278 冷たい校舎村8
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……愛宮が背負う記号じゃ、ねえだろ。
[ ……思う、けど、 彼女もまた内にはなにかを秘めていて、 それに対するなにかのあらわれ、だったとしても、 礼一郎は、納得できそうもなく、悲しい。]
(120) 2020/06/20(Sat) 04時半頃
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[ 少しの間、そうしてじっと見下ろしていた。 誰かが訪れたとしても、気づかないくらい。
背中に突き刺さったままの二本が、 あまりに痛ましくって、それに、 これじゃ、布かけておこうとか、 そういうこともできないじゃん。
なんでだよ、愛宮さあ……って、 礼一郎はそういうことばかり考えてて、
……散々考えてから、 突き刺さったうちの一本に手をかける。 ゆっくりとそれを引き抜こうと力を込める。]
(121) 2020/06/20(Sat) 04時半頃
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[ こぽり。と、空になった穴から、 新たに血が溢れ出すのを、 箒を片手に、呆然と見つめていた。
……崩れた形を見て、 あと一本もって礼一郎は思う、けど、
小刻みに震える自分の手に気づいて、 先に、かけるものを探してこようって、
人形の傍らに箒を置き、 ふらふらとした足取りで廊下へ向かった。**]
(122) 2020/06/20(Sat) 04時半頃
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夢はいつか覚めるものだって、そんなのずっと知ってるよ。
[ 夢から覚める瞬間が嫌いだった。
でも、あたしは、あんまり怒るってしないから、
天井を見上げる顔が不機嫌とか、
そういうことは、ない。
ぼんやりしていた視界と、頭と、
そういうものがだんだん綺麗になっていくような感覚。
ベッドの中でのびをしたあたしの脚も、腕も、
至って綺麗なもので、
部屋の中の寒さをちゃんと伝えてくる。 ]
[ ……二度寝しよう。とか、思ったんだけど、
寝返りを打った目線の先、ぴかぴか光ってる。
何がってほら、
あたしたち現代っ子の文明の利器ですよ。
あたしは映えに弱いにんげんで、
歩きスマホもできないけど、まあ、見るよね。
そういう風に生きてきました。フツーに。 ]
はーい もしもしあたし。
フツーじゃない日常なんて最高だと思いませんか?
クラスメートの事件だよ、びっくりだね。
[ 通信切断。やめよう。
あたしは作品が好きだけど、
ひとの死に様を笑う趣味はちょっとない。
ましてやついさっきの、リアルすぎる夢で、
一緒にシチューを食べて、隣で寝てたあのこが、
"そう"だったなんてちょっと処理が追いつかない。
文化祭みたいな浮かれ気分に、
すぐなれたら苦労しない。 ]
[ 綿津見さんちがそこそこフツーでよかったのは、
お父さんもお母さんも、
夢のマイホームを建てるときに、
交通の便を考慮し尽くした ってとこにも、
あるんだろうな。
病院までも徒歩で行けるそこに、あたしは、
……ちょっとふたりに説明する時間がありながらも、
すぐ、そこに向かっていたと思う。
防寒対策はしっかりね。
返しそびれた夢のマフラー、
今度はあたしのをしっかり巻くよ。
赤いそれは、血なんて物騒なものじゃなくて、
ついさっきまで話していたあたたかい色だ。 ]
これから会いに行こうと思えるほどには
あなたがすきだよ。ほんとう。
……フジュンでは、あるかもしれないけれど。
拝啓 しおりちゃん
あなたは夢に逃げたかったの。
それとも 現実でなければどこでもよかった?
─── おかけになった電話番号は
現在電波が ……… *
─── 病院前 ───
[ 完全に息があがっていた。運動不足ですね。
勉強してばっかりだからしょうがないんですよ。
現実世界ってほんとなんなんだろうね!
ぜえはあ言いながら、冬の冷たい空気を吸い込んで、
冷たすぎて噎せてる。あまりにつらい。
長めのマフラーはちょっと絡まっている。
ホラーはめいっぱい怖がった後楽しむのが良い、
なんて感じのあたしは、
そのまま入り口に入ろうとして、 ]
…… きたなかきゃくほんだいせんせー。
[ やっほーって、手を振る……
って、気分ではなかったから、手をあげた。
マフラーが首に絡まったまま言う台詞じゃないって?
