279 宇宙(そら)を往くサルバシオン
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さっっっっむうううううううい!!!!!
[ あたたかかった宿主が急激に冷え込んでいく。こごえる。いてつく。刺胞がもげる。いやだ。
まったくあっさりと、宇宙を漂うクラゲは、考えるのをやめた。]
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─ 昨日、談話室で ─
[昨日は結局、ヘリンお姉さんの隣にばかりいた。 わたしの大人しさと来たら、ワクラバさんよりも上という有様だったから。返らない視線>>3:169に声の返ることはなく。 とはいえ、何も思わないわけではない。 彼もきっと、そうなのだろう。ただ、]
… ひとごと、なのね。
[彼の落とした感想ともつかぬ独白に。>>3:180 ぽつんと、こちらも小さく零した。]
(14) 2020/09/01(Tue) 16時頃
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[シルクさんが、コータさんと会話をしていた。 どこかちぐはぐにも聞こえる、二人のやり取り。 それを私は、ヘリンお姉さんの隣で聞いていた。
ただ、一言。 猫さんの呟き>>3:211には黙って目を向けておく。]
(15) 2020/09/01(Tue) 16時頃
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薄荷さん。 わたし、一緒に…… いても、いい?
[全部じゃなくていい、一部だけでも。 シルクさんの提案>>3:126にわたしは声を上げた。 持つ。と言いかけて、言い直す。
これは使えなくなった青石洗剤───では、なく。 これは「薄荷さん」 くるくる回って、意思と言葉を紡いでいたヒトだから。]
(16) 2020/09/01(Tue) 16時頃
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[預かった薄荷さんの一部を大事に胸元にしまって、わたしも部屋に戻る。 戻る、途中で迷うようにヘリンお姉さんの部屋の前に足を止めた。少しの間そうしていたから、見かけた人もあったかも知れない。
どちらにせよ、わたしも自分の部屋に戻る。 コンソールから一つ名前を選び出し。
そうして考えた。 薄荷さんの欠片を手の中にぎゅっと握る。 使えなくなった青石洗剤は、もう何も教えてはくれなかった。*]
(17) 2020/09/01(Tue) 16時頃
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─ 談話室 ─
おは、よう…。
[朝、自室で追放者の名前を確認して。 重い足取りで談話室へと向かった。
昨日は何事もなかった。そう何事も。
……いいえ。 わたしの知る中では何もなかった。 では、犠牲になったのはいったい誰?]
(18) 2020/09/01(Tue) 16時半頃
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あ、シルクさん。 わたし、まだ薄荷さんと一緒にいてへいき、かな。
[置いていった薄荷さんたちは、器の中に集められている。>>7 気に掛けていたのはシルクさんだから、これもシルクさんがしてくれたのかも知れない。なら、全部一緒にいた方が嬉しいかな? 当人にはもう聞けないから、高いところにあるシルクさんを見上げてみる。
そんな他愛ない問いはただ不安を隠すばかりで。 肝心の疑問は口に出来ないまま、確かめるように ひとりひとりの顔を見渡した。 やがて、お兄さんが不安の正体を口にするまで。>>13]
(19) 2020/09/01(Tue) 16時半頃
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ヘリンお姉さんが……? なんでっ!??
… ど、して?
[大きな声を上げて立ち上がる。 かたかたと体が震えた。どうして。
目の前が暗くなる錯覚。泣きたいのに。 義体は、一粒の涙も流しては *くれなかった。*]
(20) 2020/09/01(Tue) 16時半頃
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やあやあ、オレオレ。オレだよ。ちょっと風邪ひいちゃって顔の形とか刺胞の具合とか、見違えたと思うけど、オレなの。じつは黒塗りの移民船と事故っちゃってさ。示談にお金が必要だから百万ほど貸してほしいんだ…
[ かつて別の船で犠牲者に呼びかけたときの手口を、記憶に新しい猫にしかける夢を見る。冷たく凍りついた知能は夢の続きを見ることもなく、やがてまた、ノンレム睡眠に移り変わって行くだろう。]
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…猫さんの目には、ほんとに見えるんだね。
[なんで、なんて理屈は知らないけど。>>23 見えるというなら、そうなんだろう。でも、]
でも、……ど、して? どうして、生きているうちは 見えないの。 見えれば、見えていればお姉さんだって……ッ!!
