266 冷たい校舎村7
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[ 視界の端に揺れる髪が
どこか落ち着かない風であったから。
嫌なことでも言ってしまったろうか、と。
大雑把になりきれない小さな不安。 ]
────……
[ 誰も、同じものを見て生きた人間はいない。
誰一人、全く同じ世界を見ていないくせに、
その事実はどこか遠い所にあるものだから。
小さな笑い声に
そうか、と、合点がいくのに。
ほんの少しの間を要した。 ]
[ 沈黙だ。
灰谷の沈黙につられるようにして、
宇井野も暫し、黙り込んでいた。
嫌なところを捨てたいから、
そのために命を放り投げるならば。
生を受けた意味はどこにあるのだろう。
なんて、考えてしまうのが、
宇井野 堅治というちっぽけな人間だった。
だけども、言われてみれば、
その気持ちもなんとなく、わかる気がして。 ]
[ 人の気配は、沈黙を塗り替えるのにちょうど良い。
猫が好き疑惑はひとまず置いておこう。
おいておこう。
柊と、此方と。
見比べる視線は見えないふりして。
それから、立ち上がった灰谷を見送る、ついで。 ]
……いってらっしゃい。
またあとでな。
[ 飲み物を買うだけだと言っているのに、
自然と口から零れ出ていた。 ]
[ なんでかは自分でも、わからなかった。
ただ、なんとなく。
こんな、ろくでもない世界の中で、
マネキンよりも冷たくなってしまうのは、
なんだか嫌だな、と、思ったんだろう。
灰谷を見送ったら、
ずるりと背が壁を擦る。
長椅子じゃなくて、床に座り込んだ。 ]
こんな ろくでもない世界の中で
器と中身を間違えられて
ただただあるべき姿を演じ続けて
なんで生き続けているかなんて
生まれて来たから
それ以外に 理由はないから
あの校舎の中で
首を絞めたのも 死ぬ気なんてなくって
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──チャイムの鳴る前に──
[ ───人間なので、トイレに入った。
みんながまだ寝静まる頃、教室から静かに出た。 やっぱり縄張りの保健室で寝る、……じゃなく 教室へ俺は向かったんだ。なんとなく。 連れション、なんてするタイプじゃないもので、 3階の通い慣れた男子トイレへひとりで行ったんだ。
用を済ませて、いざ教室へ戻らんとする。 そんな時だったろう。 ]
(306) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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―― それから ――
[そこからきっと、俺は階下におりて 実は全然食事をしていなかった事に気づき いくらか、購買のパンを食べた。
ふと、購買に置かれたメモを見つけては そこに記された言葉たちに笑ってしまう。]
(307) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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『3年7組の田所ちゃんにツケといてください』 蛇がのたくったような字。
『三年七組柊に、 ホットコーヒー代をツケておいて』 角ばった文字。
(308) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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[ 目の前に、あいつ≠ェ現れたんだ。 ]
……なんで、おまえ どこいたんだよ、腹減るだろ
[ 校舎に紛れて、隠れていたのだろうか? 我ながら、らしくないとは思うものの 嬉しくなって、表情が綻んでいたように思う。 近づいて、いつもみたいに腕を掴んだ。 瞬間。 ]
(309) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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……なーにしてんの。ほんと。
[この世界でのメモが いったいどうなるかはわからないけれど 俺はその文字たちもちゃんと覚えて、 パンの代金だけを置くと踵を返し、教室に向かった。]
(310) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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生まれて来たから
生きているから
人は苦しいんだろうって
だったら
生きて欲しい を 願うことは
いっそ 残酷なことかもしれないな って
あの校舎にいたクラスメイトを
また ひとり ひとり 思い浮かべた **
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───ッ!?
