212 冷たい校舎村(突)
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……た、ぶん、これ、じゃないか?
[ぎこちなく言って、棚から視線を外し、保田の方を向く。 彼は驚いた顔をしていただろうか。 何にせよ、慌てて付け加えるようにもう一度口を開いただろう。]
この前……そう、この前、たまたま、テレビで見たんだ。 最近流行りの手芸用品だか、何だかで……
[視線を逸らして慌てたように言う姿は、嘘を吐いていたり、何かを隠しているように見えたかもしれない。 せめて、母さんか、姉や妹が居てくれれば、家族が手芸好きだから、と、もっとマシな言い訳が出来たんだろうけど。 だからといって、全てが嘘、というわけでもなかった。テレビで見たのは本当だ。ただ、“たまたま”ではなかったというだけで。]
(115) 2017/03/14(Tue) 19時頃
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[でも、多分、保田なら。 たとえ嘘だと分かったとしても、隠し事をしてると思ったとしても、無理やり踏み込んだりはしてこないだろうな、という安心感は、どこかにあったと思う。
俺も、無理に踏み込んだりはしないから、お前も、無理に踏み込んだりしないでくれ。 そんな自分勝手かもしれない願いが、保田と一緒に居ると許されるような、そんな距離感が。どこか、居心地よかった**]
(116) 2017/03/14(Tue) 19時頃
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[頷きが返ってきた>>122ことに安心感を覚えながら、立ち上がって寝袋を軽く畳む。保田が上須賀達に声をかけ終わってから、2人で一緒に教室を出て廊下に出た。 昨日と同じように飾り付けられた廊下、輝く電飾。 ああ、でも、と見た先にはスピーカー。そこから流れてくるのが、泣き声から囁き声に代わっていた。 俺と同じくスピーカーを見ていたらしい保田が呟きを零す>>130。]
……ああ、俺もだ。
[多分、同意を求めたわけではないのだろうが、それを嫌だと感じるのは俺も同じだった。 まるで自分たちが、自分が噂されてるんじゃないか、と思ってしまいそうになるから。 例えば、“あのこってもしかして、他の子と違って”――だとか。 噂なんてしないで、放っておいてほしいのに。]
(142) 2017/03/14(Tue) 21時半頃
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[「違う、だろう。」
「放ってほしいんじゃなくて、認めてほしいんじゃ、ないのか」
「“俺”は、認めてほしい」]
(143) 2017/03/14(Tue) 21時半頃
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……やっぱり、椅子で殴り掛かっておけばよかったか。
[放送室で何をやっても放送が止まらなかった時、天ケ瀬や三星とそんな話をしたな>>1:235>>1:265と思い返しながらぽつりと呟く。 もし保田が何のことだと聞いたら、「放送機材」と答え、それから放送室でのことをざっくりと説明しただろう。]
行きそうなところ……?と、言われてもな…… 能久なら、朝食作りに行ったりしそうな気がしないでもないが……それなら食堂の方だろうか?
