278 冷たい校舎村8
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―― 昨日の夜のこと ――
[ 連城に零した質問の答えは とってもあいまいなものだった。>>62 仕方ないと思う。わかるわけがないのだから。 そうだよなあ、と返事しながら、 連城はどうやって帰るつもりでいるんだろう、と思った。 聞けなかったけれど。
クレープを食べた後、連城とは別れて、 女の子たちで保健室へと向かう。 既にいたまなと紫織に挨拶をして、>>56 使うベッドを相談して ]
(98) 2020/06/18(Thu) 01時半頃
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あ、じゃあ僕は寝る前に入っとこうかな。
[ 明日の朝紫織がシャワーを使いたいと言うのに そう反応した。 みんな朝に行くと言ったら混みそうな気がしたので。
それで、シャワーを浴びた後、 保健室に戻ってベッドで眠った。 眠れるかなと思ったけれど、 保健室のベッドは意外と快適だった ]
(99) 2020/06/18(Thu) 01時半頃
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―― 翌朝:保健室→購買→? ――
[ 保健室で目を覚まして、身支度を整える。 まだそこに人はいただろうか。 いたらおはようの挨拶をした。 そして、真っ先に思ったのは、 昨日の母のお弁当を食べてしまわなければ ということだった。 食べずに捨ててしまうのはどうにも抵抗がある ]
あー……でも、 男子、寝てるんだった……。
[ こんなことならお弁当も回収してくるべきだった、 なんて後悔しても手遅れだ。 もう起きてるかな。起きてるよな。 そうだ、先に購買で飲み物を確保しよう。 そう思い立って、購買へと足を向ける。 時間稼ぎというやつである ]
(100) 2020/06/18(Thu) 01時半頃
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[ お茶のペットボトルを選んだタイミング、 チャイムが、鳴った>>#0 ]
(101) 2020/06/18(Thu) 01時半頃
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……え?
[ 音がする。 チャイムの音と重なるように、音がする。 階段の上方から、がらんがらんと、 何かが落ちてくるような、音が。>>10 チャイムの音と重なる、不協和音。
危ないことはないんじゃなかったっけ? お化けのいない お化け屋敷みたいなものじゃなかったっけ? そんなことを思って、首を振った。 夏美のマネキンを見た後に何を言ってるんだろう ]
(102) 2020/06/18(Thu) 01時半頃
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[ 恐る恐る、階段を見上げた。 がらんがらんという音が近づいてきて ]
うわっ!
[ 音の正体は、鍋だった。 転がり落ちてきた鍋は、1階の床を転がる ]
(103) 2020/06/18(Thu) 01時半頃
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危ないじゃん……誰がこんな。
[ クラスメイトの誰かのいたずら? それもなんだかぴんとこない。 だったら、他にも人がいる? 現れた? それとも勝手に鍋が落ちた? どこから? 誠香は唇を引き結んで、階段を上る。 スープが点々と飛び散っている階段を上る。 1階から2階、2階から3階、3階から4階、そして ]
増えてる……。
[ もう増築はいいって言ったのに。 大は小を兼ねるにも限度ってものがあるのに。 4階の上に5階、5階の上に6階 ]
(104) 2020/06/18(Thu) 01時半頃
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なに、これ……。
[ そうしてたどりついた6階は、異様な空間だった。 傾いた廊下は、平衡感覚が狂って気持ち悪い。 覗いてみた教室はいびつに歪んでいた ]
気持ち、悪い……。
[ まだ何も食べていない胃がぐるぐるする。 壁に手をついて、深呼吸をした** ]
(105) 2020/06/18(Thu) 01時半頃
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―― 回想:高2〜現在 ――
[ 兄の作品が世に出ていく。 誠香の名をつけられて世に出ていく。 誠香の発表した作品の数は、 そのまま、誠香の重ねた嘘の数だった。 寄せられる評価や賛辞は、 兄に与えられるべきものだった。
評価の高いものもあれば、今一つのものもあった。 没になったものももちろんある。 それでも、兄には才能があったのだ。 嘘をつき続けるのは苦しかった。 嘘を重ねたくない一心で、何度か自分でも書いてみた。 それらはすべて、没になった。 当然だろう。 誠香は作家になど、なりたくなかったのだから。 誠香には才能など、ないのだから ]
(194) 2020/06/18(Thu) 14時頃
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[ 嘘はいつか破綻する。 兄が残した作品はたくさんあったけれど、 これから先、決して増えることはない。 有限のものは、いつか必ずなくなるのだ。
出版社は貪欲だった。 高校生作家という肩書きが使える間に、 たくさん発表させたがった。 それでもじりじりと惜しんで、惜しんで、 なんとかここまで来たけれど、 それももう、限界だった ]
(195) 2020/06/18(Thu) 14時頃
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[ これが、誠香の三つ目の悩み* ]
