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[ ―― 英雄になりたかったわけじゃあない。
戦神にも、天使にもなりたくなかった。 ]
[ ただ、狗を飼ってくれる飼い主がいれば。
猫のように、人々の輪の中で暮らせれば。
ほんとうは それでよかった。
ほんとうは それがよかった。
必要と、されたくて、
構ってほしくて。
ひとりがいやで、
ずっと ずっと 逃げてきた。 ]
( やっぱり、あの数寄者の
鴉を連れ帰ってやれば、よかったかなあ )
[ は。 ]
[ もう、わらえない。 ]
[ 苦手だったあの空気を求めるのは、
ひとり 潰えるのが嫌だったから。
―― 天はそれを見透かしたように
北を向く ちっぽけな狗を見棄て。]
[ 星は、墜ちる。 *]
[ ――― 、
懐の柘榴石を握ろうとして、
ちからつきた けものの手のさき。
零れてしまった 赤いガーネットは
決して もう、届かない。 * ]
メモを貼った。
メモを貼った。
─星が、消えるまで─
[星が墜落するような、一閃。
肩に感じた痛みなど、それは『慣れていた』もので。
それよりも痛いと感じるものを最後の最期まで隠しながら。
私はくすくすと、ころころと笑い続けていました。
模造品の鈴の音が、高く高く転がります。]
茶番?
そうね、茶番劇だわ。
私がこうして生きていることも。
あなたがこうして生きていることも。
人と獣が手を取り合って生きることも。
[饒舌に語る私は、語り部の魔女として相応しかったでしょうか。
私は にも、 にもなれないのだから。]
[多くを語る瞳の色をして、多くを口にしない彼が
壊れたように笑い声を上げています。
狂った姿はまた、獣のそれに逆戻り。
まるで気分を逆撫でされた猫。
いいえ、大切な玩具を捨てられて噛みつこうとしている犬みたい。]
あら、『人間』だなんてやめて頂ける?
一度だって、私は私を『人間』だと思ったことなんてないわ。
『ひと』なんて脆いものじゃないの。
私は『人狼』。
[螺子のとんだ歯車を、ギシギシと加速させるように。
言の葉の手で回しましょう。]
[上る三日月。
まだ明るい空の下、答えられる声に、私はふうわりと笑います。
まだ続くと思っていると、思わされている仔犬。
彼は、彼らは知るはずもありません。
「お遊戯はおしまい」、そう謂った私の声なんて。
それから見えるのは断罪風景。
黒き獣の手が、私の命を奪っていきました。
『こころ』を奪われたのなら。
もう、痛みなど、感じないでしょうか。]
[たじろぐことも、逃げることもなく。
降りかかる獣の一閃を受けとめて。
ぶつぶつと古びた縄が引きちぎられるように心臓を取り出されてしまったなら。
流石に立つことはままならず、その場にぐしゃりと屑折れて
血濡れた服が、スカートが
鮮やかなラズベリーの色に染まっていました。
模造品の鈴が、小さく小さく鳴っていました。
こふ、こふ、と。
上り詰める血を口端から溢しながら。
最後の最期に伝えてあげましょう。]
『憎き魔女人形から核を奪った
瑕だらけの健気な仔犬』
そっ ちの、ほ うが
ぴ 、ったり ね?
