45 哀染桜 〜届かなかったこの想い〜
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[ふわり。桜の霞に溶けた魂。
形を保ったまま、けれどそれはもう、人ではなくて。
消える直前、伸ばされた手に
深緑は、新緑色を覗かせた]
───…ごめん、なさい。
[すがたのない、おんなのこえがつむぐしゃざい。
くりかえしてしまった、あやまち。
つなげなかった、たくされたおもい。]
でも──…、独りは寂しいよ。
貴方もきっと、寂しいよ。
[桜に溶けて、ひとつになって知る男の虚(うつろ)。
女は其処に、貰った想いを注がんと願う。
あの人が呉れた温かい光を。
もう、境界は無いのだから。
何も怖くない。
喪失の恐怖から解放されて、女はつよく変わる。]
何が……
[お互いの姿は認識できるのか。
けれど声はたしかに胸裏に響く]
なんで……
だから、
一緒に居よう?
[陽を浴びた若葉の色を見留めて、榛色は柔らかく笑んだ。**]
[あの女性はどこにいるのだろう。
自分の姿すら認識はできないけれど
手を伸ばす感覚を、自分に思い浮かべる]
…おいで。一人がいやなら。
近くに、と…約束、したから…
[薄紅桜は導いてくれるか否か]
君が寂しくないのなら
俺も、きっと。
[同じ。分かたれたままでも触れることはできるのだろうか]
[新緑に写しこむ橙の色。
触れたその感触を。
預けた想いを。零さずに包むよう
やんわりと。けれど、離さぬように
彼女をそっと、抱きとめた*]
おいで。と呼ぶ声に導かれ、伸ばされた手に、今まで携帯を握って居た手を置いた。**
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もっと欲しい、って、何を。おいでって、僕たちが。
[それを聞くだけだと、僕たちはここに呼ばれた、っていう説の信憑性が一番高くなる。 呼ばれたなら、理由があるはずで。ぼくはそれを知りたいと思ってた。 あそこから引き離してくれた、この桜の意図を。]
そう、だよね。 もし夢だったら、欲しい、のも、全部、エリアスの声ってことになる。 それに覚えはないなら、夢じゃないのかな……
[それでも、どこか実感が薄いのは。 自分が居場所をうつる、というのにあまりにも現実味がなさすぎたからか。 いや、もっといろいろな事柄が、現実味がないのだけれど。]
(6) 2012/03/15(Thu) 01時半頃
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魂の牢獄……牢獄。 逃れられない、か――エリアスは逃れ、たい?
現実と違わない世界だから、現実に帰りたい?
僕を救ってくれる人はここにいないけど、僕を苦しめる人も、ここにいない。 僕は夢じゃなくても、ここは気持ちよく、感じるけど。
[風が吹く。桜がざわめいて、また少し花開く。 瞬いて、視線を向けたその向こうに。]
[人影が足りなくなっている。]
(7) 2012/03/15(Thu) 01時半頃
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あ、れ。
[見間違いじゃ、ないよな。 もう一度瞬いて、でもやっぱり数人、足りない。 空いている手で目を擦っても、増えたりしない。]
なに、どうなって…… エリアス、何か、わかる?
(9) 2012/03/15(Thu) 01時半頃
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[すっと、浮く様な感覚に彼女の薄氷の様な瞳は開かれて。
その時には、もう既にわかっていた。
気付けば、大きく枝を伸ばす桜の枝の上木の幹に背を預ける様に其処にいた。
座っていると、表現しても良いのかもわからないが。
もう、風は彼女の長く豊かな銀糸を揺らすことも無いのだろうか。
彼女が、その瞳をその髪と似た輝きを放つ月へと向ければ、ゆらり、舞う様に揺れた。]
貴方は、月が好きだったわね。
[初めて彼に会った時、照れたように彼が棚に並べられた本から手に取ったのは、名も知らない写真家の写真集。
その表紙は、夜の海に浮かぶ月。]
[その写真を撮った街は、観光地でも何でもない、海を隔てた先にある小さな小さな港町。
いつか、その街へ連れて行ってくれると。
その言葉が嬉しくて、白い空間の中、四角く切り取られた図書館の窓の外。
丘の上から少しだけ覗いている深い青を、彼に会えない日にはぼんやりと眺めていた。]
[彼女を包む柔らかな光が、強さを増す。
月明かりの中、その光を浴びる桜の花びらは青白く輝いて。
ふわりと、花開く。
何処か朧げな気配が増えた事を感じれば、その瞳を向けるが、寄り添う二つの魂には自嘲した様に、小さくわらって。
すぐにまた、遠い月を見上げている。]
[孤独を、埋めようとは思わない。
ひとりでいる事が、怖いわけでもない。
苦しいわけでもない。
"彼が"居ない、その事実が全て。]
[彼と別れたその日から、孤独なままに生きる事を選んだ。
自分の、本当の想いをかたく閉じ込めて、錠をかけて。
自分と別れた後の彼が、どの様な人生を送ろうとも。
