158 Anotherday for "wolves"
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[そうして。 己の肉体が運ばれていく様に視線をやったことに気づいたらしい。 傍らのマーゴの仕種に苦笑し、彼女の目が本来の機能を取り戻していたのを、男はここでようやく確信した。 >>155腕の中にうずめ、こちらを見上げるマーゴに気づけば、ほんの少しだけ力のない笑みを]
……大丈夫だよ。 不思議な感じだが、まぁ。 お前さんのを見た時よりは、──よっぽどいい。
[笑みを作るよりも先に、頬に小さく口づけられ。 その感触に、ようやく微かに笑い返すことが出来た。 気を引こうとしたそれは、まさに成功というところで。
仕返しとばかりに、男もその白い頬にひとつ、キスを返した]
(184) hisetu 2015/05/26(Tue) 22時頃
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ん、どうした? マーゴ。
[返せば、ふと腕の中のマーゴが挙動不審になる>>156。 白かった頬に赤みが差して、視線がちたぱたと忙しなく彷徨う。
ふと、男は自分の死ぬ前の行動に思い至る。 腕の中からマーゴが逃げ出したのは、それとほぼ同時]
ああ、悪い、悪い。
せっかく見えてんのに、こんなの晒してさ。
[腕から離れ、肩を強張らせて向けられる背中に苦笑を向けた。 そんな謝罪をしながらも、あんなふうに赤くなってしまう反応の微笑ましさを味わえた喜びなんか持ってしまうもので。
馬鹿につける薬と、死者につける薬はないな。 なんて、薬屋だからこそ理解出来る呆れと一緒に衣服を抱えた。
それを纏う前。 もういいぞなんて言いながら赤い顔を覗き込みたかったのは、内緒の話。*]
(185) hisetu 2015/05/26(Tue) 22時頃
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─ マーゴの手を繋いでから ─
[こちらの照れくささは、どうやら悟られたらしい。 ひとつだけ洩れた、堪えきれないといった笑い>>157にそんなことを思う。
訊ねたリクエストに応えるマーゴが、もう一度と握り返す手。 それに頷くのは、彼女の手があることへの確認と、リクエストへの応。
重い音を立てる扉を二人で開いて、外へと向かう。 生きていた時に感じた、村に生きる人狼としての暗い未来から解放されて見た景色は、暫く目にすることを避けるようにしていた夕暮れの色。
それを見ることを避けていたのは、もしかしたら血の色を思い出させる色が空に広がって、心が潰されるなんて錯覚しそうだったからかもしれない。
いや、上を見る余裕なんてのがなかっただけだろうけど]
ああ、綺麗だな。 あかい空は、──綺麗だったんだな。
[マーゴが上げる感嘆>>158に、男は静かに頷いた]
(193) hisetu 2015/05/26(Tue) 23時半頃
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嫌いとか言われたら、潰された筈の心臓が変に騒ぎそうだ。
[見上げていた空から、こちらを振り向いたマーゴが笑う>>159。 それに眉を寄せて、少しばかりの不機嫌を滲ませて言って。 次に男が吐き出したのは、溜息]
俺なんかより、お前さんのがうんと綺麗だぜ。 惚れた欲目だけどな。
[腕を引き寄せた、黒い髪と黒い瞳の悪魔を装う少女に、溜息と同時にこぼしてやる。
夕焼けの空のおかげで、どうせ自分の頬なんて既に赤いだろうから。 だから素面で言ったように見えるだろうと、そう願って]
夕焼けの光り浴びた黒髪だって、うんと綺麗だよ。
[空の赤を受けて艶めいた、波打つ髪と。 楽しげに笑う少女に、眩しそうに目を細めて]
(194) hisetu 2015/05/26(Tue) 23時半頃
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[手を握った少女がくるりと回れば、紳士としてはいささかぎこちない仕種で、そのターンをきちんとエスコートした。
騎士なんて村の人々の中で言われていた男には、そのぎこちなさこそが似合うだろう。 騎士の手なんてものは、姫の手を取り、ダンスの相手を務めるように出来てはいないのだから。
そう出来ていない手でも。 伸ばしたいと願ったから。
だからきちんと握り。 指を絡め。
楽しげな少女の声に誘われるまま、影を失った二人は歩いていくだろう。
悪魔を装う少女の、楽しげな笑い声の赴くままに。]
(195) hisetu 2015/05/26(Tue) 23時半頃
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─ とある薬屋の帰還 ─
[村にいるひとおおかみ達が過ちを正すため、疑心にまみれて殺し合ったことを、薬屋を営む中年の男は知らない。
ただ、村へと帰る道の途中。 見知った常連の、ひとおおかみの娘の姿を見た気がした。 その連れは、薬を託したが許婚を死なせた本屋の誇り高き人狼な気がして、ダン・ラウシェンバーグはひとつ、重い溜息をこぼした。
どこか幸せそうに見えたのが、気のせいでなければいいと。
そんな願いを、村に続く道の中溶かしてゆく]
(211) hisetu 2015/05/27(Wed) 01時半頃
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[そうして男が村へと戻れば、共存をしていた人狼達が全て姿を消したことを知る。
友人だった学者 先ほど見た気がした花屋の娘 無力になった力を貸した本屋の長兄 時折配達に来てくれる、宿屋の本当ではないけど確かに息子だと呼べる青年 美味い料理を振舞ってくれた宿屋の主 その娘だった天真爛漫な風の精 薬に関しては、本業の薬屋よりも村人には信頼されていた医者 その家に住まう、猫みたいな黒い狗 本当に黒い獣を連れた、男の息子の友人 赤い髪の鴉と呼ばれたひとおおかみは、時折夜中に店である自宅の扉を叩き そんな彼と幼馴染みだったと記憶している、いつしか声を聞かなくなったラズベリー色のスカートをたなびかせた娘も。]
(212) hisetu 2015/05/27(Wed) 01時半頃
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[引っ越してきて以来、明るい声を聞かせてくれた隣の盲目の少女
その彼女の明るさに手を引かれたように、口数が増えていき、妙なお節介気質まで備わった、息子として迎えたひとおおかみ。
それらを束ねる銀糸の髪を垂らす族長も。
村に住まうひとおおかみは
あの世に逝ったり、姿を晦ましたりして、だれ一匹も姿を消していた]
(213) hisetu 2015/05/27(Wed) 01時半頃
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[ 薬屋の男は、息子も眠る墓へと膝を折り、そこに眠るひとおおかみ達へと祈りを捧げていた。
そうして、気づく。
眠る墓の中、今も村にいる気がする、死した者達の魂の色の数は、なんと『白い色』が多いことかと。]
──嗚呼、そうか。 前に留まってた村での騒動なんてなけりゃ、俺の目も役に立てたかね。
息子も死なせずに、済んだだろうかな。
[ 死した者の魂の色が視える、人間の薬屋は。
人狼である息子の墓の前で、騒動の結末を一人知り。
臆病な息子とそっくりな姿で、涙したという。*]
(214) hisetu 2015/05/27(Wed) 01時半頃
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[薬屋の男は、時折隣の家を眺めていた。
喪失を抱えながらも、家主のいない家を見つめていると、不思議と心が、ほんの少しばかり軽くなる気がしていた。
その理由は、なんとなく理解しているが]
たまぁに、夢枕にでも出てきてくれりゃあいいのになぁ。
[臆病な所のある息子が、隣の家に住む少女に心を傾けていたのを知っているから。
もし己が感じる気配が、死した魂達の幸福であれば。
男が知る、彼の大切な者の物語の結末は、結構救いのある*物語だ。*]
(241) hisetu 2015/05/27(Wed) 03時頃
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