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[続いて輪投げへ。今度こそはヒイラギにいいところを見せたいと意気込んで。]
見てろよ… 投げるのは得意なンだ。
いっつも猫に魚を投げてるからよ──── ッと!
[高く弧を描いた輪は、中段の商品を捉えて…すとん!と落ちる。
『当〜〜たりぃ〜〜〜。おめっとさん!』と店主に渡されたのは、片手サイズのクマのぬいぐるみ。
そういえば的を狙うことばかりで商品に意識がいってなかった。
無理やり渡されて思わず固まる。どうしようコレ…。]
………………… ほいパス。
[結局ヒイラギに押し付けた。]
[しばらく遊んで。
喉が渇いたのでビールを飲んで。ヒイラギが酒を飲まないなら、ノンアルコールの何かも買って。
なんだか子供に返ったみたいに遊んだ気がする。これもマーケットの魔力だろうか。
気がつけば一緒に居る緊張はゆるゆると解けて。
視線が合えば、最初に会った時よりも自然に笑みを浮かべられた…と思う。
やがて到着した舶来市。]
へーーーー いろいろあンな。
[装飾が凝っている万年筆。
複雑な色硝子のペンダント。
謎の亀の置物に、ヒトの形をした瓶の酒。
雑多な品物を無秩序に並べた店が、道の向こうまで連なっている。
だいぶ遅い時間になったので人通りは減っていたが、掘り出し物目当てのガチな客や冷やかしの観光客らで依然賑わいを見せていた。]
…なンか気になるもんでも あった?
[隣の横顔を伺う。彼はどんなものに興味を示すんだろう。
────商品よりも、寧ろそちらの方が気になった。**]
メモを貼った。
― 路地 ―
[舶来市。
そうだ、大きな市はそれだった。
彼はどこか気が急いているようだ。
こちらの返事も待たずに行こうぜと言って歩き出す。
自分もええ、と返事を返し、彼の隣で歩き出そうとする。
と、そこで、彼からそっと手が差し出された。]
え?
[それに気が付いて、思わず間の抜けた声を上げて彼の顔を見る。
彼は、はぐれたら嫌だから、とか何とか、ぽつぽつと呟いている。
次の瞬間、彼が自分の手を掴むように握った。]
…
[声にならない。
思わずこっちも彼から目を反らし、そのままひたすら早足で市へ向かって歩き続ける。
でも、暫くのあと、やっと早鐘をうつ心臓の動悸が落ち着いてくると、思わず苦笑して隣を歩く彼に言った。]
シーシャさん。
他の人から見たら、これじゃまるで、僕ら付き合ってるようにしか見えませんよ。
行きましょう。
[改めて、シーシャに微笑むと、2人で夜道を市場へと向かった。]
― 道中 ―
[しかし、である。
彼が魚の入った袋を持っているからだけだとは思えない。
道中、猫を見かけると、ほとんどの猫がシーシャに挨拶するように鳴き、そして中にはあのぶち猫のように足元にすり寄ってくる猫もいる。
彼も魚をあげていただろうか。]
シーシャさん…
猫友めちゃくちゃ多いですね。
[こんなに野良猫に懐かれている人間は、少なくとも自分は初めて見た。
一体普段、どんなふうに、何をしてここで過ごしているのだろう。
不思議に思いながらも、歩みを進めた。]
― マーケット中心部 ―
あ、まだそこそこやってますね。
[もう1時も過ぎようかという時間のはずだが、マーケットの中心部にはまだかなりの明かりが灯っていた。
その中でも縁日の遊戯に興味を持ったらしき彼が、駆けだすように向かって行く。
離された手を少し残念に思いながらも、自分も彼の後を追っていった。
まず彼が目を付けたのは射的だ。
しかし勢い虚しく彼の弾は的には全く当たらず、店主に笑われながらラムネを貰って嫌がらせのようにがりがり食べている。
その姿に思わず声を出して笑ってしまった。]
シーシャさん、凄い勢いで駆けてったのに、残念でしたね。
射的はこうやるんですよ…!
