88 めざせリア充村3
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[ケイトがヤニクに話すのを聞く。
淡々と話す彼女の思惑がわかってしまい、
困ったなとため息をついて膝を曲げ、
ヤニクには聞こえないように告げた。]
……なぁ、お前らの性格を分析して、
レポートにしたのは誰だとおもってる?
一番近くでみてたのは、誰だと思ってる?
俺が何も知らなかったと思うか?
[それはケイトにだろうか。
それともヤニクにだろうか。
ただそう問いかけて、
できれば冷ややかな笑みでも浮かべて。
ヤニクがなにか言う前に、あるいは何かする前に。
さっさとそこから立ち去った。**]
[ケイトの言葉を聞きながら、彼女を全く知らなかったことを知る。
もっと弱いと思っていた。おどおどしている弱気な人だと。
彼女は色々な過去と、思いを抱えてここにいるのだろう、ヤニクよりもずっと。]
……言いすぎた。謝る。
[紺の眼を一度伏せてから、静かに謝罪する。
続けて人間でしょう、と問われた言葉には、首を横に降った。]
あんま、思ってなかった。
あいつらのせいとか、信じてないとかじゃない。
俺が、俺をヒトなのかどうか自信ねぇから。
[何年か前にここの研究所に来るまでは、ヒトとして扱われた事がなかったのでヤニク自身も自分のことをそう感じていなかった。
ここに来て、友人と言える存在を知って、ようやく漠然と意識できるようになって。
やっと過去形で言えるようになった。]
今、はどうだろな、わかんねぇ。
でも、バケモノとか神様とかじゃ、嫌だと思う。
したいことがあるから。
[言えば笑われてしまいそうな、小さな望みだが、ヤニクにとっては何より難しいこと。]
いなくは、なるなよ。
前も言っただろ、俺はどうでもいいやつの相手なんかしねぇよ。
……うん、俺にも皆がいる。
[頷いて、拒まれなければケイトの手をもう一度取った。
やはり小さい手を握り込む。
血に汚れていても、そうでなくとも、これから先に汚すとしても。
何度でも取ろう、と思う。
ミナカタの言葉が聞こえたのはその少し後か。
顔を強張らせて彼を見上げたが、なにか言う前に立ち去られた。**]
[謝る、と言われれば、少し目を見開く。]
いいえ。ヤニク君だけが、悪いわけじゃないから。
私も…言うべきではないことを、言ってしまったから。
ごめんなさい。
[拒絶されてしまうのではないかと。されてしまえばいいのかもしれないと。そんなことばかり考えていたのだけど。
…自分の行動は余計だったろうな、なんて思われた。
だけど、あんま、思ってなかったという言葉には。]
…私は「人間」だと、思うよ?
いや…此処の皆は、皆そう思ってるよ。
あとは、きっとヤニク君次第…なんじゃ、ないかな?その時がやって来れば、きっと皆一緒に喜んで、くれると思う。
[したいことと、と言われれば。]
…いつか、それが出来たときでも。言いたくなったときでもいいから。
それが何だったのか、聞かせてくれると、嬉しいな。
[そして、そのまま手をとられ。]
…ごめんね。そんなこと、言って。
ありが、とう。
[最期は少しだけ、語尾が途切れてしまったけれど。]
―― 制御室 ――
[扉は閉ざされている。
ポプラは擬似世界を構成するのに手いっぱいで、
こちらまで制御はできないということだ。
キーはあるため、中にはいる。
彼女の、擬体の姿をちらと見たかもしれないが
それは通り過ぎてカプセルへと。]
……守れなかった。
俺はまた、守れなかった。
[言葉を、贖罪として呟く。
ポプラはきっと感知できないぐらいの声。
それでいい。聞かせたいわけではない。]
……今回は綺麗に嵌められた。
俺のミスだ。俺の……甘さ、だ。
[呟きながらカプセルをなでる。
もう、ずっと開かないそこを。
中に眠るは白銀の髪の、小柄な身体。]
……お前、いつまでそうしてるつもりだよ……
[見下ろして、呟いて。
眼が開かないかといつも期待するも、
叶ったことは一度もない。]
……なぁ、お前は知ってたのか、ケイトのこと。
志乃の実験も、知ってたのか。
……俺は、何のために……
[残りの言葉はとても言えなく。
飲み込んで、もう一言だけ。]
――起きろよ、カリュクス。
[呼び名に彼女はやはり、答えない。]
そう思ってくれてっと、いいんだけど。
き、かせんのは……頑張る。
[ケイトの言葉は優しい。
嘘でも本当でも嬉しかった、彼女はどちらでも、あるいは答えがわからなくてもそう言ってくれそうだけど。
聞かせて欲しいという言葉には少し誤魔化した。
本当にできるかの自信がなかったから。]
おい、泣くなよ?
[語尾が途切れたケイトの顔を覗き込んで表情を確かめてから、どんな顔でも、もう少しそのまま。]
[掛けられた言葉こそ優しくて、...は少しだけ。泣き出しそうにはなった。
だけど泣くなよ、という言葉にはしっかりとした口調で。]
大丈夫。
頑張る、の?
...私でよければ相談とかなら。
[とか言いながら顔を覗きこまれて。]
いきなり覗きこんで、どうしたの?
[ちょっと頬に朱がさしたかもしれない。「先生」はその時には立ち去っていただろう。]
相談は、嬉しいけど……
[少し迷う。
迷って、どうすればわかりやすいだろうとか、そんなことを考えて――結局首を横に振ることにした。]
自分で考える。
いや、泣くんじゃねぇかと思って。
[違うならいい、とケイトの表情の変化には気がつかず、ミナカタの立ち去った方を見て険しい顔をした。]
[モニターの中の世界は進んでいく。
志乃とナユタの名前が黒くなっていて、よく見ればヤニクとケイトの名前も。
これが死んだという意味なのかと推定しつつ――倉庫の中を映しているモニターの一つに思わず立ち上がって駆けよって。]
……なくな、よ……
[声が震えた。
ケイトに聞こえていたかどうかには、気を使う余裕はない。
やはり言っておくべきだった。
ライジが敵にいることも、前線に出るなということも。
知っていれば回避出来たことも多いはずで、全て伝えておくべきだったのに――ヤニクの都合だけで言わなかった。]
ごめん――ごめんな。
[音声が絞ってあるのか声は聞こえない。
だからそれ以上は何も分からず、手を伸ばして画面の中の彼女を撫でるけれど、それは伝わるはずもなく。
ただ硬質な表面をなぞっただけだった。]
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