266 冷たい校舎村7
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―― イロハ、病院へ行く ――
[ささやかなあかりが、暗い夜道にスポットライトをともしている。
イロハは自転車をこいでいる。
病院は家からだとちょっと遠いし、
まあ、なんにせよ、早く到着できるに越したことはない。
そう、早く到着したいからこそ、
途中で赤信号に引っかかればもどかしい思いもした]
[……けして走ってはいないのに、
身体の真ん中がばくばくといやな音をたてている。
駐輪場に自転車を止めて一息ついてもおさまらない。
防寒対策としてコートしか着てこなかったから、
手袋をつけていない手はひたすらに冷たくなっている。
顔の前に持ってきて息を吹きかけながら正面の出入口を目指す。
気もそぞろで、それでも、
病院の前にたたずむ人影に気付くのはかんたんなことだった]
宇井野くん。ええと、その、 えぇと、……帰ってたんだ。
[あたたまりきってない手を振ることはしない。
ただ、言葉だけを投げてよこして]
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[ 4度目のチャイムが鳴る。]
(16) 2019/06/14(Fri) 01時頃
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──現在:廊下──
[ 正常に。規則正しい間隔で。 鳴り響いた音を聞いて、ようやく足を止めた。
音の出どころを探すように、 スピーカーのたぐいをふと見上げて、
悲鳴も、大きな物音も、 何も聞き取れるものはなくって、
ただ唯一確かであるのは、 僕はまだこちらに生きている。 ……ということだけである。]
(17) 2019/06/14(Fri) 01時頃
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[ そっか。という言葉>>1が、 布越しにひどくくぐもって聞こえて、 僕はただ一言「そうだよ」と言って、 その場を静かに立ち去ったのである。
ただしく看病というのは、 一体どういうものだったんだろうか。
今だけは、言い訳がましく言いたかった。 ……僕はどこかおかしいらしいので。]
(18) 2019/06/14(Fri) 01時頃
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[ 保健室のベッドをひとつ塞ぐ。 ということについて伝えようと、 一応、そんな理由付けをして、 ただ、あてもなく歩いていた。
部屋の中は暖かくても、 廊下は染みるように冷たくって、 空気に晒される末端が、耳たぶが痛い。
次の8時50分を知らせるチャイムで、 ようやく僕は足を止めて、息をつく。
……明らかに病人って姿のやつを、 ベッドからたたき出す人が、 僕の友人にいないことくらい、理解してる。]
(19) 2019/06/14(Fri) 01時頃
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……誰か、
[ 消えたんだろうな。という呟き。 後半は声にはならず吐息に混じる。
繰り返していけば、きっといずれたどり着く。 少なくとも、この世界のおしまいを、 見届けられる人間にホストがいるのだ。 それをどう捉えればいいのだろう。
……とにかく。 人間でも、人形でも、 どちらかを、探そうと。
誰かしらいるだろうかと、 自分たちの教室へと帰ってきた。]
(20) 2019/06/14(Fri) 01時頃
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──現在:3年7組──
[ ……予想は残念ながら当たらず。
ただ、いくらか増えている黒板の文字。 その中に、やや異質なもの>>3:384を見つけ、 僕は、少し笑った。チョークを手に取る。
その文字列の下に、白色で書き記す。
『 4度目のチャイムを聞きました。 生きています。 蛭野 』
そして、再び廊下へと、 人間か人形かを探しにゆくのだ。**]
(21) 2019/06/14(Fri) 01時頃
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[言葉とともに吐き出される白いかたまりの端だけを捉えていた状態から、
顔を上げる。とはいえイロハにも言えることは少ない]
聞いた。
あたしにも何が何だかって感じで、…………でも、
あの世界をつくってあたし達を招いたのは養くん、
……ってことになるのかなぁ。なるよね。
[――そう、つまり世界の主は目の前の建物の中にいる。
今は言葉の届かぬところにいるその人に、
宇井野にだって言いたいことはあるだろう。イロハにもある。だが、]
……ここ、寒いし、とりあえず中入って話しよっか。
[出入り口の自動ドアの方を指差して。
返事をあんまり待たずにさっさと歩き始めた]
少なくとも今は、
「ありがとう」だけは言える気分じゃないかな。
ちょっとだけ、あたしはあたしのことを見つめなおすことはできたけど、ね。**
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──現在:2階──
[ 3階をぐるりと回って1階下へ。
勘も予感も働かないから、 ルートを定めて順に見て回る。
動いている人間とはすれ違っても、 動かない人形とはいつか会えるでしょう。
そんな目論見を抱き、 順番に扉を開けていくときに、 ここにいるなら誰か。とか、 なんとなく考えてみたりする。]
(46) 2019/06/14(Fri) 18時半頃
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[ ……ほら、例えば。 多目的室。七月さんが使ったらしい。 美術室なら────、
……灰谷さんも相原さんも、 無造作に廊下に転がってたんだから、 なんの関係もないのかもしれないけど。
だから、その扉を引くときも、 ふと思い出した。放送室。音響。]
(47) 2019/06/14(Fri) 18時半頃
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──現在:放送室──
……あ。あった。
[ 開けた扉の外から覗くようにして、 僕は遊びみたいに立てた予想が、 どうやら正解だったらしいことを知る。
3年間をこの校舎で過ごして、 今まで縁のなかった部屋。放送室。
まるで外部者の気分だったので、 心の中で呟いておいた。お邪魔します。
間違ってコードか何か踏んづけないように、 僕は慎重な足取りでその部屋に立ち入り、 壁にもたれかかっている人形の前にしゃがみ込む。]
(48) 2019/06/14(Fri) 18時半頃
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柊くん。
[ 早く帰りたいよねぇ。>>2:541って、 当たり前みたいなふうに言ってた、 1つ前の夜の柊紫苑を思い出して、]
……帰れた?