(27) 2020/09/01(Tue) 22時半頃
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[八つ当たりだ。 そんなこと、床に向かって叫んだ瞬間に知れた。 どれだけ嘆いても、涙は零れ落ちないままに。
声>>24がかかれば、ひどい顔を向けただろう。 涙ひとつ流れてない、なのに泣きはらしたかのような顔を。]
わた、わたし、は──…
[はく。と、口を動かす。 うまく言葉が出てこないまま、息をする動作を繰り返した。
やがて、こくんと頷く。 ひょっとしたら、嫌がられたかもしれないけど。]
(28) 2020/09/01(Tue) 22時半頃
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う ん。
[それでも、返したのは自分の意志で。 以前のように猫さんに手を差し出すこともなく、とぼとぼと 小さな足取りと共にヘリンお姉さんの部屋へ向かう。]
(29) 2020/09/01(Tue) 22時半頃
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[部屋に向かう途中、小さな背中にだけ聞こえる音量の言葉を紡いだ。 視線は足元を見つめたまま。 そうしてないと、足が止まってしまいそうで。…このまま、投げ出したくなりそうで。そうならないよう、歩みを進める。]
ねえ、猫さん。 猫さん、……は 、
[問いかけた、声が途切れた。 何を問おうとしてるのだろう。彼の夢。>>3:211 素敵だと思ったなんて、今、言っても仕方ないのに。]
(30) 2020/09/01(Tue) 22時半頃
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……あと、ふたり。 誰だと、おもう?
[だから声にしたのは。 夢ではなく、無残な現実への問いかけだった。*]
(31) 2020/09/01(Tue) 22時半頃
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─ 談話室にて ─
一緒に…ぜんぶ? いい、…の?
[薄荷さんの全部を一緒に、と。>>34 言ってくれたシルクさんに返すわたしの声に、少しの戸惑いが乗った。いいの?と、睫越しに見上げれば、宇宙服越しの静かなまなざし。]
いっしょに、いるの。 わたしで…、いいの?
[再度聞き直して、それでも彼か彼女が頷いてくれるなら、わたしは全部の薄荷さんを包んで胸元に大切に仕舞いこんだ。 赤く色が変わって、枯れ果ててしまった青石洗剤。かつては何の躊躇いもなく使い捨ててしまっていた、彼らの亡骸。いまは大切な、隣人のヒトの証だ。]
(39) 2020/09/01(Tue) 23時頃
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[わたしが猫さんとヘリンお姉さんの部屋を訪ねるのに、モナリザさんも一緒に来てくれるみたいだった。 わたしとおなじ、機械の身体のヒト。
辺境出身のわたしにとって、ヒューマノイドという概念はなじみが薄い。 厳密に言えば、モナリザさんはヒドではないのかも知れない。でも、ヒトだった。
少なくともこの場において、わたしにとって彼女はヒトに違いない。その思いの裡>>36までは見透かせないにせよ。]
(40) 2020/09/01(Tue) 23時頃
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─ 廊下で ─
[廊下を行きながら、わたしは最低だ。って思ってた。 猫さんがではなく、わたし自身が。
何も分かっていないのは、わたし自身。 何も守れていないのも、わたし自身。
お姉さんが大事に呼んでたソランジュさんを死なせて、お姉さんを守れず、薄荷さんもこんな姿にしてしまったのはわたし。他の誰でも、ましてや猫さんではない。
そう、分かっているのに。当たって、傷つけて。 甘えて、…──頼って、しまっている。
わたしは、そっと胸を押さえる。 シルクさんから預かったもの。>>50 物言わぬ薄荷さんたち、の、名残の欠片を。]
(73) 2020/09/02(Wed) 04時頃
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[猫さんへの問いかけは、きっとずるい。 わたしはまた、頼ってしまった。
問いに問いが返される。>>44 それに、わたしはすぐに答えられなかった。 幾分か歩くだけの間、沈黙が落ちる。
