267 【突発】Sanatorium,2880【RP村】
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だから─────
せんせいが随分高いところから見下げてきても
僕はそれを陸地と深海や、天国と冥府みたいに
あたりまえに遠いものとしか思えませんでした。
慰めや温かい言葉は求めていなくて、
死ねば無であることを確かめることは出来た。
消えてしまったら二度と見つかることもなくて、
遠退いたきりの視線と同じになるのでしょう。
だって…せんせいは生きていて、
脆くなった僕はもう、きっと…消えてしまう。
いつか…列車に乗り込んだ僕を、
見送ってくれたひと達がいた筈なのに
あのひと達がどうしているかわからないように…
せんせいもきっと、そうなってしまうのでしょう。
冥府に行くときはいつだってひとりだから。
もうあえなくなるひとの言葉に、
僕はどう返していいのかわからなくて
手当てを受けるあいだ、僕は無言でした。
いつもより更に冷たくなった体温は、
グローブ越しにせんせいに届いたでしょうか?
漸く言葉を返せるようになった時には…そう、
夏でもないのに帰らなくては、と考えていました。
・・・・・・
「 硝子人間ならきっと、
波に揺られていつか手紙を届けます。
瓶に青白い硝子の破片を入れておくので、
それが目安になるでしょうか?
氷のように冷たいそれは、
僕の心臓ですから、……冬になったら
朝、白くて柔らかな雪の下に埋めてください。
そうしたらきっと ────── 」
( きっと…… ?
まるでその先があるような言葉を
僕は何故せんせいに言ったのでしょう )
冷たい■の中に眠って、帰ることが出来たら。
新しく巻かれた包帯を透けた指先で撫でながら
お願いをしたのはその時でした。
手記に書かれたいつかの時にも、
せんせいは同じ反応をしたのでしょうか?
忘れてしまった僕にはわからないけれど…
あんなことを言われるなんて思わなかった。
・・・・・
僕もきっと、
砂のように崩れた女の子のように
いつ■んでも…それこそ、明日でもおかしくない。
スープを食べようとして突然、…
あんな風に僕の終わりが訪れてしまうなら、
今すぐにでも帰らなくてはいけないと思った。
だけど、どうしても眠りたい理由を
せんせいにどんな風に説明していいかわからずに、
口籠った僕に澱みも濁りもない言葉が続く。
「 せんせい……
どうしてそんなことを言うんですか? 」
いままで、せんせいと過ごして
こんな風に困ったことはあったでしょうか?
きっと僕は隠すことなく眉を下げていたけれど
せんせいの求めに応じて腕を差し出しました。
欠けないように手袋をはめるよりも、
絵を描く方がきっと……きっと、■しいからです。
せんせいがそのまま色を塗っていくなら
僕はずっと、その様子を静かに見ていましたし、
気が変わって手袋を探しに行っても同じこと。
それは他の人からすれば■しいのかと問うほど
静かで、温度の低いひと時だったでしょうが
───── ■ぬのが恐ろしくなりました。
それでも僕はせんせいに感謝の気持ちを捧げ
穏やかに笑いかけていたでしょう。
冷たい■の中に横たわる事が出来なくても、
何故か眠くなかったので、そのまま一つの夜が
空から帳を取り去っていくまでを過ごしました。
時々せんせいが指先に施してくれたものをみて、
■しさと、裏腹の恐怖が広がるのを感じながら。
せんせいの冷たさまで、
僕にはもう…耐えられないのでしょうか?
何かが小さく爆ぜるような、
或いは何かが張り詰めていくような、
ぴき…、と小さな音が包帯を巻いたところから
段々と連続していって響いたのをきっかけに
そう時間を置かずに、全身に行き渡りました。
僕の全身に罅が入っていなければ
鮮明に “ 向こう側の景色 ” を透かしたでしょう。
雪をまぶしたような磨り硝子ではなくて、
冬の朝に湖に薄く張った氷のようになった身体が
心臓の青白い光を衣服の隙間や全身の小さな罅から
漏らし、陽射しを避けた部屋を青く照らす様は
洞窟に入った光を海底から反射するようでした。
せんせいはいたでしょうか?
透明になって消えてしまう “ 硝子人間 ” に、
本当の■■さまが迎えを寄越すのを感じとって
…………
いつも近くで付き添ってくれていたあの存在に
さいごにひとかけら残したくなっていたのです。
なくなるのだから、その行為に意味はないのに。
こんな世界の中でも生きていく理由より
残すひとかけらの方がきっと思いつけたのに。
せんせいにとってただの数字でしかなくても、
僕にとっては違う…そんな温度差があった。
・・・
もしもせんせいが近くにいたなら、
今にも砕けそうな身体を伸ばそうとしました。
グローブ越しでも僕から触れてみたかったのは、
もう随分と■めていた心のように思います。
だけど、
陸地に打ち上げられた海の生き物は
自分自身の重さに耐えられなかったり
海に比べて高くなる体温で■ぬそうなので、
僕の腕も同じくように割れてしまったかも。
倒れてしまったのか、別の音なのか
ガシャン、と軽くて耳障りな響きと共に
暗いところに沈んでいった意識と視界は、
その先の出来事を僕から隠したのです。**
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