237 それは午前2時の噺。
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時は来た。村人達は集まり、互いの姿を確認する。
パルックが無残な姿で発見された。
噂は現実だった。血塗られた定めに従う魔物“人狼”は、確かにこの中にいるのだ。
非力な人間が人狼に対抗するため、村人たちは一つのルールを定めた。投票により怪しい者を処刑していこうと。罪のない者を処刑してしまう事もあるだろうが、それも村のためにはやむを得ないと……。
今日は、特別なことのない一日のようだ。さあ普段通り、誰かを処刑台にかけよう。
現在の生存者は、ホリー、ジャニス、エリ、ヨーランダ、フランク、ラディスラヴァ、イスルギ、錠、ニコラスの9名。
[ ぶづ、ん────── ]
(#0) 2018/03/25(Sun) 02時頃
[ 斗都良の町が、ぽっかりと大穴を空けることになる。
ひかりのいぶきがひととき消え去った、正しい夜のとばりが
星影をちいさく引き連れて、降りていった。]
(#1) 2018/03/25(Sun) 02時頃
双生児 ホリーは、メモを貼った。
2018/03/25(Sun) 02時頃
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うえっ
(0) 2018/03/25(Sun) 02時半頃
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[時刻と同時に暗くなる部屋。画面。今辺りは真っ暗である。]
は、はあ?!?!えっなになに、なに?ブレーカー、ってかんじじゃないわよね? あ〜〜え〜〜スマホ〜〜どこお〜〜〜〜
[辺りに手を伸ばすと触れるのは毛玉だ。あっか〜わいい。]
ラディ〜〜〜っ
[でも手をするりするりと通り抜けて、あっという間にどこかへいってしまう。いけずう。でも今はそれよりスマホだ、デスクの上をぺたぺたぺたとさわりまくってもぶつからない。床に置いたっけ?と這って探すしかない。
うかつに歩き回ると 猫を踏む
それだけは避けたい事態だ。それに放送が遅れる事を伝えなくてはならない。今まで時間厳守してきただけにちょっと泣きたくなってるんですけどううう。せめてラディを触りたい。]
く、くうう〜 マジでどこよ… 私のす〜ま〜ほ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ
[気持ちと言葉は裏腹に。少しの間、情けない声が部屋に響いた。*]
(1) 2018/03/25(Sun) 02時半頃
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[ 珈琲を飲み終え、まだ店に残ると行った彼に、軽食を頼んでも足りる代金を置いてきた。情けない男の話を聞かせた故の賄賂でもある。取り留めのない話題がひと段落する頃には、彼の関心はスマホに戻っており、席を立つ先輩に目もくれず、片手だけ挙げる素っ気なさだった。これがゆとり世代か。可愛げのない奴だ。
黄昏時の田舎道に、一人分の影が長く伸びる。 晴れ晴れとした青天井の、底抜けの明るさは、時に無神経で、些細な事で思い悩む人をも否応無く照らすが、夕暮れ時の物悲しさも、夜の孤独を予感させるようで身に染みる。
遣る瀬無い思いの捌け口に後輩を選び、心の中で悪態を吐くが、足取りは重い。頭の中で、言葉達が反芻される。
「何でも良いって、どういう事?」 ……分からない。
「何がダメなんすか?」 ……分からない。
高給取りでもなく、女心を全て理解してやれるほど器用でもなく、おまけに酒癖は悪い上に、鼾が五月蝿い。ほら、列挙しただけで嫌になる、些細だが日々の積み重ねで愛を殺す劣悪な欠点達。
だが、「それでもいい」と言ってくれる人がいる ]
(2) 2018/03/25(Sun) 03時頃
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[ 客観的に見ても幸福で、自分が今浸かっているのは、贅沢な憂鬱だ。当たり前を享受し過ぎて贅沢病を患っているのだ。半ば言い聞かせるように、意固地な男を説得するが──、あの日感じた息苦しさは、喧嘩して一週間経った今も続いている。
網膜に焼き付いた彼女の横顔を、掻き消そうと目を瞑った ]*
(3) 2018/03/25(Sun) 03時頃
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抜荷 錠は、メモを貼った。
2018/03/25(Sun) 03時半頃
