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[白衣を脱ごうとして、はたと気づく。
実験装置を壊されてはたまらないと、万全を期すために例の教師を排除し、クロフォードに差し入れクレクレメールを送ったのだ。
ここでラジオ体操の衝撃で実験装置を自ら破壊してしまっては、今までの苦労が水泡に帰す。
まさかそんなことやらかさないとは思うが、あらゆる可能性を排除すべきだ]
……うん、やめときましょ。
[ため息を吐きながら白衣を着なおしたが、端末に届いたメールに眠気が吹き飛んだ]
く、く、く、
くらりん……!
[クラリッサは、親友である。大事な大事な、唯一無二の親友である。
常日頃からそう言ってはばからないが、それはあくまでもこちら側からで、クラリッサの方から「親友」という言葉が出てきたことは、これまでなかったのだ。
きっと心で通じ合ってる! と思ってはいたが、実際言葉にされると感動ひとしおである]
いけないいけない。
[思わずくるくると喜びの舞を舞いそうになって自重した。
ラジオ体操レベルでなく実験装置を壊しかねない]
あとでプリンとなにか貰ってこようかな。
卒業前に一度は食べにいきたいもんね、元気になってもらわないと。
[大雑把に何が良いかと模索して少女はつぶやきながら歩く。
食事に誘う約束を卒業後もと考えるのは特別の言葉が心をくすぐったからか
アオイに課題の心配をさせてしまったことを思い出すと頬を両手で叩いた]
音声も治したんだから、心配させないようちゃちゃっと集めるよ。
分析データと情操の種類はどれだけあるの?
[端末が機械的に同種と分類したデータを揃えて数を示す。
サンプル数は集まりつつあったが十分な量には届いていない。
あと一日二日走り回れば間に合うだろうかと思索を巡らした。
——部屋に戻ったらラベルをつけなきゃな。
主観的反応で手に入れたデータと比べ感情を最初に分類するのは人だ。
ラベリングが正確にできて始めて高度な頭脳の研究開発スタートに立てる。
目指すはトリ=バイオインコのような自立型の頭脳設計だ]
状況は厳しいね。さ、いくよ!
[倍速で移動してまず知り合いのパルック部屋に突撃。
心配しにきたという嘘がばれてすぐに放り出された。
ならばとクロフォード以外の缶詰組教員への突撃は慎重に確認の体を装う。
……心がかなり痛んだ。
顔に出ていても悪い待遇を受けなかったのは、先生であったからだと思う。
学術区に補習で捕まっている生徒の声は忍び込んで収集。
少女は半日で学園艦の上から下までを倍速で駆け巡る。
ここまで動いた日は生まれてこの方なかっただろう。
一生懸命になるあまり降り掛かった異変に気づいたのは倒れた後だった]
ちょっと待って、シェル。目が霞む。
[部屋に戻り情報の分類をしていたが、画面がぼやけて作業にならない。
顔を洗おうとして立ち上がったら足に力が入らずに椅子から崩れ落ちた]
うぅ……痛い……。
[体勢を立て直そうとして、全身の節々が痛むことに少女は気づいた。
集中していて痛みにすら疎かになっていたとぼんやり分かる。
床を這ってベッドまで体を引きずろうとしたが、目眩がして倒れてしまった]
「マドカ………の!?——……!?……せんせ、せんせーーー!!」
[どれくらいたったか、モニカの声が聞こえて少女は目を開ける。
ぼんやりした意識のまま着替えさせられ、うわごとのようにごめんと。
養護教諭にも何かを聞かれたが質問も答えた少女の話も覚えていない。
誰かの手に支えられてベッドに横になった]
うん。
[頭を撫でる友人の手が冷たくて気持ちよかったことは覚えている
メモを貼った。
あぁ、まあ色々思うことがあったからな。
[そう言ってアイリス同様に頷く。
そして、自分の問い掛けに対して、やはり同じように心当たりが無さそうなアイリスを見て、もう一度頷いた。]
やはりそうだろうな。
アイリスはいい子だからな。
まあ、かと言って自分の事を我慢したり、我儘を云わないのはあまり感心しないが…。
…心配しないでも、帰ってこなくなるなんてことはない。
いつだってアイリスの所に帰ってくる。
[もう一度緩く微笑みを浮かべる。
これだけ素直に表情を出せるのはアイリスくらいかもしれない。]
…………はっ。
そう、返事よ。返事しなくちゃ。
[浮かれすぎて返事を忘れていた。はっと我に返ると丸椅子に座りなおし、返信を作成する]
To:くらりん
Message:
心配かけて本当にごめんなさい。
それに、本当にありがとう。
力になれないなんて、とんでもないわ。
くらりんも、いつでも相談してね。
くらりんがいてくれて、本当に良かった。
私にとっても、くらりんは大事な大事な親友よ。
[眠気も吹っ飛び、すっかりご機嫌になって送信した]
たとえ、時間移動や空間移動の先から帰る手法が無かったとしても、必ず帰ってくる方法を見つけ出して帰ってくるから心配はいらない。
[そういって、何かを察したかのような質問に対して返答をする。
そして、もう一つ、最後の質問には少しばかり困った表情を浮かべるものの、一度だけ目を閉じて、アイリスを見つめ返した。]
今の俺は好きだと、そうはっきり言えるよ。
……——ん。
[浮き沈みする意識の間で少女の耳は友人のくしゃみを捉える
張付く瞼をこじ開けて、重たく感じる布団をずらす。
背を持ち上げようとすると慣れない山登りをした翌日のような
痛みが全身にかかっていて小さく呻く]
大丈夫?
