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【人】 複眼レフ パラチーノ
(23) 2019/06/18(Tue) 00時頃 |
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(55) 2019/06/18(Tue) 21時半頃 |
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(60) 2019/06/18(Tue) 21時半頃 |
せんせいの言葉をきいて、
硝子や、氷や、雪のようで
触れれば父を蝋に冷え固めた僕よりも
せんせいの体温は冷たいのか……見上げたまま、
伸ばしかけた腕をそうっとおろしました。
・・
( そうなら、
せんせいになら、ぼくは触れても
火傷したり縮んだりしない筈だから
─────。 )
……だけどしませんでした。
手を伸ばせば届く■■さまみたいな存在は、
何を言われても僕にとってはあたたかい。
蝋の翼で天に飛び立とうとした人は融け落ちて、
二度と手が伸ばせない場所まで落ちるでしょう。
たとえ無感動の中に入り込んだ塩分が、
海や涙よりも薄く、泳ぐに足りないものでも
せんせいと僕はきっと…その距離が丁度良かった。
死んでしまえば無であるのに
楽しいことや嬉しいことは恐怖にかえていく。
せんせいは冷たいなどと言われていても、
僕を怖がらせるようなことはしませんでした。
…… 僕にはそれだけで充分だったんです。
身体が硝子みたいに薄っすら透けてきて、
ぶつかった拍子に罅が入った時も、僕は自分を
水槽を隔てたようにどこか遠く感じていた。
きっとあれは…痛いとか、そういったものが
冷やされて麻痺していたに違いないのです。
眠りの世界にいるあいだ、
冷涼でも雪は融けてしまう夏から
陽のあたらない暗くて冷たいところへ避難して
海の生き物として深い意識の中で歌っていても
融けて濡れる身体は僕をまた縮めてしまう。
夏を凌ぐ為の箱が棺に喩えられるなら、
暗くて冷たいそこは冥府のようでしょう。
時々補給のために暴かれている最中も、
僕はきっと、睫毛を慄わせることすらなかった。
触れない程度にくちびるに近づいた手に
冬の風のような呼気をほんの僅か寄せるだけ。
・・・
─────── 眠る前の僕に、
教えられるものなら教えたかった。
目覚めたばかりの僕は、微かな興味どころか
何かを記録していることや自分の名前だって、
すっかり忘れて…雛鳥や稚魚同然だったから。
海の生き物のようにしっとり濡れていて
磨り硝子のように透けていた僕の身体は、
青白い心臓だけがぼんやり光っていた。
秋の風に目覚める頃には消えていても、
重なった手のひらのかたちにやけどした胸は、
誰かのあたたかさを僕の身体に残していた>>*14
誰のものかわからなくても。
・・・・・・・
おかえりなさい…と言われて
僕はどうしてあんな気持ちになったのでしょう。
言いようのない気持ちは潮騒を招いて、
どうしてか涙が零れ落ちそうになりました。
帰る場所は別にあったような気がするのに、
さめた夢のように思い出すことが出来なかった。
朝の雪原みたいな薄い色の瞳をしたひとは、
陸地の言葉を僕に投げかけてきました。>>*15
・・・・
「 ……
おはようございます
おしょくじありがとう…いただきます 」
辿々しく吐き出した声は52Hzの泡沫に消えずに、
ちゃんと陸地の言葉になっていました。
波の音が遠ざかるにつれて目を覚ましても、
おかえりなさいに対して答えられないままでした。
きっと僕は無くなるように消えることが
とても… そう、とても得意なのでしょう。
せんせいにカメレオンのようだと言われて、
肌の色が周囲の景色に馴染んでいったんです。
僕は縮んだり、罅割れたり、融けたりしていく。
───── ■ねば■だから。
────────────
───────
────
だから─────
せんせいが随分高いところから見下げてきても
僕はそれを陸地と深海や、天国と冥府みたいに
あたりまえに遠いものとしか思えませんでした。
慰めや温かい言葉は求めていなくて、
死ねば無であることを確かめることは出来た。
消えてしまったら二度と見つかることもなくて、
遠退いたきりの視線と同じになるのでしょう。
だって…せんせいは生きていて、
脆くなった僕はもう、きっと…消えてしまう。
いつか…列車に乗り込んだ僕を、
見送ってくれたひと達がいた筈なのに
あのひと達がどうしているかわからないように…
せんせいもきっと、そうなってしまうのでしょう。
冥府に行くときはいつだってひとりだから。
もうあえなくなるひとの言葉に、
僕はどう返していいのかわからなくて
手当てを受けるあいだ、僕は無言でした。
いつもより更に冷たくなった体温は、
グローブ越しにせんせいに届いたでしょうか?
漸く言葉を返せるようになった時には…そう、
夏でもないのに帰らなくては、と考えていました。
・・・・・・
「 硝子人間ならきっと、
波に揺られていつか手紙を届けます。
瓶に青白い硝子の破片を入れておくので、
それが目安になるでしょうか?
氷のように冷たいそれは、
僕の心臓ですから、……冬になったら
朝、白くて柔らかな雪の下に埋めてください。
そうしたらきっと ────── 」
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