(196) 2020/06/18(Thu) 14時頃
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―― 現在:6階 ――
[ 世界が歪んでいて気持ちが悪い。 何かに似ているな、と思って、 ああそうだ、体験型のトリックアートだと思い出した。
傾いた床は、三半規管や自律神経に変調をきたすと 何かで聞いた。 道理で、空っぽの胃がぐるぐるして、 漂うコンソメスープの匂いが気持ち悪い。 思わず壁に手をついてしまったけれど、 その壁にも、もはや見慣れてしまった赤いインクが 飛び散っていた。 べたっとした感触に、あーあ、と思いながら見ると、 案の定手のひらは真っ赤に染まっている ]
(197) 2020/06/18(Thu) 14時頃
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……ひと、ころした、みたい。
[ 手を洗わなければ、と誠香は思った。 けれどこの階にこれ以上留まるのはごめんだ。 5階も、4階も嫌だ ]
戻らないと。
[ 呟いて、誠香は踵を返す。 結局、鍋がどこから降ってきたのかはわからないままだ。 この世界の主の考えていることもわからないままだ ]
(198) 2020/06/18(Thu) 14時頃
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[ 手すりにすがって階段を下りた。 そのせいで、手すりにべったり 赤い手形がついてしまったけれども、 気持ちが悪かったので大目に見てほしい。 なんだかまだ世界が傾いているような気がして、 足元がふわふわと覚束ない** ]
(199) 2020/06/18(Thu) 14時頃
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―― 現在:階段→3階手洗い場 ――
[ 階段を下りる。スープのあとが点々としている、>>10 階段をゆっくり下りる。 スープの匂いがする。コンソメスープの匂い。 心乃はスープを用意してくれると言っていたが>>201 ちょっと今は食べられなさそう、と誠香は思った。
ようやく3階にたどり着く。 6階でも5階でも4階でもない、 増殖したんじゃない、 インクも飛び散っていないフロアについた。 誠香はほっと息を吐きだすと、 手洗い場で手を洗った。 片手を真っ赤に染めた赤いインクが流れ落ちていく ]
(265) 2020/06/18(Thu) 19時半頃
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……ん?
[ 手を洗っていると、ふと風を感じた。>>108 どこかの窓が開いているのかな、と誠香は思う。 開いているなら閉めなくちゃ、と ハンカチで手をふきながら周りを見回した。 ハンカチはちゃんと持っています ]
(266) 2020/06/18(Thu) 19時半頃
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準備室?
[ 準備室の扉が開いているようだった。 そこから風の音がするのかと、 ハンカチをポケットに戻して足を向ける ]
誰だよ窓開けっぱとか。 ……あれ。
[ 窓は開けっ放しになっていたわけではなかった。 正確に言うと、開いてはいるけれど、 そのまま放置されたわけではなかった ]
おはよ。そんなところで何してんの?
[ 窓の外を見ている人影に声をかけた* ]
(267) 2020/06/18(Thu) 19時半頃
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―― 現在:準備室 ――
[ ところで、連城はともかくもう一人は誰だ。 見知らぬ……けれどどこか見覚えのあるような、 男子生徒の後ろ姿に誠香は眉を寄せる。 まさか、鍋を落とした犯人か? そう思った誠香は、振り返ったその人を、 しげしげと見つめてからぽかんと口を開けた ]
え。氷室? 氷室だ。 わあ。びっくりした。
[ なーんだ、氷室かよー。誰かと思ったじゃんー。なんて、 のんきなことを言っていたけれど、 氷室にか連城にか、窓の外のことを聞くと顔色を変えた ]
(271) 2020/06/18(Thu) 20時頃
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は!?
[ 窓に駆け寄って、覗き込む。 窓の外は、ちょー怖い。やばい。>>1:109 でも、そんなことに構っていられなかった。 窓枠にしがみつくようにして、身を乗り出す ]
千夏、ちゃん……!
[ そんな。どうして。 ぐるぐる、誠香の頭に昨日の千夏の姿が浮かぶ。 いつもよりはしゃいで、 一緒にご飯を食べて、 クレープを食べて、それで ]
(272) 2020/06/18(Thu) 20時頃
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なんで……なんで!
[ 遠くてもわかる。あれは決して千夏本人の体じゃない。 千夏によく似たマネキンだ。 わかっているけれど、それでも。 外に放り出されたまま、雪に積もられるままなんて、 そんなのは我慢できなかった ]
僕、ちょっと行ってくる!
[ どこへ、とも言わず、誠香は準備室を飛び出す ]
(273) 2020/06/18(Thu) 20時頃
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[ 走って、走って、駆け込んだのは3-8の教室。 その、教室の後ろ。>>0:1046 ハンガーから、白いコートをむしり取るように外した。 コートを抱えて教室から飛び出す。
そして、次に駆け込むのは 準備室のちょうど下に位置する教室。 その窓を開け放って ]
えい……っ!