[古辺や能久が行きそうなところを聞かれて>>134考えてみるが、それくらいしか思いつかない。 そんなことを保田と話していたら、廊下の奥の方……屋台の方からだろうか、能久の伸ばした声が聞こえた>>141。]
……案外、近くに居たみたいだな。
[なんて保田に声をかけて、心配することもなかったみたいだと微かに笑った。それから二人で、能久の声がした方に向かっただろうか*]
(144) 2017/03/14(Tue) 21時半頃
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――回想:保田と買い出し――
[フリルレースを手に取って振り返ると、保田は喜びと驚きの混じった声を上げた>>120。その反応は、どうして知ってるんだ、とか、そういう、疑うような、俺が危惧していたものではなかったけれど、それでもなんだか気まずくて。 つい、言い訳するように言葉を重ねた>>115。]
そう、だな。たまたま知ってて、良かった。 次はもう少し、ちゃんとメモに書いてもらえるように、後で頼んでおくか。
(183) 2017/03/14(Tue) 23時頃
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[保田は、俺の言葉に、納得……してくれたように見えた。 だが、そのまま納得してくれた、というより、隠していると察したけど引いてくれたように感じたのは、勝手な錯覚、だろうか。 何にせよ、よかったと思う。隠しごとがバレずにすんで。
しかし帰り道では、なかなか口が開けず、沈黙が続いたりして。 普段より、気まずいものになってしまっただろうか。
そんな空気の中で、心の中で思うのは。 もしあの時、俺が、「実は手芸が趣味で、こういうのもよく買うんだ」なんて言ったら、保田はどんな反応をしただろう、ということ。 たぶん、きっと、保田は、きもちわるい、だなんて、女みたい、だなんて言わないと思う。 言わない、とは思うけど。それでも言えないのは、つい、“もしも”を考えてしまうから。
全て、自分の心が弱いせいなんだと。本当はどこかで気づいている*]
(184) 2017/03/14(Tue) 23時頃
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――2階廊下――
[放送室でのことを話すと、保田は笑いがこみ上げてきたようで>>159。こんな時だけど、少しでも楽しく思えたなら、良かった、なんて思う。 つられるように笑っていたら、保田が付け足した言葉>>161が聞こえて、目を瞬かせた。 その言葉が、なんだか、機材やスピーカーだけでなく、他の何かに向けて言っているような、そんな感じがして――まあ、何に対して言っているにせよ、]
……ああ、後でやってみるか。 他の皆を誘ってみても、いいかもしれないな。
[そう言ってまた、笑った。 「保田も天ケ瀬や三星と同じくらい怖いこと言ってるぞ」なんて笑い交じりに言いつつ。]
(185) 2017/03/14(Tue) 23時頃
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能久、古辺、おはよう。探していたから会えてよかった。
[足を早めて怒りながら二人に近づいていく保田の後ろをついていって、二人に合流する。 保田の「びびらせやがって」という言葉に、『やっぱりびびってたのか、大丈夫だ、俺もびびってた』なんて思いつつも、まあ、それは口には出さないけれど。]
パンケーキか……それは、良いんじゃないか?皆もきっと喜ぶだろう。
[能久の言葉に、ああ、やっぱり朝ご飯作ろうとしてたのか、と思いつつ、思い返すのは文化祭の時の事。 あの時、能久のパンケーキを食べて皆笑ってたから。こんな状況だけど、食べれば皆、一時的にでも、また笑ってくれるんじゃないだろうか。]
(186) 2017/03/14(Tue) 23時頃
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[古辺の言葉>>176に、能久、体調悪いんだろうか、と少し心配になりつつ、ああ、と頷いて。 それから、パンケーキを焼いてもらうにしろ、一人で全員分を焼くのは、大変なんじゃないだろうか、とも思う。]
……能久、パンケーキ作るの……手伝えることがあれば、手伝う、か?
[だから、遠慮がちに、そう申し出てみた。 俺が手伝うことで変に味が落ちてしまったら、とも思うし、 クラスメイトが見ている前で手伝いとはいえ甘いものを作るのにも抵抗はある、が、体調悪いのに全員分作らせるのはどうかと思うし、抵抗があるとか言ってる場合でもないだろう。甘いものはあまり担当していなかったが、料理自体は文化祭当日にクラスメイトの前で散々やっていたし*]
(188) 2017/03/14(Tue) 23時頃
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ああ、分かった。そういうのは任せてくれ。
[能久に手伝いを申し出て、助かると言われたならば>>211力強く頷いた。 ――家でたまにやるし、泡立てるの、結構得意なんだ、とまでは言えないけれど。]
そうだな、多分、家庭科室の方がやりやすいんじゃないか? そのまま座って食べられるだろうし……
