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―自宅―
時間だ。私は鏡の新聞紙をはがした。
鏡はもう、あまり怖くなくなっていた。
もともと思い込みみたいなもの、今じゃちょっと楽しみなくらい。
不意に鏡を見せられたらすこしぎくりとはするけれど。
今日は誰だろう?
街で鏡を覗きこんでいた男の人?
挨拶した『香港小吃』の店員さんかな?
それともさっき『たまらん屋』にいた人たち?
鏡の前に立ち、覗きこむ。
――――4:44.
鏡に写ったのは、『たまらん屋』
店主がお店を片付けていた。まだ昼なのに店じまいかな…?
――――!
カウンターで、コンパクトミラーの鏡がこちらを覗いていた。
「大平あいり」と彫り込まれた、アイリスのコンパクトミラーだ。
コンパクトミラーに視線が釘付けになる。
コンパクトミラーの鏡に洗面台を覗きこむ私が、
洗面台の鏡の中にコンパクトミラーの鏡に、
映った私が覗き込む鏡にコンパクトミラーの鏡が、私の鏡を、中に鏡が、鏡と私を、鏡の中に、鏡と鏡、鏡の私の鏡の鏡の鏡私の鏡鏡、鏡私鏡鏡鏡、鏡……
鏡の鏡の鏡のずっと先に、目の細い香港小吃の店員が映る。
「 「 「あなた」は、
見届けましょう 」 」
穏やかな声が響いた。
ぐるりと、視界が回る。
空と地面が逆さまになって、地面が降ってきた。
「カミヤミカ」
近づいてくる地面を眺めていると、ラボの先生に名前を呼ばれた気がする。
ラボのことを怒りに来たのだろうか。
私をフルネームで呼び捨てるあの先生は嫌いだった。
「生物学と医学、何が一番違うかわかるか?」
コリッ。頚椎が外れた音が指に伝わる。
…これはラボでの記憶だ。会話に覚えがあった。
続けてコリッ、コリッ、っと作業的に優しく殺し続けながら先生とそんな会話をした。
「う〜ん…人間を研究しちゃいけないところ? ですか?」
人間の首外しちゃだめだし。確かそんな事を考えながら答えた。
「それも間違ってはいない。だが僕が考える一番の違いは、僕たちは命を救うために研究していないことだ。
医学研究なら10人殺しても結果的に10000人救えば地獄に落ちずにすむかもしれないが、
僕たちは絶対にろくな死に方をしない」
大きな地面がゆっくり近づいてきて、
聞き慣れた軽い音を、私の内側から聴いた気がした。
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[―――焦っていただろうか。
昨日からおかしなものを見るせいか、わからない。
あの時振り返って見た「あいつ」の姿は、
昨日、鏡に映らなかった、本来映るべきもの。
「自分の姿」に見えた。]
[…あの記事を読んで、
思っていたことがある。]
[正体は、行き過ぎた心理士だの
その幽霊でもなんであろうと。
こいつは、きっと
人が堕ちていく様を、
安全圏から眺めて楽しんでいる傍観者。
まるで、自分のような屑だろう。]
、
[…階段の底、青年は動けずにいた。]
[体中が痛くて仕方が無い。
指の一本も、視線の一つでさえも動かせない。
煩いくらいに跳ねていた心臓も、
嘘のように静かになった。]
[「あの化け物」が何なのか。確かめなくては。
そんな暴走した好奇心を
痛みが止めたのだろうか。
薄れる思考能力に、
ようやく恐怖がまともに働き始めた]
( … 逃げな きゃ
「さかした ひなこ」 は、
あの鞄 、 どこ に )
[目に血が入ったせいか、動かせない視界はすこぶる悪い。
一緒に落ちたはずだ。あれはきっと、よくないものだ。
早く、早く逃げなければ。
だが足も腕も、何一つ動こうともしない。]
( 「あい つ」 は 、 )
[階段の上に居たはずだ。早く逃げないと。
「あいつ」の狙いは、妹じゃなかった。
狙われていたのは、きっと僕だった。
あのネットに書かれた噂の通りに、
「自分につながる連絡先」を消すために。]
[階段の上に、誰かいる。
だけど視線は動かせない。
何かを怖がっているようなこえがする。
視界はどんどんくらくなる。
誰かがをひかりを
あててくれたはずなのに。]
[にげなきゃ。
でも、からだがうごかない。
いたい。
なにもみえない。
みみももう、きこえない。]
[―――何時手放したか分からぬ程、
抱えていた思考はとけるように消えた **]
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![]() | 【人】 MI:18 エリ――Cafe Sunny Sunday―― (5) 2015/06/07(Sun) 16時半頃 |
![]() | 【人】 MI:18 エリで? えっと、面白い話だっけ? (6) 2015/06/07(Sun) 16時半頃 |
![]() | 【人】 MI:18 エリで、今日はこれから、とりあえず目に見えるものの犯人を、探しに行くの。 (7) 2015/06/07(Sun) 16時半頃 |
![]() | 【人】 MI:18 エリそれを揃えたら、トイレに行けっていう指示になってて、今日はそのトイレの中で見つけたヒント? から、解き明かしていこうっていうことになってるの。 (8) 2015/06/07(Sun) 16時半頃 |
― 『きさらぎ駅』ホーム ―
……降りちゃって良かったんですか?