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[駅前まできたのだから、と本屋へ足を伸ばす。 雑誌群を横目に新刊コーナーを通り、奥の棚へ。出版社別五十音順に並べられた、ブロックの終わりの方に「万井 菫花」の背表紙を見付ける。 デビュー作の『造花の道』、二冊目『透かし絵の君』と並び、短編集の文庫本『ののはな』も置かれている。 これに続くものは、まだ、ない。
自分で名乗ったことはないのだが、一度打ち合わせで斗都良までやって来た担当が「この町に作者が住んでいる」と売り込んだらしく、一時は平積みの小さなコーナーも作ってくれていた。 再びコーナーを作るためのものは、まだ、ない。]
(4) 2018/03/25(Sun) 08時半頃
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[スーパーに立ち寄り、簡単に食べられるものとお茶のティーパックの追加を幾つか見繕う。 ああ、砂糖が残り少ないのだっけ、と棚の間を探していれば、走り回る子供のはしゃぐ声と、それに続く母親の怒鳴り声。 うんざりしたように「ここにいて!」と叫ぶ声は、眠らせたままの一編を思い出させた。]
「大丈夫よ。」 母の声が手首を引く。 「明日にはきっと、」 母の声が足を左右順番に運ぶ。 「良いようになっているから。」 母の声が喉元に巻き付いてジワリと絞めていく。 嗚呼、あの男は明日までにこの世を去るのだろう。
[我が子を溺愛する母の執念と完全に管理された息子の話。デビュー作を自ら皮肉に書き直すような小編は、公園で何から何まで口を出す母親を眺めていて生まれたのだけど──
手厚く支援してくれる自分の母親を、そう思ってるのだと誤解されてしまったら……なんだか恐ろしくて、書きかけで引き出しの奥に仕舞いこまれている。]*
(5) 2018/03/25(Sun) 08時半頃
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[その後もぐるぐると、休憩を挟みながらあてどなく町をさ迷ってみたけれど、世界に目覚めは訪れなかった。 浮かぶのは記憶のアルバムとそこから溢れ出る文字ばかり。
夕暮れに公園を通りすがる。お蔵入りさせた小編の生まれた、ととら第一公園。 あの母子……何を言われても子供は素直に頷くのに、母親は言葉を重ねる毎に己に酔うように声のトーンが上がっていき、 ──キィー…… ブランコの揺れる音が、夕焼け空に響く金切り声を思い出させた。]
駄目……こんなんじゃ、なにも…。
[子供の姿が疎らに見える公園。ブランコの音を立てた人影は夕焼けの逆光で影のように見えて、背筋がゾクリとする。 否、空気が冷えてきたようだ。
足を早めて公園を離れると、逃げ込むようにアパートへと戻った。 気分転換とヒントを求めて出た筈なのに、気持ちはすっかり落ち込んでいる。リセットが──必要だろう。 静かな夜の空気で浄化されたくて、太陽と共に眠りに落ちる事にした。]*
(6) 2018/03/25(Sun) 16時頃
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─ 深夜二時の、少し前 ─
───…んぁぁあ……
[コツ、コツ、コツコツコツコココココッ。 世界を始める筈のペンの一音は無駄に嵩み、意味のある線はひとつも引けないままに夜が耽る。 原稿用紙に押し付けられた頬からは声にならない呻きが漏れて澱んだ空気を重くして。 頭の中を支配するのは、今日一日思い出した自作の文字と、今や手遅れである修正の文言、それに時計の針の音。雑多なそれらがぐるぐる渦巻き、とても新たな世界が割って出る気配などない。]
さんぽ。散歩に行こう。気分転換。
[昼間に失敗したのは明るすぎたから。 情報過多で惑わされてしまったから。そう言い訳をして、昼間と変わらぬ格好で表へと出る。 書けない焦燥感でポシェットにヨムマジロ君を押し込むのにも苦労しながら、トボトボと暗い夜道を歩いていく。 照明でぼんやりと浮かぶ空間は、先程の公園。 入口に差し掛かった、その時。
ふつり
世界から光が失われた──]
(7) 2018/03/25(Sun) 16時頃
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[人間、驚き過ぎると声も出なくなるようで。 乾いたみたいな喉で浅く息をしながら周囲を見渡した。 暗い。
急に光を無くし闇に閉ざされれると、何かにぶつかったのか、それとも穴に落ちたのか、そんな風に思うようだ。 触れることの出来ない、けれど己をすっぽりと包む暗闇に、オロオロとどうすることも出来ずにいると、
───キィィィ……
ブランコが大きく音を立てた。 まるでこちらを驚かそうと意志を持って いるかのように。]
きゃぁぁあ!!
