268 オリュース・ロマンスは顔が良い
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[どれだけ丁寧に装ってみても鍍金はやがて剥げるもの。車掌としては観光案内にもクレーム対応にも長けるが、一人の若造としては相手が悪い。 こんな不埒な心と邪まな態度では、彼の怒りを買うのも当然だ。侭ならぬ自らの愚かさを脳内で詰り―――、だが、彼を見つめる目は別の感情に浮ついていた。 彼に関わると心が酷く騒がしい、あちらで浮かれて、此方でしょげて。正しくお祭り騒ぎ。]
……………、
[眼圧に耐えかね、傾く頭。叱られる角度。>>2:292 亀の甲よりも有り難い彼是を覚悟し、厭われる痛みに備える数秒。視線は揺れたが瞼は伏せない意地。]
(30) 2019/08/01(Thu) 01時頃
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[張り詰めた場の空気を掻き混ぜる高い声。>>2:294 無抵抗を示して挙げた指先が宙を掻き、己の手元と彼の手元を見比べる。お互いの十指を隠す高潔な色。]
あ、ああ……、これはね、 遠くからでも合図が見えるように嵌めているんだよ。 『 安全確認よし、出発進行 』
――― こんなふうに。
[拍子抜けたのは此方も同じで返したのは車掌としての顔。 小さな鉄道愛好家に見せるのは人差し指を立てる喚呼。 流石に信号機までは展示していないので、代わりに車窓から天を指した。流星が始まる放射点を。]
(33) 2019/08/01(Thu) 01時頃
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………あれ、
[夜空を示してから気付くのは、彼の手元。 夜色に浮くその色に違和感を持つのは今更。何分身近過ぎて。]
屋外でも嵌めたままなんですね。
[自身に使用人業の経験はないが、雑誌の特集は覚えている。>>0:139 感銘を受けて、憧れとラベリングした切っ掛けのひとつ。]
(36) 2019/08/01(Thu) 01時頃
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[抜けてしまった毒は元には戻らない。 叱られたかったわけではないが、生殺しの気持ちを干す。 至らない自身は自主的に責めておいて。]
いえ、こちらこそ。不手際を。 あの、
[毎週なんらかやらかしている気がする。 失敗の大小はあれど新人の頃に戻ったようだ。]
(37) 2019/08/01(Thu) 01時半頃
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またの御乗車、心よりお待ちしております。
[此方は深く頭を下げて見送ろう。 追い駆けそうになる足を縫い留めて、ぐっと我慢。 浮かれて忘れそうになるが彼も己も仕事中だ。 己は客に呼ばれるし、彼は主に呼ばれる。
勝てない勝負に食い下がっても良いことはない。**]
(38) 2019/08/01(Thu) 01時半頃
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― 幕間・時計屋 アリババ ―
アリーさん…、
[数週間に一度の鉄道時計点検。 乱れぬダイヤの訳、鉄道員七つ道具のそのひとつ。]
……貴方から見て、一歳か二歳くらいの相手って。 ――どう思います?
[狂いがちなのは整備真っ只中の時計ではなく持ち主の方たった。 夏の暑さに頭がやられた訳でも、仕事の邪魔をしたい訳でもない。が、待ち時間に問うのはレアケースの相談…、否、市場調査。 男はここの所ずっと、不毛な思いに振り回されていた。]
(52) 2019/08/01(Thu) 12時半頃
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[そこに我が友、サイラス画伯が居たのなら。彼の忌憚ない意見も頂戴しよう。 新作のモチーフは時計?なんて軽く聞く世間話の合間に。]
――十年後くらいに生まれてくる子供達の未来について…、 ………、……いや、やっぱりなんでもない。
[先程より主題がズレて、とっ散らかった話題を早々に自主回収。己はオリュースの教育について物申したい訳ではない。]
(54) 2019/08/01(Thu) 12時半頃
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……因みにサイラス。 お前、記憶でも似顔絵って描けるのか?
