15 ラメトリー〜人間という機械が止まる時
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[ふわ、ふわり、と歩き出す。
少女はまだ、ネコミミトカゲと一緒にいるのだろうか。
そのままでいてくれるなら、すぐに見つけられるのだけれど。
もしかしたら、どこかへ行ってしまっているかも知れない]
……その時は、捜せばいいの。
[小さく小さく呟いて、ふわふわと進んでゆく。
紅の羽は、回廊に僅かに残っていたけれど、それもいずれはとけてしまうのだろう。
やがて、先に駆け出してきた部屋へとたどり着いたなら]
……ポーチュラカ、いる?
[そう、と中へと呼びかけた**]
私、私
[真っ暗な中、泉を探して歩き始めた。**]
[ 約束のための亡霊は、大樹の影に還り ]
[ 涸れゆく泉に、異形の大樹は
夜露の滴を ぽたり ぽたり と ]
―――……ヨナ、
[水面に映るかすかな気配は
水の波紋に壊れ続ける]
……世界には、まだ意味がある のに。
[ 涸れゆく泉の 命を 繋ぐように
大樹は ただの一滴を 水に注ぎ続ける ]
[ヨナは暗闇を歩く。
その遺体をフィルが城まで運んでくれてることで、
ヨナの魂にも道ができている。
城に向かって歩く。
泉に向かって歩く。
ふと、何かの気配を感じて、振り返る。]
[そこには、あの飛蝗鼠と、それから、
赤い眼をもった小さな小さな虫がいた。
白い羽根をもっている。
何か懐かしいものだと思って、
そのどちらも手にとった。
それから、また暗闇を歩く。]
――…水を……。
[もうそれを必要としないかたちになってしまったのに、
それでも、水の元へ向かう。**]
[泉に辿りついたとき、
その世界は開ける。
だけど、嫌な予感がして振り返ったとき、
その塔は砕けた。]
ああ
こ わ さ な い で
こ ろ さ な い で
[それは、黒髪の竜の少女と共鳴したもの]
[ふ、と。
奇妙な騒がしさを感じた気がして、近くの窓の方を、見る]
……あ……あれ、って。
[見えたのは、夜空に広がる光]
……おわり……なの、かな。
でも。
綺麗……だね。
[ぽつり、と。小さな呟きが零れて、消えた]
[ヴァイオリンの音は止まない。
泉の色が変わっていく。光が増えていく。
また壊れ始める世界に少しだけ憂いの表情を浮かべ
紺の瞳は静かに佇む大樹を見つめた。]
―――…どうして…?
[泉を護ってくれていたのは彼ではなかったのか。
黒髪の女はヨナが守人だったことを知らない。]
……もう…
…護ってくれないの…?
――――……そう……
[ヴァイオリンの彼がいる方を仰いで。
大樹からの返事がなくとも一人理解をすると
立ち上がり、ヨナと入れ違う形で泉から去っていく。]
[泉から去る際にフィルの姿が見えたのなら、
一度だけ足がそちらへと向いた。
彼が気付くことはない。こちらから触れることもない。
ただ、一言―――]
…ありがとう、
[それだけ、伝えたくて。]
[崩れる音、世界が壊れる音。
けれども黒髪の女の耳には届かない。
聞こえてくるのは優しく 美しい音。
それは、死を呼ぶものだろうか。
死することは、壊れるということなのだろうか。]
……
[足を引き摺ることなく歩き出すとある場所へと向かう。
音の鳴る方へ―――… 音の、鳴る方へ*]
[ふわり]
[漂う靄はホリーにも気付かれることなく通り過ぎる。
向かいから近づいてくるガストンにもきっと気付かれない。
―――…重たくはない?