自分には関係無い、そう思って。
けれど、本当はそう思い込もうとしていただけで。
鍵をかけた暗い心の奥底に在った願いは、儚く消えた。]
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逃れたいんだ。――うん、そうかも。 "生きてる人"はきっとその方がいいよ。 僕みたいになってからじゃ、きっと遅い。
[生きている限りは、先に進める。戻りたいというのは、悪いことではないと思った。 僕は、もう戻ってもあいつと肩を並べることはできないし、何よりもう時間が経ちすぎている。]
(16) 2012/03/15(Thu) 03時半頃
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だから、僕のことは気にしないでいいよ。 ここが夢じゃないなら、エリアスは僕じゃないんだろ。 そうしたら何にも違ってて、おかしくない。 僕は、もう、あそこには戻りたくないんだ、だから、ここにいられるなら、それで。
[そう言って笑って、背中を押して送りだそうと思った。 だけど戻り方もそういえばわかってなくて、どうしよう、と辺りを見回した瞬間。]
(17) 2012/03/15(Thu) 03時半頃
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選ばれた? って、どういう……
[彼女は聞こえる、と言っていた。僕には聞こえない桜の声が。 それなら次が彼女の番、というのは、もしかして。 少しずつ人の減っている現状を目にして、ぞくりとした。]
それは、戻れるってこと、なの。
[たぶん、違う。 エリアスの声は、震えてた。彼女の望まないことが、これから起ころうとしている。 それでも可能性に縋りたくて、桜を見上げるエリアスの、その横顔に問いかけた。]
(18) 2012/03/15(Thu) 03時半頃
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エリアスは、何を知ってるの。 この桜は――何。
[怖かった。きっとそれよりもっと怖いのはこの指先の向こうにいる彼女の方なのに、それでも怖かった。 震えそうになる声を無理やり真っ直ぐにして、恐怖を伝えないように、少しでも安心をあげられるように、手を握り直した**]
(19) 2012/03/15(Thu) 03時半頃
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[彼女には、孤独だけが残る。
けれど、それすらも何処かで愛おしい。
孤独である事が、彼への愛だと。
少なくとも、今はそう感じているから。**]
どうし様も無く不器用な自分に、瞳を閉じて苦くわらった。
ね。
[まぶたをあければ、桜の木の下に感じる魂へと、涼やな声を降らせた。
桜の花びらとともに、それは青年の頭上へと落ちて。]
貴方は、何を無くした?
[彼が、魂へと変わる前に耳にした言葉 。
突然の、不躾な言葉。
無視されても、構わないというていで、桜の枝の上から青い瞳を向けた。
自分は、無くしたのだろうか。
それとも、捨てたのだろうか。
少し、気になって聞いてみたくなっただけの事。]
[彼女を抱き留めた腕に他意はない
ゆるり体を離すと、触れることへ翠は僅かな戸惑いを。
囁きのような、望みのようなその声に
否やはなくとも返事できないまま。
ふと桜をみれば声が降る。
銀の髪は夜の妖精を思わせる]
無くした、もの…?
大事なものを……
[湖水に波紋が広がるように
静けさに声が零れる]
[青年はふと我に返ったよう
無意識に応えた己と、かえされた微笑み、僅かはにかむ。
今更のように戸惑いながらも拒否せぬ代わりにやんわりと、しかし離さない手
一緒に。隣に。
消えた境界線は体か心か]
…そうね。
[男の言葉に、女は僅かに形の良い眉を上げるのみ。
大事だから、探すのだろう。
答えを、求めるのだろう。
青年の返答は、当然と言えば、当然の。
小さく息を吐く様な、仕草は、どこかその返答を聞いて気を落とした様にも見える。
けれど、自分が応えるとしたら―――…
そう思うと、心の内で感じるものは、言葉にすれば崩れてしまう。]
[これが、夢では無くて。
本当に、魂だけの存在となってしまったのなら。
もし、そうだとしたら… ]
あーぁ。
[浮かんだ想いに、ぐしゃりと前髪をかきあげた。]
ばかみたい。
[自分で、選んだくせに。
迎えに来てくれないかな、なんて。]
貴女は、何故、ここに?
[当然といえば当然の問い]
貴女には、なくしたものがあるんですか?
それとも…気づいたことが、あったんですか?
……綺麗な髪ですね。
お陰さまで。
ありがたい事に、髪だけは老化に負けずにいてくれるみたい。
[青年の言葉には、少しだけ目を細めた。
もう30半ば。
肌は白く綺麗だとよく言われるが、それでも当人にしてみれば随分と皺が増えたやらハリが無くなったやら、感じるもので。]
何で、いるんだろうね。
[青年の言葉には、そのまま疑問を返すかのよう。]
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