[ついでに掛けた声は小さく。 意味のない問いの次はせんのない確認。 もう何週間も、同じ人の顔ばかり脳裏に浮かぶ。**]
(55) 2019/08/01(Thu) 12時半頃
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― 幕間の雑談 ―
モンタージュと似顔絵は同列なのか。 その一言に才能を感じる。
[時計を修理する職人と、それを描く画家と、更にそれを観察する一般客の自分。この中で自身が一番手持無沙汰であったが、考えねばならないことは山のようにあった。 彼らに投げた要領を得ない質問もそのひとつ。>>69]
……が、正解は前者だ。 多分お前も会ったことがある。
[友は友で観光客に人気の絵描き。 件の人物は依頼されれば大概受ける高貴な御用聞き。 お互いに名前を知っているかは別として、縁のひとつやふたつはありそうだ。]
(73) 2019/08/01(Thu) 22時頃
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アレンジ……、
[少し悩む素振りは眉間に皺を寄せて。 視線をやるのはキャンパスの中の時計職人。>>68
絵本の中の挿絵めいた一枚、メルヘンだが良い絵だ。 芸術にまるで疎い自分にも彼の絵が、頭蓋に訴えるものであることは分かる。彼の世界と感性がキャンパスの中で色に変わって折り重なっているようだ。
友の絵を部屋に一枚くらい飾るのも良い。 額縁の似合う部屋には住んでいないが。
――――― うぅん、と悩むこと十数秒。]
(74) 2019/08/01(Thu) 22時頃
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いや、やっぱり止めておく。
[軽く髪を散らして左右に振った。 意気込んでくれたのは嬉しいし、彼の腕は信じているが。>>70]
俺が知らない顔だったら、 お前に八つ当たりしそうだから。
[自分の狭心はもっと良く知っている。]
良い返事くれたのに悪いな。
……で、次は何を描くつもりなんだ? それでアリーさんは完成なんだろう。
[一枚仕上げるだけでも大業だろうが、ひとつ完成したからと筆を置いてバカンスをとる気配は見えない。 期待と鼓舞を込め、暫く好調そうな友人をからりと囃した。*]
(75) 2019/08/01(Thu) 22時頃
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― 三週目のマーケット……の、数日前 ―
[スイート・スチュワードのメールアドレスに新規ユーザーから見積もりの依頼が届く。
一般的に見れば高級な派遣サービスでも、広告を打ち出している以上、万人に門戸は開かれている。紹介状が無ければ従僕を持てない前時代とは違うのだ。
期間は週末の夜半。 指名は最高級をひとり、代替は不可。>>0:50 先約があれば時間を繰り下げる対応を求め、予算は上限なし。――― 乗用車一台くらいならキャッシュでいける。
初依頼にしては物々しい依頼。 受理はされても当然彼本人に確認が飛ぶだろう。 専用フォームに記入された身分にも職業にも不審な点はないが、市電勤務者の依頼内容が『観光案内』では物議を醸しても仕方ない。]
(79) 2019/08/01(Thu) 22時半頃
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[一介の鉄道員が一晩で使う遊び金にしてはやや多い。 そもそも丘の上の高貴な人々とは勝手異なる労働者階級。
運転士の資格を持たない車掌の給料など押して知るべし。
客がサービスを選ぶように企業にも客を選ぶ権利がある。 穏便に法外な金額を提示し不審な依頼を断るのも賢い対応。
ギャンブルは趣味ではなかったけれど、金と罪悪感を賭けて来るか来ないか打つのは博打以外の何物でもない。
星と共に増える想いに振り回されて。 今度は完全に故意なる、三度目。*]
(84) 2019/08/01(Thu) 23時頃
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― 三週目・マーケット ―
[三週目の夜は勤務に侵されぬ清い身体であった。
昼で仕事を切り上げた身は仮眠をとって夜の街へ。 装備は皺の無い半袖シャツに、軽く細身の麻パンツ。 ボディバッグにスニーカーの軽装。
――― 通勤着よりも更にラフな出で立ちは、完全なるプライベートの装い。二時間ほどクロゼットをひっくり返して、限りあるセンスを絞ったにしては素材の味を生かす舵取り。
見栄なら既に切っている。 これ以上は盛り過ぎだ。と、天に言い訳を向けて。]
(94) 2019/08/01(Thu) 23時半頃
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[溜息は自身への呆れか。 相変わらず星も吐息も増え続けている。 会えば必ず失敗し、無様を見せると言うのに己も懲りない。
とうとう禁じ手であるビジネスのカードまで切って博徒に身を落とした。ビギナーズラックに期待して、頭上を流れた星に願う。]
