278 冷たい校舎村8
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[ ………… ]
でも、怖いに決まってんじゃん。 ……なんで俺、平気なの? 俺にだってわかんねえんだから、 こんな話、すんの、ふつうにこえーよ。 隠さなきゃって、思うに決まってんだろ。
[ …………、 ……他人の手首を、握りしめていた。 喉はからからに乾いているのに、 目ん玉だけがぐずぐずに熱かった。]
(553) 2020/06/19(Fri) 02時半頃
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俺だって、ほんとは、 もっとちゃんと、胸張って、 俺を頼れよって言いてえよ……
[ ……絞り出すような声で言った。 ごめんもありがとうもなく。
ただ言葉を浮かぶままに吐き出した。 礼一郎は。行き着く場所もわからないまま。
べきもべからずもさておいて、 それは単純に礼一郎の言葉でしかない。**]
(554) 2020/06/19(Fri) 02時半頃
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──現在/購買── [ 一歩引いて見てる。 ……フリでもしてないと、 頭がおかしくなりそうってこと。 どこかに行ってた。>>570 確かにそうなのかもしれなかった。 逃避、くらいしてないと、 こんな頭で18年も生きてられるかよ。 ま、だからそれは一種の現実逃避だ。]
(583) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ 昔なら、殴り合ったって勝てたのにな。 ちっとも適わなくなったのはいつからだろう。 もうずっと、こいつとこんな乱暴ごとしてないし、 泣かせるようなこともなかったから気づかなかった。 苦しいんだよって礼一郎は思ったけど、 それが、その手によるものなのかはわからなかった。 息が苦しかった。 嘘ついてるよりマシって思ったんだけど。 本当にそうだったろうか。そうだといい。]
(584) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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……取返しのつかないこと、なんて。 もうとっくにつかねえよ、そんなの。 [ あと、何があるかな。取返しのつかないこと。 あっさりと、殺す。の二文字が思い浮かんだが、 礼一郎にはその重さがよくわからないでいる。 よくわからないのはおかしい。 それと、確かに、殺すべきではない。 ということだけを理解して、 まあ、でも、可能性はあるよなあ。 礼一郎はそんな自己評価を内心で下した。 礼一郎は顔を歪めていたけれど、 それは卑下とかではなく、事実だと思う。]
(585) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ なんでこうなっちゃったんだろう。 ──って、礼一郎は口元を歪めていた。 襟首から手が離されて、手首をつかまれる。 呼吸が、少しだけしやすくなる。 辰美が目元を拭うのを見て、 自分も涙を流している、と気づくけど、 泣いている……というか、なんだろう。 安堵してしまった。とか言ったけど、 そんな顔、させたかったわけじゃねえのにな。]
(586) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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…………、 [ 血の気の失せた、幽霊みたいな顔してる。 ひたりと握られた手首を、>>578 礼一郎は少しの間、見降ろしていた。 何か大きな塊を吐き出すみたいに、 辰美幸俊が言葉を吐き連ねている。 急ぎすぎて足をもつれさせるように、 ところどころたどたどしくこぼれる言葉が、 礼一郎の前に、しんしんと降り積もっている。]
(587) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ 家の話。きょうだいの話。 なんて、お互い深く踏み込むべきではない、 線引きの向こう側の話だと思っていた。 ……なんでだろうなあ。 家に兄がいるらしい。ずっと。 昔は近所でも評判じゃなかった? とか、知ってはいたんだけどなあ。 じ、っと礼一郎は見つめている。 頼りなく礼一郎の手首を掴んでいる、 この手が、他人を殺そうとしたのか。 礼一郎にとっての他人。こいつにとっての兄。 ……そっか。って礼一郎は思う。 辰美が崩れるみたいに、しゃがみこんでいく。 ふつうには、見えなかった。見えなくなった。]
(588) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ 離れていく手を追うように、 礼一郎も向かいにしゃがんでいた。 先ほどまでの激情が嘘のように、 礼一郎は静かに、……静かに考えている。 礼一郎はよく、自分のことを考えてた。 どういうつもりで笑って平気に生きてんだろう。 ……こいつは、どういうつもりで、 どんな気持ちで毎日生きていたのかな。]
(589) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ 礼一郎は手を伸ばした。 本当はやさしく手を包むとかしたかったけど、 そいつは頭を抱えてうなだれているし、 礼一郎の手は包むには小さすぎた。から、
顔上げろってふうに、頭を抱えた腕をつかんで、 引きはがして、髪をひっつかんでだって、 こっちを向かせるつもりだった。なあ。]
(590) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ 死にたい。とそいつは言った。]
(591) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ 礼一郎はいやだ。]
(592) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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笑って、ごまかそうとすんな。 笑ってやるかよ。 1ミリも笑えねえから。
(593) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ 笑顔なんて浮かべていなかった。 礼一郎は怒ったような顔をしていて、 ……していたんだけど、だんだん、 何かを堪えるように表情が歪む。] ……辛いなら辛いって、 そういう顔、してろよ…… [ 笑うのへたなくせに、 こういうときに使ってんじゃねえ。 ──って、礼一郎は思ったりする。]
(594) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ 大丈夫。とは言えなくて、 だって絶対に大丈夫なんかじゃなかった。 礼一郎は知っている。 ふつうの家族なら殺してくれと言わない。 うっかり殺しそうになったりもしない。 常識として、知っている。 だから、本当に悲しかった。 友達がそういう場所にいることが、 礼一郎は、やるせない。腹立たしい。 やってらんねえな。とも、思う。
思って、掴んでいた手の力を少しだけ緩める。]
(595) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ いい加減な作り方された人間ばっかり。]
