278 冷たい校舎村8
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嘘をつき続けて狼に食われるんなら、 それは単に、相応の罰だよ。
それが嫌なら、 最初から正直に生きるしかない。 ……勝手に0点つけてろよ。
(621) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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……それかさ、 村人たちとか欲張んないで、 友だちくらいにしておけば? 少なくとも俺、信じるよ。友だちだし。 ……お説教付きかもしんないけど。
(622) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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ま、俺に言われたかねえよな。
(623) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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……あー、人形になった感想? 言う言う、正直に言うって。 約束どおり、帰ったあとでさ。
(624) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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──午前8時50分──
[ 2階の廊下の果て。 ……だったところに、それは転がってる。
廊下の隅っこに転がっている。 無造作にそのあたりに落ちている。 髪の短い男子生徒の人形だ。 ほかの特徴は……少し小柄かな。 本人は平均弱だって言い張るけどね。
それから、 ここに来てすぐ扉を蹴って、 黒く染まったはずの上履きが、 今は赤い血液でどろどろに汚れている。
でもその割に、その人形は無傷だ。 なんの傷もない。血も流していない。]
(625) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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じゃあ、なんの血だったのかって? ……帰って礼一郎にでも聞いてみなよ。
(626) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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[ 傷ひとつない人形。 ただ、その顔に大きく、 真っ赤な×印が刻まれている。
傷なんかじゃない。 ただ、刻まれている。 消えない。 ** ]
(627) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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―― 夜 ――
[ 辰美との内緒話のあと(ウルトラレアな笑顔を見た!) シャワーを浴びてから、保健室に戻った。 途中、誰かに会えば、おやすみーと挨拶をして。 保健室で眠る前、女の子二人だけになっちゃったね、 なんて紫織と話した。 購買での一件はまだちょっと触れられなくて、 別の話題を振る ]
帰ったら、みんなで千夏ちゃんに メイク教えてもらおうって まなっちと話してたんだよ。
[ そんなことを話して、眠りについた ]
(628) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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―― 朝 ――
[ ジャージから制服に着替えて、 身支度を整えて、保健室を出る。 足が向かうのは購買だ。 甘いメロンパンと微糖のコーヒーを買って、 これが今日の朝ごはん。 毎朝和食だったけれど、たまには悪くない。 なにより、お手軽だ。 いつもなら迷わず手に取るカフェオレは、 なんとなく選べなかったけれど。
学校に泊まるようになってもう3日目。 なんだか少し慣れつつあるような気がする。 このまま、ずっと続いていきそうな、 けれど、そろそろ誠香の順番が来そうな、 何とも言えない感覚がする ]
(629) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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僕がここにいる意味が、何かあるのかな。 意味があるとしたら、なんだろう……。
[ マネキンと交代したクラスメイトと、 まだ人間としてここにいる誠香。 その違いが誠香にはわからない。 誠香がここにいる意味があるとして、 “文化祭”の演者として、 役目を果たせているのか、誠香にはわからない ]
(630) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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[ 朝ごはん、どこで食べよう、と誠香は思って、 購買の近くの適当な空き教室に入る。 扉を閉めたことに、深い意味はなかった。 単なる癖みたいなもの。 いただきますと呟いて、ばりん、と封を開けて、 メロンパンにかぶりつく。
その時――――――――――スマートフォンが、鳴った ]
(631) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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……え? あれ?
[ ずっと圏外だったのに。 ここは現実じゃないはずなのに。 目を丸くして、誠香は、 ポケットからスマートフォンを取り出す。 鳴り続けるスマートフォン。 そこに、表示されている名前は ]
(632) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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…………!
