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―― イロハ、病院へ行く ――
[ささやかなあかりが、暗い夜道にスポットライトをともしている。
イロハは自転車をこいでいる。
病院は家からだとちょっと遠いし、
まあ、なんにせよ、早く到着できるに越したことはない。
そう、早く到着したいからこそ、
途中で赤信号に引っかかればもどかしい思いもした]
[……けして走ってはいないのに、
身体の真ん中がばくばくといやな音をたてている。
駐輪場に自転車を止めて一息ついてもおさまらない。
防寒対策としてコートしか着てこなかったから、
手袋をつけていない手はひたすらに冷たくなっている。
顔の前に持ってきて息を吹きかけながら正面の出入口を目指す。
気もそぞろで、それでも、
病院の前にたたずむ人影に気付くのはかんたんなことだった
宇井野くん。ええと、その、 えぇと、……帰ってたんだ。
[あたたまりきってない手を振ることはしない。
ただ、言葉だけを投げてよこして]
[言葉とともに吐き出される白いかたまりの端だけを捉えていた状態から、
顔を上げる。とはいえイロハにも言えることは少ない]
聞いた。
あたしにも何が何だかって感じで、…………でも、
あの世界をつくってあたし達を招いたのは養くん、
……ってことになるのかなぁ。なるよね。
[――そう、つまり世界の主は目の前の建物の中にいる。
今は言葉の届かぬところにいるその人に、
宇井野にだって言いたいことはあるだろう。イロハにもある。だが、]
……ここ、寒いし、とりあえず中入って話しよっか。
[出入り口の自動ドアの方を指差して。
返事をあんまり待たずにさっさと歩き始めた]
少なくとも今は、
「ありがとう」だけは言える気分じゃないかな。
ちょっとだけ、あたしはあたしのことを見つめなおすことはできたけど、ね。**
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【人】 俺に気がある ヨーコ──体育館── (22) 2019/06/14(Fri) 01時頃 |
【人】 俺に気がある ヨーコ (23) 2019/06/14(Fri) 01時頃 |
【人】 俺に気がある ヨーコ (24) 2019/06/14(Fri) 01時頃 |
【人】 俺に気がある ヨーコ──保健室── (33) 2019/06/14(Fri) 10時半頃 |
【人】 俺に気がある ヨーコ (34) 2019/06/14(Fri) 10時半頃 |
【人】 俺に気がある ヨーコ──回想・体育館── (44) 2019/06/14(Fri) 18時半頃 |
【人】 俺に気がある ヨーコ (45) 2019/06/14(Fri) 18時半頃 |
【人】 俺に気がある ヨーコ──現在・保健室── (55) 2019/06/14(Fri) 19時頃 |
【人】 俺に気がある ヨーコ (56) 2019/06/14(Fri) 19時頃 |
【人】 俺に気がある ヨーコ
(57) 2019/06/14(Fri) 19時頃 |
【人】 俺に気がある ヨーコ (61) 2019/06/14(Fri) 19時頃 |
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[ 帰ってたんだ、と、言われて。
あの校舎が夢でも何でもなくって、
本当に自分が身を置いていた世界と知る。
あの世界じゃあ、
夢だということを否定していたのに、
目が覚めてしまえば曖昧で。
夢も現実も、そんなものだから。
あの世界を現実として認識するのに、
誰かの言葉を受けなければならなかった。 ]
[ だけども、事実とわかってしまえば早い。 ]
ああ。学校で目ェさめた。
養が、死にそうになって、
あの世界が出来たってとこか。
[ 文化祭に彩られた空間も、
腐った肉も、真っ赤な水も。
全部、養の心の中を形にしたものだろう。
上澄みの底を覗いたような気分だった。
誰しも持つであろう、奥の奥。 ]
[ 寒いし、と、言いかけて。
先に言われたものだから
宇井野は頷いて、後を追う。
病院の中。カウンターで事情を話せば、
待合に居座ることは出来るだろう。
扉一枚、二枚隔てた空間はあたたかい。 ]
どこから。
あの世界の中だったんだろう、な。
朝起きた瞬間からってのもおかしくない。
[ だとか。
そんな声は、病院の中だ。
他の誰かが聞いたらきっと、
よくわからない話でしか、ないのだろう。 ]
[ 言いたいことならあるけども
それはまだ はっきりと形を持たない。
だけども、今はとにもかくにも、
生きて欲しいと願うばかりなのだ。
顔だけは平気な形をさせたって、
あの校舎みたいに冷たい体は
……みたく、なかった。 *]
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自分以外の誰かの体温を感じて、
私はそっと、目を覚ます。
[ ソファの上で、眠ってしまっていたみたい。
瞼を開けて、瞬きをして。
しばらく天井を見詰めています。
起き上がると、タオルケットがずり落ちる。
誰かが掛けてくれたみたい。
母か、父か、弟か。心優しい、家族の誰かが。
タオルケットを丁寧にたたみながら、
テレビをつけて、ニュースを見たの。 ]
すごい。ニュースになってるよ、よう君。
[ 携帯を見れば、あいこちゃんからのメール。
そうね。病院、行こうかしら。
でも、その前に顔を洗わせてください。
面白い夢でした。
あれが、本当に現実とリンクしているのか、
あそこにいたのが本当に皆なのかは別として、
あの子の、腕の中で息絶えていく感覚が
今もすこしだけ、残っているのですから、ね。
死んだの。もう、居ないの。
顔を拭くタオルを持つ腕は重くって、
ああ、私、今ここに生きているのね。 ]*
あの子に執着する私は、死にました。*
―自宅にて―
[夢を見ていた。やけに鮮明な夢を。
やけに重たい瞼を開いて、最初に見えたのは
お世辞にも綺麗とはいえないアパートの天井だ。
雑音を聴いて、吐いて。
呆然とベッドに寝転んでいるうちに
どうやら眠ってしまったらしい。
やけに瞼が腫れている。
記憶にないけれど、泣いていたのかもしれない。
はるちゃんの事が、好きだった。
愛していた。多分、今も好きなんだと思う。]
[けれど、不思議だね。もう、涙は出ない。
何処かに恋心を置いてきたみたいに
紫苑の心は凪いでいた。]
[肝心のイヤホンは沈黙を保っている。
一ヶ月も動いていたからかな。
流石にバッテリーが切れたらしい。
もう、帰っているのだろうか。
或いは、まだ、誰かと一緒に居るんだろうか。
あぁ、でも、良いよね。
紫苑は空気が読めない。
なので、夜もふけたこの時間に
はるちゃんに電話をかけることを厭わない。]
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