[暗転の瞬間よりも驚いて、高い悲鳴をあげてその場に座り込んだ。]*
(8) 2018/03/25(Sun) 16時頃
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「じゃあ三割方さんは何度も殺されて何度も同じ日を繰り返してるんですね」
深夜のととら第一公園。街灯に小さな羽虫が集っている。砂場に設備されているドーム型の遊具の中で、三割方と六掛は息を潜めていた。繁華街を抜けて、逃げ道を探した。以前殺された大通りを避け、細い路地を駆け抜けると公園があった。「ここなら6割方は安全です!」と六掛はドームの穴に飛び込んだ。
「殺しにきたって一体どういうこと何なんですか!?」
六掛は三割方にしつこく詰め寄った。玩具を買って貰えない駄々っ子のように三割方の身体を揺さぶる。新人でも記者は記者。取材対象者に食いついたら意地でも離さない。誤魔化すのに妥当な言い訳も見当たらず、終いには「アタタァしますよ?」の一言でついに口を割った。
(9) 2018/03/25(Sun) 23時頃
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「でも、何で三割方さんは命を狙われてるんですか?」 「知るわけないだろ」 「誰かの恨みを買っているとか」 「んなもん買い溜めしてるわ」 「じゃあ誰なんですかね〜この町で三割方さんを殺したい人」
仕事柄、誰に恨まれていてもおかしくない。三割方は不倫を暴いた写真を撮った時に一度や二度殺されそうになったことはあるが、いずれも単独犯だった。だが、今回は明らかに組織的だ。サングラスの男が車を襲撃する。大通りに逃げれば別の者が車で衝突する。繁華街に逃げればモデルのような女が刺し殺す。どの場所に逃げても殺せるように仕組まれている。これだけの数の人を動かせるのだ。黒幕は相当な立場の人間に限られる。
「あれ? ……それって」
六掛と顔を合わせる。頭に浮かんだ共通の人物。 双六の賽の目が振り出しへ戻った。
(10) 2018/03/25(Sun) 23時半頃
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[ほうら、だから言ったのに。働き過ぎですって。……早く帰った方がいいですって。
閑散とした社内の一室。溜息一つ零しながら、隣の部下が差し出してくるのはスマホの液晶。彼女が出来たのかあ、と呟く冗句は無視され覗いてみれば、吊り上がった口角が凍り付く。 其処に示されていたのは、ニュース記事。停電、復旧未定、場所は、────妻が、子どもがいる、斗都良の町一帯。]
……、まじかい。
[積み上がった書類の塔等の中で均整に整えた金髪を掻きむしる。事務仕事をも営業をも二足の草鞋を履かなければならない環境において、例え如何に忙しさに身を委ねていても襟足にも掛からない短髪だけは維持していた。 背凭れに深々と掛かって、取り出したスマホを弄っていく。一人だけ浮いた、初期設定のアカウント画像をタッチして、大丈夫か、一言連絡を入れる。既読は、付かない。一つ上のメッセージ、「ごめん、今日も遅くなる。食事は要らない。」日付は、数か月前を示していた。]
(11) 2018/03/26(Mon) 00時頃
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お前さんは足、あんの? 確か、俺よりも遠かったんじゃない。
[そうっすよ、と項垂れる頭が首肯する。やっぱ、車って大事っすね。免許取れば良かったなあ。ぐちぐちと自省を繰り返す口、口より先に動かすものがあるんじゃない、と何時もの営業での口癖は出て来ない。 硝子窓の向こうは、黒で塗り潰された背景に煌々と輝く人工灯、ネオン、ビル明かりの数々。停電のての字すら浮かばせない、その光景が先程のニュースの現実味を損なわせていく。スマホを一瞥、既読は、付かない。一瞥、付かない。更に深く、腰を委ねてしまう。 てか、俺よりも奥さんたちの心配した方がいいっすよお、気遣いの一言に苦笑を浮かべて、……どうすっかねぇ、と小さく、か細く漏らす。もう一度、今度は電話を掛ける。耳元へと押し当ててみれば、断続的な機械音が響くだけだった。]
「……大丈夫、ですか?」
(12) 2018/03/26(Mon) 00時頃