それを埋めるように、モナリザさんが口を開く。>>49 わたしは二人のやり取りを、やっぱり黙って聞いていた。 情についての、二人の話。情と理論。 冷たくすら響くモナリザさんの話は、情を排するからこそ今は聞きやすい。]
(74) 2020/09/02(Wed) 04時頃
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わたし、は。
猫さんはちがう…と、いいなって思ってるよ。 昨日、夢のお話してたでしょう。>>3:211 クラゲさんに寄生された人を、元に戻すような薬をつくりたいって。
そんな話を、クラゲに寄生された人がするかしら? 信頼されるためにするのかしら。 わたしにはもう、分からないけど。
[誰が宇宙クラゲと思うかと、問いながら。 わたしが出した答えは、その逆で。 モナリザさんの言う論理的根拠にも欠けてるんだろう。]
(75) 2020/09/02(Wed) 04時頃
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シルクさんも…、かしら。 わたしに薄荷さんを、預けてくれたの。
薄荷さんが、さみしい、からって。 いっしょがいいからって。
預けて、くれたの。
[やっぱり情だ。でも、とも思う。 ここに居るのはヒトたちで、人を動かすのは心だから。 垣間見た、あのひとの表情に嘘はなかったのじゃないかしら。宇宙クラゲは、そんな錯覚までもさせるのかしら。]
(76) 2020/09/02(Wed) 04時頃
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気にかける風、だけなのかも。でも。 ヘリンお姉さんは違ったもの。 ソランジュさんのことを悼んでた。……だから。
居なくなった人を思うシルクさんは、クラゲさんには、思えない。思いたくない……なって、わたし思うの。
あとは……、あ。 この部屋、ね。
[一人、二人と名を挙げて。 もう一人分、口を開きかけたところでヘリンお姉さんの部屋についた。
猫さんとモナリザさんに続いて、わたしも部屋の中に入る。 お姉さんのいたはずの部屋。 今はもう、何もない……]
(77) 2020/09/02(Wed) 04時頃
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Man-juの包み紙?
[モナリザさんの声に、そちらへと歩み寄る。>>66 見覚えのある紙切れが一枚きり。
手を伸ばす。くしゃりと紙に触れれば、ヘリンお姉さんの顔が浮かんだ気がした。Man-juを分けたら、嬉しそうに一緒に食べてくれた笑顔を思い出してしまった。]
………… っ
[喉の奥がツンとする、錯覚。 相変わらず涙など出ないくせに。横から声を掛けられても、暫く顔をあげられなかった。声を殺して、わたしは暫くその場に蹲ってた。**]
(78) 2020/09/02(Wed) 04時頃
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[宇宙をいく船の中で、
小さく青石洗剤が擦れる音がある。]
[それらは、夜に入っていた洗濯機を壊され
負荷に耐え切れずに変色したものだった。
それらは、部屋に来たものに拾い集められ
談話室に運ばれた。
それらは、一度
浮遊種と言われる者の手にとられ
また、別の義体の少女に受け渡された。]
[それらは、一晩、談話室においてあっても
清掃ボットに片づけられることはなかった。]
[それらは、青色洗剤と呼称される存在に
生命があると定義した場合、
「死体」と呼べるものであったが
その青石洗剤らは、
ヒト種に近いものと同じ扱いは受けなかった。]
[青石洗剤の「死体」は、
片づけられるべきもの、
遠ざけられるべきものとしては
扱われなかった。
それは、やはり、「人」と姿があまりにも
大きく異なるが故であっただろう。]
[その結果として、集められた動かぬものは、
浮遊種や少女と、共にあることになった。]
[もはや、その選択をした理由は
「心」は、青色洗剤に届くことはないけれど。]
[いくら、そこに身体(いれもの)が存在しようとも、
変色した小石に、何かが届くことはない。
元々、翻訳を通さなければ、
小石にとっては、
理解不能の存在だった。
そして、翻訳機能は失われている。]
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