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― →自宅 ―
[コツ、コツ、コツ。]
[音が響く。]
[コツ、コツ、コツン]
[喧騒の中を、縫うようにして村外れの方へと。
教会の方で騒ぎが起きているせいか、
村医者の住居のあたりは、閑散としていた。
がら、と――いつものように
戸を開くまねをしたが、実際は開いていない。
見えていないかのように
そのまま自宅へ足を踏み入れた。]
[――昨日は何をやっていたんだっけ。
そうだ、クラリッサに頼んでいた草を
そろそろ取りに行かないとと考えていた。
このまえ化膿止めもあげてしまったから
ストックがない。作らねば、と考えていた。
次第に昇りだす朝日に、照らされる室内。
机に転がる仕事道具。
本に挟まれた栞の場所。
壁の染み。
猫が飛び出していったであろうベッド。
そういったものが静かに朝陽に照らし出される。
何一つ、変わりはしない。]
[朝食を作っていない。
どうせ、いつ帰ってくるかもわからないが
まあ、ひもじいのは嫌だろうからな――と
鈍く光る包丁を取ろうとして]
[ ――どんどん、と扉が叩かれ開かれる。]
「スティーブン先生!」
なんだい
「教会の火事で――」
ああ、あそこで死んでるの僕なんだぜ。
笑えるだろ
「……くそっ、いないのか!こんな時に!」
……怪我人は……?
「薬屋に――」
( …………、 )
なるほど。こりゃあ、悪趣味だ。
[ 包丁に触れる。
銀の刃は、影を傷つけることすらなく。
確かに「ここにいない」という
現実を、影につきつけていた。]
[ゆらと振り向いた娘の目に、この身は映ったろうか。
ひょっとしたら見えていないのかも知れない。
そんなこともあるだろうと、男はひどく納得していた。
何故未だここにいるのか。
願いは叶えられて、全ては終わったのではないか。
分からない。分からないまま、娘の視線の先を追う]
( …───、ああ。)
[やはり見えていない。
いや、ひょっとしたら娘の方が、己の幻想なのかも知れない。
他者の夢を覗くように、或いは古い過去の夢を見るように、
遠い昔の食卓がぼんやり向こうに姿を見せるのだから
[向こうに見える、あれは幼い日のメアリー。
グレッグはもう随分と馴染んでいて、
メアリーと並べば、丁度年の離れた兄妹のよう。
今よりおさない印象の黒髪の娘が、遠慮がちに笑っている。
暖かな、───遠い日の風景。
男は目を細めて少しの間、じっと幼い従兄妹を見つめていた。
そして俯きながら…涙を堪えるようにしながら、
塩に手を伸ばす黒髪の娘へと目を向ける]
… マーゴットや、
[音は音になっただろうか。
かふりと、喉の穴から抜けて消えてはいないだろうか。
男は知らない。
淡い夢に手を伸ばした時、
男もまたかつての幻想の姿を纏っていることに]
[懐かしい夢、あたたかで優しいスープ。
それへ手を伸ばして、俯きがちな娘へと差し伸べる。
…ああ、この子はまた、寂しいのかも知れない。
甥も、ここに来たばかりの時はそうだった。
無理もない、両親を亡くして一人ぼっちでここに来たのだ]
………、そら、
[ぬくもりを手渡すように、手を差し伸べた。
──── パシン。小さく、夢の弾けるような音がした*]
[くる、とローブの影を翻し、自宅を出た。
再び歩いていく。
村の中央にある教会から燻る煙。
空に溶け込めず、穢い色をしているように見えた。
道中、金色の髪が見えた。
その隣に立ってみる。]
………。
[眼鏡のような影を直す仕草。
それから、笑うように肩を揺らし、
拳を一度握って震わせた。
「生きてたら一発ぶん殴ってる」とでも言いたげに。]
そんなんでどうする。
大丈夫、
大丈夫。
……君は強いよ。サイラス。
[その拳を解いて、サイラスの背をとん、と叩いた。
どうにも、彼が一連の犯人だと思えない。
――否、そもそもこの影は、生きていた頃から
あまり強く人を疑えぬ性質では、あったのだが。
何はともあれ。
今は一人たつ彼の背を、応援するように再度叩いて
またどこかへと歩いていく*]
【人】 手伝い クラリッサ[配達の時に浮かべていた笑顔はそこになく (121) 2015/05/18(Mon) 00時頃 |
メモを貼った。
【人】 手伝い クラリッサ[言葉は途切れ、瞳は揺らぎ。 (128) 2015/05/18(Mon) 00時頃 |
【人】 手伝い クラリッサ[ メアリー… (129) 2015/05/18(Mon) 00時半頃 |
メモを貼った。
………おとう、 さん?
