145 来る年への道標
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[ブルー・ダイヤモンドに到着すると、 ポーラとの挨拶もそこそこに 荷物を押さえて、次の船へと急ぎました。
宇宙港では、流行曲が流れています。 それを作曲したのが、ワクラバであるという事を エフは、他のだれしもと同様に知りません。>>2:22]
(27) gekonra 2015/01/14(Wed) 05時半頃
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[エフが、アースまでの乗り換えに選んだ船は ある貨物船でした。 通常人を乗せるための船ではありませんでしたが、 アースの大晦日までに到着できそうな船には 限りがありましたから、試しに無理をいってみたのです。
荷物と一緒に乗り込むための金額と、 乗っている間は働き手として振る舞うことを条件に、 同乗を認めて貰いました。]
(28) gekonra 2015/01/14(Wed) 05時半頃
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― アース ― [そこは、なまぬるい水の星でした。 到着しても、安心などは、出来ません。 今度は目的の地下鉄駅まで行く必要がありました。
時間を気にして早歩きで次の乗り物へ急ぐエフの視界にも この星出身の赤髪のレーサーが 大きなモニタに映しだされているのが見えてはいましたが、 今それを気にする余裕はありません。>>0:4]
(29) gekonra 2015/01/14(Wed) 05時半頃
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[思えば、奇妙な旅でした。
偶然、相部屋になってしまった事もそう。
おおきな磁場嵐。
それで船を下りそこね
あるひとの、ふるさとの星のおわりを知りました。
神様のための鈴の音……
あんな音をきいたのも はじめてのことでした。]
(30) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時頃
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[エフが到着したその日。
アースは、今年最後の一日を迎えていました。]
(31) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時頃
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(――間に合え、間に合え)
[エフは、目的の駅に急ぐまでの間 殆ど祈るような気持ちでいました。
その祈りは――]
(32) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時頃
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― 大晦日 23時54分 ―
[――きっと、届いたのでしょう。]
(33) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時頃
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[暗いホームです。 もう、この路線は使われていないのかもしれません。 そこには、誰もいませんでした。
階段を駆け降りる足音が聞こえます。 最後の数段飛び越えて、コンクリに着地する靴の音。 荒い息。
エフは、白い息を吐き 走って痛む肺を押さえ、むせながら、 たまらず膝に手をつき、背を丸めました。]
(34) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時頃
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[息が整うのを、まちます。
からからに乾いた口のなか、 無理やりつばを飲み込んだため、 喉がなりました。
そんな、ちいさな音が聞こえるほど 地下鉄のホームは静まり返っていたのです。
エフは丸めていた背を正して ホームの中程まで、進みました。
錆びたレールは黙りこくって ぴとん、ぴとん、と、どこからか 水の音がしています。]
(35) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時頃
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[がらんと広がった沈黙を耳で聞きながら 思い浮かべるのは、今年乗った奇妙な船旅のこと。 ……それから、昔のことです。
――狭いアパートの一室。 蒸し暑い部屋。 閉めきったカーテン。 扇風機の音。 狭い部屋で頭を寄せ合った仲間たち。
そして、かつての地下鉄の駅。]
(36) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時頃
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―――……
[息が整うと、眼鏡の位置を正して、 コートの内側から、シガレットケースを取り出しました。 エフはタバコを咥えると、 硝子の管にシアン色の灯りを灯しました。
ホームの両側には くらい、くらいトンネルが、 深い闇をたたえて、じっとしています。]
(37) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時頃
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[エフはその場で、待ちました。
到着は、ぎりぎりだったはずなのに こうしてホームに立ってみると、 そこに流れる時間は、 一秒一秒が息がつまるほど、長いのです。
今年もだめか。
そう、胸のうちで呟いてから、エフは、 腕時計を見下ろしました。]
……――
(38) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時半頃
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[エフは、違和感の後、目を、おおきくしました。
―― 秒針が、止まっていることに、気づいたのです。
片手を、ポケットに、入れました。 ポケットのなかには
古びた 切符。]
(39) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時半頃
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[ ぷ あ ん 。
トンネルのむこうから 聞こえた音に、エフは顔を向けました。
向こう側から近づいてきた光
それは、
あの 白橙色 の ―― …… ]
― おしまい ―
(40) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時半頃
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― エピローグ ―
[ウマヒツジ15号の船長はイワノフと言いました。 彼は、操舵室で、タバコにシアン色の灯りをともし ふうと煙をはきました。
りっぱなヒゲをさすりながら 今回の航海の最後の星を、眺めます。
彼は感慨深げに煙を吐くと ぼろぼろに歪み、色あせ古びたシガレットケースを 内ポケットから取り出しました。]
(41) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時半頃
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[その昔。
