159 戦国 BATTLE ROYAL
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[条件反射で抜いた太刀を鞘に納めて、鷹船の問いにこくりと頷く。]
鷹船の目には、雪以外の誰かに見えるの?
[見上げた緋色の瞳を猫のように細めて、ちょっとした悪戯な笑みを浮かべる。
まさか、男が藤の香に引き寄せられて現れたとは露程にも思っていない。]
鷹船こそ本物なのかなぁ?
[目の前の鷹船は、一見すると死人には見えない。
けれど自分だって生前と変わらない姿をしているのだ。
ここに居るということは、自分と別れた後に死んだのかもしれない。
ならいつ?誰に?
湧き上がる疑問は好奇心か、それとも戦狂いによるものか。*]
[花柳藤の手に刃有ろうと、得物は握らない。
この船路の意味を解してしまっているからだ。
それが悲しく、ただ強く拳を握った。
地上で対峙した際と変わらぬ花柳藤の姿に息漏らし
一歩、近付いた。]
鬼か夜叉か、と。
――……俺を模した姿を成して、何の得になる。
坊主の後光に目を潰し、
森の大熊に食われた敗軍の将の姿など。
[はははっ、と笑ってもう一歩。
これについては納得いく全力の負けだと
いっそ気持ち良く堂々と。]
ふふっ
敗軍の将っていうなら、この船に居るのは全員そうじゃないかなぁ?
ねぇ。
川を渡り終えたら、本物の鬼と合戦でもしてみようか?
[夜叉もまた鬼。
川を渡り終えれば、恐らくその先は地獄だろう。
にやり、と笑って鷹船に船尾の席を譲ると、とことこと八重の方へ近づきその手を引いて戻ってきた。
鷹船と八重の間に収まる形で、愛刀を抱きしめて水面に目を向ける。
場面は丁度、猫の爪が小太郎の胴を抉る瞬間だった
無残に引き裂かれ、血を流し倒れる小太郎の姿に微かに目を伏せる*]
かははは、うちはまず本物じゃよ、景虎や
[そう呵呵と笑いながら、夜叉の様な童の頭にしわがれた手を乗せる。
景虎に手を引かれて船尾まで歩み行けば、子供を見守る目で彼の様子を眺めるだろう]
天下のおおいくさは、もうすぐしまいじゃあ。
鬼が、合戦に応じてくれおるかはうちもわかりまへんえ。
やけど、それもそれで面白そうやのぅ。
[もし本当に、涅槃に鬼がいるならば、きっと自分の良き人も、呵呵大笑しながら鉄砲の大筒を今ぞ鬼へと向けていることだろう。
流れる水面の行方を、老女はただそうして眺めていた**]
黄泉の手前でも学ぶものはあるのね。
[八重の言葉は頭で理解できたとは言い難いが。
何となし、胸に落ちるものはあった。]
[窓から聞こえる声の数が増えている。
この船に人が満ちる頃には彼岸に辿りつくのだろうか。
二度と見られなくなる前に、あと一度此岸を目にしておこうと膝を伸ばし出た甲板。3つ並ぶ中央の白に目を見張る。
獣を名に飼い、夜叉として戦場を舞っていた子も三途の渡し船に乗ったのか。
愛刀を抱いて川面を見つめる姿に声はかけず、反対側の船縁から視線を落とした。
水面を覗く頃には戦は幕引きに近づいていただろう。]
[呵々と笑った八重の手が頭に触れて、驚いた猫のようにぴくりと動きを止める。
人に頭を撫でられたのはいつ振りだろうか。
驚きが過ぎ去れば、嬉しそうにふわりと目を細めて笑い。
八重の手を引いて船尾へ戻る。
関ノ原の戦は、西軍の惨敗で終わる。
その結果は奇跡でも起こらない限り覆らないだろう。
八重の言葉にこくりと頷いた。
もしかしたら、話しに聞く件の魔王が先陣を切って合戦の真っ最中かもしれない。
所詮は戦の中でしか生きられない鬼の子だ。
ふと船板の軋む音に顔を上げれば、こちらに背を向けて船の反対側から水面を覗く伸睦の背。
声はかけず。
再び水面を見つめながら、太刀の鞘をぎゅっと抱きしめた。*]
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