[と、中々遊戯にしては高い金を払い、銃を構えた。]
えっこれおかしくないですか?
[数分後、同じく笑われながらラムネを貰っている自分がいた。
シーシャはさらに、輪投げへと歩を進める。
彼が本当に夢中で、楽しそうで、思わずその姿を見ながら笑みがこぼれる。
と、彼は輪投げに成功し、何かを貰ったようだ。
無言で自分に近づくと、ぎゅっと何かを押し付けてきた。
小さなクマのぬいぐるみだ。
完全に要らないものを押し付けられている。]
はいはい
[もはや子どもの相手をする母親の気分である。
ぬいぐるみを受け取ると、自分のリュックへとしまった。]
[彼は疲れたのか、ビールを飲もうと言う。
自分も付き合って、缶ビールを開けた。
飲みながらも、辺りを見回しながら市を歩き続ける。]
シーシャさん。
[缶ビールを飲みながら、どこかの店をぼんやり眺めていた彼の名前を呼んだ。]
もう、舶来市ですよ。
[彼に微笑むと、少し灯りが多くなっている道の先を指さした。]
― 舶来市 ―
ほんと、結構色々ありますね。
[高いものからがらくたのようなものまで、市にはいろんな舶来品が展示されていた。
まだこれから祭りも長いからだろうか、市として開かれるのは今日だが、暫くは出店で売り続けるのだろう、物も結構たくさん残っているようだ。
見て回っている折、シーシャに気になるもの、を聞かれて、少し考えた。
そして、少しだけ来た道を戻り、少し高級な布製品を売っている出店へと向かった。]
これ。
僕がまだ小さいころに育ったあたりで織られたショールです。
僕、両親居なくなっちゃったんで、母方の祖父と祖母に育てられたんですよね。
内陸の山岳地帯で、川に沿って生える緑を山羊や羊が食む、とてもきれいな場所だった。
でも、今は結構紛争でごたごたしちゃって、別にそこで戦闘が起こってるわけじゃないんですけど、元々いた人のほとんどが街に降りてしまいました。
だから高くなっちゃったっていうのもあるんでしょうけどね。
[布を見ながら呟いた。]
ばあちゃんが昔織っていたのとよく似てる。
[と、何となくしんみりしてしまったので話題を明るい方へと持っていく。]
って言って、まあばあちゃんはもう死んじゃいましたけど、じいちゃんは今も街で元気にやってますよ。
自分も、就職したら国に戻るんで、高校大学と離れてたけど、また会う機会も増えるかな、と思います。
シーシャさんは、何か面白そうなもの見つけましたか?
[思わず人にはあまり話をしないようなことを話してしまった。
彼はどんなものが気になったのだろうか。
彼の顔を軽く覗くように小首を傾げた。]
― 朝方 ―
[そして、そんな時間を過ごすうちに、辺りは明るくなってきた。
もう、夜明けが近い。
さすがに、ほとんどの店の明かりが落ちようとしている。
一応流星群の祭りなのに、びっくりするほど星見てないな。と思わず自分で苦笑してしまう。]
シーシャさん。
[彼は何をしていただろうか。
名前を呼んだ。]
今日、ありがとうございます。
楽しかった。
でも、ほんとはこのお祭り、流星群のお祭りなんですよ。
それで、来週も、マーケットが立つんです。
来週、また、一緒に行ってみませんか。
それで、今度はちゃんと星見ましょう。
ちゃんと祭りを楽しまないと、ですよね。
来週も、こんなに夜遅くて大丈夫なら、ですけど。
[やっぱり気になるのは、彼の生活への影響だった。
自分は学生だからいいが…彼は大丈夫なのだろうか。
街の猫にやけに懐かれている彼、かといって、お金を持っていないわけではない彼。
いつもの彼が、何をしているのか。
それだけが、喉に刺さった小骨のように気にかかった。]**
メモを貼った。
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