「地下鉄道」という秘密結社がありました。 今現在では「地下軌道」と名を変えています。
このシガレットケースは 大昔の「車掌」のひとりが残したもので 古い時代から、今現在まで 『地球で、降りられず困っている客がいても きっと降ろしてくれるな』 そんな、よくわからない言葉とともに、 お守り代わりとして、車掌から車掌へ 脈々と受け継がれてきたものです。]
(42) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時半頃
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[イワノフは、シガレットケースを開きます。 ひどく経年しているのですが、 不思議なことに、作りそのものは、 イワノフが普段使っているたばこと変わりない品でした。
その奇妙な品をケースから試しに取り出すと、 トリンクルという星に到着するまで、 彼はしげしげと古びた硝子管を眺めていました。**]
(43) gekonra 2015/01/14(Wed) 07時半頃
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―エピローグ― {Lll...ll..tilil...}
[光り輝く女は、同じように光り輝く人々の大勢歩く港に降りました。 人々はたくさんいるのに賑わってはおらず、 まるで閑散としているような静けさを感じます。 こんなにも港は明るいのに、暗さが人の中に充満しているのです。
港の外に出れば、空は真っ暗でした。時刻はまだ昼間です。 尖ったように細く高い山が見渡す限りそびえていたはずで、 この港を含めてそれらの頂上にある建物が闇を照らしているばかりでした。 過去にいつも鳴り響いていた強い風も、音を立てず頬を撫でるくらいです。
かつてはこうではありませんでした。 女が生まれるずっと前、人が人になるよりも前。 この星は自分の力で、地中から地表を照らしていました。 女が生まれたころにはその光はとっくに力なく薄れていて、 それから急激に、地表に届くものは完全に無くなっていったのです。]
(44) hull 2015/01/14(Wed) 19時頃
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[人々は光を求めました。人々は終わりを受け入れました。 そうして女はコンサートに向かいます。 『終わり際の光』を集めた楽器を持って。
今回の旅もその『終わり』を集める旅でしたし、 彼女は自分たちの演奏が哀しさを湛えたものであることが決して好きではありませんでした。 ですが、コンサートの舞台袖で今回の、帰りの船のことを考えていると……。]
(45) hull 2015/01/14(Wed) 19時頃
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(トリンクルの音は たとえ哀しくとも 外に広がっていける)
(それが終わりの光だとしても そこからまた始まっていける)
[そう思えました。 乗客たちとそんなに多く話したわけではありません。 親しく彼らのことを知ったわけでもありません。 それでも、
作曲家の拍手。 小さな男の子の笑顔。 星先案内人からのお礼。 黒髪の男の、問いかけ。
それらは、アイライトにきっと、 これから生きる力を与えてくれたのでしょう。]
(46) hull 2015/01/14(Wed) 19時頃
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(『ナユタ』に話したいわ……こんな気持ちになれたこと)
[同じ舞台袖にいる、皆同じような厳めしい表情をしたトリンクルの男達を眺めてそう思います。 彼らと楽しくおしゃべりなんてできませんから。]
(彼はわたしの事情なんて 知らないままで行ってしまったけれど)
[慌ただしく下船する青年の姿を思い返します。 ほんの少し、目を合わせて彼は言いました。 「またどこかで」。 そんな頼りない言葉なのに、アイライトの顔には微笑みが浮かんでいました。]
(そうね……いつになってもいいわ。 どうせ夢見る女の子でもないんですもの。)
(いつかまたどこかで会えたら…… それだけできっと楽しいおしゃべりができるわ)
(ふふ……)
(47) hull 2015/01/14(Wed) 19時頃
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[今から舞台に出て輝く彼女は、 その演奏を終え、星の輝きを終わらせても、
『またどこかで』 光を奏でていくのでした。]
{Tit..titl..twinkle...trinkl...}
(48) hull 2015/01/14(Wed) 19時頃
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[彼の星には、海がなかった]
これが、本来の「海」か。
[ぬるい水が覆う星、アースを眺める]
(49) marimo 2015/01/15(Thu) 00時頃
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[テラフォーミングされたその星には水は貴重であり、海を作る余裕などなかった]
最初に疑問を抱いたのはいつだったかな。
[星の海、と。じいさんが言っていたのが最初だった気がする]
(50) marimo 2015/01/15(Thu) 00時頃
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[星の海こそが、自分の知る海だった。ヨットと言えば宇宙ヨットだ]
皮肉な事だ。この海を守るために、宇宙船は大昔の機体以外、この星に降下する事もできない。
[条約や法律でがんじがらめになりすぎて、宇宙で発達したテクノロジーを降ろせないままとも聞く]
(51) marimo 2015/01/15(Thu) 00時半頃
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[けれど、それでよかったのだろう]
出発しようか。
[水の大海原を、真っ赤なヨットが進み始めました]
(52) marimo 2015/01/15(Thu) 00時半頃
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これが……こんなにもゆっくりと進むものだったのか。
[宇宙ヨットの千分の一以下の速度で]
ああ、それでも――。光と水と風がある。 わずか数十センチの緩やかな揺れが、こんなにも邪魔になるものとは。
[ははは]
(53) marimo 2015/01/15(Thu) 00時半頃
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これが、航海か――。
[楽しもう、この星の一巡りを]
*Bon voyagE* !
(54) marimo 2015/01/15(Thu) 00時半頃
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[ラウンジで交わされた言葉を、ポーラは傍らで聞いていました。 エフの声は、どこか切ない祈りのようにポーラの耳に響きます。 かつて諦めたもの。 諦めきれなかったもの。 心の奥に残り続けた欠片たちが、彼の声に響きます。
窓の外の星を眺めながら、その祈りが叶うといいと思いました。 何だかその気持ちは、アイライトの音楽を聴いたときの気持ちに不思議と良く似ていました。 彼女の音楽もまた、祈りのように耳に響いたのかも知れませんでした]
(55) dia 2015/01/15(Thu) 03時半頃
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