[ 狙いを定めて、広がるように白いコートを投げた。 千夏のマネキンにかぶさるように。
あれは、ただのマネキンだ。 千夏が凍えているわけじゃない。 そんなことはわかっている。これはただの自己満足だ。 だけど、どうせ覆われるなら、 真っ白な雪よりも、 真っ白なコートの方がいいと思った* ]
(274) 2020/06/18(Thu) 20時頃
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……千夏ちゃんは、帰ったんだよ。
[ 誰に聞かせるでもなく呟く。 自分自身に言い聞かせたかったのかもしれない ]
(296) 2020/06/18(Thu) 20時頃
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―― 現在:教室 ――
[ そして、教室に戻ってきた。 黒板に向かって、チョークを握って、 ]
『6階まで増築。 床が傾いてて、教室も歪んでる。酔う』
[ ここまでは躊躇うことなく書けた、けれども。 誠香は、黒板の書き込みをじっと見つめた。 夏美がいなくなったという連絡事項>>2:221 ]
……書かないと。
[ 自分に言い聞かせるように誠香は呟く。 みんなに知らせる必要がある。 だから、これは必要なこと。 けれども、やっぱりチョークを握りしめたまま、 なかなか手は動いてくれなかった* ]
(297) 2020/06/18(Thu) 20時頃
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―― 現在:教室 ――
[ チョークを握りしめたまま、 どれくらい固まっていただろう。 ろっかい、という声が聞こえて>>327 はっと誠香は我に返った ]
まなっち。
[ チョークを握りしめたまま、 誠香はまなに顔を向けて。 どうしたの? という声に、 ちょっと泣きそうな顔になった ]
(331) 2020/06/18(Thu) 21時半頃
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……違うよ。僕は、元気。 …………あの、さ、
[ 夏美についての書き込みを、指さして ]
これ……書いたの、まなっちだよね。 僕……なんて書けばいいか、わからなく、て。
[ まなの顔を見ていられなくなって、 視線は床に落ちた ]
……窓の外、に、 お人形、増えてた。 …………千夏ちゃんの。
[ なんて書けばいいかな。 独り言のような小さな声で、そう聞いた* ]
(332) 2020/06/18(Thu) 21時半頃
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―― 現在:教室 ――
[ 具合悪い? と聞かれて、元気、と答えた。 それは、間違っていないはずだ。 誠香は怪我をしているわけでもなければ、 体調だって崩していない。 元気、だ。そのはずだ。 だけど、気持ちの方は……どうだろう。 少し、くじけているかもしれない。 傾いた6階の廊下を歩いた時のような、 足元が少し、頼りない感じ ]
(402) 2020/06/18(Thu) 22時半頃
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[ まなが、黒板の一文を消した。>>361 誠香はそれで察する。 まなも、もうこの校舎に夏美がいないと思っている。 誠香もそう思っている。 だから、夏美を探さなかった。 5つのベッドを5人で分け合って、眠った。 ベッド、一つ空いてしまったなって、 そんなことをぼんやり思う ]
(403) 2020/06/18(Thu) 22時半頃
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[ なんと書くべきか、まなが教えてくれた。>>365 ほんとの世界に帰ったから。 そうか、と誠香は頷いた。 マネキンになっていた、よりずっといいと思う ]
うん。賛成。 [ まなが、黒板の字を書き替えるのをじっと眺めて>>369 喜多仲もいなくなったのだと知る。 けれど、なにも言わなかった。 まなが書き終えたら、その下に、 “千夏ちゃん、メイクレッスンお願いします” と書いておいた。 すっぴんノーメイクで生きてきたけれど、 そろそろお化粧を覚えてもいいと思う。 もうじき大学生になるのだし ]
(404) 2020/06/18(Thu) 22時半頃
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[ 書き終えて、チョークを置いてから、 ずっと考えていたさっきの話のことを>>367 ぽつぽつと話した ]
……そう言われたら、なんとなく、わかるかも。 ここは、“文化祭”っていう舞台で、 僕たちは、その出演者なのかもね。 [ 出番が終わったら、舞台にはいられない。 ほんとの世界という舞台袖にはけていく。 みんなの出番が終わるのを先に待っている。 そんな気がした。 そうだといいなと思った ]
(405) 2020/06/18(Thu) 22時半頃
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……遠くから見えただけだったけど、 千夏ちゃんは、穏やかに眠ってるみたいに、見えたよ。
[ 現実に帰った千夏が、寒くなければいい。 昨日連城にあったかくしてと言っていた>>2:748 千夏のことを思い出して、そう思った* ]
(406) 2020/06/18(Thu) 22時半頃
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