246 とある結社の手記:9
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[それでも、]
[人狼だとかなんだとか、そんな不確かな話で、
村がざわついている間。
通報は、──誰にも、しなかった。]
[彼女を、大切に思っていた。
そのせいだったかもしれない。]
[それとも、
あの涙を見てしまったせいか。]
[答えは出ていない。ただ、少し。
少しだけ、──彼女については。
人狼として抱えるものに触れてしまったのが
きっと、それがだめだったんだろう。]
[彼女は気まぐれなのか、黙っているなら構わないと思ったのか、自分のことを襲うことはないまま、時間だけが過ぎていった。
村の人間には、深くかかわらないようになった。
表面だけ、愛想をよくして。
深いところには、なるべく触れない。
そういう生き方になった。
───そうしてたまに、人がいなくなったと
そんな噂話を聞くようになった。
そうして17になるころには、幼馴染だったうちの片割れのひとりも、いつの間にか村から消えていた。]
[多分、──たぶん。彼女は、今でも。
少しばかり泣いたりもしながら、
──人を、食べて生きてるんだろう。]
[宿屋の主人に、人間じゃない残念だといわれても、曖昧に、笑うしかできなかったのは。
人殺しを見逃した自分だって。
他人の死を許容したって意味では、
人殺しの、同罪だと思ってたからだ。]
[人間は嘘を吐く。大事な人を庇う。
他の誰がどこか死んでたって、
そんなのは見てみないふりができる。]
[ ぐゥ と、喉が鳴った。]
[だから、イヴォンの行動にも、
──自分が真っ先に気づいたんだろう。]
ぅ ぇ
ぶ ァ …ッ
[せりあがる気持ち悪さに、半開きの口が震える。そのまま口は『中身』を吐き戻した。丸めた背中が痙攣する。]
[いたい]
[苦しい]
[もう楽になりたい]
[──許して]
[許して、助けて、殺さないで!]
[ああ! だけど、だけどだけどだけど!]
[この痛みは、苦しみは!]
[オレが今まで、
見ないふりをしてきたものだ!]
[許して? 助けて? 殺さないで?]
[そんなの、何十回、何百回。
これまでに食われてきた人間が、
そんな思いを抱かなかったなんて。
そんなことはありえない話だ。]
[ああ。だって、だって。]
[だって、こんなに
熱いのにさむくて
苦しいのに息が吸えなくて
目の前が真っ暗で脳髄が、黒に押しつぶされる。
寂しく寂しくて──
黒い沼の落ちるみたいに、怖いのに。]
えっぐ。えぐ。パディ゙ぃ゙。
兄ぃが。こわいか、お。ぐすっ。
[
けれど、ピスティオの怖い顔をさけて、縋る先のパティは、いろんなことで精一杯でした。初めて聞いた、いとしのパティの大声に、おとこのこは心底、びっくりしてしまったのです。
]
ひっく゚。
……ゔあ゙あ゙あああああん!!!
あ゙あ゙あああああ、っーわ゚あ゚ああああああああああ!!!
泣きました。吠えました。大好きな人が怖かったせい?もちろんそうですけれど、それだけではなく。
[大人達のお話を、しっかり聞いていたから。人狼にころされた、かわいそうな、小さな子供の――]
あああああっ
おれっ、おれっ…。しんだんだ!
やだぁああああ!
[げんこつをふりまわすと、テーブルの酒瓶をするする通り抜けます。大きな声で暴れても…
だあれも、いやなかおひとつ、しないのです。
]
ころんで、ばたばたして、…やがてつかれて、おとなしくなるでしょう。
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