[モニカが少女に気づくのと少女がモニカに聞くのはほぼ同時だったか。
癒される気の抜けた笑みも今回は不安の残るように思えた。
アオイも熱に倒れたのだから流行病かもしれない。張付く舌で声を出す]
うん、ありがとう。無理しないで。
[今の体調だと粥とりんごはとてもありがたく感じる。
モニカが外に出た後、鉛の腕を持ち上げてコップを取って水を飲んだ。
熱を出したことで倍速薬の分解か代謝が早まったか、
動きが妙に遅くなっているのは副作用が出ている証拠だった]
[頬杖をついて実験装置を見守っている。だらしなく頬が緩んでいた。
何度も頭の中で反芻して、にやにやしてしまう]
ありがとう、って。
本当にくらりんは可愛いんだから。
[ここ数日、色々あった。婚約し、振られ、また元鞘に戻った……らしい。
いっぱい泣いたし、教師にも酷い目に遭わされた。
けれども]
うん、今日も、いい日だわ。
[いくらなんでも、もうそろそろ事件も打ち止めだろう。
そう願いたいものである]
我儘か?俺はアイリスの我儘を聞いたことがないが…。
[アイリスの言葉には若干不満そうに顔を顰めた。
あれだけ可愛がっているつもりなのに、それでもこの子は自分よではなく両親に我儘を言っているんだろうか?
それはとても嫌なのは、他の弟妹達と同様、いつでも頼って欲しいからだ。
しかし、顰めていた顔が若干引きつったのは、再生された自分の声を聞いた時だった。]
なんだってそんなものを録音する…。
[そう言いながら、続くアイリスの言葉にふと疑問符を浮かべる。
自由に動かない足を軽く引きずりながら、アイリスに近付いて頭に手を置いた。]
沢山子どもは作りたくはないが…、俺の幸せには、アイリスの幸せも勿論含まれているぞ。
そういうのは、俺だけじゃない、アイリスにだって言える事だ。
[震える声を聞きながら、おいで、と手で招く。]
俺がアイリスを置いていなくなるなんてこと、あるわけないだろう。
俺はいつだって、アイリス達の事が大好きなお前達の俺のままだ。
メールを。
[目を落とした端末の時刻表時を見て少女は慌てる。
クリスは忙しいはずだ、少女が倒れた今アオイが心配だった。
他の人に頼めるか分からないが報告だけは入れる必要があるだろう]
件名:なし
ごめん、熱出て動けない。
誰かアオイを見られない?
[少女は緩慢な動作で指先を操り文章を作成してクリスに送信する。
少女自体のことはまだ考えるだけの気力がない。
あるいは考えたくないの方が正解に近いのかもしれなかった]
メモを貼った。
[メールを送り終えるとまたぐったりと横たわる**]
あら。
[端末がちかりと着信を知らせる。
頬杖をやめて、メールを確認した。
文面に目を走らせ、眉を寄せる]
熱が出て、動けない……?