……好きな人か。
[ぽつりと漏らすのは友人との会話だ。>>77 己も彼を思いながらしゃべる時、あんな顔をしているのだろうか。 ――― それはそれで由々しい問題な気もするが。]
(95) 2019/08/01(Thu) 23時半頃
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[友人の綺麗な笑顔を思い出す。>>78 彼から色恋についてあまり聞いたことはなかったが、荒波に揉まれる己とは根っこから違うらしい。次の大作を素直に期待できる。
―――― 因みに。 彼の問いに顔を歪めて憮然と返してしまったのは、丁度スイート&スチュワードにメールを送信した日だったからだ。>>79>>84 柔らかな笑顔に向かって、さっき金で買う打診をしてきた。……なんてプライドの無い台詞を言える訳がない。]
(106) 2019/08/01(Thu) 23時半頃
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[辿り着く待ち合わせ場所は、マーケットの中に在る広場。
電飾を塗した小さな移動遊園地。 空には流れる星、地には瞬く光。 家族連れも―――、カップルも多い待ち合わせスポット。
一人は逆に、良く目立つ。**]
(110) 2019/08/02(Fri) 00時頃
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[しがない鉄道員の金銭感覚からしてみれば一月の給与を一晩で使うのは豪遊だ。趣味に金は惜しまぬ方だが、思い切った自覚はある。 ただ、勿体ないだとか、高いだとか。 そういったネガティブな思考は浮かなかった。 彼の時間が安価であったら、それこそ解釈違いと言う奴だ。 彼の積み上げてきた経験も、才腕も、研鑽も、広く評価されていて欲しい。金で彼を買うのは躊躇われたが、買うのなら、自身も正しい金額を支払いたかった。
戦々恐々と送ったメールは案外あっさり受理されて、その日のうちに手続きと支払いを済ませた。勿論、入金をしてしまえば企業側から断るのは難しくなると打算を働かせた上で。
希望は全て空欄、場所と時間だけを埋めて返した。 己からしてみれば構えられたくない一心だったが、内容としては冷やかしと紙一重。―――― 人を雇ったことのない人種が遣りがちの悪手だった。*]
(170) 2019/08/02(Fri) 21時頃
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― 移動遊園地広場 ―
[待ち合わせ場所に表れた彼を見つめること43(0..100)x1秒。 碧の眼を瞠ってから再起動までの間は決して短くない。]
……っ、 此方こそ、依頼を受けてくれて有難うございます。
[ハッと眩い世界から帰還すれば、最初に頭を下げた。 高級使用人ともなれば、何か月も前から予定を組んでおかしくない。ほんの数日前に入った飛び入りの依頼で、本来捕まる彼で無かろう。]
……………、
[そうして、ある程度覚悟していた声色がくるりと巻いた旋毛に降ってくる。>>132 軽く眉間に皺を寄せ。頭を下げたまま瞼を下すと重い空気に一拍耐え。]
(171) 2019/08/02(Fri) 21時頃
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………先週と、先々週と。 ご迷惑をかけたことを、謝りたくて。
[細く吐き出すのは、何度も己に言い訳し、見ない振りをして、先送りにし続けた謝罪。その為だけに大金を積んだ訳ではないが、有耶無耶にし続けた非礼を詫びたかった。 時を経れば経るほどに話題にし難く、魚の小骨のように咽喉に引っ掛かったまま。やがて時薬が溶かして流すまで待つか、野暮を承知で頭を下げるか。己は後者を選んだ。大人の対応ではないと理解しながらも。]
―――― 発車前の電車は本当に危ないんですが、 だからと言って、あんな突き飛ばすみたいな。 先週も謝ろうと思ったんですけど、タイミングが無くて。 ……いや、それも言い訳で。
[幼子にやきもちを妬く余裕も暇もあったのだから。]
(172) 2019/08/02(Fri) 21時頃
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ごめんなさい、ハワードさん。
[彼に厭わしく思われるのが恐ろしく。 避け続けた言葉を漸く吐き出した。
自己満足と思われて仕方ないが、上手く言葉を吐けない微妙な空気を払拭したい。警戒されるのも、意識されるのも確かに喜びであったが、己の慾は留まることを知らない。
祭りの浮かれた空気に似合わぬ細い呼気が自然と零れ。 ふと瞼を起こすと、彼の手元が見えた。
己が長らく憂いていた理由。 日焼けを知らぬ手背にポツリと落ちた痣。]
(173) 2019/08/02(Fri) 21時半頃
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…………、 …………………、
っ、やっぱり怪我になってるじゃないか!
