278 冷たい校舎村8
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[ 悪夢のようでいて、
そう悪くなかったような気もする。
感触ばかりが残っていて、
どんな夢だっけ。と礼一郎はぼんやり思う。]
──帰還──
[ ひどく体が強張っていて、
礼一郎はゆっくりと体を起こした。
自室。勉強机に向かっていた。
広げっぱなしの参考書がよれている。
体調を崩してはいけないから、
仮眠だってこんな場所じゃ取らないし、
意識をなくすほど疲れてただろうか。
やや違和感を覚えながら、
新着通知の出ているスマホを手に取った。
画面をスライドさせてアプリを起動する。]
[ 椅子をひっくり返しそうになりながら、
礼一郎はガタンと慌てて立ち上がった。
適当な上着を引っ掴んで、
財布とスマホをポケットに突っ込む。
行かなきゃ。
気が急いて、めちゃくちゃな勢いでドアを開く。
ガン、と何かにぶつかる音がして、
それでも懸命に扉を押し開けて廊下に出た。]
[ 勢いよく扉を開けた際に、
扉にどっか打ち付けたらしい。
痛みを堪えるようにうずくまりながら、
「 ごめんなさい 」とそれは言う。
いつものように、謝罪を繰り返している。]
[ 夢の中の夢。
あるいは、異世界で見た夢。
それをなぞるように、
ゆっくりとそれの傍らにしゃがみ込む。
礼一郎は、じいっとそれを見ている。
見ているだけで胸がムカムカした。
なんで生きてんだろうって、
とっとといなくなんねえかなって、
頭の中でぐるぐると渦巻いている。]
[ なあ。って礼一郎は言う。
うつむいたまんまの妹の髪を、
傷んだ不揃いな髪を一束掴んで、
強引に自分のほうを向かせた。]
どれがいい。
ケーサツ呼ぶのと、
先にどっか遠くに逃げるのと。
それか、ずうっとこのまんま。
[ ガラス玉みたいな、
何もうつさないがらんどうの瞳が、
礼一郎にじいっと向けられている。
気持ちが悪い。叫びそうになったとき、
妹のひびわれた唇がゆっくりと開かれた。]
声に出してしまったからには、
礼一郎はちゃんとその言葉を背負うべきだ。
嘘をつくのは良くないし、
自分の発言は簡単に放り投げたりできないからね。
[ 言って、乱暴にその髪を離せば、
妹の痩せた体は簡単にバランスを崩した。
待てともあとでとも言わないで、
礼一郎はさっさと立ち上がり、
大急ぎで玄関を飛び出し、夜の道を駆ける。
妹なんかよりずっと、ずっと、
会いたい友人がいるはずの場所へ。**]
―― 現在:自室 ――
[ 頬杖していた手から、頬が落下した。
その拍子に足で勉強机を蹴り上げて、
つま先がじんじんする中、誠香は目を覚ました。
机の上に広げられた参考書に、ぼんやり目を落とす ]
そうだ、僕……。
[ 受験生らしく受験勉強をしていたのだった。
ノートパソコンを見たくない現実逃避ともいう。
中3の頃からまるで進歩していない。
参考書によだれはついていなかった。セーフ! ]
……夢? じゃあ、ないような、気がする。
[ あんな夢が見れるほど、想像力豊かだったら、
作家になれていたんじゃないだろうか。
というか、あの死に方って。
うわああ、と呻きながら頭を抱えた ]
[ 夢じゃなければ、原稿用紙に埋もれて死んでいる誠香を
誰かが発見するのだろう。
あれは、誠香の恥だ。恥が具現化したものだ。
思った通りだ。ろくな死に方じゃなかった。
考えただけで恥ずかしくて死にたくなる。
というか、白紙の原稿用紙見られた時点でアウトです。
死にたい。
……死? ]
……そうじゃん!
[ がば、と顔を上げる。
誠香は恥ずかしくていたたまれなくて死にたいけれど、
そもそもあの世界に誠香を招いた主は、
多分、もうすでに死を選んでいる。
あのメールがそう言っている。
慌てて誠香はスマートフォンを手に取った。
圏外じゃない。メールが複数届いている。
夏美からのもの。
そして、送信者がバグっていない、遺書メール ]
……しおちゃん。
[ 送信者名に表示されているのは、紫織の名だった ]
[ 身支度を整えて、誠香はリビングへと出ていく。
まさに寝室に向かおうとしていた様子の両親は、
誠香を見て驚いた顔をした ]
クラスメイトが自殺を図ったって連絡が来て……。
今、病院にいるって。
僕行かないと。
[ 誠香の言葉に両親は顔を見合わせて、
それから父が、車のキーを手に取った。
病院まで送ってくれるという ]
ありがとう、父さん。
母さん、行ってきます。
[ 車の中でメッセージを打った。
あの校舎で一緒だった、メンバー全員に宛てて ]
From:せーか
To:みんな
――――――
ただいま。
今病院向かってます。
――――――
[ ほどなくして、車は病院に到着する。
車を降りようとして、誠香は少し静止した。
それから、運転席の父に「父さん」と呼びかけた ]
……あのさ、あの……
僕、父さんと母さんに、
言わなきゃいけないことがあるんだ。
……おにーちゃんのこと。
今度、話すね。うん、ありがとう。
行ってきます。
[ 真っ白なコートにラベンダー色のマフラー。
夜に溶けない装いで、
誠香は病院前に降り立った** ]
──現在・病院前──
[ 正直、このおにぎりを購入した時の空腹は、
消え去っている、というかそれどころじゃなくて
あんまり食べる気はしなかったから、
あげてもよかったんだけどなあ。
ひらひらと風に靡くビニール袋の中に、
おず、と黒い三角形を仕舞うことにした。 ]
ありがとう、じゃあこれは私が食べちゃうね
[ 食いしん坊って、訳じゃないよ。
食べる量は人並みだし、食い意地貼ってるでもない。
素直に、感謝した。 ]
……みんなで、おにぎり食べたいな
[ すごい食欲旺盛です!
みたいな発言しちゃったけど、そうじゃなくて。
しおりちゃんの手作りをみんなで囲んで
ピクニックでもして食べたいってことです。まる。 ]
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