[尋ねられれば>>226そんな風に返しつつ、能久が材料を抱え上げる様子を見れば、「手伝おうか」と声をかけ、移動しようとした。が、能久と同じように>>227、足音と共に大和や入間が近くにきたことに気付く。]
(241) 2017/03/15(Wed) 01時半頃
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何か、あったんだろうか……
[その切羽詰まった様子が気になって、少し離れたところから能久と共に見守ってしまう。詳しい話は聞き取れなかったが……マネキン、という単語は聞こえた、気がした。 能久が材料を取り落としそうになり、大和が近くをすり抜けていく。]
……何の話をしていたかは気になるが、とりあえず、パンケーキ、作ってしまわないか。 何があったかは、後で集まった時にでも聞けばいい。
[そんな風に言って、能久を家庭科室へと促す。それから二人で家庭科室へと向かっただろうか。 パンケーキを作って、皆が集まって、何があったか聞いて。そうしたら、また憂鬱になるかもしれないけど、きっと能久のパンケーキを食べれば、また笑顔になってくれるだろうと。勝手な期待をかけすぎかもしれないが、そう思いながら。
無事に家庭科室についたならば、能久の指示に従って素早く生クリームを泡立てたりして、その作業を手伝っただろう。 もし手際が良い、なんて言われても「器用なだけだ」と言って、誤魔化してしまうだろうが**]
(242) 2017/03/15(Wed) 01時半頃
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――家庭科室――
[家庭科室へと入り、能久の指示に従って生クリームを泡立てる。それを見ていた能久の、「お菓子作り、好き?」という言葉に一瞬、手が止まった。]
……いや、器用なだけだ。
[ただ1回、頷けば済むだけの話なのに、どうしてもそれが出来なかった。 能久だってよくパンケーキを作ったりしているのだから、自分が普段からお菓子を作っていたって、何も問題ないはずなのに。 一つ、秘密を明かしてしまえば、全て明かされてしまうような、そんな気がして。つい、躊躇してしまう]
(266) 2017/03/15(Wed) 20時半頃
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え……そう、なのか?
[パティシエに男性の方が多い、というのは>>248初耳だった。 小さいころは行っていた、家の近所のケーキ屋さんで働いているたのがだいたい女性だったこともあり、女性の方が主流だと思い込んでしまっていたらしい。 ……そういえば、テレビでは女性よりも男性のパティシエの方がよく見る、ような……?
そんなことを考えていると、「そういうのできたりするかな」なんて声>>249が、聞こえて。 少しだけ――やってみたい、なんて、思ってしまった。 お菓子作りを家ですることがあるといってもたまにだし、生憎パンケーキやホットケーキにはまだ手出したことなかったし、上手くできるかは、分からないけど。やってみて、それを見て周りがどういう反応をするかなんて、分からないけど。 パティシエには男性の方が、多い、らしいし、1歩…いや、半歩だけ、踏み出してみても、いい、んじゃ、ないだろうか。]
(267) 2017/03/15(Wed) 20時半頃
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大したことしてないが……どういたしまして。
[パンケーキが焼き上がり、礼を言われれば>>253少し笑ってそう返した。 それから、まだクリームの乗ってないパンケーキをちらりと見て、迷いながらも、おずおずと口を開く。]
その……もし、能久が良ければ、クリームの飾り付け、試しにやってみても、いいか……? ……いや、その、俺も分だけでも、いいし。勿論、だめならだめで、問題ないんだが。
[慌てて一言付け加えながらそう申し出てみたが、能久の反応はどうだっただろうか。 もし良いと言われたならば、能久が廊下に顔を出している間にでも、クリームでの飾り付けに取り掛かってみただろう*]
(268) 2017/03/15(Wed) 20時半頃
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……ありがとう。 どう…だろうな。上手く出来るかは分からないが、美味しそうに出来るように、頑張ってみよう。
[能久の許可を得られれば礼を言って、冗談めかした言葉につられて少し笑った。そうして生クリーム係に任命された俺は、いざ、とパンケーキに向き直る。 大丈夫、もし失敗しても、あっはっはっはーなにこれ下手くそーという感じでちょっとからかわれるくらいだろう。 最悪山盛りエベレストにすれば全てなかったことになる。大丈夫だ。 そんな風に自分に言い聞かせながら、クリームの絞り袋に生クリームを入れて、慎重にパンケーキの上にクリームを絞っていく。
結果として――失敗は、してないと思う、たぶん。 最初にクリームで作ったハートや星マークのはちゃんと形になっているし、勿論プロ並みには届かないが、それなりに可愛い(んじゃないかと自分では思う)感じの猫やら兎やらの絵になったクリーム。 あと、文化祭の時の様子からして多分保田はクリーム少な目のが好みなんだろうなと思って、端に沿うようにちょこちょこクリーム控えめに置いただけのものもある。]