[悲鳴に近い指摘。 思わず踏み込み、両手で彼の手首を捕まえようか。
目敏い反応は、さて。 彼の予想と当たっていたか、外れていたか。>>49*]
(174) 2019/08/02(Fri) 21時半頃
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[衝動的に彼の手を取ってしまったが、自覚は遅れて肌に染みた。女らしい柔らかさも、男らしい武骨さもないのに、それでも低い体温に触覚が喜び、ふに、と掌を指腹で圧してしまう。 違和感を覚えるには些細に過ぎる接触。 ―――― 渇いた肌理も、さらりとして心地が良い。]
……放っておいたら痕になりますよ。 今でも少し沈着していますし。
[恍惚に撓みかけた双眸を二度の瞬きで洗う。 邪心を断って頭を左右に降り、夜気ごと払い。
謝罪だけが目的ではないが、一番に優先すべきは汚名返上、名誉挽回。今日も今日とて彼に見惚れて失態を繰り返しては学習能力がない。>>183]
(209) 2019/08/02(Fri) 23時頃
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[下心を頭の隅に追いやり理性を叩き起こす。 そうすると次に浮いたのは、二週間放置してしまった己への後悔だが、過ぎたことへの憂いも一旦、退けておく。 自省で頭を抱えるのは今でなくても良い。]
本当は仕事中に会えればと思ったんですが、 どうにもツキに見放されていたようで。
ハワードさんは、流れ星、見つかりましたか?
[元々主を優先して動く彼の生業。 路面電車は己のテリトリーだが追うには限度がある。 ――― そもそも乗車していない、となれば尚更。>>187]
(210) 2019/08/02(Fri) 23時頃
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………、
[彼の手背をじっと見つめる碧の双眸。 仕事中は微笑みをダースで撒くが、今は痛々しい青痣に、傷ついて揺れている。逡巡の間に鼓膜へ滑り込む声にも返事を返せず。>>194]
………そうだ、
[不意に頭上で閃く豆電球。 包んだ掌を解放し、代わりに翻して取るのは己を留めた彼の左手。引率者を気取るように手を引き、颯爽と歩き出そうか。 流石に彼を引きずる真似はしないが、若人の力は強い。]
待って、待ってください。ハワードさん。 今、用事が出来たので、もう少し付き合って下さい。
一緒についてきてくれるだけで良いので。
[場当たり的な言葉は目的地を定めた声色。 彼との時間は一秒でも長く延長したいが、食い下がる声に疚しさはない。]
(212) 2019/08/02(Fri) 23時頃
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[手を繋いで、マーケットを行く。 一晩中、光に溢れた移動遊園地の脇を抜け。 左右から飛んでくる威勢のいい露店の売り込みを躱し。
彼に先んじる横顔も、多色のランプに照らされ七色。 生温い風を切って、繋いだ手にも熱が籠り。
ふと、何かに気付いたように顎を持ち上げ、視線だけで彼を振り返った。何を語るでもなく、少し、照れ臭そうに笑って。*]
(213) 2019/08/02(Fri) 23時頃
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