[ どろり、と崩れ落ちた。 デブの身体は形を失い、どろんこ塗れになる。 ひとまわりもふたまわりも小さくなった塊は、 俺を見上げて、わんわんと泣き始めたのだ。 ]
(311) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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[ まるで、あの雨の日のように ]
(312) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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……なん、なんだよッ
[ うるさい、と思った。 少年のようなソプラノは耳障りで、 どろんこまみれで人の形をしたソレを、 思わず、蹴り飛ばさざるを得なかったのだ。
だって、もう捨てたんだ。 ]
(313) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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保健室じゃなくてもへーき。
[と言い張り、寝支度をした後 毛布にくるまって寝る俺の姿を いったい誰が見たか、は、知らないけど ほどなくして、きっと俺は眠りに落ちる*]
(314) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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強者に、なりたかったんだ
(315) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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[ 捨てたのに、現れる方が悪い。 あの日の自分はもう捨てたんだ。 弱い自分はどこにもいない筈なのに。 どうして、なんども、なんども、
こうも抉り返してくるんだ ]
(316) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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──文化祭のあった日──
[ ───あの日、おねがいを聞いたんだ。
ついてきて欲しい場所があるっていう。>>39 学校から離れた繁華街の裏通りに何の用だ? 暗いな、って思った。思ったけど、まあ、 あいつの言うことだし、と思ってついてった。
ここだよ、って到着地点を示された、 どっかの廃ビルの扉を促されるまま開いた。
評判のよくない学校の制服を着崩して身に纏う ガラの悪い男たちの視線を一斉に浴びる。 ]
(317) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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……おまえら、
[ 遠い昔の記憶が、脳裏に蘇る。
高みの見物、とは違う。 直接的に手を施してきたいじめっ子たちだった。 俺が、あいつを見ると、生まれたばかりの小鹿…… もとい、子豚のようにぷるぷると震えながら リーダー格っぽい男にへこへこ頭を下げていた。
胸の奥が、熱くなった。 それからのことなんて覚えちゃいない。 真っ先に飛び出るのは拳だったけど。 ]
(318) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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革命、なんて笑わせる
(319) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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[ 気づけば視界は薄汚れた天井を映し出していて、 集団の腕やら足やら、たまに赤い血やらが、 ちらちらと視界の端に映っていた。
ああ、自分の血かって気づくには なかなか時間がかかったけれど。 こんなのは致命傷になんかにゃなりゃしない。
視線を横に流してみると、 あのデブは俺から目を逸らして、 逃げるようにその場を立ち去っていく。
ほらな、結局こうだ。 誰も、助けちゃくれないんだ。 ]
(320) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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痛かった。すごく。 殴られるのも、蹴られるのも、 痛かったけど、それ以上に
昔のいじめっ子に会ったのも、 昔みたいに扱われているのも、 辛かったけど、それ以上に
(321) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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[ その頃には力なんか入らなくって、 ぼんやりと意識が薄れていったんだっけ。 ]
(322) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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勝手に、まもってやってるつもりだった ともだち、になれると思ってたやつに 裏切られたってことが哀しかったんだ ただの、上っ面の嘘っぱちだったんだ
(323) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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[ 強者になれればいいと思ってた。……いいや、 羨ましかったんだ、みんなが、純粋に。
つよく上にいる立場の人間は、 いっつも人に囲まれて楽しそうにしていた。 ともだち、だってたくさんいて、 笑いたいときも、泣きたいときも、 共有できる仲間ってやつを持っている。
そんなものは、俺の世界から見える 主観であり夢物語的な世界なのかもしれないし、 ただの、妬みと嫉みでしかないけれど。 ]
(324) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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力があるだけじゃともだちなんか作れない みんなに従うだけでもともだちなんか作れない ともだちの作り方なんか分からない
(325) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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[ ───あんなことがあったのに。 それでも、あいつの作った飯を待つなんて 本当に馬鹿だよな、って自分が笑えて来る。
封印したつもりになってた記憶だってそうだ。 またあえる、なんて期待したって仕方ないのに。
俺はいつまでたっても、変われない ]
(326) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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思い出に縋ってばかりの人生もやめたかった
(327) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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──現在──
[ どろんこ塗れの怪物を殴っていた、と思ってた。 あいつに自分を重ね合わせてみてるなんて、 おこがましくってたまらねえなと思う。
逃げたくて、怖くて堪らなくって、 殴り続けていたのは、自分の中心だった。
痛い、と思う暇もないと良い。 ただひたすらに傷をつけていた。 叩いて、殴って、押し潰して、抉り取って、
次第に視界がぼやけて、呼吸もしにくくなる。
無我夢中になって、ゴロン、と落ちた。 ]
(328) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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消せない傷を負った 目には見えない心の傷を
(329) 2019/06/15(Sat) 23時半頃
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