(278) 2017/03/15(Wed) 21時半頃
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[終わった今になってから本当にやってよかったんだろうかなんて思ったりしなくもないが、やってしまったものは仕方ない。]
ああ、ちゃんと起きたんだな。おはよう、上須賀。
……それで……一応、クリーム…こんな感じに、なったが。
[能久が上須賀を連れて戻ってきたなら、2人を出迎えて、それから目線をパンケーキにやって出来栄えを示し、少し緊張しながら反応を窺っただろうか*]
(279) 2017/03/15(Wed) 21時半頃
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――少し前――
そう、だな。気が向いたら、やってみる。
[能久の言葉>>275に、何気ない風を装ってそう返す。 でも、本当は、何度もお菓子作りをしたことがあるのに。 嘘を吐いている、という罪悪感で、胸が痛んだ。]
へえ……そう、なのか。 そういう人も、いるんだな。 ……ああ、いいと、思う。好きなことを仕事にできたら、きっと楽しいんだろう。
[海外のお菓子職人。大きな、お兄さん。 その人は、自分のように体が大きくて、それでも、甘いお菓子が好きで、その道に進んで、外国のテレビに出るまで、有名になって、認められた、んだろうか。 ああ、そんな風に、できたら、どんなに――]
(330) 2017/03/15(Wed) 23時半頃
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――現在――
[少し緊張しながら、パンケーキの飾りつけの出来栄えを見せてみれば。 返ってきたのは、予想以上の、いや、全く予想していなかった褒め言葉や歓声で。 目を見開いて、ぽかんと数秒ほど固まってしまっただろう。 それからはっと我に返ると、慌てたように口を開く。]
い、いや、そんな…それほどのものでもない、と思うが……その、気に入ってもらえたようで良かった、し、 そう言って貰えるのは、嬉しい。ありがとう。
[そう言って少し照れ臭そうに笑みを作った。 なんだ。心配すること、なかったじゃないか。 もしかしたら、色々……俺の、考えすぎ…なのかもしれない。]
(331) 2017/03/15(Wed) 23時半頃
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向いてる、だろうか。 ……そうだな。今……パンケーキ作りの手伝いするのも、結構、楽しかった、し。 目指してみるのも、いいかも、しれないな。 ……なんて、調子に乗りすぎだろうか。
多分、能久も練習すれば出来る、んじゃないか。 俺はたまたま初めてでも上手くいったが、慣れの部分もあるかもしれないし。
[上須賀>>282や能久>>320の言葉にそう返しながら、パンケーキの話題でこんな風に話せるのが、どこか信じられないような気持ちだった。少し前の自分だったら、上須賀にこういうの向いてるだなんて言われても、また「器用だからそんなことはない」と返していただろうに。 少し、踏み出しただけで。世界が少し、変わったかのような*]
(332) 2017/03/15(Wed) 23時半頃
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[パンケーキを食べてからは、どうしていただろうか。 何にせよ、頃合いを見て、シャワーを浴びてくる、と告げて皆と離れて。それから――]
(352) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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[廊下を動いている、小さな影が見えた。]
……なん、だ……?
[宙を浮いている、小さな影。それが、少し先の廊下を曲がっていくのが見えたから。 吸い寄せられるように、誘われるように、その影が消えた廊下の先へ足を向ける。
小走りで廊下を曲がった先。そこには、]
(353) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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……なん、で、なんで、そこに、いるんだ……!?
[そこに浮かんでいたのは、ピンク色の、うさぎのぬいぐるみ。 しかも、それは普通のぬいぐるみではない。俺が見間違えるはずがない。 それは、自宅の、俺の部屋の押し入れにあるはずの……俺が生まれて初めて作った、ぬいぐるみだ。 目の代わりに取り付けてあるボタンだとか、バツ印の口とか、折れ曲がってしまっている左耳とか。何もかも、同じだった。 それが何故かここにあって、数メートル先に浮かんでいる。 こっちの方を向いていたそれは、ふいっとこちらに背を向けて、また動き出した。]
(354) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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まっ、待て!待ってくれ!