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[視線を上げれば、お盆からグラスが一つ、自身の乱雑に置かれた書類を退いて、そっと置かれる。淡い茶がかった豊かな色味、アイスティーがもう一つ、部下の目の前にも差し出されて。 目を見開く部下の姿を尻目にありがとう、と声を掛ければ、表情の起伏の少ない彼女が僅かに笑みを作っていた。栗毛色のボブカット、目尻が少し下がった大人しい子。確か、隣の部署だったか。]
お前さんも残業だったの、お疲れさん。 ……いや、うら若い子がこんなに残っちゃ駄目でしょ、って。
[足はあんの、部下と同様に訊けば、ほんの少し流れる異質な沈黙。疑問符がチラつく手前、ふるりと首を振る度に撒かれた毛先が躍っていく。 途端、あ、タクシーあるじゃないっすか!がばっと腰を上げて叫ぶ声は、階を越して響き渡るように反響していった。そう叫ばずとも聞こえてんよ、と半笑いで宥めては。電話しますよ、部下が触れていくスマホへと視線を投げて漣立つ彼女の唇を見ずに、背を向ける。]
(13) 2018/03/26(Mon) 00時頃
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然しだな……、これ終わらせないと、明日がなあ。
[何故、1日が24時間しか無いのだろう。積み上がった書類は、明日のプレゼンの為の資料やら営業先の企画書やら。日々のノルマを達成しても更に乗せられる重圧と仕事の束は、わんこそばのよう。きっと、食べても食べても終わりはしない。その先に果てが無いことは目に見えていた。だが、食べなければ、……男は、社会の歯車は、その噛み合いがほんの少しでも崩れることを、その崩れた先に訪れる未来を恐れていた。 妻子か、仕事か。天秤に吊るしたものの重みは緩やかに傾きを見せる。────停電だけならば大丈夫だろうと浅はかな、祈りのような言葉を連ねて。心の淵で、重ね合わせて。 ほう、と誰かの安堵の息が聞こえたような、気がする。きっと気のせいだろう、そう結論付けては、用意されたアイスティーに引き出しから取り出したスティックシュガーの端を破き、注いでいく。]
(14) 2018/03/26(Mon) 00時頃
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「あの、ガムシロップ、ここにありましたけど……。」
[おずおずと顔色を窺うように小首を傾げる彼女へとこれでいいんだ、そう笑みを作り、からん。からん。グラスの中の氷を揺らし、掻き立てれば、小気味の良い高音を奏でていく。奏でていくだけだ。 底に沈殿したままの甘さを尻目に、グラスを一気に呷った。嗚呼、……甘ったるい。*]
(15) 2018/03/26(Mon) 00時頃
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[裏山に抜けるには、住宅街の先、用水路と田んぼを抜けて行かなくっちゃいけない。 アヤと手を繋いで歩く道は驚くほど静かで、そして、ここまで誰とも遭遇せずに来てしまった。
大人に内緒の冒険だけど、繋いだ手の温かさは私だけが知っている。 一緒に見上げた星空の明るさは、わたしたちが一緒に感じてる。
まだおねむな蛙は田んぼの中でじいっと春を待っている。あぜ道を行く間、アヤの草履がたてるぺたぺたした音が嫌に大きく聞こえた。]
あ、ねえ、あそこから裏山に入れるよ!
[指差した先に、遊歩道の入り口がある……とはいってもそんなごーじゃすなものじゃなくて、どんより生い茂った木と、その下に踏み固まった道、そして申し訳程度にぽつぽつと灯りがあるだけなんだけれど。]
この山のね、ピクニック広場なら星がきれいに見えると思うんだ。
[そこでみんなお弁当を食べたり、お花見をしたりする。まだ桜は咲いていないだろうけれど、咲いていたらきっと素敵だ。]
(16) 2018/03/26(Mon) 00時半頃
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[一歩、アヤの手を引いて遊歩道に踏み入ろうとしたとき……ブズン、と音を立てて、わたしの真上にあった電灯が消えた。 夜の森の中、たったひとりで森の入り口を守っていた門番が死んだみたい。 何の前触れもなく、突然、世界は闇に包まれる。]
アヤ、大丈夫?!