(596) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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……なあ、ユキ。 怖いよな。しんどいな。 俺は、聞いてて、 おまえはなんも悪くねえなって、 そりゃおかしいよ、おかしいけど、 びっくりするくらい非がなくて、 ……そういう理不尽さに、腹が立つけど、 ……だから、なんなんだろうな。 おまえ自身はどう思うんだろうな。
(597) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ だって、泣いてても笑ってても、 どんな言葉を重ねたって、 起こった事実は変わらないし、 流れる血を入れ替えられるわけでもない。
礼一郎は自分が今後、 どう生きるべきなのかもわからないし、 正しい分岐点はもうずっと背後にある気がする。
結局こうして言葉を重ねるのは、 礼一郎の気持ちの問題、でしかなくて、 それって一番不得意なやつなんだけど。]
(598) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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……俺はさ、 おまえ自身が辛くても、 いなくなられんの、いやだ。
ああもうダメだなって思ったら、 蹴り飛ばしてでも連れ戻してやるから、 ……俺がちゃんと見てるから、
もうちょっとだけギリギリ限界まで、 生きてらんねえかな、なあユキ。
(599) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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[ 連れ戻してくる場所はちゃんと、 他のみんなもいるような、笑える場所を選ぶから。
ダメかなあって、礼一郎は、 乱暴な手つきとは裏腹に、落ち着いて言った。 他人にしか向けられない、穏やかな声だ。 嘘じゃないからできる、真面目な顔をしていた。
なあ、おまえなら分かるだろって思う。 簡単に言ってしまえば、ほんと単純な話。 礼一郎は辰美に生きていてほしい。理由。]
(600) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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……俺だって、おまえのこと、 本当に大事な友達だって思ってんだよ。 [ だから、死ぬんじゃねえって、 理屈も道理も通らない理不尽を吐いて、 礼一郎はほんのかすかに笑った。**]
(601) 2020/06/19(Fri) 11時半頃
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──現在/購買── ……わかってるよ。 [ そっから先。 行きつくとこまで行きついた気でいたのに、 この世はなんだか果てしなくていやになるな。 真面目に諭されてしまう。>>603 礼一郎もわかってるよって、 そんな目をしていたつもりだった。 危うい二人が肩を寄せ合って、 共感なんぞをしたりできるので、 案外狂気なんて身近にあるのかもしれない。]
(640) 2020/06/19(Fri) 16時半頃
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[ 小さい子どもみたい。……小さいころみたい。 しゃがみこんで泣く辰美を見て、>>606 礼一郎は少しだけ平和なことを思った。 あたたかな気持ちというは、 ほんと単純に、昔みたいだなって。 礼一郎も同じように昔みたく、 腕を掴んで引きはがしてやったって、 掴んだ腕は礼一郎より太くて、 簡単に体が揺らぐんでもないから、 そう、なんていうか、ただ、 ……もう、ガキじゃないんだなって。 大人ってカテゴリがあまりにもう目前で、 礼一郎はそれになれるかもよくわからない。]
(641) 2020/06/19(Fri) 16時半頃
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[ 辰美がそのとき何を考えたかなんて、 礼一郎にはわからないけれど、>>609 今そこに降り積もっているのなんて、 礼一郎がそいつに宛てた言葉でしかない。 から、それはどうだろうな。 少なくとも、 許す許さないの話じゃねえとは、思う。]
(642) 2020/06/19(Fri) 16時半頃
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[ なんていうか、思うんだけど、 人間の頭、ぱかっと開けて中を見て、 手突っ込んで適当にいじれたらいいのに。 でも、人間の中身なんか、 他人が意図して変えられるものじゃないし。 他人との関わりで変化することがあったって、 それは経験を経て本人が変わったから、だと思うし、 そういうことができるならきっと、 こんなことにはなっていない。 というか、できるんならとっとと、 礼一郎はそうしておいてほしかった。]
(643) 2020/06/19(Fri) 16時半頃
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[ 突然に肩を掴まれて、 礼一郎はただその顔を見ていた。>>612]
(644) 2020/06/19(Fri) 16時半頃
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[ 悲痛という形容が頭をよぎり、 礼一郎はもう笑えていなかった。 言葉がだんだん、 細かいところに降りてきて、 毎日の生活に根差した話に、なって。 礼一郎はそれをじいっと聞きながら、 そうしたくなってしまって、 落ち着けと諭すように、 自らもまた辰美の肩に手を伸ばし、 ほう、とひとつ息を吐いた。]
(645) 2020/06/19(Fri) 16時半頃
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……あのさ、俺が言えた話じゃねえ、 っていうか、俺だから言えんのかな。 おまえさ、家、出たほうがいいよ。 帰んの怖いんだろ、やなんだろ。 あのな、待ってたって仕方ねえから。 無駄にならないかもしれないけど、 たぶん報われるころには、 おまえがボロボロになってるよ。 ……わかってるよ。 俺だって、ほんとに、 ちゃんと生きてく気だってあんだよ。 …………あるから。
(646) 2020/06/19(Fri) 16時半頃
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……だから、ちゃんと見てる。
(647) 2020/06/19(Fri) 16時半頃
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[ そうっとその肩を撫でていた。 そいつがすっかり泣き止むまで、 ちゃんと、友人として、 そこで見守っている気でいる。 内緒にしといて。>>616 の言葉に、礼一郎は赤みの残る目と、 もう強張ってはいない口元で、] ……ああ、お互い。約束な。 [ ──って、神妙な表情で言って、 それから、急に情けねえ会話だなって、 堪えきれずか、照れ隠しか、笑って。]
(648) 2020/06/19(Fri) 16時半頃
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