[それを追って、走る。
なあ、おまえ、なんでこんなところにいるんだ。こんなところにいて、もし、見られたら、
そんな、危機感。それが他の誰かに見られたところで、俺が作ったものだと分かるはずもないのに。
そうして誘われるまま、そのぬいぐるみを追いかけて入ったのは……ポスター展示がしてある教室。 昨日、三星や天ケ瀬と一緒に入って、スピーカーを調べた教室だ。
そしてそこで待っていたのは、追いかけていたうさぎのぬいぐるみ、だけじゃなかった。]
(355) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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「ああ、やっぱり追ってきたか。 そんなに、こいつを隠したいか?」
[うさぎのぬいぐるみを大事そうに、両腕で抱きしめるようにして持つ、大柄の人物。 それは、どこをどう見ても、]
……俺……!?
[元賀健士郎、だった。そう、そこに立っていたのは、もう一人の自分。 開いた窓を背にして立っているそいつが、“俺”が……うさぎのぬいぐるみを、抱きしめている。]
……っ!
[その光景に、力強く拳を握りしめた。
ああ、ほら。やっぱり、どこからどう見たって。 似合ってないし、不釣り合いだ。 名前にも、身体にも、性別、にも。]
(356) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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[――なんて。
数時間前の俺だったら、そう思っていたんだろうか。
「健士郎、こういうの向いてんじゃないか?」>>282
「すごいや、おいしそうーー 任せてよかった!」>>302
脳内に過った、級友達の声。 少しだけ勇気を出したら、色を変えた世界。
握った拳を緩めて、そいつに笑いかけた。]
(357) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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今まで、ごめんな。寂しい思いをさせて。 お前のことを一番認めていなかったのは。 お前のことを一番嫌っていたのは。 お前のことを一番、いなかった方がいいなんて思っていたのは。
きっと、俺だった。
[そこに、ぬいぐるみを抱きしめて立っているのは。 きっと、本物の、本来の俺。かわいいものやふわふわしたものが好きで、 手芸や編み物やお菓子作りが好きな、少女趣味、な、俺。
――俺が今まで、心の奥底に隠し続けて、見えないふりをしていた、“俺”そのものだ。]
(358) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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[ぬいぐるみを持った“俺”が、笑い返す。]
「……分かってくれたなら、いい。 まあ、正直……寂しかったし、ムカついていたから、この世界で、殴り殺してやろうかと思ってたんだが。 あいつらに救われたな。 それならこれは、お前にやる。」
[“俺”は、俺の方に歩み寄ると、その手に抱えていたぬいぐるみを差し出した。 俺はそれをそっと受け取って、両手で抱きしめる。 すると目の前にいたそいつは、小さな光の粒になって消えていった。]
(359) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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……ありがとう。
[呟きを落として、窓際に歩み寄る。 ……多分、“こういうこと”があった以上、今回は俺、なんだろうな、と。そんな風に思ったから。
開いた窓の傍に立って、下を見下ろす。 高い。ああ、これは確かに、無事じゃ、すまなそうだ。
でも、お前がいるなら大丈夫、だな、って、兎のぬいぐるみを撫でて。
“外の世界”に、一歩、踏み出した。]
(360) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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[――2階にある、ポスター展示をしている教室。 廊下に繋がる扉、そしてその扉からまっすぐ見える窓の一つが、開いている。
もし、その窓から下を見下ろすことが出来たなら、遥か下の方に、1体のマネキンが落ちているのが分かるだろう。 大柄で短髪の、男子の制服を着たマネキンが。 そして、その胸に、両手で大事に抱えるように、ピンク色の、うさぎのぬいぐるみのようなものを抱えているのも見えるだろうか。
そのマネキンから連想した生徒と、うさぎのぬいぐるみ。
その組み合わせを見た君は、似合わない、と。 不釣り合いだ、と感じる――かも、しれない**]
(361) 2017/03/16(Thu) 00時頃
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