[ 幻のつづき。 メアリーの、だとか いろんなものが
目の前からパァンと散って、出たことば。
しあわせな”かぞく”のイメージを纏ったままの 彼が
私の目の前にかたちをなして。
払った腕は ふるえながら
触れた なにか を探して彷徨う。]
ねぇ ……わたしを呼んだ?
[ 聞こえた”わたしのなまえ”
それにすがるように 触れるように 五指は掴む。]
[ 夢の中でも構わない。
深い皺の刻まれたゆびを握って引き寄せて
あの日の優しい「おとうさん」を見上げる。
ああ、おねがいだから ]
ねぇ ……わたしは、居ますか……?
[ ゆらいだまんまのわたしの形を、ください
いばしょを ください
あのう、暫くお世話になっても良いでしょうか?
――宿屋で彼に求めたわたしの居場所は
まだここにあるだろうか。 ]
メモを貼った。
メモを貼った。
[ああ、やっぱり。この子は泣いていたんだ。…心の中で。
心細げな顔をしていた。
メアリーやグレッグらと親しくなって、次第に笑顔が増え。
そんな様子を暖かく──見守っていた日もあったのだ。
大切なものを喪う痛み。
この家では、誰しもがその痛みを抱えていた。
けれど──…、いや、だからこそ。
この”家族”は黒髪の娘を、家族のように迎えられたのだろう]
……、ああ、
[おとうさん。その呼びかけが、すとんと落ちた。
大切なもの、喪いたくはなかったもの。
緩やかな狂気を引き止め続けていたものに、それは良く似ていたから]
[探すように伸ばされた白い指に、皺じみた指を絡める。
握れば、こんな時なのに暖かさを感じた]
…────、
[つきり、痛みを覚える。
男の狂気は、この娘を見殺しにした。
彼女がここにこうしている責任の一翼を、男は担っている。
分かっている。だから本当は資格などないのだ、分かっている。
こんなことで許しを得たいわけでもない。……ただ、]
[ただ。幼子めいて伸ばされた指先を。
存在を問いかけて、泣いている魂を。
そのままにしておくことは、出来なくて]
だいじょうぶ。
君はここにいるよ。…だいじょうぶ。
…──── ほら。
こうしたら平気だろう?
───… マーゴット …
[最後にもう一度、ちいさな彼女の名を呼びかけて。
ここにおいでよ。ここに住んでしまいなよ。
明るく子どもたちが笑って、男が頷いたあの時のよに。
この娘の涙が止まればいいとだけ、今は本当にそれだけ願って、
幼子にするように、柔らかな黒髪をとんとんと優しく撫で続けた*]
【人】 手伝い クラリッサ―─ 翌朝/自室 ―─ (162) 2015/05/18(Mon) 01時半頃 |
【人】 手伝い クラリッサ
(164) 2015/05/18(Mon) 01時半頃 |
[ 掴むことが叶った手。
( ……ルパートさん…! )
詰まった喉が、ことばを遮る。
わたしは 彼が痛みを抱える理由を知らないけれど
家族のように接してくれた彼の手から
どこか なにか 恐れるような そんな違和を掬う。
けれど まだまだただの子供のわたしは
かけられたあたたかい言葉たち
音もなく吸い込まれて、覚束ぬ呼吸を整える。 ]
るぱー と、さん……… ……ありがとう…。
[ 視てくれるひとが居た安堵と。それが
誰も知らぬ街で、まず心許した「おとな」だったことに
わたしは彼の胸中も知らず、
頭を撫でてくれる優しくて大きな手に甘えてしまうんだ。]
[ ……どれくらいそうして貰っただろう。
近づく力ない彼
躰を震わせる。 来ないで欲しいとおもうほどに
声はあるのに触れられない、視てもらえないことが
つらい。
けれど。 それもサイラスが生きていてくれるからだと
そう自分に言い聞かせて ルパートの腕に額を埋める。
声の方へ手を伸ばしてしまったら 多分また
目からしょっぱいものが流れでてしまうだろうから
両手はぎゅっと 触れられるひとの腕を握って。]
ルパートさん。メアリーもきっと泣いているよね。
[ 彼に触れられるということは ………たぶん。
さっきすれ違ったメアリーの”おと”を思い出す。
慰めたいひとを慰められないことは、きっとわたしより
彼のほうがつらいのではないかと。]
【人】 手伝い クラリッサ―─ →花屋 ―─ (178) 2015/05/18(Mon) 02時頃 |
なにもできないのに傍に居たって、いいですよね。
[ 遠ざかる、わたしを抱えたせんせいの足音。
もっと早く遠ざかる、大好きなひとの足音。
伝えられないことに慣れないといけないな と
心のなかで薄く自嘲して
わたしはそんな問いを ”父親” たる人へ投げ。]
だから、行ってきます。 …ありがとう。
[ 両手をおなかに添えて、丁寧なお辞儀。
勝手でも、なんでも。
わたしは貰った大きな勇気と決意を足に乗せ、
ほんのすこうし わらうことができた。*]
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