[薬の副作用とは考えにくい。熱が出るということはないはずだし、そもそも早すぎる。
となると、無理をしすぎて体力が限界を超えたか、風邪を引いてしまったのか]
大丈夫なのかしら……。
[体調が、というより、卒業が]
[マドカは、論文と研究がピンチといっていた。ハイリスクハイリターンな薬に頼らなければならないレベルでピンチだと。
それが、この段階で体調不良で寝込んでしまって、果たして間に合うのか。……間に合わない気しかしない]
アオイのがうつった……ってわけじゃ、ないわよね……?
[万一そうだとしたら謝って済むというレベルではない。
アオイは知恵熱だと思われるので、違うと信じたいところだ]
ふむ…。
[首を横に振られれば、またしても顔を顰めた。
頭を寄せてくるアイリスに、小さく笑みを浮かべれば、その頭を撫でながら肩を抱き寄せる。]
泣かなくても、俺はアイリスとの約束を破ったりはしない。
それにしても…最近は妙に馬鹿と罵られる機会が多いな。
[フィリップやクリス、そしてついにはアイリスにまでである。
他にも誰かに言われた気がする…。]
そこまで頑なに俺に我儘を言いたくないのなら、俺にも考えがあるぞ。
アイリス、俺の我儘を1つだけ聞いてくれないか?
[送信完了を確認すると、白衣のポケットに手を入れて、考える。
ゆっくり休むのが一番だが、そうできないとなれば]
解熱……?
ううん、それも……。
[この場合、優先すべきは体力の回復だと思われる]
やっぱり、ゆっくり休むしか、なさそうな気がするわ……。
[ゆっくり休んで体力を回復し、その後薬でドーピング(合法)して追い込みをかける。
遠回りでもそれに望みを繋ぐしかないような気がした]
[こくりと頷いたアイリスに向けて、笑みを浮かべる。
どちらかというと、いつもの優しい笑みではなく、意地悪を思いついたような笑みだ。]
じゃあ、俺の我儘だ。
アイリス……
[意地の悪そうな笑みを浮かべたまま視線をアイリスに合わせる。
それから、アイリスに頭を預けた。]
ちゃんと俺に、我儘を言いなさい。
まあ、薬があっても、託す相手もいないものね。
[マドカとの共通の友人といえば、アオイとモニカだが、アオイは寝込んでいるし、モニカの連絡先は知らない。
諦めて白衣のポケットから手を出す。頬杖をついて]
他のみんなはがんばってるのかしらねー……。
[薬を処方した人たちの顔を思い浮かべた**]
メモを貼った。
お前の兄さんは賢いから仕方がないな。
[馬鹿と言われたことを若干気にしていたようだ。
沈黙の間も何かを喋るわけでなく、トントンと背を叩く。]
そうだな。時間は有限であり、今の技術では未来に行く事も、過去に戻る事も出来ない。
そんな壁はいつかは取り払われてしまうだろうがな。
[それは、何に対して言ったことか?その言葉には僅かながら意気消沈の色が混じる。]
あぁ、結婚したら一緒に暮らすだろうが…。
アイリス達もまとめて同じ家で暮らすのだから関係ないだろう?
[きょとんとした表情で、そんな発言をする。]
あんな両親の元に大事なお前達を置いていくわけないだろう?
お前達が皆独り立ちするまでは、一緒に暮らすぞ。
[彼の中ではとても当たり前の事だと言わんばかり。
溜息まじりにそう漏らした。]
[泣き出してしまったアイリスへもう一度頭を撫でる。]
すまないな。
でも、ちゃんと言ってくれて、俺は嬉しかった。
クリスに?言ってないが反対しないだろう。
家族なのだから、気にしないと思うが…ダメなら説得する。
何度でも説得する。俺はどっちも選ぶぞ。
[大事なものだからこそ、どちらかを選ぶことはしたくない。
だから、どっちを選ぶとも、決して言わない。]
アイリス、さすがにそこまで馬鹿を連呼されると、流石に落ち込んでくる。
まあ全てにおいて完璧とは言えないが…。
[困ったように笑ってみせる。]
[何度も重ねられた馬鹿という単語も、今日だけで大分言われ慣れた気がする。
アイリスの忠告に、目を細めて深く考える。]
いや、まあ伝わってると思うが…。
いずれにせよ、話し合わないといけないからな。
[どんな風に伝えるべきだろうかと。
どうすれば全部伝わるのかは正直わからないのだが。]
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