そう問うた彼の相方と共に見上げて足を止める。
伸ばした手に、あの時の毛皮の感触は もうない。]
……それでも…
…共にいるのね…
[マーゴが死してから彼が零した言葉。
重いのに――…きっと、重いだろうに。]
―――…綺麗ね、
[ぽつりと、呟いた。
小さな灯りがぽつぽつと、点る。
焼蛍虫。
命を奪うと恐れていた蟲の姿は、
死した後だとこれほどまでに―――…美しい。]
[バルコニーで奏でられるは繊細なメロディ。
光に照らされる――燃やされるというほうが近いか――世界に送られる葬送曲]
――、…
[誰か来る気配を感じつつ、緩急をつけて。
その人が現れたなら柔らかく笑んで言う。
*次が最後の曲だと*
世界の終演は、世界の終焉は。
きっともうすぐそこに――]
[少女の眠る部屋を訪れ、そして、こちらに気づかず歩き去っていったフィリップを見送る。
言葉を交わした時間は、短かったけれど]
……あきらめて、ないんだ、ね。
[先へ歩む彼の姿は、そう見えた。
自分から零れ落ちたあかとしろ。
それが、消えてゆくのを、見つめて]
[もう一度、窓の方へと視線を向ける。
迫る光は、以前は酷く嫌なものと思っていた。
けれど、今は。
そんなに、嫌なものとも思えなくて]
……まっくらよりは。
あかるい方がいい……のかな?
[ぽつり、零れるのは、こんな呟き]
[キツネリスは彼の短く切りそろえられた銀髪の上から、書き留められる世界を見つめる。
最後の、瞬間まで。]
―泉・大樹―
[ 焼蛍虫の輝き それは無慈悲な裁きの光にも、似て。
大樹はその濁り枯れつつある泉へと、枝葉を伸ばす―― ]
[ まもりたい と その声 想いは重なるから ]
[ 彼が 見ていたものは自分と同じもの だったのか ]
フィル……、
[ 彼の手が泉に触れ、濡れた手はその幹に触れる
巡るその水を糧として、
大樹は 一滴を 泉に注ぎ続ける
たとえ、それが無力であろうとも ]
[ 終末を告げる天上の音楽
黒髪の少女の問う言葉――― ]
[ もともと、
護ることなんて、自分には出来ない。
だから願いは分不相応だと知っている ]
残したい。
この泉を――この水で生かされた 命を。
それが。
それが彼女の―― ]
――ヨナ……
[ 崩れ落ちる轟音と共に 燃える星が 乱舞する
その白い輝きの中で、彼女の名を呼んだ ]
[ 大樹は 小さく震えて
少し濁った 水面の影も歪んでその微笑みは、哀しげに]
[泉にたどり着いた時、
そこには、誰がいただろう。
闇の中で、泉と大樹だけを見る。
そのうち輝いてくるのは、焼蛍虫。
点滅は、闇を彩り……。
最後見た風景を思い出させた。
やはり綺麗で……。]
[そこにはマーゴがいたかもしれない。]
[そこにはアリーシャもたかもしれない。]
[そこには今までも水を求めてきた人々が何か形を成していたかもしれない。]
[だけど、小さな飛蝗鼠と紅い眼の虫を肩に乗せた少女が出会うのは、
とても哀しい目をしていた青年。
ヨナが殺してしまった人。]
――……ラルフ……
ごめんなさい、あなたを殺したのは私……。
ごめんなさい、あなたがいなくなればと考えたのは私……。
でも、違うの。
憎いとか、嫌いとか、そんなんじゃないの。
私、あなたには綺麗な存在でいたかったの。
[目の前に広がる大樹を見上げた。**]
[ふわり]
[ふわり]
[女の形の靄はやがて辿り着く。
音の鳴る場所へ、葬送曲の奏でられる場所へ。
彼がこちらに気付いたのなら、淡い微笑を浮かべて
座る場所は彼の傍、けれども互いの手が届かぬ距離に。
これは―――…最後に見た夢の続きだから。]
――…なら、
うんと…ゆっくり弾いて…
[次が最後の曲だと聞けば、同じ笑みを浮かべてそう返した。
少しでも彼の終演が、長く聴けるように。
少しでも彼らの終焉が、先へ延びるように。
泉を見下ろすとそこには大樹と少女の姿があった。
点る灯りは、もうどこまで近づいてきているのか。]
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