[ さあっと血の気が引いた。 きっと今、誠香の顔は紙のように白い。
スマートフォンは、圏外のままだった。 圏外のままなのに、着信していた。 表示されている名前は、出版社の担当の人だ。 どうして。なんで。意味が分からない。 だって、ここは誰かの頭の中で。圏外で。 それなのにどうして。
電話をとれずに固まっていると、 呼び出し音は、やがて留守番電話に切り替わる]
(633) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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「次回作の進捗はいかがですか?」 「そろそろ執筆を再開してもらえないでしょうか?」 「できれば高校生の間にもう一冊」 「読者も待っているんですよ」 「あ、こちらに届いてるファンレター、 またそちらに送りますね」 「福住さん福住さん福住さん」 「まだですかまだですかまだですか」 「早く早く早く早く早く」 「新作を新作を新作を新作を」 「書け書け書け書け書け書け書け書け」
(634) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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うわああああああああっ!
[ 悲鳴を上げて、誠香はスマートフォンを放り投げた。 硬い音を響かせて床に落ちたスマートフォンは、 それでも壊れたように原稿の催促を繰り返し続ける。 書け! 書け!! 書け!!! 書け!!!! ]
ごめんなさい! 書けません! 書けないんです! 僕は、違うから! ニセモノだから! 無理です! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!
[ ガタガタとみっともなく震えて、 首を横に振りながら叫ぶ誠香の目の前に、 ひら、と何かが降ってきた。 一枚、二枚、三枚、 ひらひらと舞う白い長方形は、 よく見ると白紙の原稿用紙だった ]
(635) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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あああ、ああ……!
[ 降ってくる。降ってくる ]
(636) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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[ ひらひら ]
[ ぱらぱら ]
[ ばらばら ]
(637) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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[ どさどさどさどさっ! ]
(638) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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おにーちゃん。 おにーちゃん、ごめんなさい。 おにーちゃんには、才能がありました。 おにーちゃんは、作家になれる人でした。
(639) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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嘘をつくつもりなんてなかったんです。 おにーちゃんの夢を応援していたんです。 本当の本当です。
(640) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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それなのに僕は、 イライラをぶつけておにーちゃんを傷つけました。 しかも、自分がちょっとでも楽になるために、 おにーちゃんの才能を疑いました。 おにーちゃんに才能がなければいいと思いました。
(641) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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その上、こんな死に方をするなんて。 これじゃまるで、僕の一番の悩みは、 おにーちゃんの残したお話がなくなっちゃって、 僕は作家じゃなかったって ばれることみたいじゃないですか。 結局僕は、おにーちゃんのことより、 自分のことばっかり考えてるみたいじゃないですか。
(642) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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そんなつもり、なかったのに。 そんなつもり、ないのに。 そうだったのかな。 そうなのかな。 そうなのかなあ……?
(643) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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そうだとしたら、やっぱり、 みっともなくて、恥ずかしくて、 僕はとても生きていけない。
(644) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。
(645) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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おにーちゃん。 父さん。 母さん。 本を読んでくれた人。 みんな。 みんな、ごめんなさい。
(646) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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[ 真っ白の原稿用紙が、どんどん、どんどん。 もがいても、もがいても、上から上から降ってくる。 溺れてしまう。
視界を埋め尽くし、 部屋中を覆いつくし、 そして ]
(647) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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[ このまま雪景色に溶けて、消えてしまえるなら>>0:27 ]
(648) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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[ 雪ではない、けれど確かに白いものに、 誠香は埋め尽くされて、押し潰されて、 そして見えなくなりました。 めでたしめでたし? ]
(649) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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―― AM8:50 ――
[ 購買にほど近い空き教室が、すりガラス越しに 天井まで白い何かで埋まっているのが見える。 扉を開けたいなら、気を付けて。 真っ白な原稿用紙が、 雪崩のように廊下まで崩れてくるでしょう。
教室の中は、机も椅子もありません。 食べ物も飲み物も跡形もなく消えています。 そこにあるのは、ただ白紙の原稿用紙だけ。 ああでも、原稿用紙を根気よく掘り返せば、 うつ伏せに倒れた状態でへしゃげたマネキンが 見つかるかもしれませんね。
けれど、このマネキンのために、 そこまでする価値はきっとありません。 それはただの嘘つきなニセモノのなれの果てですから** ]
(650) 2020/06/21(Sun) 23時半頃
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