145 来る年への道標
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― 乗務員室 ―
いや……宇宙旅行なんて 何が起こるか分かったもんじゃなし。 構いやしませんよ。 第一、嵐じゃしょうがないでしょう。
[ようやく開放されるらしいエフは、 ほっとしながら、のびた無精髭をさすり、 航宙図と乗り換えの案内などと睨めっこをしています。 最後まで乗っていれば、またアースを経由して戻るが… とも説明されてはいるのですが、「そうっすねぇ…」と 気乗りしてない感じの返答をしていました。]
(2) 2015/01/09(Fri) 13時半頃
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― 日付変更前 ―
[そんなこんなで。 彼が開放されたのは、 ブルー・フォレストとアースを過ぎたころでした。 エフは客室がずらりと並ぶ廊下を歩きます。
遥か昔に過ぎた元の時間へ帰ろうなんて、 望みがあるのかもわからないことでした。 地下鉄のA線に乗って、未来にやってきたエフは、 ただ、おまじないのような、あやふやな望みで 過去に戻るB線を待っているのです。
けれど。 どうせ大晦日のアースに間に合うことがないのなら、 今年は諦めて、いつもの暮らしに戻ってしまおうかと考えました。 ポケットのなかのチケットは、 仕事のついでに使ってしまう事だってできるのです。]
(3) 2015/01/09(Fri) 14時半頃
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[だって、戻るためのB線なんて、 そんなもの、どこにもないかもしれないのです。 馬鹿げた空想だと自分でも心のどこか呆れていたのです。 毎年のおまじないに必死に縋ることにさえ、 できなくなっているのかもしれませんでした。]
(4) 2015/01/09(Fri) 14時半頃
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[そんな思いを抱えながら、部屋の前まできた、 その時でした。
立ち止まると、かすかに しらない音ばかりで構成された、聞いたこともない音楽が、 うっすらと聞こえてきました。 乗務員がアナウンスをしていましたから、 それがアイライトのソロコンサートであるとわかります。
呆然として、気づけば、背中に鳥肌がたっていました。 なんとも説明のつかない心地が、胸をしめました。 部屋に入るため止めた足を廊下の先へ進ませると、 音がすこしづつ、ハッキリとかたちを確かにします。
展望ラウンジの前まできても、 中へはいる気が、起きませんでした。 または、足が竦んでいるのかもしれませんでした。]
(5) 2015/01/09(Fri) 14時半頃
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[美しいものとは、時々、おそろしいものでした。 勝手に気持ちのうちにやってきて、 一度諦めかけたことも、麻痺した思いも、 望んで摩耗させてきたことも、 考えないようにしてきたことも、 何もかにも、ぐちゃぐちゃにしていってしまうのです。
やはり人のための音のようには、 エフには聞こえませんでした。 扉越しで聞くこの距離が、自分には精々だと感じました。]
(6) 2015/01/09(Fri) 15時頃
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[さいごの曲に感じるものに、 エフは、こっそりと奥歯をかみます。
その曲のタイトルを聞くことも、 その曲へ奏者が感じる思いも>>3:19 知ることもありませんでしたが、 それは、『我々の英雄:第一楽章「夢」』という曲でした。
余韻とともに音が途切れ、 ラウンジから、拍手が聞こえてくると、 エフは踵を返して、客室へと戻っていきました。 客室につくなり航宙図を取り出し、 ほうぼう、連絡をとりはじめたのが、昨夜のことです。]
(7) 2015/01/09(Fri) 15時頃
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[またひとつ、ウマヒツジ15号は星を経由しました。 そこで下りたのは片側の顔が爛れた男でした。 一人で陽気そうに頭を揺らしている様や、 他の乗客と楽しげな会話する様はちらりとみましたが、 声を交わしたわけでもありません。 エントランスホールを歩き去る背中を見ただけ。 もしも目があえば頭くらいは下げてみせたでしょうが。]
(8) 2015/01/09(Fri) 16時半頃
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― 日付変更後:ラウンジ ―
[エフはまた売店でつまらない味の食べ物を買うと、 ラウンジへ向かいました。 客室で調べ事を続けてもいいのですが、 なんとなく、気分を変えたくなったのです。]
(9) 2015/01/09(Fri) 17時半頃
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[大窓の前にはにはアイライトの姿の姿があり、 自然、昨日の音を思い出そうとします。 頭のなかで聞いたものを組み立てようとするのですが 元々音楽に詳しいわけでもありません。 その上、どうにも、聞いて驚いてしまったことや、 その時感じたものの記憶に邪魔をされてしまいます。 美しかったことはたしかで、 残せるものなら残しておきたいものであったはずなのに 頭のなかで思い出せるのは、 曲や音の、ほんの断片でしかありませんでした。]
(10) 2015/01/09(Fri) 17時半頃
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[小さな机の上に、液状食糧のカップを雑に置き、 航宙図を広げて通信端末を置くと、 かさばらない光のモニタも机に広げ、 そこへ視線を落としました。 顔の半分爛れた男の下りた星からでは、 大晦日前にアースへ行くのが逆に難しくなりそうなので、 見送っています。
嵐の予報や、それにまつわるニュースを眺め、 ひとつ、ため息をつきました。 次の星から出る船の予約状況や、出航する船の本数にも 嵐の影響が出ているようです。
本当は、アースで降りそこねた時点で 今回はもういいかと、諦めたような気持ちでいたのですが 気を変えられてしまっています。 エフは液状食糧の慣れた味をろくに味わいもしないで、 二口ほど飲み込みました。]
(11) 2015/01/09(Fri) 17時半頃
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地下軌道 エフは、メモを貼った。
2015/01/09(Fri) 17時半頃
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