気に入らなくて、
さらに躍起になって気を惹こうとした。
結果的に、逆効果だったけれど。]
[春の終わりに、
俺は、寂しいという感情を知った。]
―回想・とある夏の日―
[それから数か月が経ち、
ヒトシとの関わりは相変わらず希薄なままだったが、
代わりに、絶え間なく流れる映像と音を得た。
話しかけても決して返事はくれなかったが、
それらは色々な言葉や、その意味を教えてくれた。
時間ばかりはたくさんあったから、
じっくりと、ニンゲンという生き物を観察した。
どういう時に、どんな単語を投げかければいいのか、
どうすれば、相手の――ヒトシの気を惹くことができるのか。]
[文字を読み、覚えた言葉を真似してみせると、
珍しくヒトシが笑顔を向けてくれた。
それが嬉しくて、また一つ言葉を覚えて、]
オハヨ!
コンチワ!
マタ アシタ!
[けれど、いつしかその言葉が向かう先は、
無機質なカメラのレンズとなっていた。
ヒトシ曰く、クスクス動画に投稿するとのこと。]
[それが何かは知らなかったが、何か下心がある気がして。
やがてカメラを向けられると喋らなくなり、
ヒトシは撮影をやめ、俺も新しい単語を口にしなくなった。
…つまりは、そういうことなのだ。
それが解ると、何だか無性に腹が立って仕方がなかった。]
[夏の終わりには、
俺は、反抗することを覚えていた。]
―回想・とある秋の日―
[それでもやっぱり、諦めきれずに。
あまり家に帰らぬヒトシが顔を見せれば、
今日こそはと、何かしら行動したものだ。
態度はだいぶ、可愛げがなくなって。
ストレスによる過剰な羽繕いも相俟って、
姿はなかなか、凶悪に見えていたかもしれないが。]
[リピート再生される幼児向けの教育番組はとうに飽きて、
この頃にはこっそり、テレビのリモコンを弄ったりもしていた。
…ヒトシが出掛けると足を伸ばし、帰る前には消しておく。
そうして観はじめた主婦向けの番組には、
これまでとは異なる種類のニンゲンが出ていて、
夫に邪険にされ、寂しく思う妻などにはかなり共感した。
ヒステリックに叫ぶ彼女達を見て、ふと思う。
――これを、ヒトシに問いかけてみたら?]
[半年も共に過ごせば、色々と理解できる。
ヒトシが日中、シゴトをしていること。
そのシゴトが大切で、そのために寝食を削る程であること。
テレビの中の夫達も大抵が彼と同じ状況にあり、
それで家に残された妻が、悲しい悲しいと泣くのだ。
件の問いかけには、二種類の答えが用意されている。
――“シゴト”か、“アタシ”。]
[おまえだよ、とすぐ謝るパターンは決して多くはないが、
それでも時折目にしたし、最後は幸せに締めくくられる。
大半の男はまず、シゴトだと答えてしまう。
けれどその場合でも、紆余曲折を経て最後には、
やっぱりおまえが大事だよ、という結論に辿り着く。
…つまり、この問いかけは。
ハッピーエンドに繋がるキーワードなのではないのか?]
[そう考え、ワクワクしながら帰宅を待って、
ドキドキ胸を高鳴らせながら、あの台詞を叫んだのだ。]
[驚いてこちらを振り向いたヒトシに、
キラキラと期待の眼差しを向けた。
ある程度辛辣な言葉が投げられるのは、
もちろん、覚悟の上だった。
働く男達の大半が、そうだったので。
一人でノリツッコミをこなして一見、上機嫌。
けれど続き、早口で述べられる答えはやはり、“シゴト”。]
[焼き鳥にして喰ってやる、という、
酷く恐ろしい、胸の潰れる、最大級の罵倒を受けて。
それ程までかと泣きたくもなったが、
どうにか涙は堪えて、じっと黙って見つめていた。
大量の餌だけを置いて、ヒトシが家を出る。
ここでヒステリーを起こしてはいけない。
黙って耐え忍び、風向きが変わるのを待て。
そうすればきっと、彼は振り向いてくれるから。
…物語の彼らはいつだって、そうだっただろう?]
[けれどそのまま秋も終わり、
俺は、諦めることを覚えてしまった。]
―回想・とある冬の日―
[朝晩が冷えるようになった頃。
寒いと抗議して鳴いたら、暖房が付くようになった。
光熱費が嵩むとボヤかれたものの、
南国の鳥であるから、そこは仕方がない。
いっそ人の身であれば良かったのに。
そしたらアンタは、もっと――
…そんなこと、考えたところで無駄だったけれど。]
[やがて冬も終わってしまい、
想い出も何もないまま、また、春が来た。]*
―ロスタイム:とある結末、その後―
[つぅ、と頬に温かなものが流れる。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、
ぼんやり滲んだ視界が飛び込んできた。]
あ、っれ、……
[――最後の記憶。
鳥飼に礼を述べようとして、鮫に喰われた。
はず、だったのだけれども。]
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