[仇を打つなんてこと、私が知るあのお医者さんが望むとも思えませんが。
飼い主を奪われて牙を剥く、愛らしくさえあるその仔犬に。
私はただ、くすくすと笑って謂いました。
魔女人形は、憎まれ殺されるべき『役割』。
主演なんてつとまらないのだから。
仔犬を主にするように。
題名をそっと、塗り替えて。]
[そこからの記憶は、淡くなっていくばかり。
光る何かを手にした彼女が、彼に襲いかかっていたでしょうか。
流れる赤が、紅が、あかが。
血だまりの地べたが、遠くとおく。
『みんな』の声もまた、掠れ。
私は消えてしまう間際。
右手を喉にそっと添えて。
音もなく口を、はくはくと。
ただはくはくとさせておりました。
誰にも届かぬその声に、
誰かが『泣いて』くれたように思います**]
メモを貼った。
[ わたしが。せんせがカビないように
空気の入れ替えをするはずだったのに
…… うん。
[ なんにも言わずに包んでくれる手のひら
わたしのこころの良くないものを、少しずつ覆い隠して。
たすけて、と 求めた救いをただあるままに受け止めて
吸い取ってくれるこのひとは
(こころは専門外だ
(……うそだよ。やっぱり、おいしゃさまだ。)
ふわりと軽くなったこころのお陰で、私は足を動かして
恐れずに、サイラスの声を視ることができたんだ。]
[ 彼へ 泣かないで
むしろ彼が泣いていることに安堵したのも事実で、
わらいに歪んだ「ひとごろし」の顔は、今も脳裏に焼き付いて
「こころ」そのものを歪めるほどに、恐ろしかった。
優しさは、時に狂気に転ずるのだと
幼かったわたしには理解できずに、理解した今ですら直視できない恐怖として遺る。
どうか、どうか、あなたはそうなってしまわないで。]
……。
[触れられない手をおろす。せんせが居た場所を振り返り
まだまだ湿っぽいまんまの笑顔だけれど、作ってみせて]
はい。 ……ありがとうございます。
[彼の抱える辛さも、悔いも
夜の墓地に静かに響く優しさを受け取って、
離れてゆく足音を見送った*]
「おはよう」 言えるかな。
[白む空、薄い筋雲が浮かび上がるそら。
わたしにとっては、鳥と虫の声が変わる朝。
閉じられたばかりの土の前に座り込んで、声を待つ。
グレッグが「起きて」きやしないかと ほんの少し期待して
暫くその場に留まっていたのだけれど。
いつのまにかわたしは 花が香る新しい墓標たちに囲まれて
暫し意識を手放して *いた* ]
メモを貼った。
メモを貼った。
―回想・墓地―
[それは男の姿が河原に現れる少し前のこと。
男だった狼が、墓地に埋められた少し後のこと。
並ぶ墓標は幾つかの鮮やかな花に彩られている。
花と、墓石、それらに囲まれ丸く縮こまり
眠る少女の姿の傍に、男の姿は暫く在った。]
(―――…おはよう。)
[眠る少女に、そう声を掛けることはない。
サイラスに告げられ、応えたとおり、
男は眠ることにしたのだから。]
[風がそよぎ墓標に供えられた花びらが舞う。
風がそよいでも少女の長くて綺麗な黒髪が動かず、
生きていれば髪飾りになっていただろう花びらが
マーゴットの姿をすり抜けて地へと落ちる様子に
目を細めて。
男はマーゴットへと小さな囁きを遺した。
それは、信頼していた"彼"にも伝えた言葉。]
[少女が目を覚ます前に、男の姿は空へと溶けた。**]
メモを貼った。
―河原―
[流れる水の中にざぶざぶと入ってゆく。
獣も同じように水に飛び込んで身体をくぐらせたりと
勝手に血を洗い流していた。
白シャツに着いた血痕は落ちにくいだろうから、
家に戻ったら違う服に着替えよう。]
兄さん、鹿でも狩ってきなよ。
お腹すくでしょ。
[燃費が悪いのも仕方がない、
なにせ一つの身体を人と獣に別けて二人で使うからだ。
だから、兄さんがこうなってからは
俺はずっと獣の身体にはなったことはなかった。
まるで人間のように非力なのだ。]
[仕方ないとぶつくさ言いながら獣は森へ入る。
がさがさした音が聞こえるからその内
本当に獲物も獲ってくるだろう。
間違えてスティーブンとかに噛み付いてなければいいんだが。
見送って河原から村へと先に戻ることにした。]
さてと。
[他に誰かの姿が見えないものかと見回す、
最近は生者でも出歩く姿は少ないから
多分今堂々と歩いているのは死者の方。]
メモを貼った。
― ゆめ ―
メアリーのばか! もうしらない!