[掌に感じるアヤの手……大丈夫、アヤはここにいる。見えないアヤの顔がもっと見えなくなってしまったけど、ちゃんといるのが分かる。 でも、アヤは声を潜めて囁いた。]
「なにか、きこえる」
[確信を持った声音に、わたしは耳をそばだてた。 視界が閉ざされた中、木々の間を通り抜けるように、微かな音が確かに聞こえる。]
(17) 2018/03/26(Mon) 00時半頃
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[音がだんだん近づいてくる気がして、慌ててアヤの腕を掴んで、近くにあった茂みに押し込んだ。 距離が近くなると、アヤのにおいがいっそう強くなった気がする。それでも声を殺し、息を殺して、その気配が通り過ぎるのを待った。
それは、山の奥から、遊歩道に降りてきている。]
(18) 2018/03/26(Mon) 00時半頃
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…… リィィーーーン ……
…… カラン …… カラン ・・・・・・
…… うう ……うぅぅ ……
……ズルズル…… ズリ ……
(19) 2018/03/26(Mon) 00時半頃
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[なにこれ。なにこれ。なにこれ。何がいるの。
わたしたちが隠れた茂みのすぐ真横、何かを引きずるような音が聞こえる。 苦しそうな息遣いが聞こえる。……でも、真っ暗闇に包まれて、もう何も見えない。 ただぎゅっとアヤの手を握りしめ、それが通り過ぎるのを待った。 掴んだアヤの手は、ほんのちょっと震えて、手先が冷たい。]
大丈夫……大丈夫、わたしがついてるから……。
[ついているからなんだ、って言われたら困るんだけれど。 それでも、公園でわたしの手をアヤは取ってくれた。]
アヤは友達……おばけなんていない……。
[何度も口の中で呟いた。消えろ、消えろ、と強く願う。 ……やがて、音は遊歩道から田んぼの方への消えていった。]
(20) 2018/03/26(Mon) 00時半頃
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[そおっと茂みから顔を出したら……やっぱり真っ暗森。鼻をつままれても分からないほど、って比喩表現がぴったり当てはまるような。 あの変な音を出すものは何処かに行っちゃったんだろうか。 茂みにしゃがんだままのアヤの手を引っ張り上げて、服についた泥を払うと、アヤがおずおず口を開いた。]
「ともだちになってくれるって、ほんとう?」
[わたしはびっくりして目を見開いた。ここにくるまではじゃあ一体何だったんだろうって。 黙っていたらアヤはすまなさそうに「ごめんね」と言った。]
「いままで、おともだちできたこと、なかったの。 ……ねえ、あなたのなまえは?」
[わたしの手をアヤが握り返してくる。細い手。冷たい手。爪の間に泥が入った手。 なんで今更そんなことを聞くの?]
(21) 2018/03/26(Mon) 01時頃
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わたしは、エリ。
[真っ暗でアヤの顔は見えなかった。でも「そう」と返したアヤの声は、何だかひどく悲しそうだった。]**
(22) 2018/03/26(Mon) 01時頃
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くらくなると、こわいものがやってくるよ。
うそ! よるがくると、ゆめにはいって、たのしいことが たくさんになるんだから!
ほんとうに? ほんとうに?
ほんとう……、だよ。ほら、きれいないろの ことりが、おかしのおうちにみちびいてくれる はずなんだから──あれは……なに…?
こわいものが、やってきたんだよ!
[ヒッ。 掠れた息を飲みこんで、座り込んだまま自分で自分の肩を強く抱きしめる。 現実には恐ろしい妖怪なんている筈無いと分かっていても、自分の指先さえ見えないこの闇の中では僅かな物音でさえ、悪いものの気配のように錯覚してしまう。]
(23) 2018/03/26(Mon) 01時半頃
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