193 ―星崩祭の手紙―
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[彼女の朝は、今日もドーム外から始まった。 昨日とは違い、自ら外壁の調査を志願したのだ。 目的はもちろん、流れてくるかもしれない文の捜索である。
果たして、それは来た。 抜けるような宙から落ちてきたその碧球は、まるで狙ったかのように彼女の手の中に収まる。]
ほんとうに、届くんだ……
[無意識のうちに呟いたのは、ようやく実感が湧いたからだろう。 遠い遠い宙の彼方と、こうしてやり取りができるとは、聞き知ってはいてもやはり現実味のないことだったのだ。]
[戻ってきた彼女を、守衛の男は咥えた葉巻をくゆらせながら迎えた。 軽く片手を上げると、彼女は昨晩よりは幾分もマシな笑顔で応えたという。]
(12) 2016/07/19(Tue) 22時半頃
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[それは、彼女の人生の中で、最も死に近付いた日であると言っても過言ではなかった。 轟音、そして鳴り響くサイレン。 多量の空気が流れ込む地響きのような音色。 そこに、幾多の悲鳴が交ざる。
遠く宇宙空間からの飛来物が、ドームを突き破った瞬間であった。]
[すぐさま精鋭隊員により破損箇所を塞ぐ決死隊が組まれ、皆がみな石像のように固い表情で死地へと向かうのを、彼女はただ眺めるしかなかった。 当時新人であった彼女は、ドーム内にて避難誘導と、取り残された人の救助を申し訳のように命ぜられた。]
(13) 2016/07/19(Tue) 22時半頃
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[それは果たして偶然であったのか、必然であったのか。 彼女は混乱の最中、その災害の原因となった飛来物の、最初の発見者となる。 銀の立方体、隙間なく刻まれていたと思われる異星文字はほとんどが融け崩れ、およそ解読の余地はなかった。 そしてそれは、彼女の腕の中で"開いた"。]
[動いた。 それが最初の感想だった。 そして、確信へと変わる。 これは、生きてる。 中にあったのは、人だった。 よく良く見れば細部が異なってはいたが、確かに人だったのだ。
彼女は、その幼子の姿をした"それ"に星の名を与えた。 今から2年前。 創世祭直後の出来事であった。]
(14) 2016/07/19(Tue) 22時半頃
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[店もすっかり落ち着いて、客足も緩くなって来た頃。道
行く人は興奮気味に変わってゆく空を見上げ騒ぎ立てている。
暇を弄ぶワタシは店のテーブルにベッタリと張り付き、テーブルの下で足をゆらゆらと揺らしていた]
あーあ、お手紙もっと送りたかったな…ワタシが送ったお手紙達…届いたのかな、ちゃんと宇宙へ行けたのかなぁー
[お客さんが来ても上の空。だって手紙の行方と、送ってくれたかもしれないワタシへのお返事が気になるんだもの。
テーブルの上に小さな星貝を並べて指で弾いて遊んでいると、奥からお母さんが何かを持ってきた]
これはなあに?機械?
この星にも機械があるの?
[四角い形状のソレは、真ん中に真ん丸の網目模様がついていて、角には1本の細長い角が生えていた。
お母さんは幾つか並んでいるボタンを押した。]
…わぁ!声が聞こえるわ!
誰の声かしら…
[雑音に混じって聞こえる人の声。
聞いたこともない単語で会話をしていたり、子供たちが騒ぐ声が聞こえたり。まるでこの星じゃない所の会話みたい]
「この機械はね、貴方の本当のお父さんが貴方と一緒に此処に置いていった物なのよ。
星崩祭の前夜祭。他の星より早く波が来るここではその波に乗って流れてきた他の星の声が聞こえるの。」
えっ…どうしてお父さんがそんなものを……?
「さあ…お母さんにはわからないわ。
でもきっと…そうね、貴方に届けたかったのかもしれないわ。」
[ワタシはお母さんのその言葉に、バッと機械を振り返ると両手で掴んで耳元に近づける。
様々な声が流れる中で、聞こえるかもしれない。お父さんの声を探して]
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[回想以上。 未だ記憶に新しいその災害は、B1余名の犠牲を出し収束に至る。]
(15) 2016/07/19(Tue) 22時半頃
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「わぁ……!」
[つまるところ、2通目となる返信に歓声を上げる彼女の妹、ステラはこの星の人間ではないのだ。 肌は色白とされる彼女のそれより幾分か薄く、それでいて鉱石のような硬さを持っている。 四肢や身体の構造は同じように見えるが、食事を摂ることはない。 そして何より、彼女たちには眼に当たる、その部位には瞳孔や虹彩はなく、ひたすらに深い闇を宿していた。]
じゃあ、開けるよ。
[そう告げて彼女がその碧い硝石を開くと、中から音が溢れた。 彼女は目を見開く。 そしてステラの瞳に宿る星々も、ステラの心象を表してか瞬きの頻度を増した。 溢れ出した音は声であり、彼女には理解できない言語をメロディに乗せて奏でる。]
「このひとには、大切な人がいるんだね。」
[声が終わると、ステラはしみじみというようにそう呟いた。 驚いたのは、彼女である。]
(16) 2016/07/19(Tue) 22時半頃
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ステラ、分かるの?
「うん。わたしの大切な人に、わたしの声を届けてほしいって、お星様に祈ってた。」
[歪んだ表情が、妹の瞳には映り得ないことが救いであった。 それは、やはり。 彼女と妹は、生きるべき世界が違うのだと、そう突きつけられているかのようで。]
……お手紙、入ってたよ。 読もうか。
[静かなる刃のように、ゆっくりと彼女の心に食い込んでいくのだ。]
(17) 2016/07/19(Tue) 22時半頃
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「すごいなぁ。 ずっと夜ってどんな感じなんだろう。 どれくらいたくさんの星があるんだろう。 藍色の宙って、どんな色なんだろう。 あかいろ、あおいろ、きいろって、どんな……」
[ステラは、どこでもないところを見つめていた。 彼女は手紙を読み終え、そんなステラを眺めている。 ステラの手元には、手紙と共に入れられていた、硝石に閉じ込められた見知らぬ植物がある。 ステラには、その輝きが分からない。 ステラの手には、それが滑らかな円柱状であることしか伝わらない。]
ねえ、ステラ。 もし……もしもだけど。
そこに行けるのなら、行ってみたい?
[ステラは、満面の笑顔で答えた。]
「うん!」
(31) 2016/07/20(Wed) 00時頃
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そっか。
そうだよね。
(32) 2016/07/20(Wed) 00時頃
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[この星に、遠い宇宙を旅できる技術はない。 その夢に最も近付けるものは、今彼女が抱えている光籠であった。 隙間なく、細かく編まれたその籠の材料は、この星に存在し人々の生活を支える植物のひとつである。 その植物の葉は、内に包まれたものの状態を維持するという、変わった特性があった。 つまり、籠の内に入れば、宇宙空間でも生命を維持できると考えられる。 しかし、それは万能ではない。 ある程度の大きさを超えると、その籠は自壊を始めてしまう。 光籠は、壊れないギリギリのサイズで編まれていた。
人は、到底入れない。 けれど、あの子なら? あの子だけなら、この揺籠に守られながら、遠い宙のどこかまで、旅をできるのではないか? この、拙い姉の元を離れて、より相応しい居場所へと、あの子は辿り着けるのではないだろうか。]
(34) 2016/07/20(Wed) 00時頃
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