真夜中の病院へようこそ、こんばんは。
また会いましたね。
かっこわらいは付けられなかった。
夢から覚めた後って、どうしても、
元気出ませんから、あたし。 ]*
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[ そこが1階と同じつくりであるということは、 さっき、廊下を駆け抜けながらも理解していた。]
(130) 2020/06/20(Sat) 13時頃
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──現在──
[ 上と下から、 赤色と黄緑色に挟まれたような廊下を歩く。 ……視界にちらつく色がうるさくて、 なんだか気分が悪くなりそう。
……さっき、階段の踊り場で見たのは、 こんな色だっただろうか。と、 礼一郎は床の黄緑を眺めて思った。>>2:6
こんなの、掃除終わらないだろ。 礼一郎には奉仕活動なんて、 ある休日の午後を費やすくらいでよかった。]
(131) 2020/06/20(Sat) 13時頃
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[ 1階が増えた。 上の階も増えていた。
それは何を表しているんだろうな。 まき散らされた色とりどりのインクも。
礼一郎はワックスがけされたあとの、 ぴかぴかの廊下のほうが好きなんだから、 そこんとこ、世界の主と気が合いそうにない。
……深層心理がどうとか言い出しちゃ、 もう礼一郎の手に負えないから考えない。]
(132) 2020/06/20(Sat) 13時頃
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[ 単純に、この世界のあれもこれも、 礼一郎の感性とは重なりそうもない。]
(133) 2020/06/20(Sat) 13時頃
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[ 体育館、この階にもあった。 人形はなくって、液体だけ。>>2:211
そこから、布を引っ張り出してくる。 ……こういう場合には便利だなって、 礼一郎は現実感なく考えるけど、
もう、さっきつくられた階層じゃ、 備品のひとつも使い物にならないなんて、 知ったら、いよいよ意味がわからないな。]
(134) 2020/06/20(Sat) 13時頃
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[ 意味や目的なんてそもそもあるのかな。 という根本的な疑問は、いつも芽生えない。]
(135) 2020/06/20(Sat) 13時頃
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──現在/B1家庭科室──
[ かぶせるようにって、 大きな布を抱えて礼一郎は戻った。
開いた扉、その先に、 さっきまではなかった人影がある。 赤く染まった手をだらりと垂らして、 そこにひとりたたずんでいる。]
……葉野?
[ 覇気のない声で問いかけた。 立ち尽くしている様子の彼女に、 少し遅れて、「大丈夫か」と言った。]
(136) 2020/06/20(Sat) 13時頃
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……その、愛宮、だよな。 七星とかイクトのときみたいに、 布だけでも持ってきたんだけど──、
[ その前にもうひとつ問題があるんだったな。]
……それ、一本は、 俺、抜いたんだけどさ、
[ 礼一郎は迷いを含んだ声で言って、 少し、その人形に近づく。 ……それで、葉野と横並びになる。]
(137) 2020/06/20(Sat) 13時頃
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痛そうで、見てらんなくて、 抜いちゃったんだけどさ、
そのままにしておいたほうが、 ……もしかすると、よかったのかな。
[ 葉野の横顔をちらりと見た。 それから、ふたたび視線を戻す。 戻しても、そこにあるのは、 およそ愛宮らしからぬとしか思えない光景である。]
(138) 2020/06/20(Sat) 13時頃
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……みんな、ほんとは死にたくて、 この世界つくったやつだけじゃなくて。 だからこんなふうになるんじゃないかって。
言われたんだけどさ、葉野は、 ……葉野も、死にたかった?
(139) 2020/06/20(Sat) 13時頃
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[ 礼一郎はやっぱり、 そんなのあんまりだと思うので、
世界の主がちょっと不器用なだけ。 だと思いたい。思っていたいんだけどさ。
どうですかね。そこんとこ。 クラスメートの女子。友人。 文化祭に一緒に取り組んだ仲間。 礼一郎の友人に迷惑をかけて、 そのあと、また別の友人には迷惑をかけられてた。
……そのくらいの距離感から、 距離感にふさわしくない質問を投げますが、 どうですかねって、箒を見下ろしたまんま。*]
(140) 2020/06/20(Sat) 13時頃
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