[ (…わたしは何で怒っていたんだっけ。)
3日も過ぎればば そんなこと?って言えるような
ささいなささいな口喧嘩。
バタン!大きな音をたてて宿屋の勝手口を出て
(…それから、どうしたのだっけ。 あぁ、そうだ。)
トスン!トスン! かかとを打ちつけながら
いちばんおおきな樹の下にむすっとした顔で座り込む。 ]
追いかけてきたってしらないんだから…。
[誰に言うでもなく呟くくせに、ほんとうは、
風のような足音が来るのを待っていた。……それなのに。
近づいてきたのはあの子の足音じゃあなくて]
………グレッグ。
[歳の離れた"おにいちゃん"は、あの子の自慢の宝物で
わたしも兄のように慕ってはいたのだけれど、
「甘える」には、ちょっと遠慮が先に立っていた。
走ってきたのか、配達の途中なのか、
短い呼吸音がそばにある。わたしはそれをくるりと見上げて]
あのね、メアリーったらひどいのよ。
[ あれや、これや 当人がいないのをいいことに
あの子がいつも甘えている兄へ告げ口のような不満を零して
(…ああ、いやだ。恥ずかしい。)
(顔を覆いたくなるような幼い行動) ]
もう遊びにいかない。 …メアリーなんかきらいだもの。
[ ぷすー、 頬を膨らませてそっぽをむいて ]
[そんなずるいわたしの話を聞いた彼は
困ったような、悲しむような、ふたりめの妹をあやすような
いつくしみを浮かべた声で "そう" 言った。
その声が、あんまりにも静かだったものだから
わたしはきょとりと毒気を抜かれて
ぐつぐつ煮えたミルクの膜がどろっと引っかかっていたはずのこころのなかが、 すう、っと通る。]
…………。
………うそだよ。
うそだから、グレッグはしんぱいしないで。
[なんだかとても恥ずかしくて、耳まで真っ赤。
座り込んだままそっぽを向いて]
[ぷくりふくらました頬はそのまま、暫く座っていたけれど
数刻もしないうち わたしは足を宿屋へ向ける。
ああ、もう。
わたしから謝ったりしないってきめたのに。
おにいちゃん、狡いなあ。
いつもとおんなし勝手口。
いつもとおんなし大声で ]
めーーーーあーーーーりーーーーーー!
[ あの子の名前を呼んだんだ。 **]
メモを貼った。
[走り出したのは狂った笑い声が聞こえた後。
霊に距離などないと知ったのは惨劇にたどり着いた後。]
「 討ってやったよ、 … スティ、 」
[声が出なかった。
ラディの姿と、アルの掌に収まる心臓を交互に見た。
絶叫は理性が押しとどめ、
ただ耐えるように掌を握れば、
爪が食い込んだ場所からぽた ぽたと
黒いものが滴り落ちては消えた。]
( 仇討ちなんて そんな事、 )
[視界の端、ひらりと揺れるワンピース。
声をあげるも、届かず]
───、アル、危、……!
[ざん、と鋭く、銀色が一閃。]
[昼、空はまだ明るいのに
満ちゆく鉄錆の匂いと、赤く染まっていく床。
静かに横たわる遺体が二つ。
真ん中に立つ少女が一人。
吹き出す血の音も
薄れゆく命の音も
どちらも耳に入らず、
倒れるラズベリーと黒を見つめていた。
少女の高い声がやけに響いた。
獣をさばく為の銀の包丁は
血にまみれてらてらと滑っていただろうか。
そこは惨憺たる地獄の様相を呈しているように思えた。]
───……。馬鹿野郎……!
[声を押し殺し叫んだ。
「飼い主」の存在なんかに縛られて、
殺して、殺されて、……馬鹿なんじゃないか。
そんな風に血だまりの中転がる姿など望んじゃいなかった。
ただ生きていてほしかった。
我儘だと知っていても──。
──声も 何も 届きはしない。
転がったガーネットは静かに光るだけ。]
……、っ、……、
[影は──小さく息を吐いて、
静かに拳を硬く握り締め、踵を返した**]
メモを貼った。
メモを貼った。
― 消えた星は、 ―
『また、会えたね』
…… ―― また、会えたね。
[ 流れた雫から。
… ―― 夜と混同とした暗闇のなか、
星の薄明りをまとった
少女が、白い手を差し伸べた。 ]
[ 少年は、そっとその手を取る。 ]
[ 元々、高くも無かった背丈は、
年の割に若い見た目をしていた青年は
さらにあどけない、
こどものすがたをして。
そっくりの、白いワンピース姿の
髪の長い少女とふたり ならぶ。 ]
[ 消えた星は明滅して、
―― あたらしい星にはなれないけれど。
落ちた星屑は、
魂の欠片は そこにある。 ]
[ くらやみが、晴れた。 ]
[ 屍のある喧騒の場所よりも、
森のちかく。
紫苑の花に 導かれて、
野花の小道で、手をつなぎ。
――― ひとりじゃない感覚が、
とっても、ひさしぶりにおもった。]
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