[ゆっくり近付いてきたフランク
彼の背後、電車は出発してしまった。]
ええ。貴方の巻き添えですよ……
[はぁ、と暗く溜息を吐いた。]
[間を空けた隣にフランクが座るのにも、気にする様子は無い。]
……、……
[痣が無い事への指摘については、特に言葉を返さなかったが、]
本当のこと……実のところ、「覚えてない」のですが。
[あいりを、の問いには淡々と言葉を紡ぐ。
その言葉に、フランクが納得するかはわからないが。]
でも、私はあの子が消えれば良いと思っていた。
新宿の交差点であの子が死んでいるのも知っていた。
あの子を手にかけた感触もこの手に有る。
……心配していない、と貴方が言ったのも当たりですよ。
あの子が死んだ事は知っていましたし。
そもそも私はあの子の事が嫌いでしたから。
――…だから。
私が殺したと言う事で良いんじゃないですかね。
[自白とすら言えない、投げ遣りな言葉。
Barで見せたような狂気は見られないが、憑き物が落ちたと言うよりは、目的を失って自棄になっていた。]
殴りたければ、どうぞ。ご自由に。
また取り乱す事が無いとは言えませんが。
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降りちゃダメだったよ。
[女――なぎさを見ず、答えた。表情は髪で見えず、代わりに彫刻のように美しい鼻と唇のラインが覗いている。]
……お前が先に襲ってきたんだろーが。
[どうしてか、口調は落ち着いている。落胆したような、諦めたような。観念したような。
それとも、これが彼の『素』なのか。]
[辺りは真っ暗だが、ホームの外灯がスポットライトのように二人を照らしている。
季節は夏に近いのに、虫の一匹も灯りには寄ってこない。
『世界にふたりきりみたいだね』なんて、恋愛映画みたいなセリフが浮かんで、口の端が少し上がった。]
[答えるなぎさの言葉を遮ることなく、向いた片耳だけで終わるまで聞く。
彼女の言葉が終わってからも、またすこし間をあけて。]
……タバコ吸っていい?
[聞いたくせに、答えを待たずにポケットから煙草を取り出す。ライムグリーンのパッケージに、煙草を吸うインディアン。
残りは4本、といったところか。]
この駅に降りても、紙を燃やせば出れるって聞いたけど……
たぶん、無理だろうなあ。
[独り言のようにそう言って、軽く咥えた煙草に火を付ける。ちりちり、と先端が輝いて後退していく。
しばらくして、紫煙がゆったりと吐き出された。勿論、何も起こらない。]
…………殴んないよ。
おれ、女の子殴ったことないし。
[ようやく、会話の形になる。昨日は掴んじゃったけど、と小さく付け足した。]
アイリスは、俺にとって特別じゃなかったから、
あんたを殴る資格も、責める資格も俺には無い。
その証拠に、あんたからDMが来るまで失踪してたなんて気づきもしなかった。
[煙草をもう一口吸う。先端の瞬きはわずかだ。]
ってーか……
あんたが本当にアイリスの姉なんなら、
本当は俺があんたに殴られてるはずなんだ。
うちの妹に何したの!ってね………
だから……あんたが本当に殺したっていう………ん………、殺した原因だとしてもさ。
それはあんたらの話だから。俺は知らねー。
アイリス、たまにめっちゃウザいの判るし。
ダメです。
[と、言ってみた時にはもう、フランクは煙草を吸っていた。
とはいえ、言ってみただけで別にダメでも何でもない。]
素敵ですね。
是非そのままの貴方で居て下さい。
私の夫なんかは、結婚後いきなり暴力を振るうようになりましたから。
[女の子を殴ったことが無いと言う言葉にはそう返した。]
……貴方とあいりがそこまで深い仲ではないのは、まあ、承知していましたよ。
何したの、っていうかオフパコですよね?
あの子17歳でしたけど、都条例怖くなかったんですか。
……まあ。
何したの、って訊いたらキレられた訳ですけどね?
[プレイとか体位とか。]
「……ビール飲みたいな」と呟いた。
たまらん麺食べたいけど逃げられそう、と思った。
メモを貼った。
ごめん。
[喫煙を止められた言葉にはそれだけ返した。]
そっか。やっぱアイリス、死んだんだ……
[まだ、頭のどこかで死んでないと思っていた。作り物の写真かもしれないし、とは思ったけど、
実際に犯人と独白する女に”襲われて”しまったのだから、疑うほうがおかしい。
今の自分たちは、どうなんだろうか。
生きているように思えるが、電車が来るホームに落ちたのは覚えているから、たぶんアイリスの仲間入りなんだろう。]
[素敵ですね、という言葉には反応しなかったが、彼女の夫の話になると、ようやく顔を向けた。
まじまじと、顔を見る。やっぱり痣はない。白い肌が美しいと思った。よくこんな顔を殴る気になるものだ。]
あの痣って旦那にやられたんだ。つか若いのに結婚してんだね。
痣、なんで消えてんだろね?やっぱ死んじゃったのかな俺ら。
違ーよ。妹のこと心配してないからキレたんだよ。あとTPO。
ジョーレー怖いよ。だからあんたのせいで職場にバレるとこだったんだっつーの。
……体位の話とか聞く?
[少し、おどけながら言った。]
「ビール、いいねー。」と続けた。
まあ、バラバラになってますからね。
もう両親が捜索願を出した頃だとは思いますが……
表向きには「失踪事件」止まりでしょう。きっと。
[アイリスの死そのものにははっきりと肯定する。]
ふふ、こう見えて人妻ですよ。
得意な家事は、夫のストレス発散です。
痣は……私の願望か、「こっち」に来たからか。
わかりませんけど、今更消えても、って感じですね。
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