[ なんて、問いかけてみるけれど。
返事が返ってくるわけでもないし、 頬を伝う赤い筋は涙みたいで、 なんだかそれは悲しそうだったし、]
(49) 2019/06/14(Fri) 18時半頃
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……聞こえないよねえ。
[ 右耳に刺さったまんまのイヤホンに、 僕は気が付いて、くすくすと笑った。*]
(50) 2019/06/14(Fri) 18時半頃
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──現在:2階 放送室>>51──
柊くんだよね、たぶん。
[ きっと何気なく落とされた呟き>>52を、 声をかけられたのだと思って、 僕は思わず相槌を打ったりした。
躊躇なく人形に手を伸ばす姿に、 何も言わずに、そこにしゃがんだまま。
返事はないね。と田所怜奈が言う>>53のに、 そうだろうね。と内心で答える。 分かり切ったことだし、言わないけど。]
(60) 2019/06/14(Fri) 19時頃
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[ ぴたりと音楽が止む。>>53
その中で発される声>>54は、 静かな部屋に明瞭に響いて、]
まだ、何人かはいるんじゃないかな。 拓海くんと、七月さんと、轟木くんと、 起きたとき、高本くんと宮古さんもいたし。
柊くんも、動いてたんだけどね。 ……さっきのチャイムが鳴る前の話だけど。
[ 動いている人。という表現に、 僕は知り得る限りの動く人を指折り数える。]
(62) 2019/06/14(Fri) 19時頃
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一応、見つけたら、 体育館に運ぶことになってる……と思う。
[ 指示を仰がれるだなんて、そんな。
そうそう起こらない事態にやや困惑したが、 多分そうするべきなのだろうな。とは思う。]
……一緒に運んでくれる? ここからなら、そう遠くないし。
[ 2階でよかった。と内心で思い、 了承を得たなら、僕も人形に手を伸ばそう。*]
(63) 2019/06/14(Fri) 19時頃
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──現在:体育館へ──
[ 同意を得て>>74、人形を持ち上げる。
今までは何かに包んで──というのを、 その時すっかり忘れていたため、 ふたりして運び出した人形の姿はきっと、 鉢合わせた養拓海>>73にも丸見えだろう。
まさか病人に手伝いを申し出られるとは。 思いもよらず、僕は一瞬立ち止まって、]
拓海くん、──あ。
[ よたよたと放送室を出ようとした所>>75。 その際に、僕が出口の段差に蹴躓き、 かくんとつんのめって、それで──、]
(78) 2019/06/14(Fri) 21時頃
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……これ。柊くん。
[ 体勢を立て直しながらそう答える。
揺らした拍子に、 右耳に引っかかっていたイヤホンが、 落っこちそうになってるのを目で示す。]
気分はもう平気? なら、そっちを代わってるか、 加勢してくれると──、
[ 手伝ってくれるというなら、遠慮せず。
やや苦し気な様子の田所怜奈>>75の持つ、 頭部のほうを示した。僕はがんばりますので。*]
(79) 2019/06/14(Fri) 21時頃
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──現在:2階──
……持てるよ。
[ さっきは少し驚いただけで、 重さでよろめいたわけじゃあないとも。
確認の口調>>81が冗談ともとれず、 僕もまじめにそう答えたんだけれど、
無事、逆側に加勢>>86があったので、 さて、歩みを進めてまいりましょう。
道中交わされる会話は、 そう、やっぱり前も話したようなことで──、]
(87) 2019/06/14(Fri) 22時頃
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帰ってる可能性は高いと思うけど。 どうだろうね。確認のしようもないし。
[ せーので飛んでみる? と、 しばらく前に自分の言ったことを思い出し、 けれど、僕自身がそれを望まないので、 口にするのはやめておいた。]
……条件。どうかな。 帰りたい。とか、帰らなきゃって、 柊くんや灰谷さんは、言ってた。 案外、希望を汲んでくれているのかもしれない。
[ 訥々と語るそれも推測でしかなく、 さらに、そのあたりでどこかから声>>85がかかり、 僕はぐるりと首を捩じって、そちらを見る。]
(88) 2019/06/14(Fri) 22時頃
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[ 帰ってたんだ、と、言われて。
あの校舎が夢でも何でもなくって、
本当に自分が身を置いていた世界と知る。
あの世界じゃあ、
夢だということを否定していたのに、
目が覚めてしまえば曖昧で。
夢も現実も、そんなものだから。
あの世界を現実として認識するのに、
誰かの言葉を受けなければならなかった。 ]
[ だけども、事実とわかってしまえば早い。 ]
ああ。学校で目ェさめた。
養が、死にそうになって、
あの世界が出来たってとこか。
[ 文化祭に彩られた空間も、
腐った肉も、真っ赤な水も。
全部、養の心の中を形にしたものだろう。
上澄みの底を覗いたような気分だった。
誰しも持つであろう、奥の奥。 ]
[ 寒いし、と、言いかけて。
先に言われたものだから
宇井野は頷いて、後を追う。
病院の中。カウンターで事情を話せば、
待合に居座ることは出来るだろう。
扉一枚、二枚隔てた空間はあたたかい。 ]
どこから。
あの世界の中だったんだろう、な。
朝起きた瞬間からってのもおかしくない。
[ だとか。
そんな声は、病院の中だ。
他の誰かが聞いたらきっと、
よくわからない話でしか、ないのだろう。 ]
[ 言いたいことならあるけども
それはまだ はっきりと形を持たない。
だけども、今はとにもかくにも、
生きて欲しいと願うばかりなのだ。
顔だけは平気な形をさせたって、
あの校舎みたいに冷たい体は
……みたく、なかった。 *]
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──高本くん、ええと。 それ、…………誰?
[ 高本悟が背負うようにしている人形は、 これまでに見たものの中でもうんと赤くて──、 労力の再分配よりなにより先に尋ねてしまう。
とはいえ、現在1と3。 ひとりこちらから移るのが望ましいでしょう。 僕、腕を振るわすひとり、先刻まで病人のひとり。]
……僕、どっちでもいいけど、 あっちのほうが、まだ軽いんじゃないかな。
[ 恰好からして、あちらは女子でしょう。 行きたい方、どうぞ。僕と代わるならそれもお好きに。 人形の足を両手でつかんだまま、立ち止まった。*]
(89) 2019/06/14(Fri) 22時頃
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──現在:体育館へ──
何か。何か──、 ホストの正体? とか。
[ 答えを知りようもないのだから、 好き勝手に推測>>91を立てて。
きっと、田所が向こうの、 ……宮古瑠璃だという人形のほうに、 加勢するのを確認して、また歩き出す。
制服の汚れだとか、 そこまで気が回らなかったのだ。]
(100) 2019/06/14(Fri) 22時半頃
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そっか。宮古さん。
……どうして人によって、 こんなに様子が違うんだろうね。
[ そんな、ふとした疑問を口にしながらも、 目指すのは階下。体育館のほうへと。
首輪。と言われたって心当たりはなく、 僕は首を傾げるばかりだった。]
──あ。でも、 柊くんの人形は、ちゃんとイヤホンしてた。
[ だから、何というわけでもないけれど。 宮古瑠璃が首輪を持ち歩いている、 あるいは結びつけるような記憶さえ、 僕にはまったくもってないのだから。]
(101) 2019/06/14(Fri) 22時半頃
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[ 何はともあれ、そう遠くない道のり。
そんなやり取りの果てに目的地に着いたなら、 これまでの3人の隣に並べるように、 その人形をその場に横たわらせたのだろう。]
──今回も二人、なのかな。 七月さんと轟木くん、前のチャイムまでは、 ここで、生きていたはずだけれど。
[ そんな言葉を、何とはなしに落として。*]
(102) 2019/06/14(Fri) 22時半頃
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